簡便な快適度アセスメント手法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301158A
報告書区分
総括
研究課題名
簡便な快適度アセスメント手法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
城内 博(日本大学)
研究分担者(所属機関)
  • 酒井一博(労働科学研究所)
  • 青木和夫(日本大学)
  • 外山みどり(独立行政法人産業医学総合研究所)
  • 山本美江子(産業医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
9,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、人間工学的な視点から職場の快適度を簡便に評価し、環境や作業の改善に結び付けられるような「快適度アセスメント」の開発を目指す。このため特に、介護など高齢化社会への対応が期待されている職場、サービスの24時間化が進み交替制勤務を行っている職場、VDT作業が主体となっているオフィスを対象として調査研究、また必要に応じて実験室での研究を行う。リスクアセスメントではなく、あえて快適度アセスメントとしたのは、前向きに取り組む姿勢を喚起するためと、ここで取り上げられる問題は日々の労働に起因するストレスや疲労の蓄積によるおこるものであり日々の観察が重要であることを協調したいがためである。すなわち重篤な響きのあるリスクアセスメントでは、これらの問題は見過ごされる可能性が大であると考えたからである。
研究方法
介護労働、交代制勤務、VDT作業における快適度アセスメントのための項目選定を目標とした。介護労働では特別養護老人ホーム職員の業務と作業負担に関するアンケート調査、タイムスタディによる作業内容の記録や上体傾斜角の測定および身体活動量の計測により作業負担の調査を行った。交代制勤務についてはこれまでの知見を基に介護労働も含めた考察を行った。VDT作業に関しては特にノートパソコンに関しての実験研究を行った。ノートパソコンの使用に関する人間工学的な課題についてはある程度明らかになったが、依然としてどのような姿勢で作業を行えば、より疲労が少なくなるかについては明確な答えは得られていない。ノートパソコンの適切な使用方法(作業姿勢)を探るべく、ノートパソコンを使用する作業者がとる一般的な2つの姿勢と、デスクトップパソコン使用での姿勢で、それぞれにおける上肢の筋活動度、疲労感などを調べた。
結果と考察
介護労働においては、業務中の心身負担の原因としてまず「多忙」であること、ついで「ケアプラン策定」、「移乗業務」、「入浴介助」などが大きな比重を占めることがわかった。「はたらきがい」を示す項目群と同時に「負担」の項目群でも「はい」の回答率が高かった。しかし「仕事への適性」、「自分の能力生かせる仕事」、「社会的な評価が高い」など「とまどい」の項目群に対しては「はい」への回答率が低かった。介護労働ではおむつ交換などのために体幹を45度以上に屈曲する姿勢が多く、腰部負担も大きいことが判明した。パソコン作業の実験からは、ノートパソコンを使用する際には、肘を屈曲した姿勢ではいわゆる猫背になり易く、視距離が短くなり、姿勢による頚部直筋群の負荷に大きな差は見られず、僧帽筋や三角筋への負荷は個人差が大きいことなどが判明した。また、通常と違うパソコンでの作業は腕の疲れに結びつく可能性があることもわかった。これらの調査研究結果およびこれまでの知見から、介護労働、交代制勤務、VDT(パソコン)作業の快適度アセスメントのための項目を提案した。
結論
本研究の目的は簡便な「快適度アセスメント」手法の開発である。介護労働に関しては以下の12項目を推奨する。介護労働の遂行に当たり、過大な重量負荷や不自然な姿勢で力が発揮されることがないように、機械的な補助手段の活用や高さ調節による姿勢調整などの人間工学的な対策が講じられている(3点)、サービス利用者(高齢者)の移乗に当たっては、能力の高い助力装置などが利用されているか、そうした機器が使えない場合には、複数人の共同作業で行うことが作業標準になっている(3点)、サービス利用者(高齢者)の移乗に当たり、人間のからだの仕組みに配慮した合理
