文献情報
文献番号
200301159A
報告書区分
総括
研究課題名
確率・統計的手法を用いた労働災害のリスク同定・評価とその事故防止施策の意思決定への応用(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
関根 和喜(横浜国立大学)
研究分担者(所属機関)
- 岡崎慎司(横浜国立大学)
- 花安繁郎((独)産業安全研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
国や地方自治体等の行政機関において災害発生防止や被害低減を図るための安全施策を立案していく際、産業災害リスクの構造的変化を的確に把握するとともに、災害リスクの同定、分析並びにその定量的評価を行うことが強く求められている。そのための災害統計分析手法として筆者らは“リスク曲線"の活用を提案してきた。リスク曲線は両対数グラフ上に、災害規模とそれ以上の規模をもつ災害の発生頻度の累積値の関係を示したもので、大規模災害の領域すなわち、リスク曲線のテイル部では、両者の関係は直線で表現できることが分かっている。さらに、災害の種類に固有な位置パラメータを導入すると、高頻度低被害の事故から低頻度高被害の事故の全データを一つの関数形で示すことが可能であり、特にその統計的不確実性が存在する大規模な重大災害に注目し、大規模災害の発生予測と評価を行なうためのリスク曲線をベースとする新しい統計学的手法を提案した。
研究方法
本研究ではまず実際の災害データを用いて構成した正規化リスク曲線とその最大値の漸近分布であるFrechetプロットを作成した。次に、2次元及び3次元ボンドモデルによってシミュレーションを行い、このデータを用いリスク曲線及びFrechetプロットを構成した。これらを用いて、両者のパラメータの詳細な解析を行い、大規模災害の最大被害規模の予測を試みた。分担研究では代表的災害である労働災害について、実際の資料を基に調査し、リスク分析の基本である災害発生頻度と被害規模の同時解析手法を用いて分析した。
結果と考察
正規化リスク曲線とその最大値の漸近分布であるFrechetプロットを作成し、正規化リスク曲線の安全性指数とFrechet分布の形状パラメータはほぼ同一であることを実際の災害データを用いて明らかにするととともに数学的に示した。従って、形状パラメータは安全性指数と同様に対象災害の安全管理の程度を定量化し得るパラメータであることが分かった。これにより、正規化リスク曲線から直接最大値分布であるFrechet分布を推定することが可能となり、より簡便な災害リスク分析ができると考えられる。次に極値統計で用いられている再現期間の概念を用い、Frechet分布に従う大規模災害の最大被害規模の予測を試みた。観測期間を5年あるいは10年と設定しても1970、1980年代に比べ1990年代の推定被害規模は、減少していることが分かった。これは各種災害における大規模な施設、産業労働現場における安全管理の状況が年々改善されていったことと対応していると考えられる。次にその後再現期間と同じ期間経過した時に起きた実際の災害の最大被害規模と予測値を比較すると,火災事故については実際の被害規模と比べ6割程度大きく予測されていることが分かった。これは、実際は時間経過につれて安全管理の状態が改善されているため、安全側に予測されると考えられる。つまり、再現期間による予測は、安全管理状態に大きな変化のないまま続いた際の将来の安全水準を計る指標にはなりうると考えられる。さらに簡便な手法として1年間のリスク曲線から得られたFrechet分布を用いた大規模災害被害規模予測手法を検討した。これにより、リスク曲線の傾きが小さい、大規模な災害がより起こりやすい災害においては予測結果がばらついた。再現期間10年の推定については特にばらつきが大きいため予測は難しいと考えられる。これらの理論的検討として、2次元及び3次元ボンドモデルのシミュレーションによりリスク曲線を構成し前述の予測手法の検証を行った。予測のばらつきが少なく、10点による予測とほとんど同一のも
のが1年間のリスク曲線によっても得られることが分かった。これは、シミュレーションにおいて、時間経過による産業構造や安全管理の程度の変化はないと仮定しているためでもあるが、この予測手法が理論的には可能であることを示していると考えられる。特に再現期間が5年以下であれば、簡易的な予測手法として有効である。さらにパーコレイトシミュレーションにより労働災害の模擬を試みた。2次元ボンドモデルを用いて1986年以降の労働災害のモデル化を行い、そのモデルによる労働災害の予測シミュレーションが有効な手法であることも明らかにした。従って、災害の種類に合致するようシミュレーションの次元を変化させれば、各種災害を模擬することができると考えられる。分担研究では産業災害のうちの代表的災害である労働災害について、リスク分析の基本である災害発生頻度と被害規模の同時解析手法を用いて分析し、労働災害リスクについての現状と問題点を考察した。労働災害の発生数は産業別に差異はあるものの総体として減少はしているが、死亡災害に代表される重傷災害は大幅な減少は見られず、障害災害の被害規模(労働損失日数)の発生パターンには変化がみられないことが分かった。産業災害の発生頻度と災害による被害規模の同時に表す確率分布として、発生頻度分布および被害規模分布のパラメータとの積を新たなパラメータとするポアソン分布でリスク分析を行えることを示した。
