バイオフラボノイドの遺伝子再構成作用に関する研究

文献情報

文献番号
200301189A
報告書区分
総括
研究課題名
バイオフラボノイドの遺伝子再構成作用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
清河 信敬(国立成育医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山田健人(慶應義塾大学)
  • 穂積信道(東京理科大学生命科学研究所)
  • 安江博(農林水産省・独立行政法人・農業生物資源研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
年齢1歳未満の乳児に特徴的な乳児白血病の発症機構については、母体のトポイソメラーゼ(Topo)II抑制物質摂取により誘導される胎児造血細胞のMLL遺伝子再構成の関与が示唆されている。これに関連して、最近米国のR. Strickらが、健康食品などに含まれるバイオフラボノイド(BFN)が培養ヒト血液系細胞株に対してTopoII抑制作用を示し、MLL遺伝子の再構成を引き起こすことを報告しており、米国NIHもこれに関心を示している。BFNは日本茶やハーブ等にも豊富に含まれること、乳児白血病の発生頻度は東洋人に高いことなどを考慮すると、同物質がMLL遺伝子の構造変化に影響を及ぼす可能性、ならびにその結果血液細胞の増殖に及ぼす影響について早急に解明することが求められる。そこで本研究では、上記報告を追試するとともに、生体にBFNを投与した場合に、実際に血液系細胞にMLL遺伝子再構成が起こるのか否かについて、NOD/SCIDマウスを用いたヒト造血組織再構築モデルや、妊娠した免疫不全ブタの胎児に外科的にヒト造血細胞を移植、再構築する妊娠モデル、等を用いた検討によって明らかにすることを目標とする。本年度は1)BFNの種々の正常血液系細胞および培養細胞に対する遺伝子切断効果の解析、ならびに遺伝子再構成によって生じるキメラ遺伝子探索を行うとともに、2)“免疫不全マウスを用いたヒト造血系再構築モデル"をさらに改良してこれにヒト造血系細胞を移植し、BFNの生体への投与にともなう血液系細胞への効果の検討実験を開始し、3)“妊娠した免疫不全ブタを用いたヒト胎児造血系再構築モデル"の確立ならびにその解析に向けた準備実験の実施を目的とした。
研究方法
1.骨髄幹細胞を種々の条件で培養し、未熟骨髄球系細胞、単球系細胞、B前駆細胞、巨核球を分化誘導した。2.各細胞にFlavone等のBFNを16時間添加培養後、ゲノムDNAを抽出し、MLL遺伝子のBreak point cruster 領域(BCR)約8kbを挟む5'領域、3'領域のそれぞれの断片をプローブとして用いてサザンブロット解析を行った。3.各細胞にBFNを添加培養後、サイトスピン標本を作成し、MLL遺伝子の5'側の断片をFITCで、3'側の断片をTRITCでそれぞれ標識した混合プローブを用いて、FISH解析を行った。4.これまでにTopoII抑制剤の作用によって誘導されたと報告されているMLL遺伝子の再構成による融合遺伝子のシークエンス情報に基づきプライマーを合成し、BFN処理した培養細胞株の核DNAに対するPCRを行った。5. ligation-mediated PCR法として、抽出した核DNAをBamHIで消化して断端を平坦化したのち脱リン酸化、アダプターを結合した後、MLL遺伝子BCR近傍5'側配列とアダプター内配列をプライマーとしてPCRを行い、増幅断片をT-ベクターにクローニングして塩基配列を決定した。6.NOGマウスおよびNOD/SCIDマウスに、ヒト血球系細胞を移植後定期的に末梢血と骨髄血を採取し、抗ヒト血球抗体を用いたフローサイトメトリー解析でヒト血球細胞の検出を試みた。7. BFN投与24時間後の細胞について、種々の方法でアポトーシス細胞を検出した。8.ブタ白血球を免疫源として常法によりMoAbを作成し、その反応性を解析した。9.ブタIL-16遺伝子のゲノム構造解析およびブタγ/δT細胞由来完全長cDNAライブラリーの解析を行った。10.倫理面についてはガイドラインを遵守して充分に配慮した。
結果と考察
【1】種々のBFNによる種々の細胞株のMLL遺伝子の切断作用についてサザン解析により検討した結果、この作用に一定の選択性が認められた。分化誘導した正常血球による検討でも同様の
