文献情報
文献番号
200301279A
報告書区分
総括
研究課題名
アロマターゼ高発現KGN細胞および三次元共焦点顕微鏡による内分泌代謝攪乱物質のスクリーニングシステムの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
名和田 新(九州大学大学院医学研究院・病態制御内科)
研究分担者(所属機関)
- 柳澤 純(筑波大学応用生物系食品化学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ホルモン類似の作用を持つ天然および人工化学物質である内分泌撹乱物質は、生殖系への不可逆的な作用が懸念されているが、鋭敏なスクリーニングシステムは確立されていない。本研究では、我々が開発した以下の(1)-(4)の4つのスクリーニング法を用いて内分泌攪乱化学物質の効率的スクリーニングシステムを確立する。すなわち、(1)独自に樹立した高いアロマターゼ(エストロゲン合成)活性を有するヒト卵巣顆粒膜細胞株KGNを用いて、アロマターゼ活性に影響を与える物質をスクリーニング(2)前立腺癌で認められる変異AR(T877A)ではリガンド特異性を消失することに着目して、同変異ARの転写活性と焦点顕微鏡画像上、核内でのARのクラスター形成を指標としたスクリーニング(3)アンドロゲン作用抑制作用を指標としたin vivoスクリーニング系の確立(4)始原生殖細胞の遊走能障害を指標としたスクリーニングである(以上、名和田)。(5)エストロゲン受容体(ERα)の転写活性作用機構の研究の一環としてER?にリガンド依存的に結合する蛋白質群の同定を試みた(柳澤)。
研究方法
(1) KGN細胞 のアロマターゼ活性調節並びに内分泌撹乱物資の影響:
KGN細胞はFSH 受容体を発現し、高いアロマターゼ活性を保持する。既報(Endocrinology142: 437-445、2001)にしたがって培養し、種々の化学物質を添加後、アロマターゼ活性は、3H2O法 により測定した。また、大塚製薬がKGN細胞とELISA法を組み合わせて開発した新規アロマターゼアッセイ法を用いて日本で頻用されている産業化学物質上位100種類のスクリーニングを行った。また、この際、化学物質の毒性を除外する目的でMTTアッセイによる毒性評価も行った。 (2) AR(T877A)の作用機構並びにAR活性に及ぼす内分泌撹乱物質の影響: AR(T877A) 転写活性は androgen 応答配列を含むMMTV(mouse mammalian tumor virus) promotor 上流とluciferase を連結したconstruct を用いたluciferasee assay にて解析した。また、GFP-ARをCOS-7細胞で発現させ、核で融合たんぱく質が発する蛍光の分布パターンを取得すると同時に、Hoechst 33342でクロマチン構造を染色し、共焦点顕微鏡でその核内局在について観察した。(3)アクチビン受容体を恒常的に発現させたヒト前立腺癌細胞株ALVA細胞をヌードマウスに移植し、腫瘍形成能、転移能を検討した。(4)抗アンドロゲン作用を示すビンクロゾリン及びコントロールとして抗アンドロゲン剤であるフルタミドを受精卵の着床後より性腺の分化が開始される前、すなわち妊娠4.5日から8.5日までの間、妊娠マウスに経口投与(5mg/Kg体重)し、胎生8.5日から9.5日にかけての仔胎を回収し、ALP染色にて始原生殖細胞数を測定した(以上名和田)(5)HeLa細胞の核抽出液より、ER?にリガンド依存的に結合する蛋白質群を精製し、Massフィンガープリント法にてユビキチン・リガーゼを同定した。ユビキチン・リガーゼのERαの蛋白質量に与える影響をERα抗体を用いて検討した。さらに、ユビキチン・リガーゼ遺伝子欠損細胞の解析を行った。(柳澤)。
