職域の健康障害における作業因子の寄与と予防に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301143A
報告書区分
総括
研究課題名
職域の健康障害における作業因子の寄与と予防に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
相澤 好治(北里大学)
研究分担者(所属機関)
  • 和泉 徹(北里大学)
  • 高木繁治(東海大学)
  • 谷口初美(産業医科大学)
  • 森永謙二(大阪府立成人病センター)
  • 佐藤敏彦(北里大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
13,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
職業性疾病や作業関連疾患など職域における健康障害が、作業環境や作業条件などの作業因子を改善することにより、どの程度予防できるかを推定し、産業保健施策に有用な情報を提供することを本研究の主たる目的とした。
研究方法
作業因子を改善することにより予防しうる疾病負担の算出する方法については、世界保健機関(WHO)が2002年度世界保健報告において用いた方法を検討し、それに準ずるものとした。但し、疾病負担の指標としては総合健康指標の一つであるDALY(障害調整生存年)だけではなく、その他の休業日数などの労働損失指標や、医療費や労働損失などを金額に換算した経済損失指標も適宜用いる事とした。作業関連疾患に含まれる疾患は多々あるが、日本の労働衛生統計の推移で示された背景から、本班での平成15年度の課題を次のように設定した。
1)循環器疾患、2)脳血管疾患、3)気管支喘息、4)歯科技工作業における健康影響、5)睡眠時無呼吸症候群、6)低用量曝露症候群(シックハウス症候群)、7)騒音性難聴、8)職域の健康障害における微生物の寄与と予防、9)有機溶剤健康診断有所見者に個人要因である。これらの疾患や災害によるわが国の労働人口の全健康損失を算定し、さらに作業因子を改善することにより、減少しうる損失の推定を行うために必要なデータを実際の臨床例と文献レビューにより個別に検討を行った。
結果と考察
1) DALYs(Disability-adjusted Life Years ,障害調整生存年数)を指標とした就労年齢における疾病負担の推定:佐藤 敏彦分担研究者は疾病負担の指標として世界保健機関などで広く用いられているDALYsを用いて、就労年齢層における疾病負担を疾病毎に算出した。この結果と、現在進行中の研究により算定される人口寄与危険割合を用いることにより疾病ごとの作業要因が寄与する疾病負担を算出することになる。
2) 作業因子指標とした残業時間と作業関連疾患による疾病負担との関連について: 佐藤 敏彦分担研究者は三宅 仁研究協力者と共に、労働者における循環器疾患の発生において作業因子の寄与分を推定するために、不適作業因子が、脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患の発生にどのように寄与するかを推定することを最終目的とし、残業時間と自覚症状、残業時間と死亡率、医療費との関連を調べた。その結果、自覚疲労度については、あるレベル以上の超過勤務において強い疲労度を示す割合が増加することが示唆された。
3) 有機溶剤健康診断結果における個人要因の寄与に関する研究:相澤 好治主任研究者は、全国の定期および有機溶剤健診と作業環境測定結果の推移を観察して、有機溶剤健診有所見率の増加は肝機能検査異常に起因し、肝機能検査有所見率の上昇は、有機溶剤曝露の増加より労働者における非作業要因の関与が大きいと推測した。古河 泰研究協力者らは、産業現場で業務にあたっている産業医にアンケート調査を行い、特殊健康診断の有所見率の上昇理由としては、生活習慣と関連した理由とともに、有所見者の判定基準の違いが何らかの影響を与えているのではないかと推定した。また荒武 優研究協力者らは、有所見率が増えている有機溶剤、電離放射線、騒音、VDT、重量物健診について、複数の企業外労働衛生機関の医師と専属産業医に対して特殊健診の判定の仕方について調査した結果、増加の原因として、企業外労働衛生機関に委託する事業場の割合の増加が挙げられた。企業外労働衛生機関は作業環境測定などの情報を得ることができないため、問題があるにもかかわらず所見がないと判断してしまった場合のリスクを回避するために、有所見を多く出す可能性がある。
