食品中の微生物のリスク評価に関する研究

文献情報

文献番号
200301204A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の微生物のリスク評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山本 茂貴(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 春日文子(国立感染症研究所)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所)
  • 熊谷進(東京大学)
  • 武田直和(国立感染症研究所)
  • 林志直(東京都健康安全研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
35,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、微生物を原因とする食中毒など食品に関連した国際的問題が顕在化しており、その現状把握並びに防除対策の確立が早急に必要な状況となっている。また、食品流通の国際化が推進されるなか輸出入国間での食品衛生行政における規制の整合性が問題となっており、国際的な食品衛生行政の方向として科学的根拠に基づいた行政措置を執る必要性が大きくなってきている。そこで、本研究では、微生物学的リスクアセスメントの確率論的モデルを構築するために、基礎となる知見の収集と得られたデータの数学的解析を行った。
研究方法
1.タイ南部で養殖・市販されているイガイ(Perna viridis)中に含まれる腸炎ビブリオのリスクアセスメント
貝類中の病原性腸炎ビブリオのリスクアセスメント法を考案しそれを評価するために、イガイについて赤貝と同様な方法で一年間を通してデータを収集した。またより多くの摂食データと調理データも収集し比較した。
2.タイにおける赤貝による腸炎ビブリオ感染のリスクアセスメント
タイにおける赤貝の収獲から調理・消費に至る過程でのデータに基づきExposure Assessmentのためのモデル構築を行ない、さらにFDAによる摂食菌数-発症率(Dose-Response)関係式に対する再検討を行った。
3.Exposure Assessmentのための基礎知見としての、調理過程における二次汚染のモデル化に関する研究
家庭での調理過程におけるSalmonlla Enteritidisの二次汚染を仮想シナリオとし、汚染食材から調理者の手指や調理器具への移行、さらに他の食品への二次汚染の程度を、実際のモデル実験のデータを元に確率論的手法を用いて解析した。
4.海産魚介類および沿岸海域における耐熱性溶血毒O3K6腸炎ビブリオの生息実態
我が国の市販魚介類について、3段階増菌培養、MPN法、PCRおよびCHROMagarを組み合わせた方法によって、腸炎ビブリオ汚染実態を定性的および定量的に調査した。
5.腸炎ビブリオの低浸透圧耐性の特徴
腸炎ビブリオの低浸透圧暴露実験を行った。
6.ウチムラサキ貝からのノロウイルス検出における前処理方法の検討
ノロウイルス(NV)陽性のウチムラサキ貝を用い、超遠心法による濃縮法(超遠心法)、ポリエチレングリコールを用いた濃縮法(PEG濃縮法)、中腸腺の内溶液を用いる方法(内容液法)の3つの前処理方法を行い、その後のウイルス検出効率をリアルタイムPCR法で定量的に比較検討を行った。
7.三重県によるカキにおけるノロウイルス制御の取り組み
養殖海域の汚染実態と汚染警報による出荷調整、HACCPの概念を取り入れ、カキの衛生的取り扱い方法のマニュアル作成した。また、出荷前のウイルス等の浄化を徹底した。
出荷調整のために6項目の条件を設定した。
8.感染性胃腸炎患者におけるノロウイルス患者の実態調査
感染性胃腸炎と診断された患者の内どのくらいの割合がノロウイルスによるものであるか、さらにその中に占める食品由来感染の割合を調査する目的で神奈川県茅ヶ崎保健福祉事務所管内における感染性胃腸炎の患者のノロウイルス保有実態を調査した。
結果と考察
