既存添加物の安全性確保上必要な品質問題に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301191A
報告書区分
総括
研究課題名
既存添加物の安全性確保上必要な品質問題に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 恭子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 合田幸広(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 黒柳正典(広島県立大学)
  • 永津明人(名古屋市立大学)
  • 李貞範(富山医科薬科大学)
  • 林真(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 中嶋圓(食品農医薬品安全性評価センター)
  • 浅倉眞澄(日本バイオアッセイ研究センター)
  • 宮澤眞紀(神奈川県衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
既存添加物は、平成7年度の食品衛生法の改正に伴い、従来から使用されていた天然添加物に対する経過措置として使用を認められているものであり、法改正時の国会附帯決議でその安全性の見直しが求められた。その基本的安全性を評価するために、平成8年度の厚生化学研究報告以降、新たな反復投与試験などの実施により、安全性の検討がなされてきた。しかしながら、既存添加物の多くは植物等からの抽出物であり、多成分からなる。そのため、品質規格が不十分な品目もあると考えられ、毒性試験に供される試料についての成分・品質に関する知見が重要となる。そこで、本研究では、平成14年度、90日間反復投与毒性試験未実施品目のうち、品質規格が不十分な品目を中心に、毒性試験と成分・品質に関する研究を連携して実施した。また、安全性評価には、短期間で被験物質の発ガン性リスクを推定できる変異原性試験データが必要なことから、平成15年度は、変異原性試験(細菌を用いる復帰突然変異試験、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験及びげっ歯類を用いる小核試験)未実施品目について変異原性試験と成分・品質に関する研究を実施した。また、近年毒性試験の実施された品目についても成分研究を実施した。さらに、くん液(木酢液)については、近年その用途が広がっているが、一部に変異原性の懸念が報告されていることから、市場製品等の変異原性試験を行った。本研究では、成分・品質に関する研究と毒性試験を連携させて行い、既存添加物の安全性評価に寄与するとともに、品質規格へ反映させ、既存添加物の安全性確保を目指す。
研究方法
1.成分研究:ヒメマツタケ抽出物、メバロン酸、没食子酸、ログウッド色素、グレープフルーツ種子抽出物、ヒキオコシ抽出物、サンダラック樹脂、木酢液、アルカネット色素、ユーカリ葉抽出物、タデ抽出物、精油除去ウイキョウ抽出物、マクロホモプシスガム、アロエベラ抽出物、ニガヨモギ抽出物、コメヌカ油抽出物、スフィンゴ脂質、キダチアロエ抽出物の主成分あるいは微量成分等について各種クロマトグラフィーを用いて分析、あるいは単離し、NMR、MS等による構造解析を行った。
2.変異原性試験:ヒメマツタケ抽出物、メバロン酸、没食子酸、ログウッド色素、グレープフルーツ種子抽出物、ヒキオコシ抽出物、サンダラック樹脂、木酢液について、以下のうち、全てあるいはいずれかの変異原性試験を行った。1)細菌を用いる復帰突然変異試験(ネズミチフス菌TA98、TA100、TA1535、TA1537及び大腸菌WP2uvrA/pKM101の5菌株を用いて、プレインキュベーション法による試験を実施した)、2)ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(チャイニーズハムスター培養細胞CHL/IUを用いて、短時間処理法と連続処理法による試験を実施した)、3)げっ歯類を用いる小核試験(1群5匹の動物に2回連続経口投与を行い、最終投与後24時間目に骨髄塗抹標本を作製、ギムザ染色後、顕微鏡下で多染性赤血球等を観察し、小核を有する多染性赤血球の出現頻度を求めた)。
結果と考察
18品目についての①成分・品質に関する研究と、8品目についての②変異原性試験を実施し、遺伝毒性について検討した。変異原性試験では、陽性となる品目等もあったが、ほとんどの品目は、変異原性試験を総合的に評価し、生体にとって特段問題となるものではないと考えられた。結果の概要は、以下の通りである。
1) 苦味料・ヒメマツタケ抽出物:①苦味成分の一つとされるergosterolは検出されず、低分子量の有機化合物はほとんど含まれていないと考えられたことから、苦味成分は多糖類またはタンパクに糖が結合している高分子である可能性が示唆された。②染色体異常試験は陰性であった。
