反復投与毒性や発がん性試験等の実施による既存添加物の安全性評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301190A
報告書区分
総括
研究課題名
反復投与毒性や発がん性試験等の実施による既存添加物の安全性評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田中卓二(金沢医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、天然性添加物の開発および利用が盛んとなり、一般食品あるいは健康食品に広範に利用されている。これは、消費者の自然・天然指向によるところが大きい。しかし、このような天然性添加物の多くは、安全性試験による健康影響の評価がなされていないのが現状であり、広く消費者等からその安全性の評価が求められている。穀類やパーム油などに豊富に含まれているトコトリエノールは、ビタミンEと化学構造上の類似性を有し、トコフェロールと同様の抗酸化作用を有することから、酸化防止の目的で食品添加物として使用されている。トコトリエノールの13週間反復投与毒性試験では、無毒性量(NOAEL)は0.19%(雄で120 mg/kg 体重、雌で130 mg/kg 体重)と推定され、雄の0.19%投与群で平均赤血球容積の減少、A/G比の上昇、血清アルカリフォスファターゼの上昇および相対副腎重量の増加がみられたことから、無影響量(NOEL)は求められていない。イネ科植物の細胞壁に豊富に含有されているフェルラ酸(4-hydroxy-3-methoxycinnamic acid)は、その抗酸化活性から、酸化防止剤として食品に利用されている。一方、フェルラ酸の生体影響に関しては、抗変異原作用、腫瘍発生抑制効果、放射線障害防護効果、染色体異常誘発、生殖機能阻害などが知られている。フェルラ酸のF344ラットを用いた急性毒性に関する報告では、LD50は雄で2445 mg/kg体重、雌で2113 mg/kg体重とされている。F344ラットを用いたフェルラ酸混餌投与(0%、0.32%、0.8%、2%、5%)による13週間反復投与試験(亜慢性毒性試験)では、雌雄ともに最高濃度5%投与群で無処置対照群に比べて、平均体重、摂餌量の有意な低下をみている。また、フェルラ酸混餌投与による臓器重量の変化、生化学的検査結果の変化や組織学的な変化はみられたものの用量相関を認めていない。このようにトコトリエノールおよびフェルラ酸の亜慢性毒性試験結果の報告はあるが、慢性毒性試験ないし発がん性試験の報告はみられない。そこで、フェルラ酸の1年間反復投与試験およびがん原性試験(2年間)を実施することとした。
研究方法
<トコトリエノール>パーム油より得られたビタミンE混合物を蒸留により精製したトコトリエノールをエーザイ株式会社(東京)より供与を受けた。トコフェロールを完全に分離することはできないので、組成はa-トコトリエノール21.4%、b-トコトリエノール3.5%、g-トコトリエノール36.5%、d-トコトリエノール8.6%、a-トコフェロール20.5%、b-トコフェロール0.7%、g-トコフェロール1.0%、d-トコフェロール0.5%であった。粉末基礎食CE-2(日本クレア株式会社、東京)に混和し、適正濃度となるように添加した。投与濃度は、トコトリエノールの13週間反復投与毒性試験の結果から、慢性毒性試験では最高用量を2%とし、0.4%、0.08%、および0%(対照群)の4段階とし、癌原性試験では2%、0.4%および0%(対照群)の3段階とした。トコトリエノール含有飼料は、給餌まで冷暗所(<4℃)に保存した。雌雄のWistar Hannoverラットを日本クレア株式会社より5週齢で購入し、CE-2基礎飼料と水道水で1週間馴化飼育後に試験に用いた。動物の飼育はバリヤーシステムの動物室にて行い、室内の環境条件は温度24±1℃、湿度55±5 %換気回数18回/時(オールフレッシュ)、12時間蛍光灯照明、12時間消灯の条件下で行った。動物は透明なポリカーボネート製箱型ケージに3~4匹ずつ収納し、床敷は三協ラボサービス社(東京)のソフトチップを使い、週2回交換を行った。また、飲料水として水道水を馴化および試験期間中に自由に摂取させた。<フェルラ酸>米糠原油より抽出