1.タイ南部で養殖・市販されているイガイ(Perna viridis)中に含まれる腸炎ビブリオのリスクアセスメント
いずれのデータもイガイの摂食よりアカガイの摂食のほうが感染のリスクが高いことを示唆していた。今後はアカガイについてより多くのデータを収集し、より適切な方法でシミュレーションモデルを構築する必要があると結論した。
2.タイにおける赤貝による腸炎ビブリオ感染のリスクアセスメント
タイにおける赤貝の収獲から調理・消費に至る過程でのExposure Assessmentのためのモデル構築を行ない、モデルを構築した。さらにFDAによる摂食菌数-発症率(Dose-Response)関係式を再評価し妥当なものと考えられた。
3.Exposure Assessmentのための基礎知見としての、調理過程における二次汚染のモデル化に関する研究
家庭での調理過程におけるSalmonlla Enteritidisの二次汚染を仮想シナリオとExposure Assessmentのための確率論的モデルを構築できた。
4.海産魚介類および沿岸海域における耐熱性溶血毒O3K6腸炎ビブリオの生息実態
総腸炎ビブリオ数とtdh陽性腸炎ビブリオ数規格基準値である検体1gあたりの総腸炎ビブリオ数が100より高い検体では、その24.2%が、100以下の検体では、その6.4%がtdh陽性であった。総腸炎ビブリオ菌数100/gを境に、tdh陽性検体の割合が約4倍異なることから、検体1gあたりの腸炎ビブリオ数100という値は、生食用魚介類の衛生基準において現実的でかつ妥当なものと考えられた。
5.腸炎ビブリオの低浸透圧耐性の特徴
腸炎ビブリオは0.1%食塩水中で短時間の内に死滅し、その死滅は低食塩濃度によるのではなく低浸透圧によるものであること、低浸透圧暴露により低浸透圧に対する抵抗性を獲得すること、低浸透圧に暴露した菌は酸に対しても耐性を発現することが判明した。これらの知見に基づいて魚介類の洗浄等による衛生管理を行うべきであるものと考えられた。
6.ウチムラサキ貝からのノロウイルス検出における前処理方法の検討
超遠心法で得られたコピー数を1として比較すると、PEG濃縮法では0.4~7.3倍の、内溶液法では0.001~0.13倍のコピー数が得られた。内溶液法は、簡便ではあるが、超遠心法およびPEG濃縮法が行えない大型の貝類にのみ用いることが適切であると考えられた。
7.三重県によるカキにおけるノロウイルス制御の取り組み
出荷前のウイルス等の浄化を徹底することにより、カキの生食による食中毒や有症苦情を減少させた。
ウイルスの汚染に関して養殖海域の情報を提供し、出荷調整を行うが、その条件として、以下の6点があげられる。
(1)伊勢湾周辺地域で感染性胃腸炎の流行があったとき
(2)カキ養殖海域の水温が10℃以下となる時期
(3)ノロウイルス遺伝子がカキのサンプルから検出されたとき
(4)一度に50mmを超える雨が降り、河川水が大量に海に流れ込んだとき
(5)カキによる健康被害があったとき
(6)プランクトンから検出されるウイルス遺伝子の動向および消長
8.感染性胃腸炎患者におけるノロウイルス患者の実態調査
感染性胃腸炎147件中、38件を検便し、12歳未満の乳幼児が約95%を占めた。38件中27(71.1%)件からウイルスが検出され、そのうち26件(96.3%)がノロウイルスであり、25件(96%)は遺伝子型GIIであった。38件中5件(13.2%)が生カキを食していたが、それ以外は人-人感染と思われる散発事例であった。発症者38人の内10人(26%)が所属する施設において同様の患者が発生していた。
結論
1.タイにおけるイガイや赤貝のリスクアセスメントモデルを構築した。
2.腸炎ビブリオの生息調査および低浸透圧耐性の特徴を調べた。低浸透圧暴露により低浸透圧に対する抵抗性を獲得すること、低浸透圧に暴露した菌は酸に対しても耐性を発現することが判明した。
3.ノロウイルスを対象とした三重県でのカキの衛生管理を構築した。
4.感染性胃腸炎患者におけるノロウイルス患者実態調査により、生書きとの関連があったのは13.2%(5/38)であった。

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