のが1年間のリスク曲線によっても得られることが分かった。これは、シミュレーションにおいて、時間経過による産業構造や安全管理の程度の変化はないと仮定しているためでもあるが、この予測手法が理論的には可能であることを示していると考えられる。特に再現期間が5年以下であれば、簡易的な予測手法として有効である。さらにパーコレイトシミュレーションにより労働災害の模擬を試みた。2次元ボンドモデルを用いて1986年以降の労働災害のモデル化を行い、そのモデルによる労働災害の予測シミュレーションが有効な手法であることも明らかにした。従って、災害の種類に合致するようシミュレーションの次元を変化させれば、各種災害を模擬することができると考えられる。分担研究では産業災害のうちの代表的災害である労働災害について、リスク分析の基本である災害発生頻度と被害規模の同時解析手法を用いて分析し、労働災害リスクについての現状と問題点を考察した。労働災害の発生数は産業別に差異はあるものの総体として減少はしているが、死亡災害に代表される重傷災害は大幅な減少は見られず、障害災害の被害規模(労働損失日数)の発生パターンには変化がみられないことが分かった。産業災害の発生頻度と災害による被害規模の同時に表す確率分布として、発生頻度分布および被害規模分布のパラメータとの積を新たなパラメータとするポアソン分布でリスク分析を行えることを示した。
結論
本研究ではリスク曲線による災害統計分析法を基礎とし、特に大規模災害発生特性について極値統計論を導入することによって、簡便かつ定量的な新しい災害統計分析手法を提案した。この新手法により、異なる産業分野間又は質や種類の異なる労働災害間のリスクや安全管理レベルを統一的に評価・比較し得ることが可能となる。従って、災害防止のための関連行政機関での法規立案、効率的行政指導の目標課題等に関する重要情報の提供や、産業分野における安全対策の有効性やその定量的評価に利用でき、企業の安全対策の方向づけ等に関する意思決定への有効な手段となりうることを提示した。本研究グループにより本年度に得られた知見を以下に示す。1.正規化リスク曲線の最大値分布における正規化リスク曲線の傾き(安全性指数)が最大値漸近分布(Frechet分布)の傾き(形状パラメータ)に等しく、またその位置パラメータが位置と尺度を示すパラメータになることを明らかにした。2.各種災害データを用いてその被害規模の最大値分布はFrechet分布に従うことを検証した。安全性指数と形状パラメータは等しく、共に安全管理の程度を表す定量的指数となることが検証された。これにより、1年分の災害データで正規化リスク曲線を構成し、そこで得られるパラメータからその最大値漸近分布も推定できることを示した。3.極値統計の再現期間の考え方を最大災害被害規模の推定について応用し、大規模災害の最大被害規模を求めた。それが実情と合致していること及び予測の目安となることを示した。さらに、正規化リスク曲線とFrechet分布のパラメータの関係を利用し、1年分のリスク曲線からの大規模災害の被害規模予測を試み、再現期間5年以下の予測であれば、可能であることを明らかにした。4.パーコレイトシミュレーションによって、3に示した大規模災害予測手法の実験的検証を行い、その予測手法が有効な手法であることを明らかにした。また、2次元ボンドモデルを用いて1986年以降の労働災害をモデル化することができた。さらに、そのモデルによる労働災害の予測シミュレーションが有効な手法であることも明らかにした。5.労働災害の発生数そのものは減少しているものの、死亡災害に代表される重傷災害は大幅な減少は見られず、これが労災保険給付額、とりわけ各種労災年金給付額の増大を招いていることが分かった。また、産業災害のリスク解析手法として、災害の発生頻度と災害による被害規模の同時分析法を採用し、発生頻度分布および被害規模分布のそれぞれのパラメータの変動を調べることにより、災害発生対策の効果と被害防止対策の効果を評価できることが分かった。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-