プリオン検出技術の高度化及び牛海綿状脳症の感染・発症機構に関する研究

文献情報

文献番号
200301188A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン検出技術の高度化及び牛海綿状脳症の感染・発症機構に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
佐多 徹太郎(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 古岡秀文(帯広畜産大学)
  • 堀内基広(北海道大学大学院)
  • 品川森一(動物衛生研究所プリオン病研究センター)
  • 石黒直隆(帯広畜産大学)
  • 松田治男(広島大学大学院生物圏科学研究科)
  • 千葉 丈(東京理科大学基礎工学部)
  • 田村 守(北海道大学電子科学研究所)
  • 堂浦克美(東北大学大学院医学系研究科)
  • 菊池 裕(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 山河芳夫(国立感染症研究所)
  • 三好一郎(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 松田潤一郎(国立感染症研究所)
  • 小野寺節(東京大学大学院農学生命科学研究科)
  • 高橋秀宗(国立感染症研究所)
  • 森 清一(北海道畜産試験場)
  • 寺尾恵治(国立感染症研究所筑波医学実験用霊長類センター)
  • 佐々木裕之(埼玉県食肉衛生検査センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プリオンの高感度・迅速検査法の開発、牛海綿状脳症に関する感染牛由来材料及び実験動物を用いた感染および発症機構の検討、およびと畜時の食肉汚染防止法の検討の3項目に関する研究を行うことにより、食品等のプリオン汚染評価方法の検討やプリオン不活化法および検証方法の開発等、食品分野における牛、および羊・山羊の海綿状脳症対策に役立つ研究を行う。そのためには、正常型および異常型プリオン蛋白質の相違とプリオンの動物体内増殖機構、プリオン病に対する感受性、そして発症機構を明らかにするため、基礎および応用面から共同して総合的に研究を行う。これらを通して、プリオンの免疫化学的、病理学的およびバイオアッセイによる検査法、プリオン不活化法、と畜法の改良等、食品分野における牛海綿状脳症対策に役立つ具体的方法を開発し、わが国の食品の安全性を向上させ、変異型クロイツフェルドヤコブ病の発生対策に資することを目的とする。
研究方法
1) プリオンの高感度・迅速検査法の開発には、プリオン蛋白質の構造変化の解析(堀内)、プリオン特異抗体の開発と検討(松田(治)、千葉、堀内)、病理組織での検出方法の検討(佐多、堂浦、古岡)、プリオン蛋白質のウエスタンブロット法の検討(山河、堀内)、蛍光相関分光法を利用した新しい検査法の開発(田村)、標準陽性サンプルの開発(菊池)、また検討材料としてのプリオンは感染牛由来および遺伝子改変マウスで作製しプリオン株として供給する(佐多、山河、松田(潤))。2) 海綿状脳症に関する感染牛由来材料及び実験動物を用いた感染および発症機構の解明については、従来のプリオン検査法の改良とともに、近交系マウスを用いた解析(品川)、遺伝子改変マウスによるバイオアッセイ系の開発(松田(潤))、マウス、ウシ、サル等の実験動物モデルの作製(高橋、森、寺尾)と解析(山河、古岡、佐多)、プリオン感受性解析を目的としたPrP遺伝子型の検討(石黒)、プリオン接種マウスでのマイクロアレイ法による遺伝子解析(三好)、そしてプリオン病病態解析を目的とした培養細胞系の開発(小野寺)により行う。3) 食品の安全性を図るために食肉の処理方法の検討や前述した検査や病態解析結果を食品分野で検証し応用するに食肉衛生検査所における実際的な検討が不可欠であり、全国食肉衛生検査所協議会の会員に協力を求め、これらを総合的に検討し、有効な食肉汚染防止法を開発する(佐々木)。(倫理面への配慮)動物実験は各施設の動物実験委員会の承認をえて、動物実験指針にもとづいて行う。「動物の愛護及び管理に関する法律」、「実験動物の飼養及び保管に関する基準」、日本霊長類学会「サル類を用いる実験遂行のための基本原則」を遵守し、実験動物の使用を最小限にするとともに、取り扱いや処理には動物愛護の精神を持って臨む。またプリオンの取り扱いは、国立感染症研究所におけるバイオセイフティー安全管理規定を
遵守し、国際的な基準にも十分に配慮する。
結果と考察