結果が得られた。一方、これと併行して、FISH法による解析を行ったが、Flavone投与によるMLLシグナルの解離を認めなかった。また、これまでに報告されているMLL融合遺伝子についてプライマーを作成し、Flavoneを投与後のBV173核DNAに対してPCRを行ったが、検索した範囲では遺伝子断片の増幅を認めなかった。以上の結果から、培養細胞の系では、少なくとも既知の融合パートナーとの遺伝子再構成は起こっていない可能性が示唆された。そこで、BFNによるMLL遺伝子の切断の断端の遺伝子配列を確認するとともに、新規パートナー遺伝子との遺伝子再構成の検出およびその発生頻度の検討が可能な方法として、ligation-mediated PCR法の確立を行った。今後、さらに多様な血球に対するBFNの効果について解析し、どのような細胞にMLL遺伝子切断が生じやすいのか明らかにするとともに、LM-PCRやRT-PCRによる遺伝子再構成の詳細に関する検討を行う必要がある。【2】ヒト血球細胞株をNOGおよびNOD/SCIDマウスに移植し、30~70日後に末梢血と骨髄血中のヒト血球をフローサイトメトリーで検出した結果、NOGマウスへ移植した場合の方がより早期(30日後)にヒト血球細胞の出現を認めた。そこで、この系を用いて種々のヒト血球細胞を同マウスへ移植し、BFNを生体投与した場合の作用について検討を開始した。また、ヒト骨組織を移植したNOD/SCIDマウスの移植ヒト骨へ乳癌細胞を移植し、乳癌の骨転移モデルを確立した。以上の結果から、NOD/SCIDマウスへのヒト組織/細胞移植によって、様々なヒト組織のin vivoモデルを確立できる可能性が示された。今後、バイオフラボノイドの造血系以外のヒト体細胞に対する遺伝子再構成誘導作用に関する検討や、MLL遺伝子再構成に起因する白血病細胞の治療モデルの確立、等の研究への発展が期待される。【3】以上の研究過程で培養細胞株をBFN処理すると細胞死が誘導されることが観察された。そこで、種々の細胞株とBFNの組み合わせで検討した結果、Flavone等のBFNが特定の細胞株にアポトーシスを誘導することが明らかとなった。また、骨髄幹細胞から分化誘導した未熟骨髄球系細胞およびB前駆細胞についても同様にアポトーシス誘導を認めた。この作用は、従来から言われているBFNの抗癌作用に関係するものと推定されるが、遺伝子再構成作用との関連も含めて、その分子機構についてさらに詳細に検討する必要がある。また、今回の検討で、BFNが一部の正常血球に対してもアポトーシスを誘導する可能性が示唆されたことは、遺伝子再構成誘導作用とはまた別の観点から、その食品添加物としての安全性について検討する必要性を示すものと考えられる。【4】新たにγδT細胞のサブセットを認識する3E12およびブタMHC class Iを認識する4G8抗体を同定した。前者はT細胞亜群分布の解析に有用であり、また後者はブタにヒト血球を移植した際のキメリズム解析に応用可能である。特に、4G8と抗ヒトCD45抗体を組み合わせることにより、ヒトおよびブタ白血球を種々の割合で混合した場合に0.5%までのキメリズムの検出が可能であった。また、ブタIL-16遺伝子のゲノム構造の解析を、当該遺伝子を含むBACクロ-ンを用いて行い、19454塩基の配列を決定した。さらに、ブタγ/δT細胞由来完全長cDNAライブラリーから新たに2000クロ-ン解析し、計約5000クロ-ンの配列デ-タを得た。本研究は、妊娠免疫不全ブタを用いたBFNの胎児造血系に対する作用解析に用いるために行っている。しかし、最近移植医療において新たな臓器供給源としてブタが注目されており、今後幅広い医療分野においてこれらの抗体やブタ免疫関連分子の遺伝子情報の、研究ツールとしての有用性が高まることが期待される。
結論
現時点ではBFNによって培養細胞にMLL遺伝子切断が起こることが確認されているものの、さらに他の遺伝子との再構成が誘導されるか否かは不明であり、今後生体への投与による作用解析を含め、さらに詳細な検討が必要である。また、BFNのアポトーシス誘導作用が明らかとなったことから、別の観点からの摂取の安全性に対する検討も必要と考えられ、総合的な適正摂取量の決定が重
要である。また、これまでに樹立した“免疫不全マウスを用いたヒト組織再構築モデル"は、種々のヒト体細胞に応用可能で、今後BFNのみならず様々な食品添加物や化学物質の安全性評価へ応用可能と考えられる。本研究で行っていいる新規抗ブタ血球単クローン性抗体の作成や、ブタ免疫関連遺伝子の解析は、最近新たな移植臓器供給源としてブタが注目されていることから、再生医療の分野でも有用性が高いと期待される。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-