健康増進効果の高い保健指導の方法等に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301145A
報告書区分
総括
研究課題名
健康増進効果の高い保健指導の方法等に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
圓藤 吟史(大阪市立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 圓藤吟史(大阪市立大学)
  • 津村圭(大阪市立大学)
  • 岡田邦夫(大阪ガス健康開発センター)
  • 中村正和(大阪府立健康科学センター)
  • 伊達ちぐさ(武庫川女子大学)
  • 米田武(NTT西日本関西健康管理センタ)
  • 朝枝哲也(財団法人京都工場保健会)
  • 酒井英雄(星田医院)
  • 林朝茂(大阪市立大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
11,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保健指導は、労働者の行動変容を促すことによって、労働者の健康の保持増進を図るものである。しかしながら、目標設定とその効果評価が明確でない。また、保健指導方法が標準化されておらず、指導方法が産業保健スタッフによってまちまちであり、その効果についても十分評価されたとは言えない。この研究は、高血圧、糖尿病といった生活習慣病・作業関連疾患を予防するために、それらのリスクファクターと寄与率を明確にし、個人別リスク評価を行う。この個人別リスク評価表は、行動変容を行うのに容易な目標を労働者自身が設定することを可能にする。
保健指導方法については、生活習慣やメンタルヘルスについて保健指導を必要とする対象労働者を選択し、その際に配慮すべき事柄や手順について明確化し、産業保健スタッフによる禁煙、運動、栄養指導の効果を対象労働者の禁煙、運動、栄養に対する行動や準備性の変化で評価するとともに、指導効果に影響をおよぼす要因についての分析を行うことを目的とする。さらに、健康増進効果の高い保健指導方法についてガイドラインを作成し、産業保健活動の向上を図ることを目的とする。
研究方法
1.大規模事業場、中規模事業場、小規模事業場での保健指導の実態調査を行い、それぞれの課題について明らかにする。
2.メンタルヘルスに関連して、Webで入力する問診表を作成し保健指導の対象者をスクリーニングし、気づきの強化と面談のアドバイスを図るシステムを開発する。
3.禁煙指導、運動指導、食事指導で、現在もっとも健康増進効果が高いとされている教材やプログラムを用いて保健指導を行い、行動変容の評価と、健康増進効果について検証を行う。
4.保健指導を行っていない事業場の事業者に対する働きかけ方法を評価する。
5.禁煙指導、運動指導、栄養指導に関して、それぞれ効果的な保健指導方法に関するガイドラインを作成する。また、事業者への働きかけのガイドラインを作成する。
6.個別保健指導のための双方向型の電子情報ソフトを開発し、健康増進効果を検証するシステムを構築する。
7.永続的コホートを立ち上げ保健指導ができるシステムを構築する。
結果と考察
平成14年度は、次の結果を得た。
マスター・ダブル負荷試験を用いた運動後の血圧値の上昇は、安静時血圧と独立して高血圧発症のリスクを増大させることを明らかにした。(J Hypertens 2002)中村は、多くの喫煙者への働きかけが可能な健診の場(事後措置を含む)での禁煙指導の効果を調べるため、禁煙指導を担当する33人の指導者に対して禁煙指導のトレーニングを実施し、禁煙者2,314人を対象に準無作為比較対照研究を実施した。産業保健スタッフによる禁煙指導の効果に関連する要因の検討を行うため、関連要因として、1)喫煙者側の要因(性、年齢、禁煙への準備性、ニコチン依存度など)、2)指導者側の要因(年齢、経験年数、指導技術など)、3)喫煙を取り巻く環境要因(分煙状況など)を取り上げ、指導結果との関係について、単変量による基本的解析およびmultilevel analysisを用いた予備的解析を行った。伊達は、半定量食物摂取頻度調査の質問表を開発し、妥当性の検討を行った。エネルギー、脂質、食塩についての簡易診断的な質問票の再現性と妥当性について検討した。米田はNTT大阪中央健康管理センタ所長として、岡田は大阪ガス健康管理センター所長として大規模事業場において、朝枝は財団法人京都工場保健会診療所副所長として企業外健康診断機関として、酒井は産業医共同選任事業において、保健指導の実態調査を行い、検討した。
平成15年度は、以下の結果を得た。
