特定保健用食品素材等の安全性及び有用性に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301195A
報告書区分
総括
研究課題名
特定保健用食品素材等の安全性及び有用性に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 衛郎(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中村治雄(三越厚生事業団)
  • 白井厚治(東邦大学医学部附属佐倉病院)
  • 江崎 治(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
  • 廣田晃一(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
14,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会の到来とともに生活習慣病の発症率が高まってきており、食生活、飲酒、喫煙、運動など生活習慣の改善によるその一次予防が国民の緊急の課題となっている。一方で、健康に対する関心、知識の向上などから、健康の保持・増進、疾病予防を目的として特定保健用食品やいわゆる健康食品、栄養補助食品等に対する関心と摂取の機会が高まってきている。こうした食品は適切に摂取することにより食生活を通じて国民の健康の保持・増進に寄与する。
特定保健用食品は、個別の食品ごとにヒトでその安全性と有効性が検証され許可される。従って、その摂取により軽度の異常や正常高値例の改善に寄与するようになった。しかし、許可の際のヒト試験は、必ずしも充分ではないこと、また、非常に多品目の許可品目に加えて錠剤・カプセル等の形状の製品の登場により、同種の効果を示す複数の特定保健用食品が長期に併用される機会も増えている。しかし、それぞれの食品の開発時点での成績は個々の食品についてまとめられ、組み合わせて複数摂取した場合の安全性、有効性の確認はなされていない。従って、併用摂取の評価も重要となってきている。
一方、特定保健用食品に使用される素材には、大豆たんぱく質、サイリウム種皮等抗原性を有するものが多数存在する。従って、特定保健用食品においても過敏反応を惹起する可能性がある。また、いわゆる健康食品として数多く出回っている食品の中には、将来、特定保健用食品として申請される可能性のある素材も数多くあると思われるが、効果と安全性は充分には検証されていない。有効性の機序についても、充分には明らかにされていない。
そこで、今回、ヒト症例及び実験動物を用いて、特定保健用食品素材として汎用されている植物ステロール含有ジアシルグリセロール(植物ステロール含有エコナ油:食後中性脂肪上昇抑制、体脂肪蓄積抑制及び血清コレステロール低下)、茶カテキン(へルシア緑茶:体脂肪蓄積抑制)、小麦アルブミン(グルコデザイン:食後血糖上昇抑制)、乳果オリゴ糖(ワナナイト:おなかの調子)、ジアシルグリセロール(エコナ油:食後中性脂肪上昇抑制及び体脂肪蓄積抑制)、グロビン蛋白分解物(食後中性脂肪上昇抑制)、を用いて、1)組み合わせ摂取の安全性と有効性について検討し、問題点については是正策を講ずることを目的とした。また、分担研究者の一人が開発したアレルゲンの免疫複合体転移酵素免疫測定法による高感度測定法並びにウェスタンブロット法を用いて、特定保健用食品素材の2)アレルギー発現について検討した。さらに3)抗肥満作用を示す食品素材の安全性と有効性についても検討した。
研究方法
植物ステロール含有ジアシルグリセロールと茶カテキン:血清コレステロール200mg/dl以上の男女計15名(平均年令60才,平均体重60.0kg)に対して試験参加の合意を得た上で、植物ステロール含有エコナ油(10g/日)を3ヶ月間摂取させる。その間1ヶ月後より1ヶ月間ヘルシア緑茶を併用した。試験期間中1ヶ月毎に空腹時採血を行い、体重、BMI、血圧、血清脂質、MDA-LDL、hs CRP、肝機能、腎機能、末梢血液を測定した。(中村)
