既存添加物の発がん性等に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301180A
報告書区分
総括
研究課題名
既存添加物の発がん性等に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
神谷 研二(広島大学)
研究分担者(所属機関)
  • 三森国敏(東京農工大学)
  • 関田清司(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
71,066,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
既存添加物は、平成7年5月の食品衛生法の改正にともなう経過措置として、使用が認められているものである。既存添加物の多くは、それ自体もしくはその起源が、長年食用に供されていた等の経験はあるものの、安全性の面から見れば動物実験などによる毒性試験などの科学的な安全性データに欠けるものが少なくない。法改正時の国会附帯決議で、既存添加物については速やかに安全性の見直しを行い、有害であることが実証された場合には、使用禁止等必要な措置を講じることとされている。平成13年12月に採択された日本生協連合会からの国会請願の中でも、天然添加物を含めた食品添加物に対する安全性確保は大きな柱の1つとなっている。平成8年度の厚生科学研究「既存添加物の安全性評価に関する調査研究」において、既存添加物489品目のうち139品目については、今後反復投与毒性試験の実施を含め、その安全性について検討することが必要であるとされた。当該139品目については、平成11年度までに14品目について安全性に問題ないとされ、さらに、平成13年度までに、16品目程度についての安全性評価が行われている。残りの109品目の基本的安全性を評価するためには、新たな反復投与毒性試験などの実施による安全性の検討が必要である。従って、ヒトでの生涯摂取を想定した安全性を検討する為には、発がん性を含む生涯摂取の安全性をラット等の動物モデルによる1年間反復投与毒性/発がん性併用試験の実施により評価する。その結果を厚生労働行政に反映することで、我国独特のものが多い既存添加物の安全性確保を目指す。
研究方法
既にラットによる90日反復投与毒性や変異原性試験が実施された既存添加物のうちから、その結果を考慮し検討品目として補骨子抽出物、ルチン酵素分解物、およびジャマイカカッシア抽出物を選定した。今年度に選定した品目について、3年計画で2年間の投与期間を含むラットによる1年間反復投与毒性/発がん性併用試験を開始する。1年間反復投与毒性/発がん性併用試験の実施は、国立医薬品食品衛生研究所で確立されているプロトコール/ガイドラインに準じて行なう。
1.被験物質および投与量:
被験物質の投与量は、先に実施されたラット90日反復投与毒性試験の資料を基に決定した。対照群には基礎飼料を、被験物質投与群では、各濃度の混餌飼料を自由に摂取させる。
補骨子抽出物:ヒガシマル醤油株式会社より提供された補骨子エタノールエキスを用いた。1年間反復投与毒性/発がん性併用試験の投与濃度は、最高投与量1%から0.2%、0.04%、0.008%とした。
ルチン酵素分解物:三栄源エフ・エフ・アイより供与されたものを用いた。投与濃度は、5%の最高投与量から1.0、0.2及び0.04%とした。なお、基礎固型飼料ならびにルチン酵素分解物混合固型飼料には10kGyの放射線を照射し滅菌処理を施した飼料を使用した。
ジャマイカカッシア抽出物:ジャマイカカッシアを粉砕して苦味成分を熱湯で抽出、沈殿、ろ過を繰返して濃縮精製した製品(Stan Chem International Ltd、 England)を国内販売会社(東和産業株式会社、大阪)より購入した。被験物質の投与は、0、5、50、500および5000ppm 添加飼料投与の5群を設ける。
2.ラットと飼育条件
F344/DuCrjラット(SPF)は日本チャールス・リバー(株)より、Wistar Hannover(GALAS)系ラットは日本クレア(株)よりそれぞれ購入し、基礎飼料と水道水で1週間馴化飼育後、実験に用いた。飼育は温度21.0~25.0℃、湿度40~70%、換気回数10~25回/時間、蛍光照明12時間に制御された動物室で、ポリカーボネート製ケージ(床敷使用)に2~3匹ずつ収容して行った。
3.予備試験
1)補骨子抽出物: 補骨子抽出物は、F344ラットを用いた90日反復投与毒性試験で精巣毒性が有ることが確認された。今回の実験ではWistar Hannover(GALAS)系ラットを用いて試験を行うが、4週間の混餌試験を別途実施し補骨子抽出物の適切な投与量を決定する必要がある。Wistar Hannover(GALAS)系ラット雌雄各10匹を4群に分け試験を実施した。補骨子抽出物の投与濃度は、1%、0.2%、および0.04%とした。
