文献情報
文献番号
200301135A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎の自然経過および介入による影響等の評価を含む疫学的研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
吉澤 浩司(広島大学大学院)
研究分担者(所属機関)
- 三代俊治(東芝病院)
- 溝上雅史(名古屋市立大学大学院)
- 鈴木一幸(岩手医科大学)
- 長尾由実子(久留米大学)
- 秋葉隆(東京女子医科大学)
- 田中純子(広島大学大学院)
- 三浦宣彦(埼玉県立大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1.HCVキャリア対策策定のための疫学的調査・研究、2.透析医療施設におけるHCV感染防止対策策定のための調査・研究、3.B型及びC型肝炎の分子ウイルス学的研究、4.霊長類(チンパンジー)を用いた感染実験、の4項目の調査・研究を標記の班員の協力の下に行ない、得られた成果を迅速に社会に還元し、わが国の保健・医療の向上に寄与することを目的とする。
研究方法
研究目的に掲げた調査・研究を3年計画で実施する。3年計画の3年目にあたる平成15年度は、3年計画の3年目に実施を予定していた調査・研究を行なった。
結果と考察
本概要版では、平成15年度の調査成績について記述し、3年分の総括は、別途3年間の研究報告書概要版に記述する。
1. HCV キャリア対策策定のための疫学的調査・研究
1)HCVキャリアの追跡調査
HCV感染の高度浸淫地区をモデル地区として選定し、検診により新たに見出されたHCVキャリアを対象として追跡し、無症候性キャリアと慢性肝疾患群(慢性肝炎、肝硬変)における血清ALT値とヒアルロン酸値の意義を検討した。その結果、血清ALT値が高い例ほどヒアルロン酸値の異常高値を示す率が高いことが明らかとなった。しかし、血清ALT値が正常域を示す例でも、その約半数弱ではヒアルロン酸値の異常高値を示していた。
2)HCVキャリアの肝外病変
複数の地域において、HCVキャリアの肝外病変の1つである口腔粘膜扁平苔癬について調査した。経年的にみると、扁平苔癬の発見率は2000年の8.8%から2003年度の23.1%と増加しており、受診者の平均年齢の増加と共に発見率も増加していた。
3)肝炎ウイルス検診に先行して実施された「HCV抗体」検診受診群を対象とした再検査
大阪市において、平成11、12、13年度に受診し、「HCV抗体陽性」と判定された計1,003例の中から、同意が得られた計232例についてHCV抗体価を再測定して、「高力価」群、「中力価」群、「低力価」群の3群に分け、PCRによるHCV RNAを検出して対比した。その結果、「高力価」群、「中力価」群では、それぞれ95.2%、79.6%にHCV RNAが検出されたのに対して、「低力価」群では全例HCV RNAは検出されなかった。
なお、大阪市における平成11年度から平成14年度までの「HCV抗体」検査の受診者総数は30,748人、HCV抗体「高力価」陽性者は448人(1.46%)、「中力価」陽性者は525人(1.71%)、「低力価」陽性者は669人(2.18%)であった。
2. 透析医療施設におけるHCV感染防止対策のための調査・研究
1)複数の施設における「HCV抗体」陽性率とその特徴
関東地方の基幹病院透析室2施設、外来透析施設3施設の慢性血液透析患者1,077例の中から無作為に抽出した300例を対象として「HCV抗体」を検出、解析した。「HCV抗体」陽性率は、全体では13.3%であった。「HCV抗体」陽性率を年齢集団別に分けてみると、20歳以上40歳未満の群では13.0%(3/23)、40歳以上60歳未満の群では、12.1%(12/99)、60歳以上80歳未満の群では15.2%(14/92)、80歳以上の群では13.6%(9/66)と相互に大きな差はみられなかった。これに対して、透析歴別に分けてみると、10年未満の群では9.7%(13/34)、10年以上20年未満の群では11.3%(7/62)と両群間に大きな差はみられなかったのに対して、20年以上の群では42.9%(12/28)と際立って高い値を示すことが明らかとなった。
2)複数の施設における前方視的調査・研究
1999年11月から2003年2月までの3年3カ月にわたって、途中参入、脱落例も含めた合計2,744例の透析患者を3カ月に1回の頻度で採血しつつ追跡した。その結果、調査期間内に16例のHCVの新規感染例が見出された。人年法により算出したHCVの新規感染率は、0.4/100人年であった。なお、調査対象集団における「HCVキャリア率」は調査開始時点の1999年11月には15.7%(262/1,664)であったのに対して、調査終了時点の2003年2月には12.9%(242/1,882)と低下していた。これは、調査期間内におけるHCVキャリアの新規発生率が比較的低率に止まっていたこと、調査期間内にHCVキャリア率、15.3%(132/862)の集団が死亡、転院などの理由により途中脱落し、HCVキャリア率、10.3%(111/1,080)の集団が途中参入したことによる効果であることが明らかとなった。