4) 循環器系の作業関連疾患に対するアプローチ 第2報-壮年期心疾患患者のQOL特性および復職後の職業性ストレスについて-: 和泉 徹分担研究者は、心疾患発症からの時間経過に伴うQOLの変化について検討し、高齢心疾患患者では、期間にかかわらずQOLの改善傾向を認めたが、壮年心疾患患者では、発症後早い時期にQOLの改善を示し、長期間経過すると逆にQOLは低下傾向を示した。また復職した心疾患患者の職業性ストレスについて、心身のストレス反応はリハビリテーション非継続群では継続群と比較して過度なストレスを認めた。
5) 職域の脳血管疾患における予後調査:高木 繁治分担研究者は、わが国の全国的なデータベースである脳卒中急性期患者データベースよりデータの提供を受け,今までに解析されたことのない脳卒中の病型別年齢別の予後について解析した。退院時の機能予後が良好のmodified Rankin scale (mRS)0に回復する割合は,ラクナ梗塞18%,アテローム血栓性梗塞13%,心原性塞栓症13%,高血圧性脳出血10%であり,どの病型にも予後良好群は見られた。また別に65歳以下の脳血管障害患者について,退院後の労働能力について,アンケートを郵送し,調査を行い、脳血管障害の労働にあたえる影響は極めて重大であり,職場に完全復帰できる例は20%程度であることが示された。
6) 作業関連呼吸器疾患における作業因子の寄与の推定:中館 俊夫研究協力者は、気管支喘息の作業関連性に関する症例対照研究を開始するとともに、欧米の関連文献を網羅的に収集・整理した。森永 謙二分担研究者は、全国歯科技工士会会員の男性死亡者1097人の死因解析(SPMR)を行い、全新生物、結腸癌、膵臓癌、肺癌、脳腫瘍、慢性腎不全で有意の過剰死亡を観測した。阿部 直研究協力者らは、作業関連疾患としての睡眠時無呼吸症候群に注目し、某大手私鉄会社の動力車(電車)乗務員1009人を対象とした睡眠時無呼吸症候群に関する疫学的調査および研究を行った。アンケート調査により医師による問診の対象となった乗務員は279名、その内パルスオキシメータによる簡易検査を受けた乗務員は74名、その結果SASが疑われ北里大学病院に紹介された乗務員は10名、精密検査の結果CPAPによる治療を開始された乗務員は3名であった。
7) 職域における低用量曝露症候群の現状について-化学物質感受性の個人差要因の解析を中心として-: 坂部 貢研究協力者らは、一般的な毒性学の概念で説明できないシックハウス症候群などと呼ばれている病態を低用量曝露症候群とよび、本症は近年職場での発生が増加し、作業関連性が指摘されている。環境化学物質感受性の個人差が大きいため、遺伝的感受性を検討した結果、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ群の遺伝子多型性(欠損・ホモタイプ等)が本症でみられ、この手法は環境化学物質に対する個々の影響度、即ち感受性を評価する指標として有用であると考えられた。
8) 騒音職場従事者の音環境に関する研究:4kHz dipとそれ以外の聴力型との比較:橋本 大門研究協力者らは、騒音職場従事者で4kHz dip群と4kHz dip以外の群について、職場環境以外で両群の違いをきたす要因があるか検討を行った結果、 4kHz dip群と4kHz dip以外の群でこれらの項目に有意差を認めなかった。今後の研究課題として、職場の音環境の違いと聴力の関係、難聴遺伝子の検索について挙げた。
9) 職域の健康障害における作業因子の一つである微生物の寄与と予防に関する評価方法の検討:谷口 初美分担研究者は、昨年度に引き続き、健康障害に寄与する作業因子の一つとしての環境微生物叢を数、種類において網羅的に検出し評価する方法を確立する研究を行なった。14年度に考案した土壌サンプルからPCR阻害物質の影響を受けない高純度DNAの抽出方法及びReal Time PCR法による全菌数計測は、本年度実施した16の土壌サンプルに対し15サンプルで適用可能であった。遺伝学的手法が様々な土壌サンプルに対し広い汎用性があることが示唆された。
結論
職域における健康障害には作業要因を主とする職業性疾病と、作業要因が種々の割合で関与する作業関連疾患があるが、疾患発生に伴う健康損失における作業要因の寄与割合を推定することは、適切な労働衛生対策を実施する上で重要であると考えられる。今年度の研究では、寄与割合を算出する理論的基盤を検討すると共に、循環器疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患、低用量曝露症候群、騒音障害、有機溶剤作業、廃棄物処理場における健康障害について各論的な研究課題を取り上げ、研究の方向性を定め、作業要因および個人要因の寄与に関する調査研究を行った。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-