的な作業姿勢でサポートできるように、十分な訓練が行われている(5点)、入浴介助やおむつ交換などに当たり、同一内容の作業や不自然な姿勢での作業を長時間継続することのないように、1時間くらいを目安に休憩時間の挿入や、作業交代が行われている(3点)、サービス利用者(高齢者)に急変が起こった場合など、緊急事態への対応法について事前に十分な検討を行うとともに、実際の緊急時に適切な行動が取れるように普段から訓練されている(3点)、サービス利用者(高齢者)の特性(痴呆症状の有無や要介護度、性格ほか)にあわせて、ベテランと若年者の組み合わせをするなど、職員配置が適正に行われている(3点)、夏場の入浴介助など、厳しい作業環境のもとでの作業では、通常より休憩回数を増やすことや一連続作業時間を通常より短く設定するなどの措置がとられている(3点)、汚物などの臭いが周囲に拡散しないような対応法が検討され、職員に指示されている(3点)、介護によって起こる感染症に関する情報や対策が十分に講じられている(3点)、介護労働に関するスキルアップならびに若年者への技術伝承の機会が十分にある(3点)、夜勤中に強い眠気を有することや、不眠など、夜勤への不適応を訴える職員を、適切にサポートできている(3点)、介護労働に関する不満やサービス利用者(高齢者)との人間関係などで生じるストレスなどについて、労働者が相談できる場や機会がある(5点)総合40点満点、33―40点十分快適、26―32点まあまあ快適、24点以下快適とはいえない。夜勤交代制に関しては以下の14項目を推奨する。前と次の直の間隔は十分な時間が確保され、8-10時間といった短時間のインターバルは避けられている(5点)、交代勤務者の休日が、土・日曜と月1回以上一致するように配置されている(3点)、交代順はできるだけ規則的となり、数ヵ月先の予定を組むことができるようになっている(3点)、夜勤が3日以上連続することは避けられている(3点)、1週間程度以上の長期休暇を、1年に2回以上取れるようになっている(3点)、労働者が望む場合、夜勤中に1-2時間の仮眠が取れる(夜勤時間が12時間を超える場合には、かならず仮眠を取れるようにする)(5点)、個々の労働者の要求(家庭の事情や子どもの教育、地域活動、ボランティア、労働者自身の生涯教育など)に応じた柔軟な就労が可能になっている(3点)、勤務中の休憩や、夜勤中の仮眠のために、快適で衛生的な施設がある(3点)、労働者の自宅睡眠環境の整備に、資金面と情報面で積極的な援助が行われている(3点)、夜勤者が過食となることや、栄養の偏りが起こらないように、摂食方法や夜食などに関する実践的な情報を提供している(3点)、交代勤務者の通勤、とくに夜勤前後の通勤手段が確保されている(3点)、夜勤交代勤務編成の改善をはじめ、作業条件の改善や生活支援の方法について、たとえば労使の参加によるグループワークなどで、労働者が意見を述べる機会がある(5点)、夜勤業務に関するスキルのグレードアップならびに若年者への技術伝承の機会が十分にある(3点)、以上のような活動によって、労働者同士や、管理者と労働者間のよいコミュニケーションがあり、職場の快適度を高めている(3点)、総合48点満点、40-48点十分快適、31-39点まあまあ快適、30点以下快適とはいえない。パソコン(PC)作業に関しては次の10項目を推奨する。作業時間が一日5時間を越えるのは、週に2日以下である(8点)(毎日5時間以上の場合を0点として、0-8の間で点数化)、自由にPC作業が中断でき、席を離れることができる(8点)(2時間以上席を離れることができない場合を0点として、0-8の間で点数化)、好きなタイプのPC(ブラウン管、液晶、デスクトップ型、ノート型など)で作業ができる(4点)(PCに対する不満の度合いを4点から減ずる)、PC作業用の机の広さが1m2以上あり、机上に書類や肘を置くスペースが十分にある(4点)(スペースの窮屈さに応じて4点から減ずる)、椅子は座面及び肘掛の高さが自由に変えられ、背もたれはリクライニングで、ヘッドレストもある(4点)(椅子に対する不満度に応じて4点から減ずる)、PC操作やソフト上の問題がおきたとき解決
してくれる人がすぐ近くにいる(4点)(問題を解決するのに半日以上かかる場合には0点として、0-4の間で点数化)、電子メールの受信や送信が大好きである(4点)(メールから逃げているような状況を0点として、0-4の間で点数化)、エアコンからの冷気や暖気が直接身体に当たることはない(4点)(エアコンからの風で具合が悪くなることがある場合を0点として、0-4の間で点数化)、PC表示画面は見やすく、またその明るさや文字サイズを自由に変えることができる(4点)(非常に明るい窓を背にしてPC作業をしているような場合や表示画面に顔を近づけないと見えないくらいの小さな文字サイズで作業をしているような場合を0点として、0-4の間で点数化)、VDT作業に関する人間工学的問題及びその対策を知っている(6点)(全く何も知らない場合を0点として、0-6の間で点数化)、50点満点、45-50点十分快適といえる(ただし、最初の二つの項目が5点以上であること)、35-44点まあまあ快適といえる(ただし、最初の二つの項目が5点以上であること)、25-34点快適とはいえない、どうすればもっと快適になるか考えよう、24点以下VDT作業が不快なものになっている可能性あり、減点の大きなものから改善を図ろう。

公開日・更新日

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