また、透析期間が20年を越える集団では、40%を越える高い「HCVキャリア率」を示していた。これは、この集団が透析に参入したのは1982年以前であること、すなわち、当時はエリスロポエチンの導入(1990年)以前であり、貧血に対処するために頻回に輸血が行われていたこと、当時の輸血後肝炎発生率は10~19%と高い値を示していたことと密接に関連していることが推測された。
3. B 型及びC型肝炎の分子ウイルス学的研究
3年計画の2年目にあたる平成14年をもって非B~非C型(E型)肝炎の研究チームは、本研究班より分離独立した。従って3年目にあたる平成15年度は全国41施設から寄せられた急性肝炎、計2,772例を対象として解析した。
原因ウイルス別にみると、A型肝炎973例(35.1%)、B型肝炎738例(26.7%)、C型肝炎246例(8.9%)、非A~非C型急性肝炎814例(29.4%)であった。なお、非A~非C型急性肝炎については、明らかな薬剤性、アルコール性、自己免疫性の肝障害を除いたすべての急性肝炎症例をこの群に入れて集計したことにより、症例数が多くなっている。
劇症化率は、A型肝炎2.8%、B型肝炎11.9%、C型肝炎ではゼロとなっていた。なお、C型急性肝炎ウイルスの感染原因は、18.7%が針の誤刺、2.8%が輸血(但し、輸血した血液による感染か否かの因果関係は立証されていない)、3.7%が静注用薬物常用者(IVDU)、その他不明が69.1%であった。
4. 霊長類(チンパンジー)を用いた感染実験
1)末梢血中におけるHCV RNAの増加速度
2頭のチンパンジーに10感染価相当のHCVを接種し、末梢血中のHCV RNA量の推移を測定した。その結果、感染成立初期のチンパンジーの末梢血中においてHCV RNA量が2倍に増えるために要する時間、10倍に増えるために要する時間(doubling time、log time)は、それぞれ6.3~8.6時間、1.3日~1.8日であることが明らかとなった。
2)HCV感染遷延例を対象とした抗ウイルス療法とその効果
実験的にHCVを感染させたチンパンジーのうち、HCVの感染が接種後24週目まで遷延した1例にヒト型インターフェロン(IFNα:スミフェロンィ)600万単位×7日間投与することによりキャリア化阻止に成功した。また、接種後20週目と21週目に上記治療を2回行なったにもかかわらず無効であった他の1例には、接種後29週目から改めてインターフェロンとリバビリンの併用による治療(IFNα:600万単位 14日間連日投与後、3回/週×14週及び リバビリン600mg/日×16週連日投与)を行ない、著効を得た。
3)HCV感染初期における樹状細胞の活性化
実験的にHCVを感染させたチンパンジーの末梢血中の免疫担当細胞の動態を解析し、従来のT細胞の活性化やB細胞の活性化による抗体産生よりも早く、HCV接種後9日~10日目に樹状細胞の活性化がみられることを初めて明らかにした。なお、末梢血中のHCV RNA量はこの時期に一致していったん減少に転ずることが明らかとなった。
1. HCV キャリア対策策定のための疫学的調査・研究
1)HCVキャリアの追跡調査
HCV感染の高度浸淫地区をモデル地区として選定し、検診により新たに見出されたHCVキャリアを対象として追跡し、無症候性キャリアと慢性肝疾患群(慢性肝炎、肝硬変)における血清ALT値とヒアルロン酸値の意義を検討した。その結果、血清ALT値が高い例ほどヒアルロン酸値の異常高値を示す率が高いことが明らかとなった。しかし、血清ALT値が正常域を示す例でも、その約半数弱ではヒアルロン酸値の異常高値を示していた。
2)HCVキャリアの肝外病変
複数の地域において、HCVキャリアの肝外病変の1つである口腔粘膜扁平苔癬について調査した。経年的にみると、扁平苔癬の発見率は2000年の8.8%から2003年度の23.1%と増加しており、受診者の平均年齢の増加と共に発見率も増加していた。
3)肝炎ウイルス検診に先行して実施された「HCV抗体」検診受診群を対象とした再検査
大阪市において、平成11、12、13年度に受診し、「HCV抗体陽性」と判定された計1,003例の中から、同意が得られた計232例についてHCV抗体価を再測定して、「高力価」群、「中力価」群、「低力価」群の3群に分け、PCRによるHCV RNAを検出して対比した。その結果、「高力価」群、「中力価」群では、それぞれ95.2%、79.6%にHCV RNAが検出されたのに対して、「低力価」群では全例HCV RNAは検出されなかった。
なお、大阪市における平成11年度から平成14年度までの「HCV抗体」検査の受診者総数は30,748人、HCV抗体「高力価」陽性者は448人(1.46%)、「中力価」陽性者は525人(1.71%)、「低力価」陽性者は669人(2.18%)であった。
