内分泌かく乱化学物質の作用機構に焦点を当てたハイ・スルー・プットスクリーニング法による内分泌撹乱性の優先順位付けに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301277A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質の作用機構に焦点を当てたハイ・スルー・プットスクリーニング法による内分泌撹乱性の優先順位付けに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 達(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 小野 敦(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 板井昭子(医薬分子設計研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
72,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働省の「拡張試験スキーム」に沿って要求される順位付けの為のスクリーニング、すなわち(1)内分泌かく乱化学物質の計算探索と評価、(2)ヒト由来培養細胞系を用いたハイスループットスクリーニング(HTPS)を利用した超高速分析法、及び、(3)表面プラズモン共鳴を応用した新規高速分析法、の3手法を用いた大規模スクリーニングを進めるとともに、順位付けの科学的根拠に関わる諸要因、すなわち、受容体-リガンド結合性、受容体と応答DNA配列との相互作用、転写に関わる共役因子と受容体の相互作用、等に関する基礎的研究をさらに進め、内分泌かく乱の評価やメカニズム研究への有効応用を目指すものである。
研究方法
(1)内分泌かく乱化学物質の計算探索と評価(板井):内分泌かく乱化学物質の標的受容体への相互作用を原子レベルで理論的に解析することにより、エストロゲン受容体を標的とする内分泌かく乱化学物質について、受容体分子立体構造をもとにしたin silicoスクリーニングを行う。スクリーニング精度向上のための計算法の改良に加え、生体内での挙動の予測の為のパラメータの一つとなる受容体の構造特性が、結合したリガンドの分子構造にどのように影響されるかを推定する計算法を検討する。(2)ヒト由来培養細胞系を用いたHTPSを利用した超高速分析法の検証に関する研究(菅野、井上):レポーター遺伝子導入ヒト由来培養細胞系を用いた高速自動分析法による化学物質の受容体影響解析を行う。これまでのエストロゲンレセプター(ER)αβ発現系について試験を継続する。さらに対象を拡大し、アンドロゲンレセプター及び甲状腺レセプターアッセイ系についてもHTPアッセイシステムの開発を継続する。得られた結果に関して、内分泌かく乱化学物質の生体影響を検討するうえでのデータの有効性や、詳細試験を行うべき化学物質の優先順位付けに資することを目的として、他で実施されているin vivo試験データや他のスクリーニング系との比較検討を行う(菅野)。(3)表面プラズモン共鳴(SPR)を応用した新規高速分析法に関する研究(小野): SPRによる方法は生体分子間の相互作用をリアルタイム解析するシステムであり、これにより内分泌かく乱化学物質による受容体の、DNA(応答配列)及び共役因子との相互作用への影響をそれぞれの結合・解離過程の変化としてとらえ、その特性を解析する。同時にERαβ、ERβ受容体についてこれの測定項目を用いてスクリーニングを行う。
結果と考察
3手法について、以下の結果が得られた。
(1)内分泌かく乱化学物質の計算探索と評価では、結合能を見積もる受容体としてこれまではERαのみを対象としてきたが、これまでに構築したERαの活性に関する重回帰式を元にERβに対する予測を行った。結合活性予測式を定義し、ERαに結合する可能性があると予測された化合物の中の100化合物を対象にin silico解析を行った結果、ERαの場合に比べ、ERβの場合には、活性既知化合物での予測値と文献値の相関係数は低下した(ERα:0.73, ERβ:0.66)。しかし、ERαとERβのリガンド結合ドメインの構成アミノ酸配列の解析からは、リガンド結合キャビティの性質や形状はほとんど相同であり、結合の強弱を決定する要因が、リガンド結合キャビティとリガンド間の相互作用安定性以外にも存在することが示唆された。