小麦アルブミンと乳果オリゴ糖:対象は2型糖尿病患者30名(男11、女19)、平均年齢64.0歳、BMI=23.4kg/m2、HbA1c 6.7%であった。初期4週間は、小麦アルブミン(グルコデザイン)を1日3回、毎食時に摂取し、次の4週間は乳果オリゴ糖(ワナナイトジンジャー)を1日1回、夕食時に摂取した。さらに、次の4週間は、両者を同時に摂取してもらった。(白井)
ジアシルグリセロールとグロビンタンパク分解物:5週令の雄Wistar系ラットに40%(エネルギー %)のジアシルグリセロール(エコナ)あるいは大豆油とx1、x10、x25およびx50量のグロビンタンパク分解物(GD)を組み合わせ、8週間自由に摂取させた。各週、末梢より採血を行い、血中TG濃度を測定した。飼育終了後、血液生化学分析を行うとともに、肝臓脂質濃度を測定した。糞中へ排泄されるTGあるいはジアシルグリセロール量は、ガスクロマトグラフにて分析をした。(斎藤)
アレルギー発現:たんぱく質精製、ウェスタンブロット、免疫複合体転移酵素免疫測定法により、大豆近縁種であるインゲン、アキシマササゲ、グア-ガム中の抗大豆トリプシンインヒビター抗体と反応する物質を検索した。また大豆トリプシンインヒビターに対する特異抗体の反応性を検討するためにピーナツアレルゲン5種のエピト-プを合成し、これを用いた特異抗体の免疫複合体転移酵素免疫測定法を開発し、アレルギー児血清を用いた検討をあわせて行った。(廣田)
抗肥満作用を示す食品:マウスを5群に分け、高炭水化物食、高脂肪食、高脂肪食+1%(w/w)ウーロン茶粉末、高脂肪食+0.2%(w/w)カテキン、高脂肪食+0.5%(w/w)カテキンを10週間摂取させて、体重の変動と筋肉、脂肪及び肝での主要な酵素の発現量、及び血中メタボライト、ホルモン量を測定した。(江崎)
結果と考察
植物ステロール含有ジアシルグリセロールと茶カテキン:体重は個々には減少しているが全例では有意の変化は認められなかった。BMIも有意の変化は認められず、収縮期、拡張期血圧にも有意の変動は認められなかった。総コレステロールも併用後200mg/dl以下となる例が2例存在しているが、全体としては有意の変化はみられなかった。LDL、HDL-コレステロールにも有意の変動はみられなかった。TGはやや減少傾向を認めている。MDA-LDLはTG減少例で低下し、TG増加例で上昇している。血中カテキン濃度(エピガロカテキンガレート)の明らかな上昇例でMDA-LDLの低下を認めた。肝、腎機能、末梢血液には全く有意の変動は認められなかった。
今回は、体重、BMIには併用による変化を認めず、血清脂質にも有意の変動は認めなかった。BMI24 程度で、肥満症例でなかったことが原因であると推定できるが、食事の摂取量の違いについても検討しなければならない。少なくとも安全性には問題はなかった。(中村)
小麦アルブミンと乳果オリゴ糖:体重は、小麦アルブミン摂取4週目に有意に減少を見た。他とくに副作用は認めなかった。空腹時血糖値は、4、8、12週目と徐々に低下を認めた。HbA1cは、摂取前に比べて4週目に有意に低下を認め、12週目まで持続した。乳果オリゴ糖では血清TG低下作用を認めた。HDL-コレステロールは、12週目に上昇をみた。ALT、AST,γ-GTP,ChE、CPK、BUN,クレアチニン、尿酸は異常を示さなかった。(白井)
ジアシルグリセロールとグロビンタンパク分解物:x50量のGDを摂取した群の体重増加量は、6週目以降、有意に低値を示した。脂肪組織重量は、x50量GDと大豆油の組み合わせで有意な低下を示した。また、大豆油とGDの組み合わせは血中TG濃度の上昇を実験終了まで抑制した。屠殺時の血清脂質濃度は、GDの摂取に伴い低下を示し、大豆油との組み合わせで対照群と比較してTG濃度の有意な低下を認めた。肝機能指標および病理組織学的所見には有害事例を認めなかった。(斎藤)
アレルギー発現:大豆トリプシンインヒビターの免疫複合体転移酵素免疫測定法により大豆を含む食品とグア-ガムを含む食品で高値がでるとともにウェスタンブロットでも反応がみられた。これは大豆近縁種のインゲン、アキシマササゲでも反応することが明らかになった。これらは起原植物中のたんぱく質であると思われる。合成ペプチドについてアレルギー患者55名と健常者12名の血清の反応性を免疫複合体転移酵素免疫測定法によって調べた。このうち患者7名と健常者1名が高値であった。うちわけはAra h 1 ep3で4名、Ara h 1 ep4で2名、Ara h 2 ep7で1名、Ara h 3 ep3で1名であり個人差の大きいことが明らかになった。(廣田)