2)ルチン酵素分解物: 放射線照射によるルチン酵素分解物の変性が懸念されたことから、予備試験として放射線照射/非照射ルチン酵素分解物の比較試験を開始した。すなわち、Wistar Hannover (GALAS)ラット雌雄各24匹を雌雄とも各群8匹ずつ3群に分けて試験を開始した。投与開始28日後に全生存動物を屠殺剖検し、以下は後述の本試験方法に準拠して実施した。
4.1年間反復投与毒性/発がん性併用試験
1年間反復投与毒性試験では、4週齢のF344/DuCrjラットおよびWistar Hannoverラットを購入し、雌雄とも各群20匹ずつ5群に分けて試験を開始する。一般状態及び死亡動物の有無を毎日観察し、体重及び摂餌量については投与開始後3ヵ月まで週1回、以後は4週に1回測定する。投与開始50週前後に尿検査(尿量、蛋白、ケトン体、潜血等)を実施し、投与開始1年間後に全生存動物を屠殺剖検する。剖検は、エーテル麻酔下で腹部大動脈より採血し、瀉血により屠殺後剖検した。脳,肝臓等の諸臓器は、肉眼的に観察した後摘出し,重量測定を行い10%中性緩衝ホルマリン液にて固定する。その後、通常の方法によりパラフィン包埋後、薄切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン(H.E.)染色を施して、病理組織学的に検索を行う。採血した血液は、白血球、赤血球、ヘモグロビン,白血球分画等を測定する。また、血清を分離し、総蛋白,総コレステロール、尿素窒素、GOT,GPT等の血液生化学的検査を実施する。
結果と考察
1)予備試験 補骨子抽出物:ラット90日反復投与毒性試験では、F344ラットに精巣毒性が有ることが確認された。しかし、F344雄ラットには、自然発生の精巣間細胞腫が非常に高頻度に発生するため、異なるラット系統を用いて1年間反復投与毒性/発がん性併用試験をする必要がある。そのため今回の実験ではWistar Hannover系ラットを用いて試験を行うが、補骨子抽出物の投与量に関する資料は、F344ラット以外には存在しない。従って、Wistar Hannover(GALAS)系ラットに4週間の混餌試験を別途実施し、適切な投与量を決定する予備試験とした。現在試験を継続中である。 ルチン酵素分解物:ルチン酵素分解物含有固形飼料作製の予備作製段階において、被験物質に放射線照射滅菌操作を施した際、被験物質の色調に変化が認められた。本変化より放射線照射によるルチン酵素分解物の変性が懸念されたことから、本試験を開始するに先立ち、ラットにおける放射線照射/非照射ルチン酵素分解物の28日間混餌投与比較試験を予備試験として開始し、現在試験を継続中である。 ジャマイカカッシア抽出物: F344ラットを用いて混餌投与法による1年間反復投与毒性試験を開始した。被験物質のロットにより有効成分が若干異なることから、試験には両ロットの製品を等量混合して用いる事にした。
2)ラット購入先の飼育生産施設でのラットへの肺パスツレラ感染の発生日本チャールスリバーより購入したF344/DuCrjラットの飼育生産施設で肺パスツレラの感染が報告された。そこで、試験結果への影響と二次感染防止の観点から本試験を途中で停止し、上記の病原体陰性のF344/DuCrjラットの供給再開(約6ヵ月後)を待って、試験を再開することとした。一方、Wistar Hannover ラットについても、当該試験動物飼育エリアの別飼育室のラットに肺パスツレラ感染が確認されたことから、当該飼育施設の全動物を殺処分し試験実施を中断して、飼育施設の消毒、清浄化をはかることとした。
再試験は2004年7月に開始する予定である。
結論
補骨子抽出物、ルチン酵素分解物およびジャマイカカッシア抽出物を長期間反復投与したときに出現する毒性・発がん性変化とその用量および毒性・発がん性変化の出現しない用量に関する情報を得る目的で1年間反復投与毒性/発がん性併用試験を開始する。補骨子抽出物の場合は、Wistar Hannover(GALAS)系ラットへの適切な投与量を決定する必要があり、その予備試験として4週間の混餌試験を別途実施した。ルチン酵素分解物の場合は、放射線照射によるルチン酵素分解物の変性が懸念されたことから、予備試験として放射線照射/非照射ルチン酵素分解物の比較試験を開始した。一方、1年間反復投与毒性/発がん性併用試験では、購入先のラット飼育生産施設でラットの肺パスツレラ感染の発生が明らかとなった。そのため本試験を途中停止し、ラット、施設での上記の病原体陰性を確認後、試験を再開することとした。

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