KGN細胞はFSH 受容体を発現し、高いアロマターゼ活性を保持する。既報(Endocrinology142: 437-445、2001)にしたがって培養し、種々の化学物質を添加後、アロマターゼ活性は、3H2O法 により測定した。また、大塚製薬がKGN細胞とELISA法を組み合わせて開発した新規アロマターゼアッセイ法を用いて日本で頻用されている産業化学物質上位100種類のスクリーニングを行った。また、この際、化学物質の毒性を除外する目的でMTTアッセイによる毒性評価も行った。 (2) AR(T877A)の作用機構並びにAR活性に及ぼす内分泌撹乱物質の影響: AR(T877A) 転写活性は androgen 応答配列を含むMMTV(mouse mammalian tumor virus) promotor 上流とluciferase を連結したconstruct を用いたluciferasee assay にて解析した。また、GFP-ARをCOS-7細胞で発現させ、核で融合たんぱく質が発する蛍光の分布パターンを取得すると同時に、Hoechst 33342でクロマチン構造を染色し、共焦点顕微鏡でその核内局在について観察した。(3)アクチビン受容体を恒常的に発現させたヒト前立腺癌細胞株ALVA細胞をヌードマウスに移植し、腫瘍形成能、転移能を検討した。(4)抗アンドロゲン作用を示すビンクロゾリン及びコントロールとして抗アンドロゲン剤であるフルタミドを受精卵の着床後より性腺の分化が開始される前、すなわち妊娠4.5日から8.5日までの間、妊娠マウスに経口投与(5mg/Kg体重)し、胎生8.5日から9.5日にかけての仔胎を回収し、ALP染色にて始原生殖細胞数を測定した(以上名和田)(5)HeLa細胞の核抽出液より、ER?にリガンド依存的に結合する蛋白質群を精製し、Massフィンガープリント法にてユビキチン・リガーゼを同定した。ユビキチン・リガーゼのERαの蛋白質量に与える影響をERα抗体を用いて検討した。さらに、ユビキチン・リガーゼ遺伝子欠損細胞の解析を行った。(柳澤)。
結果と考察
(1) アロマターゼ関連:既に環境庁の指定する内分泌攪乱物質69種類のうち、55種類の物質のスクリーニングを終え、有機スズ化合物がアロマターゼ活性を抑制することを報告したのに加え、今回、ニトロフェン、ビンクロゾリン、pp'-DDE, pp'-DDD, PCP及びbisphenol Aに抑制作用を新たに見いだした。また、ベノミルに唯一、比較的強力なアロマターゼ活性亢進作用があることを前年度までに既に見いだしていたが、ベノミルの分解産物であるカルベンダジムも、同様にアロマターゼ活性を上昇させること、またその作用機序として微小管の重合阻害機序に起因することを本年度明らかにした。ELISA法を用いたアロマターゼ活性の測定系を用い、100種類の化学物質のスクリーニングした結果、Thiphenol, Bumetrizole, Hexabromocyclododecan の3つの化学物質をアロマターゼ活性を抑制する化学物質として新たに同定した。ELISA法は3H-water法に比べ、感度、簡便性の点で優れ、大量スクリーニングにおける今後の有用性が期待できる。(2)アンドロゲン活性のin vitro スクリーニング系:既に、55種類の化学物質のスクリーニングの結果、ニトロフェン、ビンクロゾリン、pp'-DDEが、AR のリガンド依存性の核内クラスター形成を阻害することによりAR転写活性を抑制することを報告していた。今回、新たにヒト前立腺癌で高率に認められるT877A変異がリガンド特異性を消失することに注目し、AR(T877A)に対する55種類の内分泌攪乱物質の影響を検討したところ唯一、ビンクロゾリンはAR(T877A)の転写活性を促進し、共焦点上、クラスター形成を伴うことを見いだした。ビンクロゾリンがこの変異を有する前立腺癌の増殖促進物質として作用する可能性を示唆する。(3) 抗アンドロゲン活性のin vivoスクリーニング系:アクチビン受容体を恒常的に発現させたヒト前立腺癌細胞株ALVA細胞をヌードマウスに移植すると全身リンパ説転移を引き起こすこと、しかも去勢によりその遠隔転移が抑制されることを見出し、抗アンドロゲン作用物質のin vivo screeningに有用なシステムである可能性を新たに提示した。従来、抗アンドロゲン作用のin vivoでの効果判定は主に生殖腺重量測定で行われてきたが、新しい評価システムになり得る可能性がある
