ダイオキシン類等による胎児期曝露が幼児の発達に及ぼす影響の前向きコホート疫学(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301275A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類等による胎児期曝露が幼児の発達に及ぼす影響の前向きコホート疫学(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 洋(東北大学医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 細川徹(東北大学教育学研究科)
  • 岡村州博(東北大学医学系研究科)
  • 村田勝敬(秋田大学医学部)
  • 堺武男(宮城県立こども病院)
  • 斎藤善則(宮城県保健環境センター)
  • 仲井邦彦(東北大学医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
65,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
環境由来の難分解性有機汚染物質の最大の標的は、発生・発達過程にある胎児および新生児の脳と考えられ、その健康影響として出生児の発達、特に認知行動面における発達の遅れや異常が危惧される。周産期における化学物質による低濃度曝露の健康リスクを評価するため、妊婦とその出生児を対象とする前向きコホート研究を進めた。
研究方法
仙台市内2病院の産科にて妊婦を対象として事前説明を行い、インフォームドコンセントを実施した。また、昨年度までの調査で登録され出生した児の発達を継続して追跡した。化学物質測定のため、妊娠28週前後に母体血を採取し、出産時に臍帯血、胎盤、臍帯、毛髪を採取し、生後1カ月に母乳を収集した。化学物質の曝露指標は、ダイオキシン類、PCBs、メチル水銀、その他の重金属(カドミウム、鉛など)を対象とし農薬類についても予備的な分析を計画した。児の健康影響指標は、神経行動学的な方法とし、生後3日目のブラゼルトン新生児行動評価(NBAS)、生後7および18ヶ月のBayley Scales of Infant Development(BSID)、新版K式発達検査(KSPD)とし、生後7カ月ではFagan Test of Infant Intelligenceを実施した。さらにまもなく開始される生後30および42カ月の追跡検査の項目の選定を実施し、プロトコールの策定やテスター養成を計画した。交絡要因として、半定量式食物摂取頻度調査(FFQ)、社会経済的要因調査、妊娠中の飲酒と喫煙習慣、などについてアンケートもしくは聞き取り調査を実施し、母親IQ検査を行った。本調査を進めるに当たり2000年10月に東北大学医学系研究科倫理委員会に調査計画を申請し許可を得ていたが、継続研究のため新たに2004年4月から5年間の承認を得た。
結果と考察
対象者の新規登録作業を2003年9月で終了し、その出産は2004年3月に終えた。最終的な到達点は事前説明を1500名に実施、その約46%に当たる687名より同意が得られ、644名が出産、生後3日目で実施するNBAS実施は580名であった。生後7ヶ月および18ヶ月における追跡調査は現在も継続中であるものの、それぞれ397名と238名で終えた。連絡が取れないか、もしくは遠隔地に移転し参加が不可能となった対象者の割合は5%程度であり、脱落も許容範囲内にとどまった。従って、海外におけるPCB疫学と比較しても、オランダ疫学に次ぐ規模であり、疫学調査としては十分なフィールドの確立に成功した。化学物質分析関係では、PCBを高分解能ガスクロマトグラフィー質量分析装置を用いた全異性体分析により、ダイオキシン類をレポータージーンアッセイであるCALUX Assayにより解析する計画であり、予備検討を終了した。このうち臍帯血のCALUX Assayでは臍帯血として30 mL程度必要であることが判明し、その対策として検出力改善、プロトコール調整などを検討した。母親毛髪総水銀は全ての測定を終了し、そのうち行動指標のデータベースへの記載が終了した288名について重回帰分析の手法で予備的な解析を実施した。その結果、a) 母親毛髪総水銀が高い場合に生後3日目におけるNBASの運動クラスターが低下することが示され、b) FFQの結果に基づいて魚摂取量を算定したところ、マグロ/カジキ類摂取量と方位クラスターが、白身魚摂取量と慣れ現象クラスターがそれぞれ負に相関した。魚摂取がダイオキシン類、PCB、メチル水銀などの主要な摂取経路であることを考えるならば、この結果は魚に含まれている化学物質の影響を示唆
するものとも考えられた。その一方で、c) 青身魚摂取量が高い場合に原始反射で異常となる割合が減少する傾向が示された。この結果は児の脳の発達に必須とされている栄養素が青身の魚に多いということと関連するとも考えられた。妊婦の魚摂取に関する栄養学的な視点を考慮しつつ、魚摂取の総合的リスク評価の必要性が示された。甲状腺ホルモン関連指標(TSH、総および遊離T4/T3)の分析は、臍帯血および母体血にて全例で終了した。農薬のうち有機塩素系農薬について20例ながら胎盤と母乳で予備分析を実施し、hexachlorobenzene、DDE、hexachlorocyclohexaneなどの農薬が全例で検出された。また胎盤と母乳の両試料中の濃度はよく相関し、また一部では弱いながら魚摂取とも相関することが示された。母親IQ、社会経済的要因調査なども順調に推移した。最後に、行動指標に関しては、まもなく始まる生後30ヶ月の追跡調査ではアンケートとしてChild Behavioral Checklist/2-3を採用し、生後42ヶ月における追跡調査でKauffmann Assessment battery for Children (K-ABC)を採用することとし、プロトコールの確立とテスター養成を開始した。
結論
687名の妊婦登録を終えコホート研究として十分なサンプル数を確保した。ダイオキシン類、PCBの分析はまだ未完了であるものの、分析が終了している毛髪総水銀や魚摂取量と行動指標のうちNBASとの関連性を検討した結果、低濃度メチル水銀曝露で新生児の運動指標で弱いながらも負の関連性が見いだされ、また魚の摂取が密接に児の発育と密接であることが示された。特にマグロ/カジキ類摂取量がNBAS方位クラスターと負に相関する一方、青身魚は摂取量が高いほど原始反射で異常となる割合が減る傾向が見られ、魚摂取の功罪の両面性が示唆された。本調査は出生コホートであり、児の成長をまっての最終的な判断が必要である。まもなく開始される生後30カ月、42カ月の追跡調査の準備も順調であり、今後は化学分析の実施を進めつつ、引き続き調査を継続する事が必要と考えられた。

公開日・更新日

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