大規模事業場での保健指導としては、Webを用いた保健指導支援システムを開発した。また、社員がWeb上で入力するメンタルヘルス関連の215項目からなる問診を行い、要保健指導対象者に詳しい解説と対処方法を提示し、本人の「気づき」の強化と、面談のアドバイスを図るシステムを開発した。対面指導とうまく併用することによって、より効果的な指導になると思われた。定期健康診断時の問診項目を増やした。このことにより、より詳細な社員の生活習慣の実態が明らかになり、今後の保健指導に活用することとした。  
もう一つの大規模事業場では、運動習慣の継続が、健康診断の結果ならびに医療費等に及ぼす影響について検討を加えた。健康診断における問診票で、「日常生活で意識的に体を動かしていますか」という質問に対して、スタート時点で「いいえ」と答え、その後、2年毎の健康診断で、連続して「はい」と答えたA群と、連続して「いいえ」と答えたB群で健康診断、体力診断テスト、などの結果ならびに医療費の推移について検討した。医療費については、A群は4年後の値に有意差は認められなかったが、B群については2年後、4年後と増加傾向を示し、その変化は有意であった。また、10万円以上の医療費の出現率についても同様の結果であった。
企業外労働衛生機関による中規模事業場における保健指導では、健診1か月前の事前指導の有効性が再確認され、喫煙に対するプロアクティブアプローチ(禁煙意志のない者も取り込む健康増進活動)を実施するとともに、新たに性格などの個人内要因やストレスなどの環境要因についても調査して保健指導に関連する行動変容モデルの構築を試みた。
嘱託産業医による保健活動で効果的な保健指導のあり方を検討した。労働衛生上の課題として、生活習慣病(成人病)を第1位に、メンタルヘルス(心の健康)を第2位にあげる者が多くみられた。保健指導の内容は、医療機関受診を促すものが最も多く。次いで、栄養または食習慣・食行動の指導、禁煙又は節煙の指導、その他の生活習慣の指導、運動指導の順であった。 
食生活簡易質問票質問票の回答によって個人レベルで食事評価をする際には、質問票の妥当性検証が必要である。男性勤務者には詳細な食事記録法の実施は困難なため、カメラ付き携帯情報端末機器システム(ウェルナビ)導入の可能性を検討した。男性勤務者の一部は食への関心が低く、妥当性に課題が残ることが示された。
保健指導に欠くことができない医療面接の技量を短時日で向上させるため、模擬患者により生活指導のトレーニングを行い、視聴覚機器を用いて参加者によるフィードバックを行った。 
職域の健康診断の場で実施した禁煙の介入研究のデータを用いて、指導者側の保健指導技術が指導効果にどのように関連するのかについて検討を行った。その結果、1)指導者の指導技術が高いほど6ヵ月後ならびに1年後の禁煙率が上昇した。2)喫煙者側の要因(年齢、喫煙ステージ、FTNDスコア、禁煙経験、禁煙の自信、指導を受けた時間)を多重ロジスティック回帰分析により補正しても、指導者の指導技術と禁煙率との間に正の量反応関係がみられた。3)指導技術以外の指導者個人の特性が禁煙率に及ぼす影響は小さかった。以上のことは、評価された指導技術で指導者特性を十分に説明できていることを意味し、模擬喫煙者を用いた指導技術の評価方法の妥当性が示唆された。
平成16年度に上記の課題についてさらに追究するとともに次の研究を行う。
1.保健指導を行っていない事業場の事業者に対する働きかけ方法を評価する。
2.禁煙指導、運動指導、栄養指導に関して、それぞれ効果的な保健指導方法に関するガイドラインを作成する。また、事業者への働きかけのガイドラインを作成する。
3.個別保健指導のための双方向型の電子情報システムを開発し、健康増進効果を検証する。
4.永続的コホートを立ち上げ、証拠に基づく保健指導システムを構築する。
結論
平成14,15年度の研究で次の結論を得た。
1.前向きコホート研究で、マスター・ダブル負荷試験後の血圧値の上昇は、安静時血圧と独立して高血圧発症のリスクを増大させることを明らかにした。
2.大規模事業場において、電子メールを利用した保健指導支援システムが確立された。
3.Webを用いたメンタルヘルス関連問診システムにより要注意者をスクリーニングでき、気づきの強化を図るとともに、専門医の面談を受けるアドバイスが適切に行われた。
4.運動習慣の継続が医療費を抑制することが認められた。
5.企業外労働衛生機関による中規模事業場における保健指導は、健診1か月前の事前指導の有効性が再確認された。
6.禁煙指導については、模擬喫煙者を用いた指導技術の評価方法の妥当性が示唆された。
7. 食への関心の薄い多忙な男性労働者では、カメラ付き携帯電話による食事記録法でも、正確に食事摂取状況を把握することが困難であることがわかった。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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