プライマリーヒト細胞を用いた化学物質曝露・遺伝子発現に関する研究

文献情報

文献番号
200301270A
報告書区分
総括
研究課題名
プライマリーヒト細胞を用いた化学物質曝露・遺伝子発現に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
藤村 昭夫(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大島康雄(自治医科大学)
  • 永井秀雄(自治医科大学)
  • 安田是和(自治医科大学)
  • 徳江章彦(自治医科大学)
  • 斎藤建(自治医科大学)
  • 間野博行(自治医科大学)
  • 篠原歩(九州大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
46,515,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目指すところは化学物質の安全性をin vitroにおいて予測するシステムを構築するとともに、ヒト組織を用いた研究の手法を当大学で基盤整備することである。
現在、新規化学物質を研究開発する際に安全性試験として培養細胞および動物を用いた試験が行われ、一定の基準により取り扱い上の安全性が確保されている。しかし、化学物質の代謝や反応性にはヒト?動物間に種差が存在するために、動物実験では予期されなかった毒性が発現する例も知られている。この様な場合にヒト組織を用いた試験を行うことによって、動物実験では明らかにできなかった危険性を予測できるなど、化学物質取り扱いの上で一層の安全性を確保することが期待できる。
化学物質の中でも、人体に投与されるためにより厳しい安全性が求められる医薬品の有効性や体内動態に関しては人種差が存在することは良く知られている。したがって、我が国において日本人の組織を用いて化学物質の安全性研究が行われることは、我が国における安全性確保のために重要である。一般に広く用いられるようになった化学物質は、他の多くの化学物質とともに人体に曝露されることが多い。この際の化学物質間の相互作用による人体への毒性発現については、その組合せが多数に及ぶために全てを明らかにすることは困難である。この様な場合においても、ヒト組織を用いて化学物質の代謝や反応性を遺伝子発現レベルで検討することによって、化学物質間の相互作用発現の予測がある程度可能である。
欧米では、既に医薬品の研究開発においてヒト組織を用いた有効性、安全性の評価が取り入れられており、我が国も同様にヒト組織を用いた研究開発を推進していく必要がある。さらに、ヒト組織の研究開発を推進することによって、ヒト細胞を用いてヒト蛋白質を製造する、ヒトの正常組織そのものが画期的な医薬品や人工臓器となる、などの可能性をもたらすことが期待される。以上のように、ヒト組織を研究開発に利用することは、保健医療の向上に必要不可欠なものであり、その利用については、公明で且つ厳正な一定の要件を満たしつつ、積極的な推進を図ることが重要である。
こうした流れの中で今回の本研究の位置づけは、この動物とヒトという種間の遺伝子発現情報のブリッジング、不死化された細胞株とプライマリーカルチャーの間の遺伝子発現情報のブリッジングを視野に入れ、ヒト肝・腎由来細胞のプライマリーカルチャーを用いて遺伝子発現研究を行う点にある。
研究方法
腎臓・肝臓の手術において、病変部の切除時にやむなく正常の腎臓・肝臓組織も切除されることがある。これらの組織をプライマリーカルチャーの原料とする。
ヒト組織の利用に際して、当大学における遺伝子解析研究倫理審査委員会、生命倫理委員会、個人情報識別管理者、病理診断部からなる倫理評価ワーキンググループは、組織採取のプロトコール、採取量や方法、インフォームドコンセントの様式や説明文書の内容、責任体制の明確化やアフターケアーの対応を審査し、また問題となりうる切除の形跡の有無を病理標本より評価するとともに、検体提供者の匿名化を行う。
臨床検体採取部門はインフォームドコンセントを検体提供者より得た上で、外科手術中に得られた組織を細胞プロセシング部門へ送る。
細胞プロセシング部門は採取部門より得た細胞を処理し、プライマリーカルチャーを行うとともに、細胞の由来を担保するためのデータを得る。腎臓尿細管由来の細胞の評価としては、形態・Glut2発現・γGTPの発現を用いている。また、肝細胞由来の細胞の評価としては、形態・アルブミン産生能・チトクロームP450の発現を用いている。
遺伝子発現解析部門では、上記の方法により腎臓尿細管あるいは肝細胞由来であると担保された細胞を用いて、それぞれ腎・肝毒性の知られている化学物質とそうでない化学物質へ曝露させたうえで、適当な曝露時間の後に細胞を回収して、total RNAを抽出し、このRNAをAffymetrix社のGeneChip(r)を用いて解析した。
バイオインフォマティクス部門では発現解析して得られたデータを解析し、データ処理の上、知識データベースを構築する目的で活動をしている。具体的には本年度は得られた遺伝子発現データと、各トランスクリプトのゲノム上の上流配列を組み合わせて、特定の発現パターンを示すトランスクリプトの上流配列に共通なパターンを見いだすことを試みた。この試みに必要な上流配列とトランスクリプトを関連づけるデータテーブルをすでに作成し、現在解析を進めている。
結果と考察
当大学における遺伝子解析研究倫理審査委員会、生命倫理委員会、個人情報識別管理者、病理診断部からなる倫理評価ワーキンググループは、本研究の計画書を審査し、連結不可匿名化を行うことを条件のひとつとして本実験計画を承認した。これら委員会は実施計画の承認後も、手術検体一つ一つの切除状態を病理診断部で検討し、不適切な手術が行われた形跡がないか否かの監視を行っている。
臨床検体採取部門では、当大学で肝臓および腎臓の手術の適応があると診断された患者さんより研究の内容をはじめ、倫理評価ワーキンググループで承認された研究計画に基づき、インフォームドコンセントを取得した後に検体を採取した。患者さんの治療をまず優先するため、エントリーした症例のうち、肝臓では40%で、腎臓では20%で手術中に研究目的の組織採取を断念した。
細胞プロセシング部門では採取された細胞を処理し、得られた培養細胞の由来の評価を行っている。腎臓由来の細胞では形態・Glut2の発現・γGTPの発現の情報より得られた細胞の主たる成分は尿細管由来であると判断された。肝臓由来の細胞は形態・チトクロームP450の発現より肝細胞であると考えられた。
遺伝子発現解析部門では、得られた尿細管プライマリーカルチャーを用い、腎毒性の知られている化学物質を濃度依存性や時間依存性の評価できるように曝露させて遺伝子発現解析を行っている。すでに遺伝子発現解析部門では膨大なデータを生産しているが、これらデータへ意味づけを行い知識として整理するバイオインフォマティクス部門では、まずデータの精度を検討した。本研究グループで得た遺伝子発現解析データを検討したところ、RNAの状態は良好で、得られたデータは信頼できると考えられた。信頼できない、あるいはRNAの状態の不良であったと推定される実験についてはデータを解析に利用しないこととした。
結論
手術時に得られるヒト組織(肝臓・腎臓)を使用して遺伝子発現解析研究を行うための倫理的評価に耐えうるシステムを構築し、臨床検体を得ることができた。この検体より尿細管細胞・肝細胞を得ることができた。これらの細胞に化学物質を曝露して遺伝子発現解析を行った。遺伝子発現解析のデータの精度は良好と考えられた。得られた遺伝子発現解析データより、転写因子の活性を推定するデータ処理手法を推進している。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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