食中毒菌の薬剤耐性に関する疫学的・遺伝学的研究

文献情報

文献番号
200301184A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒菌の薬剤耐性に関する疫学的・遺伝学的研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中澤宗生(独法農技研動物衛生研究所)
  • 田村豊(農林水産省動物医薬品検査所)
  • 五十君静信(国立医薬品食品衛生研究医所)
  • 甲斐明美(東京都健康安全研究センター)
  • 山口正則(埼玉県衛生研究所)
  • 泉谷秀昌(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食中毒の中では、サルモネラ、キャンピロバクターを原因菌とするものが大部分を占めている。それらの菌の多剤耐性化が我が国ばかりでなく世界的にも進んできている。耐性菌のため、抗菌薬による患者の治療が困難を示す例が報告されてきている。「食用動物に対して抗菌薬を使用することがどの程度耐性菌を選択し、それが食物連鎖を介してヒトに伝播するのに影響を及ぼしているのか。更に ヒトへの細菌感染症の治療を困難にする潜在的危険性を孕んでいるのか。それをどの程度予測できるのか」が国際的大命題になっている。本研究においては、3年間のプロジェクトとして、その大命題に対する科学的評価を行うためのデータを得ることを目的にする。畜産および食中毒から分離される薬剤耐性菌の現状及び動向について全国レベルの調査を行う。また特定農場での個別追跡調査を行い、その成績の集積を行い、データーベース化を行う。食中毒事例について、患者から食品及びその原因物質、汚染場所の特定までの遡り調査を行い、耐性化を起こしている要因の原因を究明する。更に家畜由来株と患者由来株の関連性について分子遺伝学的および疫学的解析を駆使して、耐性遺伝子の伝播を含めたその由来を明らかにする。最終的には動物由来耐性株のヒト医療に及ぼす影響に関するリスク評価を行う。その結果を行政的対策に生かせれば、食中毒菌の耐性化の減少及び食中毒発生時の健康被害の拡大を防ぐことができる。
研究方法
家畜,食品及び患者由来のサルモネラ,キャンピロバクターの分離菌株の血清型,生化学的性状,ファージ型,薬剤耐性型等を解析し,データベースを構築する。薬剤耐性については,ニューキノロン剤,β-ラクタム剤特に第3,4世代のセフェム剤を中心的に調べる (Etest,センシデスク法等でスクリーニングを行い,詳細はMIC値を求める)。分離菌の遺伝学型をPFGE,RAPD-PCR, ALFP等の分子疫学的方法により解析し上記データーベースに加える。
家畜由来株および患者由来株の耐性遺伝子について,遺伝学的および分子生物学的手法を用い詳細に解析を加え,由来株による差異を検討する。必要なら耐性遺伝子を含む領域の全塩基配列を調べる。
結果と考察
1)ヒト由来株の解析
Salmonella Enteritidis(SE);集団事例88件についての耐性調査の結果、63%が感受性を示し、ストレプトマイシン耐性(S)が25%,それにアンピシリン耐性が加わったもの(AS)が12%であり、多剤耐性は多くはない。
Salmonella Typhimurium(ST): SEに比べSTの多剤耐性化は進んでいた。多剤耐性菌の中で5剤以上に耐性であるDT104の割合が増加してきていた。また、
フルオロキノロン高度耐性菌(シプロキサシンに対して24mg/l以上のMICを示す)が2003年までに13例の患者から分離された。それらはDT12もしくはDT193であったが、PFGEはほぼ同じパターンを示しており同じクローン由来である事が示唆された。gyrAに2ヶ所、parCに1ヶ所の点変異が見られた。
2)非ヒト由来のフルオロキノロン高度耐性菌
フルオロキノロン高度耐性STがヒト以外(イヌ、2株;ネコ、1株;ウシ、1株)から5株分離された。耐性型、ファージ型、PFGEパターンはヒト由来とほとんど同じであった。過去のST株の中に、同じPFGEパターンを示すものがあるかどうか調べたところ1997年にウシから分離された菌株が見つかった。その株は、gyrA,parCに1ヶ所ずつ変異があり、フルオロキノロンに低感受性(MIC 2mg/l前後)であった。この種の株がフルオロキノロン高度耐性菌のオリジンかもしれない。
3)家畜由来株の解析
ウシ、ブタ由来ではST, ブロイラー由来株ではSI(S. Infantis)が主な血清型で、STの70%, SIの40%が4剤以上の高度耐性であった。高度耐性株はOTC,DSMに共通に耐性であり、かつSTはABPC,CP耐性、およびSIはTMP,KMへの耐性率が高く、蓄種ごとの薬剤耐性率に影響を及ぼしていた。蓄種ごとに使用されている薬剤との関係を示すものと思われた。Campylobacter coli (ブタに分布)の50%がエリスロマイシンに耐性であったが、C.jejuni(ウシとブロイラーに分布)は全株感受性であった。マクロライドがブタに多く使用されている事を反映しているのかもしれない。C.jejuniの10~16%, C. coliの24%がフルオロキノロン耐性を示した。分離率は菌の由来により異なっており、またブロイラー由来株では年度により5?40%とかなりの幅が見られた。
結論
1) Salmonella Typhimuriumの多剤耐性化が進んでいる。その中でフルオロキノロン耐性菌がヒト及び動物から分離されてきており、そのヒト由来株および動物由来株の間に遺伝的関連性が見いだされた。共通の起源が示唆された。
2)Campylobacterの耐性パターンはjejuniあるいはcoliの種間でかなりの差が見られた。菌種が分布している動物が異なるので、その動物に使用されている抗菌薬の差を反映しているものと思われた。フルオロキノロンの耐性率はベルギー、スペイン等に比べると低いものの、調査する年度によってはかなり高い耐性率を示す時も見られた。
3) サルモネラ、キャンピロバクターとも高度耐性化が進んでいる。今後サーベイランスを継続すると伴に、抗菌薬の使用状況との関連性を詳細に解析する必要がある。

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