職場環境等の改善等によるメンタルヘルス対策に関する研究(総合研究報告書)

文献情報

文献番号
200301157A
報告書区分
総括
研究課題名
職場環境等の改善等によるメンタルヘルス対策に関する研究(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
下光 輝一(東京医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小林章雄(愛知医科大学)
  • 川上憲人(岡山大学)
  • 堤 明純(岡山大学)
  • 中原隆俊(京都大学)
  • 渡辺直登(慶応義塾大学)
  • 岩田 昇(東亜大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、職場環境等の改善を通じたメンタルヘルス対策を全国的に普及・推進するために、職場環境等のストレスの評価・改善技術およびその普及・推進のための環境整備のための方法を整理・開発し、行政施策への提言と職場環境等の改善のための実践的なマニュアルを提供することを目的とした。
研究方法
1.職場環境等の改善を通じたメンタルヘルス対策推進のための環境整備に関する研究では、1)職場環境等の改善対策の導入および展開にあたって必要となる事項について実践的な「職場環境等の改善対策の導入・展開マニュアル」の完成にむけて検討する(小林)。2)事業場の産業保健スタッフおよび人事労務担当者を対象に、上記マニュアルとその内容についてのアンケート調査、ヒアリングを実施し、マニュアル記載事項の有用性や追加すべき資料等について検討する。また、個人を対象としたストレスの測定と評価を簡便に実施できるよう、事業場で自由に活用できるプログラムの開発について検討する(下光)。3)メンタルヘルス教育の実態とそのあり方について、会社四季報を用いて従業員50人以上の全企業に、質問紙を送致し一部については聞き取り調査を実施する(中原)。
2. 職場環境等の改善のための技術開発に関する研究では、1)職業性ストレスの海外の新たなる客観的評価方法を訳出し、日本語版ツール試案を作成する。また、過去に得られた職業性ストレス簡易調査票データを用いて、IRT分析法GPCMにより再評価する(岩田)。2)メンタルヘルス対策の事例を収集・分類し、また、ワークショップを開催してアクションチェックリストの改善およびチェックリスト活用のための教育・研修のあり方について検討し、さらに、チェックリストを試用し有用性と改善点を検討し、アクションチェックリスト使用マニュアルを作成する(川上)。3)努力―報酬不均衡理論に基づく職場環境等の評価および改善技術を開発し、本調査票を多様な職場に適用し、有ストレス率を算出する。また、本調査票理論に基づく職場改善項目を提示し、改善策の受入れ易さについて評価する(堤)。4)某企業従業員を対象に企業内イントラネット・アンケートシステムを使用して過去のプロテジェ経験と現在のメンタルヘルスについての記名式の質問紙調査を実施する。また、メンタリング・プログラムを導入予定の企業の従業員を対象に介入研究を実施する(渡辺)。
結果と考察
1の研究においては1)最終成果物の一つである「職場環境等の改善対策の導入・展開のためのマニュアル」を作成した。産業保健スタッフが職場環境等の改善の導入・展開をしようとする際に参照できる実用的なものとなり、特に職場ストレス対策が成功するための条件として、経営トップの支援と労働者の自主的参加が必須であることから、これらにどのように対応すべきかについて実例を豊富に示した。今後は、この導入・展開マニュアルを使用しての対策のプロセスや効果について評価を行いその有用性を検証することが必要である。2)この導入・展開マニュアルの、事業場での有用性や改良点についての調査結果で有用性が高いこと、導入・展開マニュアルの“展開"の部分のより一層の充実化が求められていることが明らかとなった。また、個人へのストレス対策についても、産業保健スタッフがいない事業場において衛生管理者等により推進していく必要があること、そのためにも、より簡便に使用できる職業性ストレス簡易調査票の結果出力プログラムは有用と考えられた。3)メンタルヘルス教育の実態とそのあり方についての調査結果から、健康教育の内容としては、講演会が一般的で、産業医やその紹介による医師、あるいは日本産業カウンセラー協会に依頼するものや社内の産業カウンセラーを用いていたものがほとんどであることが明らかとなった。
2の研究においては1)職業性ストレスに関する客観的評価法のwhite-collar work版を訳出し、職業性ストレス簡易調査票の評価方法の再検討では(1)簡易調査票の一次元性が確認され、また、GPCMを適用した解析では(2)簡易調査票ストレッサー項目については①要求度ストレッサー項目群は比較的軽度な潜在特性の情報を多く含み、②要求度以外のストレッサー項目では得られる情報は乏しいこと、(3)ストレス反応項目については多くの項目で高い特性値に偏っていた。2)職場環境等の改善事例の収集とアクションチェックリストの改善に関しての改善事例を収集し、これらの事例を分類し、チェックリストを用いた職場環境等の改善ワークショップによる検討においては、チェックリストに対する好意的な意見が確認される一方、理論面および実践面から見た内容の整理、グループ討議の進め方の改善、職場環境等の改善の責任者について明確にする必要性、使用マニュアルの必要性が指摘された。チェックリストを用いた従業員参加型の職場環境等の改善においては、小グループ討議を通じて参加者の積極的な発言とともに多面的側面からストレスを軽減させると考えられる改善提案が行われ、課題として、①グループ学習ツールの整備、②グループ討議の進め方についての改善、③今後のフォローアップのプロセス管理の重要性が指摘され、これらの研究から、アクションチェックリストの最終版および同使用マニュアル(案)を作成した。3)多様な職場から計20,185人の日本人労働者の「努力―報酬不均衡」データを得た。努力報酬得点比の平均は全体で0.56であった。ストレス指標のカットオフ値、努力―報酬得点比 > 1なる割合は、全体で8.3%であった。この努力―報酬不均衡理論に基づく職場環境等改善項目の受け入れやすさについては、チェックリスト試行版を用いた職場環境改善のためのグループワークを行ったところ各職場から複数の改善提案がなされた。また、当該事業場で環境改善を進めるにあたっての促進要因として機能したと思われる項目が明らかとなった。4)の変貌する職場組織と職場環境の改善に関する研究において、個人のプロテジェ経験は心理・社会的、キャリア的、職務満足の増大と心理的ストレス反応の低減に寄与していることが明らかになった。個人にとって、メンタリングは心理・社会的なサポートとキャリア的なサポートを一体的に認知し、あるいは、メンタリングを行うエージェントであるメンターは、心理・社会的とキャリア的な支援を、独立して行うのではなく、2つながらに行う傾向がある可能性が示唆された。また、職務満足のような会社の制度や政策・仕事内容・働きがいなどと関連する変数には、マネージャーの個人的な体験は影響を及ぼしにくいが、心理的ストレス反応のような上司のケアが効果的に効くと思われる変数には、上司の個人的経験の持つ力は大きいと考えられた。
結論
職場環境等の改善の導入・展開マニュアルを作成し、産業現場における運用・活用方法について検討してマニュアルの充実を図った。また、メンタルヘルスに関しての職場における健康教育の現状を調査し、望むべき健康教育の方向性について考察した。職場環境の改善のための技術開発に関しては、職業性ストレス観察評価票の日本語版試案を作成し、また、昨年度作成した職場環境等の改善のためのアクションチェックリストを完成させ、チェックリスト使用マニュアル案を作成した。新しいストレス調査法である努力―報酬不均衡理論に関連するコミュニケーションスキルや具体的な成功事例の提供は本理論を用いた職場環境改善の介入に資することが明らかとなった。また、経営組織におけるメンタリングはメンタルヘルス対策に良好な効果をもたらすことが推測された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-