。 (4) 抗アンドロゲン活性の新たなスクリーニング系;生殖腺が形成される以前の胎仔マウスの全身にARが発現していること、抗アンドロゲン剤のフルタミド同様、抗アンドロゲン作用を有するビンクロゾリン投与は、生殖腺原器へ遊走する始原生殖細胞の数と遊走を減少させることから、内分泌攪乱物質はARを介して始原生殖細胞の増殖、移動にとどまらず、その分化自身にも影響を及ぼす可能性が示された。(5)ERαの転写制御機構: HeLa核抽出液より、エストロゲン依存的にERαと結合または解離する2種類の蛋白質複合体を精製した。1つ目の蛋白質複合体は、CHIPと呼ばれるユビキチン・リガーゼを含み、リガンドの結合していないERαに対して選択的に結合することが明らかとなった。CHIPをERαと共発現させるとERα蛋白質の分解が促進した。一方、CHIPの共発現によって、ERαの転写活性の増強が認められた。2つ目の蛋白質は、新規HECT型ユビキチン・リガーゼであり、CHIPとは逆にERαとエストロゲン依存的に結合することが示された。本リガーゼをERαと共発現させると、エストロゲン存在下においてERαの分解が亢進した。従って、本リガーゼは、CHIPとは異なり、エストロゲンの結合したERαを選択的に分解するものと考えられた。本研究では、ERαが、リガンド存在下だけではなく、非存在下においてもユビキチン化を受け、分解されることを明らかにした。
。 (4) 抗アンドロゲン活性の新たなスクリーニング系;生殖腺が形成される以前の胎仔マウスの全身にARが発現していること、抗アンドロゲン剤のフルタミド同様、抗アンドロゲン作用を有するビンクロゾリン投与は、生殖腺原器へ遊走する始原生殖細胞の数と遊走を減少させることから、内分泌攪乱物質はARを介して始原生殖細胞の増殖、移動にとどまらず、その分化自身にも影響を及ぼす可能性が示された。(5)ERαの転写制御機構: HeLa核抽出液より、エストロゲン依存的にERαと結合または解離する2種類の蛋白質複合体を精製した。1つ目の蛋白質複合体は、CHIPと呼ばれるユビキチン・リガーゼを含み、リガンドの結合していないERαに対して選択的に結合することが明らかとなった。CHIPをERαと共発現させるとERα蛋白質の分解が促進した。一方、CHIPの共発現によって、ERαの転写活性の増強が認められた。2つ目の蛋白質は、新規HECT型ユビキチン・リガーゼであり、CHIPとは逆にERαとエストロゲン依存的に結合することが示された。本リガーゼをERαと共発現させると、エストロゲン存在下においてERαの分解が亢進した。従って、本リガーゼは、CHIPとは異なり、エストロゲンの結合したERαを選択的に分解するものと考えられた。本研究では、ERαが、リガンド存在下だけではなく、非存在下においてもユビキチン化を受け、分解されることを明らかにした。
結論
(1)KGN細胞とELISA法を用いた新しいアロマターゼ活性の測定系の有用性を確認し、この方法を用いて新たなアロマターゼ活性抑制物質を複数、見いだした。(2)ベノミルの分解産物であるカルベンダジムも、ベノミル同様にアロマターゼ活性を上昇させること、またその作用機序として微小管の重合阻害機序に起因することを明らかにした。(3)ヒト前立腺癌で認められるT877A変異を有するARに対してビンクロゾリンが転写刺激活性を有することを見いだした。(4)アクチビン受容体の恒常的発現ヒト前立腺癌細胞株ALVA細胞をヌードマウスに移植すると全身リンパ説転移を引き起こすこと、しかも去勢によりその遠隔転移が抑制されることから、内分泌攪乱物質を含めた抗アンドロゲン作用物質のin vivo screeningシステムとなり得る可能性を提示した。(5)抗アンドロゲン作用を有するビンクロゾリンが始原生殖細胞数とその移動を減少させることを明らかにし、新たな内分泌かく乱物質のスクリーニングシステムを確立した。(6)エストロゲン作用機構の研究成果としてERαと結合するユビキチンリガーゼを同定し、ERαはリガンド存在下だけではなく、非存在下においてもユビキチン化を受け、分解されることを明らかにした。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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