2) 製造用剤・メバロン酸:①主成分は、R(-)-メバロノラクトン(含量97.6%)であることが確認された。②染色体異常試験で±S9における観察可能な最高用量のみに、染色体の構造異常誘発性が認められた。
3) 酸化防止剤・没食子酸:①含量は没食子酸・一水和物として、99.7%であり、純度が高いことが確認された。②小核試験は陰性であった。
4) 着色料・ログウッド色素:①LC/MSを用いて成分の確認を行ったところ、主色素成分とされるヘマトキシリン(含量27.3%)およびその酸化体ヘマテイン(含量7.2%)を検出した。②復帰突然変異試験は陰性であった。染色体異常試験及び小核試験は共に陽性であった。
5) 製造用剤・グレープフルーツ種子抽出物:①今年度、分析を行った2種類の試料のうち、1試料は2つの不飽和脂肪酸(オレイン酸及びリノール酸)を主成分とし、変異原性試験に供された試料からはアルキル鎖がC8-C18のベンザルコニウムが検出された。②検体よりベンザルコニウムが検出されたことから、復帰突然変異試験及び染色体異常試験の結果は安全性の評価の対象とすべきではないと判断した。
6) 苦味料・ヒキオコシ抽出物:①5つの化合物を分離した。そのうちの1つを、ヒキオコシの苦味成分として知られるoridoninタイプのrabdosoianone Ⅰと決定した。②検体の入手が遅れ、現時点において予備試験のみが終了した状況にある。復帰突然変異試験は陰性であった。染色体異常試験では、スライド標本の顕微鏡観察において、現時点で陽性を示す傾向が認められている。小核試験では、顕微鏡観察において、現時点で陽性を示す傾向は認められていない。
7) ガムベース・サンダラック樹脂:①主成分はサンダラコピマール酸(含量11.6 %)であることを明らかにした。②染色体異常試験では、染色体の構造異常は誘発しなかったが、連続処理法において、数的染色体異常(倍数体)の誘発が観察された。
8) 製造用剤・くん液(木酢液):木酢液製品等9種類の試料について試験を実施した。①GC/MS及びヘッドスペース-GC/MS分析(NISTライブラリ検索)により、いずれの試料からも酢酸をはじめとする有機酸及び2-methoxyphenol等のフェノール系化合物等が同定された。②復帰突然変異試験では、最大用量を国内外のガイドラインで推奨されている限界用量である5mg/プレートとした場合、2社の木酢原液は陽性を示したが、木酢液製品は陰性を示した。陽性を示した菌株から木酢液中に含まれる変異原物質は塩基対置換型の変異を引き起こす物質であることが示唆された。
9) 着色料・アルカネット色素:①主色素成分はヒドロキシナフトキノンのエステル化体であり、それら化合物の立体はalkannin型(S-configuration)ではなくshikonin型(R-configuration)であることを明らかにした。
10) 酸化防止剤・ユーカリ葉抽出物:①LC/MSを用いて解析した結果、没食子酸、エラグ酸に加え、6種のmacrocarpal類が含まれることを推定した。
11) 製造用剤・タデ抽出物:①12種類の化合物を単離した。このうち3種類はセスキテルペンのisodrimeninol、植物ステロールのβ-sitosterol及びstigmasterolと同定した。
12) 酸化防止剤・精油除去ウイキョウ:①極めて極性の高いあるいは分子量の大きいものが含まれていると示唆された。
13) 増粘安定剤・マクロホモプシスガム:①糖組成分析及びメチル化分析の結果、β-1,3-グルカンとデキストランが含まれている可能性が考えられた。
14) 増粘安定剤・アロエベラ抽出物:①機能性多糖として報告されているアセマンナンは確認できなかった。また、アロエベラ抽出物特有の低分子量成分は検出されなかった。
15) 苦味料・ニガヨモギ抽出物:①主成分及びその他のセスキテルペン二量体について検討した結果、アブシンチン(含量2.0%)及びアナブシンチンを同定した。
16) コメヌカ油抽出物:①主成分フェルラ酸以外の成分としてフェルラ酸のステロイド及びトリテルペンのエステルが多量に含まれていることが分かった。
17) 乳化剤・スフィンゴ脂質:①主成分とされるセレブロシド9種類を単離した。
18) 増粘安定剤・キダチアロエ抽出物:①多糖を還元後、メチル化分析に供し、主に1,4-結合したガラクツロン酸で構成されるペクチン性多糖であることが示唆された。
結論
本研究事業において変異原性試験に供された試料及び近年、毒性試験に供された試料等18品目の既存添加物について、成分・品質研究を行った結果、その基原に特徴的な成分等を同定する等、多くの知見を得ることができた。また、変異原性試験では、本年度検討した既存添加物の中には弱い遺伝毒性を示すものも認められたが、生体内で強い影響が想定されるものはなく、現時点において早急に対処が必要と考えられるものはなかった。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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