畜水産食品中の化学物質残留防止対策に関する研究

文献情報

文献番号
200301207A
報告書区分
総括
研究課題名
畜水産食品中の化学物質残留防止対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
三森 国敏(東京農工大学)
研究分担者(所属機関)
  • 松田りえ子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗菌剤のフルメキン(FL)や昆虫成長調節剤のジサイクラニル(DC)はマウスの肝臓に対して発がん性を示すことが報告されており、FLやDCには肝細胞の壊死・再生がみられることから、FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会(JECFA)は、その発がんは非遺伝毒性メカニズムに起因するものとして許容一日摂取量(ADI)を設定している。しかし、最近の報告では、本物質にイニシエーション作用を示唆する成績が得られていることから、その発がんメカニズムについてはさらに解明すべき点が残されている。昨年度、4000 ppmのFLをマウスに4週間混餌投与し、マイクロアレイ解析を実施した結果、ERK5やPKCεなどのmRNAの発現上昇がみられたことから、本年度は、これらmRNAおよびリン酸化タンパクの発現確認として、4000 ppmのFLを1、4および8週間混餌投与したマウスの肝臓中mRNA発現およびリン酸化タンパクを定量的に解析した。DCについては、DCのマウス肝発がんプロモーションメカニズム解析として、1500 ppmのDCを2週間混餌投与した肝臓におけるマイクロアレイ解析、さらにマウス二段階肝発がんモデルにおけるDC 1500 ppmの7週間混餌投与によるプロモーション作用の検証とそのメカニズム解析を実施した。
残留基準値および試験法の改定が求められているカルバトックス、輸入養殖ウナギに使用されるおそれのあるサラフロキサシンならびにダノフロキサシンについて残留検査法をそれぞれ検討した。
研究方法
4000 ppmのFLをマウスに4週間混餌投与し、マイクロアレイ解析で発現上昇がみられた遺伝子については、4000 ppmのFLを1、4および8週間混餌投与したマウスの肝臓中mRNAを用いreal-time RT-PCRおよびwestern blottingにより経時的な定量的解析を実施した。DCの肝発癌プロモーションメカニズム解析として、1500 ppmのDCをマウスに2週間混餌投与し、マウス肝組織を用いてマイクロアレイおよびRT-PCRによりmRNAの発現変動を検索・解析した。さらに、非処置正常マウス、あるいはジメチルニトロソアミンによりイニシエーション処理を施し2/3肝部分切除したマウスに1500 ppmのDCを7週間混餌投与して、γ‐glutathiontransfelase(GGT)陽性細胞数を計測し、そのプロモーション活性を検証した。これら肝組織において、2週間投与で発現変動がみられたmRNAについてreal-time RT-PCRにより定量的解析を実施した。
カルバドックスおよびその代謝物の検査方法確立の検討については、食品衛生法に規定されているキノキサリン-2-カルボン酸試験法を基にして、複数の測定条件でその定量下限を引き下げるべく検討した。エンロフロキサシン、シプロフロキサシンについては、モニタリング検査法と、適応が可能であると考えられた食品・添加物等の規格基準中のサラフロキサシンおよびダノフロキサシン試験法を用いて検討した。
結果と考察
FLを4週間投与したマウス肝におけるマイクロアレイ解析および同定された遺伝子の確認実験により、GSTa、GSTm、ERK5、MEK5、BTG1、PKCe、CDK5R、ERK6等の発現増加およびCYP2E1、NIP3の発現減少が確認された。FLの発がんプロモーションメカニズムには細胞増殖活性の亢進、アポトーシスの抑制、酸化的ストレス関与の可能性が示唆された。DCのマウスの肝におけるマイクロアレイ解析では、代謝酵素および酸化的ストレスに関連した遺伝子の発現増加が確認され、特にCYP1A1、CYP1A2、TrxR1の増加が顕著であった。マウス肝二段階発がんモデルでは、DC投与後のマウスの肝でGGT陽性細胞巣が有意に増加し、DCに肝発がんプロモーション作用が認められた。この肝においてもCYP1A1、CYP1A2、TrxR1のmRNA発現増加が認められたことから、DCの肝発がんプロモーション作用に酸化的ストレスの関与が示唆された。
カルバトックスおよびその代謝物に関しては、キノキサリン-2-カルボン酸の定量下限を豚筋肉中で0.001 ppm、豚肝臓中で0.005 ppmまで引き下げることができた。エンロフロキサシン、シプロフロキサシンについては、2種類の試験法を検討し、両試験法共に定量下限は0.01ppmであった。
結論
FL投与により、GST、ERK、MEK、CDK、CYPなど細胞増殖、アポトーシス、および酸化的ストレス関連遺伝子のmRNA発現変動が確認され、FLの肝発がんプロモーションメカニズムには細胞増殖活性の亢進、アポトーシスの抑制、酸化的ストレスの関与が示唆された。DCの混餌投与によるマウスの肝組織を用いたマイクロアレイ解析によりCYP1A、GSTm、TrxR1などの薬物代謝および酸化的ストレス関連遺伝子のmRNA発現増強が確認され、マウス二段階肝発がんモデルではDCの混餌投与によりGGT陽性細胞巣が有意に増加し、DCのプロモーション作用が認められた。以上の成績より、DCによる肝発がんメカニズムには、酸化的ストレス関与の可能性が示唆された。畜水産食品中検査方法として、カルバドックスおよび代謝物については、従来法に比べて定量下限を1/5にまで引き下げることができた。エンロフロキサシン、シプロフロキサシンについては、アセトニトリル抽出-ヘキサン脱脂-蛍光HPLCによる測定系を確立した。

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