抗肥満作用を示す食品:1%のウーロン茶パウダー添加により高脂肪食による体重増加が抑制された。カテキンは用量依存性に抗肥満作用を示した。肝では2倍程度のUCP2 mRNAの発現量の増加が、ウーロン茶、カテキン投与により認められたが、ACO、MCAD、SREBP-1、LPL mRNAの発現量は変化がなかった。筋肉ではUCP2、UCP3、ACO、LPL、GLUT4 mRNAの発現量には変化がなかった。脂肪組織ではアディポネクチンmRNAの発現量が1.5倍程度増加した。LPL mRNAには変化がなかった。しかし、血中アディポネクチン量は高炭水化物食に比べて、高脂肪食では低下していたが、ウーロン茶投与による増加は見られなかった。(江崎)
結論
植物ステロール含有エコナ油とヘルシア緑茶の併用について検討し、安全性には全く問題は認められなかったが、有効性においても明らかな効果は認められなかった。対象とする被験者、摂取量の影響等、今後に残された課題である。(中村)
小麦アルブミンは、長期的にも作用し糖尿病患者で血糖コントロール改善につながり、かつTG低下や体重減少も見られた。乳果オリゴ糖は、TG低下効果もあり、特定保健食品として問題はなかった。また、小麦アルブミンと乳果オリゴ糖の併用投与で相互に干渉されず、効果の減弱、あるいは新たな副作用と思われる兆候は認められなかった。(白井)
大豆油とGDの組み合わせ摂取は、効果的に血中TG濃度上昇を抑制し、血液学的あるいは病理組織学的所見においては有害事象を認めなかった。今回の実験から大豆油とGD併用摂取は効果的であり安全性も高い組み合わせであると考えられた。(斎藤)
大豆トリプシンインヒビターとピーナツアレルゲンの5種のエピト-プに対する特異抗体がアレルギーを有する小児及び健常者血清双方から検出されたが、エピトープに対する反応性は個人差が大きかった。大豆近縁種の豆は多くの大豆アレルゲン類似物質を含む可能性があり今後さらに検討が必要と思われた。(廣田)
ウーロン茶、カテキンを高脂肪食とともにマウスに投与すると、高脂肪食により生じる肥満が抑制された。この機序として、肝での脱共役蛋白質UCP2の発現増加が推定され、血中のアディポネクチン量とは相関しなかった。お茶は副作用なく抗肥満作用を示すと考えられた。(江崎)
以上、特定保健用食品の組み合わせ摂取の安全性、有効性評価が十分になされていない現状で、一般の人々に問題なく組み合わせ摂取を薦めるわけにはいかない。過去2年と同様に、今回の検討でも、組み合わせにより有用性が得られたもの、組み合わせの効果が得られなかったものがあった。今後このような組み合わせは数多くあり得るので、論理的に考えて、食品どうしの干渉がどの程度起こり得るかが推定できれば、かなり重要な情報になり得ると思われ、学問的な興味だけでなく、厚生労働行政にとっても大きな示唆になるものと考えられる。安全性に関しては、食品素材でもあり、併用によっても過剰摂取を避ければその安全性は高いものと思われる。抗肥満作用を示す食品・栄養成分に関しては、今後、特定保健用食品素材としての利用、適正な評価のための基礎資料とともに、安全なそして効果的な摂取の上で重要な情報になると考えられる。アレルギー惹起性に関しては、大豆近縁種の豆は多くの大豆アレルゲン類似物質を含む可能性があり、今後さらに特定保健用食品素材についてのスクリーニングが必要であろう。
公平中立な立場での評価による本研究の成果は、特定保健用食品評価のための安全性及び有用性に関しての基礎データとして活用されるだけでなく、許可審査における客観性の確保、また特定保健用食品素材による有害事象を未然に防止するために活用できると思われる。こうした成果は、保健機能食品制度の遂行に生かされるだけにとどまらず、特定保健用食品やいわゆる健康食品、栄養補助食品等の安全性及び効果的な摂取について、適切な情報を国民に提供し、食生活を通じて国民の健康の保持・増進に寄与すると考えられる。

公開日・更新日

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