肝がんに対する肝移植の有効性とその適応基準の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200301138A
報告書区分
総括
研究課題名
肝がんに対する肝移植の有効性とその適応基準の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
川崎 誠治(順天堂大学第二外科)
研究分担者(所属機関)
  • 田中紘一(京都大学移植免疫医学講座)
  • 清澤研道(信州大学医学部第二内科)
  • 門田守人(大阪大学大学院医学系研究科病態制御外科)
  • 菅原寧彦(東京大学肝胆膵外科、人工臓器移植外科)
  • 古川博之(北海道大学大学院医学研究科置換外科・再生医学講座)
  • 田中榮司(信州大学医学部内科二)
  • 橋倉泰彦(信州大学医学部第一外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、従来の治療法では救命し得なかった肝がん症例のなかで、肝移植(特に生体肝移植)という治療の適否を客観的に評価する基準を確立することを目的とするものである。肝がんに対する肝移植の最大の問題点は、術後における肝がん再発による生存率の低下であり、現在、肝がんに対する肝移植の適応としてミラノ基準(<3cm以下なら3個まで、<5cm以下なら単発)が一般的に受け入れられているが、欧米の脳死肝移植と違い、ドナーとレシピエントが個々に対応した生体肝移植の場合には、独自の適応基準の妥当性の検討が必要と考えられる。(1)各班員の施設における肝がんに対する生体肝移植実施例の術後再発率、生存率を確認し、さらにミラノ基準別の術後成績の妥当性を検討する。(2)術後肝がん再発を予測すべく、流血中の肝がん細胞の指標となり得る末梢血中 AFP mRNAを一部症例で測定し、これと再発の関係をみる。(3)再発症例の術前因子で再発に関与するものを検索する。(4)肝がん症例の大半に合併するC型肝炎の移植後の予防、再発、治療につき検討する。(5)移植までの架橋治療としての肝がんに対するラジオ波焼灼療法を検討する。
研究方法
(1)生体肝移植実施例の再発率・生存率(田中、門田、古川、菅原、橋倉)京都大学82例、大阪大学13例、北海道大学は全国集計225例、東京大学43例、信州大学19例の肝がんに対する生体肝移植症例の累積生存率、再発率を検討した。さらにミラノ基準別による比較(田中、古川)も行った。(2)骨髄・血中AFP mRNA(門田、古川、菅原)生体肝移植33例(門田、菅原)で末梢血中AFP mRNAを、また22例(古川)で骨髄中AFP mRNAを測定した。また肝がんに対する肝切除例56例を対象に骨髄中AFP mRNAを測定し再発、予後との関係を比較した。(3)再発因子の検討(田中、古川)生体肝移植82例(田中)と全国アンケート調査による225例(古川)を対象に臨床病理学的因子について多変量解析を用いて再発因子を検討した。(4)C型肝炎再発予防(田中)全国アンケート調査によるC型肝炎関連肝疾患に対する生体肝移植218例を対象に再発予防の有無による比較を行った。肝がん合併は131例(60%)であった。(5)ラジオ波焼灼術の現状(清澤)ラジオ波焼灼術(RFA)を施行された肝細胞癌142例(156結節)を対象に、その肝障害度別に治療成績を比較した。平均腫瘍径は23.6 mm、平均治療セッション1.0±0.2回、術後観察期間17.3±10.5月であった。
結果と考察
(1)京都大学でのincidental9例を含む82例の3年生存率は66%であり移植後再発は9例に認められ3年累積再発率は18%であった。大阪大学では13例で生存率100%(観察期間2?29ヶ月)で、このうち3例で再発を認めた。全国集計の225例では生存160例、死亡65例であり、死亡例中、癌再発によるものは21例であった。東京大学の43例では5年生存率82%で再発は4例に認め、信州大学の19例では5年生存率74%で再発4例であった。ミラノ基準による再発率の比較では京都大学で適合38例の3年再発率8%、逸脱例で3年再発率33%であった。全国集計225例では適合例の累積再発率は2%、逸脱例の累積再発率は34%であった。(2)骨髄・血中AFP mRNA 肝移植13例中、術前2例で末梢血中AFP mRNAが陽性であり、このうち1例に再発が認められた。また無肝期の末梢血中11例のうち4例が陽性でこのうち2例に再発を認め、陰性であった無再発7例との間に有意差(p=0.039)を認めた
。肝切除56例を対象とした検討では22例で骨髄AFP mRNA陽性を示し、陽性例で再発率54%、陰性例で27%であった。肝移植では22例中1例で再発を認め、この1例のみがAFP mRNA陽性であった。一方、肝移植例20例を対象とした血中AFP mRNAの検討では術後陽転化を認めた1例では再発を認めず、逆に再発した2例は経過中一貫して陰性であった。(3)再発因子 82例の検討では術前AFP400ng/ml以上、腫瘍数4個以上、腫瘍径5cm以上、低分化型、vp(+)でそれぞれ有意差を認め、このうち多変量解析では腫瘍数4個以上、低分化型が独立した再発因子であった。全国集計の結果では術前AFP、vp、vv、腫瘍径、術後化学療法、腫瘍数、腫瘍の配分、分化度で有意差を認め、多変量解析では術前AFP、腫瘍径、vv、vpが再発因子であった。(4)C型肝炎再発予防 218例中、HCV再感染95%、C型肝炎再発47%であり再発予防の有無で差は認められなかった。C型肝炎再発103例中、72例(70%)に抗ウイルス療法が施行されたが、治療完遂例は48例(67%)で、有効例は12例のみであった。(5)ラジオ波焼灼術の現状 発熱、疼痛以外の合併症は1%、初発肝がんでは2年生存率87%であった。肝障害度による比較ではChild A症例の3年生存率79%に対し、Child Cでは62%と低下しており、またCLIP score, JIS scoreによる比較でも肝障害度の進行とともに生存率の低下を認めた。
ミラノ基準適合例では、逸脱例に比し再発率は低率であり、予後良好な結果であり、肝がんに対する肝移植の予後を予測する上で一定の判断基準になる可能性が示唆された。しかしながら個々の症例においてはミラノ基準を逸脱した進行例であっても再発を認めない症例が少なくなく、ミラノ基準が一定の指標にはなるものの絶対的な肝移植の除外条件とはならないものと考えられた。この移植後再発を予測する新たな指標としてAFP mRNA測定の有用性が検討されたが、現時点では経過観察期間も短く、症例数も限られており、報告により見解の相違がみられ一定の評価には至っていない。移植後再発因子としては術前AFP値、腫瘍径、腫瘍数などが独立した因子として有用と考えられた。肝がん再発と並びグラフトロスの原因となるC型肝炎の再発については再発予防の有無で再発に差はみられず、また再発後治療のコンプライアンスも低率であった。わが国では観察期間が短く再発後の予後は明確にされていないが、肝がんに対する移植成績に直結する重要な問題として肝炎再発対策が急務と考えられた。またRFAは肝機能の悪化とともに治療成績の低下を認めるものの、比較的安全に肝がんの局所コントロールが可能であり、肝移植までの架橋治療として有用であることが示唆された。
結論
ミラノ基準を指標とした現在の適応は、再発率の低さ、長期予後から妥当な適応十分条件と考えられるが、ミラノ基準に合致しない症例であっても無再発例が少なくなく、ミラノ基準逸脱が必ずしも適応除外とはならないものと考えられた。また肝がんに対する予後向上のためには、今後、肝がんとともに肝炎再発の予防が重要な課題と考えられた。

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