1) プリオンの高感度・迅速検査法の開発:BSE確認検査のうち病理・免疫組織化学法を1日で終了する迅速検査法を開発した(佐多)。免疫組織化学法における抗原賦活化法を検討し、今回新しいかつ高感度化法を開発した(堂浦、古岡)。またウエスタンブロット法についても高感度化し、非定型BSE例が診断できた(山河)。PrP分子の構造および性状解析を目的に、プロテナーゼ抵抗性コアフラグメントのN末端構造についてモノクローナル抗体で検討し、6例のBSEは同じで103AA近傍まで消化されていることが示唆された。またヒツジスクレイピーでは、構造の多様性鑑別が可能であることと日本のスクレイピーには複数の株が存在する可能性を示した(堀内)。ニワトリの抗プリオンモノクローナル抗体がBSEプリオンと特異的に反応すること、ファージで作製した抗体を二価化すると著しく高い反応性を有することを確認した(松田治)。高親和性抗プリオンタンパク質抗体を作製するためDNA免疫法を開発しポリクローナル抗体を作製した(千葉)。蛍光相関分光法で多量検体を微量で測定することができる小型で安価な測定装置を開発し、全自動化システムを構築している(田村)。BSE検査の標準品確保を目的とし、ヒトグリオブラストーマ細胞株TG98Gが産生するプリオンタンパク質の性状を解析したところ、標準品としては不適であることがわかった(菊池)。ウシプリオンの高感度バイオアッセイ系として、あるいはプリオン病発症機構の解明に使えるウシプリオン遺伝子改変マウスの作製を行い、ファウンダー4系統を作出した。うち1系統でヘテロに遺伝子をもつマウスでは脳内接種後104日で脾臓にプリオンが検出された(松田潤)。スクリーニング検査として期待される蛍光相関分光法の小型装置が完成し、来年度にデータを取ることが可能となった。一方、抗プリオンモノクローナル抗体が開発され、本報告書に記載はないが、いくつかのELISAキットが作製されつつあり、来年度にはデータの比較が可能となろう。確認検査で使われる病理・免疫組織化学法の改良が進み、迅速化が可能となり、また高感度化を目指した抗原賦活化法も開発された。リンタングステン酸を用いるウエスタンブロット法も実用化され、実際の診断に応用された。本年度、とくに強調したいのはウシ遺伝子改変マウスが順調に作製され、脳内接種により脾臓でプリオンが検出されたことである。現在もあらたな系統が作製されつつあり、来年度には初期の目標を達成できる可能性が高くなった。2) 海綿状脳症に関する感染牛由来材料及び実験動物を用いた感染および発症機構の解明:わが国で発見されたBSEプリオンの生物学的性状について近交系マウスに接種して解析したところ、英国例と類似した糖鎖型および分子量が認められた(品川)。ウシとヒツジのPrP遺伝子多型について検討したところ、667頭のウシでは6回のオクタリピートをもつウシは595頭で、234番と576番に塩基置換がみられたが、アミノ酸置換はみられなかった。転写調節領域で12塩基欠失例は49/126頭であった。ヒツジではスクレイピー感受性を示す136番バリンをもつものは少なかった(石黒)。プリオン病の早期診断および感染・発症機構の解明を目的として、マイクロアレイによる発現遺伝子プロファイリングを行った(三好)。Doppel蛋白非産生の1型プリオン遺伝子欠損マウスから神経細胞株を樹立し、種々の動物プリオン遺伝子を導入し、培養細胞での感染実験が可能となった(小野寺)。ウシプリオン遺伝子改変マウスでは脾臓の二次濾胞にプリオンの発現がみられ、蟻酸や塩酸処理で消失した(高橋)。BSE疑似患畜15頭について定期的に臨床症状、血液、髄液、尿を採取し検討を行ったがとくに異常は見られなかった。9頭の子牛にBSEプリオンを脳内接種した(森)。カニクイサルにBSEプリオンを接種した。3ないし6ヶ月後の安楽死サルおよび経過観察中のサルではとくに異常は認められなかった(寺尾)。免疫化学的方法でのプリオンの検出のみならず、動物への伝達性(感染性)と性状解析の研究は重要で本年度にその一部の結果がでた。わが国のBSE例は11
例となったが、現在ではそのうちの9例までマウスへの接種により検討中である。ウシプリオン遺伝子改変マウスへの接種も始まり、生化学的および病理学的解析が進んでいるので、来年度にはわが国のBSEの性状が明らかにできると思われる。ウシやヒツジのプリオン遺伝子解析が進み、BSE例に特徴はみられなかったが重要な基礎データとなる。マイクロアレイによる解析は初期段階にあるが、興味ある結果が期待される。培養細胞での解析法の開発は将来重要な手段となる。感染実験には時間がかかり、来年度にすべての結果はでないと思われるが、一方で研究資源の蓄積により、新たな解析方法が開発された際には重要なサンプルとなり、研究の広がりを促進できるであろう。そのため、研究資源の管理・配布の原則についてマニュアル化を進めている。3) 食品の安全性を図るための有効な食肉汚染防止法の開発:と畜時の脳・脊髄組織による食肉等への汚染防止法の開発を目的とし、と畜時のスタンニング、ピッシング操作、背割り位置と神経組織汚染との関連について、枝肉、ブロック肉、市販食肉を用い、GFAPをマーカーとして、全国8カ所の食肉衛生検査所で検討した。ピッシングやスタンニングによる血液への神経組織の混入についてはすべて検出限界以下であった。枝肉の内側と頭側で陽性検体が認められ、背割り時の汚染による神経組織の残留が枝肉洗浄後でも存在することがわかった。ブロック肉には3/11に陽性となったが、市販食肉ではすべて陰性であった(佐々木)。と畜時における大脳や脊髄神経組織の食肉への汚染防止法の開発は一方で重要な問題である。今回の多施設での検討方法の確立とその結果や問題点の把握により新しい安全なと畜法の開発および普及につながっていくものと期待される。
結論
研究班の3本の柱のそれぞれに順調な進捗があった。来年度にはより大きな成果が期待できる。

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