、精製したフェルラ酸(trans型、Lot No.F02977、純度99.9%)を築野食品工業株式会社(和歌山)より供与を受け、粉末基礎食CRF-1 (オリエンタル酵母株式会社、東京)に予め混和した後(プレミックス)、適正濃度となるようにCRF-1 に添加し、固形飼料とした。投与濃度は、フェルラ酸の急性毒性試験、亜慢性毒性試験の結果から、最高用量を2%とし、1%、0.5%、および0%(対照群)の4段階とした。フェルラ酸含有飼料は、給餌まで冷暗所(<4℃)に保存している。雌雄のF344/DuCrjラットを日本チャールズ・リバー株式会社、横浜)より4週齢で購入し、1週間馴化飼育後に試験に用いた。馴化および試験期間中、ラットを自動給水装置付きベルト式飼育棚のステンレス製懸垂式ケージに4ないし3匹ずつ収容し、室温23±2℃、湿度50±10%、照明12時間・換気回数毎時10回のバリア飼育室にて飼育した。5週齢時に雌雄のラットを体重測定し、ランダム方式により各実験群に分け、飼料及び水道水(細菌ろ過器を経由)を自由に摂取させた。
結果と考察
<トコトリエノール>1年間の慢性毒性試験は、現在試験開始後31週を経過し、雄の2%投与群において1匹の死亡が確認された。その他の群においては、特記すべき一般状態の異常は認められていない。平均体重は、雄の2%投与群で増加抑制を示し、投与1週目より有意な減少が認められた。雌もまた、2%投与群で投与5週目より有意な減少が認められた。その他、特記すべき臨床徴候は認められていない。2年間がん原性試験は、現在試験開始後31週を経過し、雄の2%投与群において3匹の死亡が確認された。その他の群においては、特記すべき一般状態の異常は認められていない。平均体重は、雄雌ともに最高用量の2%投与群で増加抑制を示し、投与2週目より有意な減少が認められた。その他、特記すべき臨床徴候は認められていない。<フェルラ酸>1年間の慢性毒性試験は、現在試験開始後29週を経過しているが、雌雄とも全群で死亡例を認めていない。投与開始後、3週目からフェルラ酸投与群に脱毛が観察されたが、現在は回復している。対照群にはそのような症状は認めていない。その他、特記すべき臨床徴候を認めていない。雄の平均体重は、対照群に比べフェルラ酸投与群で高い傾向を示し、雌の平均体重は、対照群およびフェルラ酸投与群とも同様の体重増加率を示している。ラット1日当たりの平均摂餌量は、雌雄とも対照群に比べフェルラ酸投与群では低く、雄では対照群の約3/4~4/5、雌では対照群の約3/4~3/5であるが、用量依存性を認めていない。2年間がん原性試験は、現在試験開始後29週を経過している。現在までに、雌雄とも全群で死亡例を認めていない。投与開始後、3週目からフェルラ酸投与群ラットに脱毛を観察したが、現在は回復している。対照群にそのような徴候は、観察されていない。その他、特記すべき臨床徴候を認めていない。雌雄とも、平均体重は2%フェルラ酸投与群は対照群とほぼ同様の体重増加を示しているが、0.5%フェルラ酸投与群、1%フェルラ酸投与群では対照群に比べ高い傾向を示している。ラット1日当たりの平均摂餌量は、雌雄とも対照群に比べフェルラ酸投与群では低く、雄では対照群の約4/5、雌では対照群の約3/5~3/4であるが、用量依存性はみられない。
結論
トコトリエノールの試験は、現在試験開始後31週であるが、両試験において雄の最高用量群(2%)で少数の死亡例が認められており、その後の経過次第では、用量の変更(減少)を視野に入れる必要がある。フェルラ酸の試験は、現在試験開始後29週であるが、両試験において雌雄とも全群で死亡例は認められておらず、順調に経過している。

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