(2)ヒト由来培養細胞系を用いたハイスループットスクリーニング(HTPS)を利用した超高速分析では、(2)-1.レポーター遺伝子導入ヒト由来培養細胞株を用いたERαβに関する超高速分析法の試験研究、(2)-2.レポーター遺伝子導入ほ乳類培養細胞株を用いたTR、AR作用物質超高速分析法に関する試験研究及び(2)-3.超高速選別法の検証の評価に関する調査研究よりなる。本年度は、(2)-1として新たに構築したERβ測定系を用いて、これまでにERα系において作用が認められた物質を中心に100物質についてERβアゴニスト活性について検討を行った結果、43物質が比較的強いアゴニスト活性を有する物質として選出された。また、(2)-2として新たにCHO細胞を用いて性ホルモン受容体の一つであるアンドロゲン受容体(AR)と甲状腺ホルモン受容体(TR)についてルシフェラーゼ遺伝子をレポーターとしたレポーター遺伝子アッセイ法を開発し、この実証研究の一環として、AR及びTRに対するアゴニスト及びアンタゴニスト活性を活性既知の化合物を含む各々50物質について測定した結果、本測定法が感度及び精度に高い性能を保っており、レポーターアッセイ系としては実用レベルに耐えると考察された。一方、(2)-3研究では、本年度はWHO/IPCSにより2002年に出版された内分泌かく乱化学物質グローバルアセスメントに対する東京フォローアップ会議でのまとめを中心に、今後のリスクアセスメントの問題とも合わせて調査を行った。結論として第1に、引き続き低用量問題を巡る高感受性問題、第2にマイクロアレイゲノム解析による今後の内分泌かく乱のメカニズムの解明が挙げられ、本研究班からのデータを含む多方面からの検討と知識の蓄積が、内分泌かく乱化学物質問題の解決及びリスクアセスメントに重要と考察された。(3)表面プラズモン共鳴高速分析によるHTPSに特化するための試験及び内分泌かく乱化学物質の作用機構を考慮した検出系の開発では、引き続き本システムの精度向上及び生物学的意義との関連付け、及び、これまでに確立したERαとERE及び共役因子相互作用を指標とした分析法の更なる高速化、89種類の化学物質についてスクリーニングを実施した。これまでに得られた250種類の化学物質のスクリーニングデータとの対比を統計的な手法を用い、ERE、TIFの両者で検討したところ、活性化する物質、EREのみを活性化する物質、いずれも活性化しない物質、及び、EREを阻害する物質の4タイプに分類できることが明らかとなった。一方、新たに最適化したERβ測定系を用いて、種々の化学物質のERα、ERβに及ぼす変化の比較を行った結果、本系によって化合物毎のER分子選択性の検討が可能であることが示された。また、リガンド結合ERへのDNAの結合及びコファクターの結合による双方の相互作用変化の検討からER分子構造へのアロステリック効果が示された。
結論
厚生労働省・試験スキームの主要構成要素として本研究班において構築されたこれら、in silico、cell free、in vitroスクリーニング手法により、対象とする化学物質特異的な情報を組み合わせることで、次の段階として詳細試験に供する化学物質の科学的根拠に基づくより正確な優先検討化合物の抽出が、当面の最重要対象であるエストロジェン作動性化合物に関してはほぼ確立したと考える。これらは、スクリーニングによる優先順位付けへの貢献性の高いものであると同時に、メカニズム解析による内分泌かく乱性の評価にも有用な情報を含んでいることが明らかとなった。今後は、エストロジェン以外のホルモン作動性物質のスクリーニング法のスキームへの取り込みと平行して、ここで得られる受容体、応答DNA配列、共役因子等の相互作用情報に加え、レセプター構造と活性制御、下流遺伝子制御機構を視野に入れ、更に、国際動向に鑑みたマイクロアレイ等を用いたゲノミクス手法による生体影響メカニズム研究の導入が考慮される。これらを有機的に活用することにより、内分泌かく乱化学物質の作用メカニズムに基いた精緻なスクリーニング試験と詳細試験からなる完成度の更に高いスキームの構築が期待される。

公開日・更新日

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