水素ガス漏洩爆発作業者安全基準策定のための被害評価方法の確立―次世代燃料利用技術開発に伴う災害防止への対応(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301168A
報告書区分
総括
研究課題名
水素ガス漏洩爆発作業者安全基準策定のための被害評価方法の確立―次世代燃料利用技術開発に伴う災害防止への対応(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 典彦(名古屋大学)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川達也(名古屋大学)
  • 斎藤寛泰(名古屋大学)
  • 大塚輝人(独立行政法人産業安全研究所)
  • 水谷高彰(独立行政法人産業安全研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
10,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水素ガスは次世代クリーンエネルギーとして注目されている燃料であり、自動車の燃料電池やエンジンの燃料、発電施設等の多くの分野で、その利用技術開発が着実に進展しており、試験的ではあるが、水素ガスステーションも設置されるようになった。又、最近では重油の脱硫過程にも水素を利用する技術が普及しており、水素漏洩による爆発事故がしばしば起き問題となっている。この様な水素利用拡大に伴い、その安全基準策定が課題として浮上する。しかし、既存のデータから信頼性の高い安全基準を確立することは極めて困難な状況にあり、実際の爆発事故で起こりうる多くの条件を考慮した基盤データの構築や高度な数値シミュレーターの確立が不可欠である。例えば、貯蔵した水素ガスが開放空間に拡散して空気との混合気を形成して爆発した場合の衝撃波の強度と被害を及ぼす距離から、安全基準上重要な保安距離を設定するが、燃料の濃度は不均一であり時間と共に変化し、周囲に障害物がある場合には、乱流火炎は加速され、その結果衝撃波は強くなる。又、閉鎖空間(建物の部屋など)からの爆発ガスが開放空間に噴出する際に強い衝撃波を形成する可能性もある。更に、事故に備えて、防爆壁等の爆発防護構造物を設置して、安全対策に万全を期すことも必要である。本研究では、室内小型実験,野外実験のデータと詳細な数値解析結果を基にして、水素漏洩爆発過程を模擬する数値計算コードを確立することを目標とする。そして、任意の水素燃料貯蔵量、周囲建物配置、風速分布等の条件に対して、任意の時刻と位置で着火が起きた場合の火炎伝播とそれに伴う衝撃波の伝播を計算して、被害レベルを推定する。以上の様な基礎データの蓄積と高信頼性計算コードの開発によって、水素ガス漏洩に伴う爆発安全基準策定に必要な基盤手法を確立でき、安全な形で国民に新しいクリーンエネルギー普及の恩恵を提供できる。又、確立された研究方法は、他の燃料の爆発安全性評価にも利用できる。
研究方法
上記の目的を達成するため、以下の研究項目を分担して、作業を進める。
(1)室内小型実験による水素ガス漏洩空間濃度分布時間変化のレーザーレーリー分光計測法の開発とデータ取得
(2)野外実験による水素ガス漏洩空間濃度分布時間変化のレーザーレーリー分光計測法の開発とデータ取得
(3)水素ガス漏洩空間濃度分布時間変化の計算コードの開発
(4)室内小型実験による水素ガス漏洩爆発過程の計測方法の開発とデータ取得
(5)野外実験による水素ガス漏洩爆発過程の計測方法の開発とデータ取得
(6)水素ガス漏洩爆発過程の計算コードの開発
結果と考察
上記(1)-(6)の研究項目について、平成15年度の実施経過と結果を以下にまとめる。
1.研究項目(1),(4):ラテックス膜を水素-空気混合気で膨らませて直径30cmの半球状ガス塊を作り、中央部で着火して火炎伝播の爆発現象の時間変化を高速度ビデオカメラで観測し、当量比0.6-3の範囲で影響を調べた。又、金網を設置して、障害物による乱流火炎の加速を調べた。火炎の伝播速度と火炎の伝播体積を得た。当量比2以上の燃料過濃領域で火炎伝播の速度と体積が大きいことが分かった。
②研究項目(3):産業安全研究所所有の既存プログラム(CFX-4)を用いた計算を開始したが、
小さいスケールの計算には精度が良く、室内実験結果との比較には利用できることが分かった。又、大規模スケールの予測にも、格子サイズを注意して選択すれば、利用可能であることが分かった。このプログラムの利用を進めることと並行して、新たに有限体積法を用いた大規模予測プログラムの作成を開始した。特に水素の場合は、浮力の影響が大きく重要である。幾つかの計算を試行した段階ではあるが、結果は妥当なものであると判定している。
③研究項目(6):浮力の影響を考慮し、化学反応を2段階モデルで近似し、乱流燃焼速度を圧力・温度・燃空比等の局所状態の関数としてモデル化した有限体積法コードの開発を進めている。火炎伝播と圧力波の伝播をカップルさせて解くことは困難であり、火炎の伝播を解いた結果から、火炎面をピストンとして見た場合の衝撃波の形成過程を計算する。2次元火炎伝播のプログラムを作成して、チェックしている.又,既存のCFX-4プログラムでも火炎伝播計算が可能であり、この利用も進めている。幾つかの試行計算を行っており、火炎伝播の計算結果から、計算コードの開発は順調に進んでいると判断している。
④研究項目(2),(5):2003年秋期と2004年春期に各7日間ずつ野外実験を実施した。主に直径約1.5m,内容積約1450リッターの大型ゴム風船を用いて、水素-空気混合気を充填して着火させ、高速度ビデオカメラによる爆発現象撮影と、圧力プローブ・イオンプローブ・騒音計を設置して、火炎と圧力波の計測を行った。2003年秋期の実験では、ゴム風船の内部で着火して、圧力波によって風船膜が破裂して、火炎が伝播する過程を計測したが、ゴム風船の破裂の過程が実験ケースによってばらつき、再現性が悪かった。2004年春期の実験では、この点を改良した。ゴム風船が所定の大きさになるとナイフで破裂させ、風船の破裂によって、レーザー光が水素ガス混合気を通過して、光検知器に到達し、その信号を受けて、スパーク着火を起動するシステムを作成し、実験を行った。当量比0.5-4までの範囲の混合気を試験した。火炎の可視化のために、0.1%以下の微小濃度のアセチレンを混入させ、高速度ビデオ撮影で火炎面を明瞭に捉えることが可能になった。小型実験装置の結果と同様に、当量比2以上の燃料過濃領域で火炎伝播の速度と体積が大きいことが分かった。
結論
平成15年度の主要な結論と成果をまとめると、
(1)水素-空気爆燃野外実験方法を確立して、火炎伝播速度の時間履歴と火炎伝播体積を得た。
これらのデータは、従来の研究には無かったものである。
(2)燃料過濃条件で強い爆燃が起きることが分かった。これも今回の実験で初めて明らかになった点である。
(3)計算コードの開発は順調に進んでおり、実験結果との比較も可能となることが期待できる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-