ダイオキシン類の汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301210A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 久美子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 米谷民雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 飯田隆雄(福岡県保健環境研究所)
  • 堤 智昭(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 天倉吉章(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
85,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類の摂取は、そのほとんどが食事経由であり、わが国では魚介類を介したダイオキシン類の摂取が多い。本研究では、ダイオキシン類の摂取量及び個別食品の汚染実態を把握するための調査、ダイオキシン類測定の迅速化、ダイオキシン類の摂取低減化を図ることを目的として、次の5課題の研究を実施した。(1)ダイオキシン類のトータルダイエット調査、(2)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査、(3)ELISAによる市販魚中のCo-PCBs及び総PCBsのスクリーニング法の開発、(4)寿司ネタ試料中ダイオキシン類濃度測定へのCALUXアッセイの応用、(5)食品中のダイオキシン類のリスク低減に関する研究
研究方法
各課題の研究方法は次の通りである。(1)トータルダイエット調査では、全国7地域の11機関で、それぞれ約120品目の食品を購入し、厚生労働省の平成12年度国民栄養調査の食品別摂取量表に基づいて、それらの食品を計量し、そのまま、または調理した後、13群に大別して、混合し均一化したもの及び飲料水を試料として、「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」(平成11年厚生省生活衛生局)に従ってダイオキシン類を分析し、1日摂取量を算出した。なお、魚介類の10群、肉・卵の11群及び乳・乳製品の12群は、各機関で魚種、産地、メーカー等が異なる食品で構成された各3セットの試料を調製した。(2)魚介類、肉類、乳製品をはじめ各種食品170試料について、「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」 に従ってダイオキシン類を分析した。(3)Co-PCBのELISAキットの適用を検討するために、魚試料をアルカリ分解後、濃硫酸洗浄、多層シリカゲルカラム、アルミナカラムを用いてクリーンアップを行い、Co-PCBsを含む分画をELISAに供した。再現性試験、希釈試験、添加回収試験等で本ELISAキットの性能を評価した。また、HRGC/HRMS分析によるCo-PCBs毒性等量濃度及びGC-ECD分析による総PCB濃度との相関を検討した。(4)市販の寿司15試料をネタとシャリに分け、各寿司試料毎にネタを均一化したコンポジット試料について、CALUXアッセイとHRGC/HRMS法でダイオキシン類を測定した。(5)Ahイムノアッセイを利用し、TCDDによるバイオアッセイ系活性化に対する各種植物性食品成分の抑制効果について検討した。
結果と考察
各課題の研究結果は次の通りである。
(1)ダイオキシン類の平均一日摂取量は1.33±0.59 pgTEQ/kgbw/day(範囲0.58~3.05 pgTEQ/kgbw/day)であった。これは、平成13、14年度の調査結果(1.63 ± 0.71 、1.49 ± 0.65 pgTEQ/kgbw/day)とほとんど同じレベルであり、日本における耐容一日摂取量(4 pgTEQ/kgbw/day)より低かった。なお、同一機関で調製したTDS試料でも、10~12群に選択した食品の種類、産地等の差により、ダイオキシン類摂取量には約1.4~3.9倍の差があった。
(2)鮮魚(55試料)から0.013~7.310 pgTEQ/g(平均1.287 pgTEQ/g)、魚干物(13試料)から0.051~2.697 pgTEQ/g(平均0.872 pgTEQ/g)、鯨肉(9試料)から0.003~2.353 pgTEQ/g(平均0.531 pgTEQ/g)のダイオキシン類が検出された。畜肉及びレバー各9試料のダイオキシン類濃度はそれぞれ平均0.075、0.160 pgTEQ/gであった。牛乳、アイスクリーム等19試料中15試料からは0.007~0.139 pgTEQ/g検出された。ほうれんそう及びちんげんさいから0.002~0.0104 pgTEQ/g検出されたが、ぶどう、りんご及び柿からは検出されなかった。茶葉と切り干し大根からは、それぞれ0.053~0.104 pgTEQ/g、0.022~0.087 pgTEQ/gが検出された。乾燥昆布、海苔、ひじき及びわかめ8試料中7試料から、0.003~0.172 pgTEQ/gのダイオキシン類が検出された。
(3)検討したELISAキットは、本研究で行った前処理法との組み合わせで、魚試料中のPCB 118を良好に測定することが可能であった。本法は魚試料中のCo-PCBsのTEQ濃度に対し良好な相関性が見られたことから、TEQ濃度の推定法としての利用が期待できた。さらに、本法は総PCBsに対しても良好な相関を示したことから、総PCBs濃度の推定法としての利用も期待できた。今後はより多くの比較検体を測定し、TEQ濃度を推定する場合の誤差範囲をより明らかにしていく必要があると考えられる。
(4)寿司コンポジット15試料についてHRGC/HRMS法とCALUXアッセイとで求めた濃度の相関係数はPCDDs/PCDFs:r=0.918、Co-PCBs:r=0.798、総ダイオキシン:r=0.770であり、CALUXアッセイは寿司試料のダイオキシン類濃度のスクリーニング法として有用であることが分かった。HRGC/HRMS法で測定したダイオキシン類濃度から寿司をヒト(体重50kg)が食した場合のダイオキシン類摂取量を計算すると、寿司ネタ一食分からのダイオキシン類摂取量は0.4~18.9 pgTEQ/kgbw(平均5.0 pgTEQ/kgbw)であった。
(5)ダイオキシン類毒性バイオアッセイ系のTCDDによる活性化に対して、フラボノイド類、アントラキノン類、加水分解性タンニン類等が抑制効果を示した。昨年度のAhRと植物性食品成分との相互作用についての検討では、フラボン類、アントラキノン類などのいくつかの化合物が高濃度でAhR活性化作用を示すことを報告した。一方、coumestrol、piperine、carnosol、capsaicin等はAhR活性を示さず、抑制効果のみを示した。このように、いくつかの植物性食品成分は、インビトロアッセイ系において、アゴニストとアンタゴニストの両作用を示すことが示され、それらは通常の摂取レベルではアンタゴニスト様に作用している可能性が推測された。今回の結果は、あくまでも予備的な検討であるが、いくつかの食品成分は、ダイオキシンのリスク低減のために作用している可能性が示された。 
結論
5課題について研究し、下記の成果を得た。
(1)トータルダイエット調査により、ダイオキシン類の一日摂取量が1.33 ± 0.59 pgTEQ/kgbw/dayであることを明らかにした。
(2)個別食品中のダイオキシン類を分析し、汚染実態を明らかにした。
(3)ELISAキット(EnBio Coplanar-PCB EIA system)の性能を評価した結果、市販魚中のCo-PCBs及び総PCBsに対するスクリーニング法として有用であった。
(4)寿司試料のダイオキシン類スクリーニングにはCALUXアッセイが有用であった。
(5)Ahイムノアッセイを用いてTCDDによるアッセイ系活性化に対する植物性食品成分の抑制効果について検討した結果、フラボン類、フラボノール類、アントラキノン類、piperine、coumestrol、brevifolincarboxylic acid、resveratrolに顕著な抑制効果が認められた。また、curcumin、carnosol、capsaicinも抑制効果を示した。

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