化学物質リスク評価における定量的構造活性相関に関する研究

文献情報

文献番号
200301272A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質リスク評価における定量的構造活性相関に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
林 真(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 鎌田栄一(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 広瀬明彦(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 青木康展(独立行政法人国立環境研究所)
  • 広野修一(北里大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、化学物質は、日本国内で年間10万種、5億トンの生産がなされていると言われているものの、その毒性学的性状が明らかになっているものは数%にも満たない状況である。化学物質はそれぞれ各種の用途で広範に用いられるとともに、国民の日常生活にも入り込んでいるものであることから、個々の化学物質の特性を効率的に把握かつ評価し、必要に応じた管理を進めることは、国民の健康維持増進に必要不可欠となっている。 しかし、変異原性をはじめ毒性学的性状が明らかになっている化学物質は少ない。更に、個々の化学物質について、動物を用いて試験を行いデータを収集することは、試験実施機関での処理能力の観点から短期間に実施することは不可能であり、また全ての化学物質について一律の試験を行いデータを収集することは経済的にも動物愛護の観点からも適切なことではない。既に存在する化学物質の知見をもとに毒性学的影響を高精度で予測する方法が開発され、その予測に基づき評価作業を進めることは、より安全性の向上に資するのみならず、リスク評価段階におけるデータギャップを埋める方法にも利用が可能であり、その結果、より安全性評価の向上に資することが可能である。 
研究方法
本研究費では、化学物質のリスク評価を実施する上で必要とされる毒性を予測するにあたり、評価に必要不可欠である試験項目について、定量的構造活性相関予測やそれにに関する研究領域において、国際的に使用されているいくつかの構造活性相関コンピュータープログラムの検証を行い問題点の洗い出しを行うと共に、予測精度を上げるためのアルゴリズムの改良を行っている。また、標的分子との結合能を指標にした3D-QSARの方法開発、これらの研究を効率的に促進させるために求められるデータベースに関する研究を行い、CoMFAモデルの適用性について検討した。さらに、国際間のデータの相互受入を促進させるため、海外の専門家とも連携をとるため、上記構造活性相関コンピュータープログラム制作会社の研究者と共同開発を行っている。
結果と考察
平成15年度では、既存の構造活性相関モデルの比較に関する研究において、分子量とAMES試験結果との関係において、AMES試験陽性結果を示した194物質について,その分子量分布について検討すると共に、OECDのQSAR専門家会議(36th Joint Meeting, 4th-6th February 2004)において検討対象としているSARモデル(DEREK,MULTICASE)と,日本で開発しているモデル(AdomeWorks)の計3モデルについて検証を行った。その結果、分子量の観点からは、3000以上であれば概ね「陰性」と考えることが出来るが、末端にエポキサイドを有している場合には「陽性」と判断した方が良いと考えられた。3つのSARモデルを組み合わせて計算を実施する事が望ましいことが判明し、実験結果「陽性」の化合物で3SARモデル中いずれか1つに「陽性」結果を示した場合の信頼性は92.9%となった。
反復投与毒性試験を指標にした3次元構造活性相関モデルに関する研究においては、高フッ素化化合物(CF3(CF2)4COOH (PFHA-C6), CF3(CF2)6COOH(PFOA-C8), CF3(CF2)10COOH (PFDA-C12), CF3(CF2)7SO3H (PFOS))のPPAR 結合活性解析をマウス個体、ヒトとラット肝の培養細胞およびPPARレポーター遺伝子アッセイを用いて行った。その結果、一連の化合物には、解析の方法によって差がみられるが、PPARの標的遺伝子の発現レベルを変化させる活性がありそうであり、ヒトLBDを用いたレポーターアッセイでの化合物ごとの比較では、いずれにもPPARαサブタイプに対する活性が見られ、その強度は、C数(分子の長さ)との関連がありそうであることが明らかとなった。また、PPARリガンド結合部位への結合活性解析のためのプラスミド構築を行った。また、毒性既知のフッ素化化合物のクラスタリングと重相関解析による定量的構造活性相関(QSAR)の解析を行った。化合物の置換基の種類および物理化学的パラメータ(Kow、分子量、VDW力、双極子モーメント、HOMO、LUMO、HOMO-LUMO)で化合物の特徴を自己組織化マップ(SOM)によって10クラスターに分類することができ、クラスター1および2ともにNOELと良好な相関を示しており、これらのクラスターに属する化学物質については、重回帰モデルによるNOELの予測が可能であることが示された。
毒性予測に関する種々のCoMFAモデルの構築に関する研究においては、PPAR?活性の既知の12個の化合物の複合体モデルから得られたリガンドの結合配座とアラインメントを使って三次元定量的構造活性相関解析(CoMFA)を行い、静電相互作用、立体相互作用、ClogPから統計的に有意なモデル(予測的相関係数q2:0.59(2成分))を得ることができた
結論
本年度は、AMES試験に対して、3つのSARモデル(DEREK,MULTICASE,AdomeWorks)を適用し解析した結果、3つのモデルを組み合わせることによって、偽陰性を10%以下に抑えることが示された。また、DEREKおよびAdomeWorksのさらなる予測精度向上のためのプログラムの改良を行っている。高フッ素化化合物のPPAR 結合活性解析においては、リコンビナントタンパク質を用いたin vitroの系、細胞系、個体レベル、いずれも定量的解析をする見通しが立つとともに、毒性既知のフッ素化化合物の自己組織化マップクラスタリングと重相関解析において、28日間反復投与試験のNOELと良好な相関をもつ2つのクラスターを得ることができた。毒性予測に関する種々のCoMFAモデルの構築に関する研究においては、PPARα活性の既知の12個の化合物とPPARαのLBDの複合体モデルから、統計的に有意な三次元定量的構造活性相関モデル(CoMFAモデル)を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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