2. 透析医療施設におけるHCV感染防止対策のための調査・研究
1)複数の施設における「HCV抗体」陽性率とその特徴
関東地方の基幹病院透析室2施設、外来透析施設3施設の慢性血液透析患者1,077例の中から無作為に抽出した300例を対象として「HCV抗体」を検出、解析した。「HCV抗体」陽性率は、全体では13.3%であった。「HCV抗体」陽性率を年齢集団別に分けてみると、20歳以上40歳未満の群では13.0%(3/23)、40歳以上60歳未満の群では、12.1%(12/99)、60歳以上80歳未満の群では15.2%(14/92)、80歳以上の群では13.6%(9/66)と相互に大きな差はみられなかった。これに対して、透析歴別に分けてみると、10年未満の群では9.7%(13/34)、10年以上20年未満の群では11.3%(7/62)と両群間に大きな差はみられなかったのに対して、20年以上の群では42.9%(12/28)と際立って高い値を示すことが明らかとなった。
2)複数の施設における前方視的調査・研究
1999年11月から2003年2月までの3年3カ月にわたって、途中参入、脱落例も含めた合計2,744例の透析患者を3カ月に1回の頻度で採血しつつ追跡した。その結果、調査期間内に16例のHCVの新規感染例が見出された。人年法により算出したHCVの新規感染率は、0.4/100人年であった。なお、調査対象集団における「HCVキャリア率」は調査開始時点の1999年11月には15.7%(262/1,664)であったのに対して、調査終了時点の2003年2月には12.9%(242/1,882)と低下していた。これは、調査期間内におけるHCVキャリアの新規発生率が比較的低率に止まっていたこと、調査期間内にHCVキャリア率、15.3%(132/862)の集団が死亡、転院などの理由により途中脱落し、HCVキャリア率、10.3%(111/1,080)の集団が途中参入したことによる効果であることが明らかとなった。
また、透析期間が20年を越える集団では、40%を越える高い「HCVキャリア率」を示していた。これは、この集団が透析に参入したのは1982年以前であること、すなわち、当時はエリスロポエチンの導入(1990年)以前であり、貧血に対処するために頻回に輸血が行われていたこと、当時の輸血後肝炎発生率は10~19%と高い値を示していたことと密接に関連していることが推測された。
3. B 型及びC型肝炎の分子ウイルス学的研究
3年計画の2年目にあたる平成14年をもって非B~非C型(E型)肝炎の研究チームは、本研究班より分離独立した。従って3年目にあたる平成15年度は全国41施設から寄せられた急性肝炎、計2,772例を対象として解析した。
原因ウイルス別にみると、A型肝炎973例(35.1%)、B型肝炎738例(26.7%)、C型肝炎246例(8.9%)、非A~非C型急性肝炎814例(29.4%)であった。なお、非A~非C型急性肝炎については、明らかな薬剤性、アルコール性、自己免疫性の肝障害を除いたすべての急性肝炎症例をこの群に入れて集計したことにより、症例数が多くなっている。
劇症化率は、A型肝炎2.8%、B型肝炎11.9%、C型肝炎ではゼロとなっていた。なお、C型急性肝炎ウイルスの感染原因は、18.7%が針の誤刺、2.8%が輸血(但し、輸血した血液による感染か否かの因果関係は立証されていない)、3.7%が静注用薬物常用者(IVDU)、その他不明が69.1%であった。
4. 霊長類(チンパンジー)を用いた感染実験
1)末梢血中におけるHCV RNAの増加速度
2頭のチンパンジーに10感染価相当のHCVを接種し、末梢血中のHCV RNA量の推移を測定した。その結果、感染成立初期のチンパンジーの末梢血中においてHCV RNA量が2倍に増えるために要する時間、10倍に増えるために要する時間(doubling time、log time)は、それぞれ6.3~8.6時間、1.3日~1.8日であることが明らかとなった。
2)HCV感染遷延例を対象とした抗ウイルス療法とその効果
実験的にHCVを感染させたチンパンジーのうち、HCVの感染が接種後24週目まで遷延した1例にヒト型インターフェロン(IFNα:スミフェロンィ)600万単位×7日間投与することによりキャリア化阻止に成功した。また、接種後20週目と21週目に上記治療を2回行なったにもかかわらず無効であった他の1例には、接種後29週目から改めてインターフェロンとリバビリンの併用による治療(IFNα:600万単位 14日間連日投与後、3回/週×14週及び リバビリン600mg/日×16週連日投与)を行ない、著効を得た。
3)HCV感染初期における樹状細胞の活性化
実験的にHCVを感染させたチンパンジーの末梢血中の免疫担当細胞の動態を解析し、従来のT細胞の活性化やB細胞の活性化による抗体産生よりも早く、HCV接種後9日~10日目に樹状細胞の活性化がみられることを初めて明らかにした。なお、末梢血中のHCV RNA量はこの時期に一致していったん減少に転ずることが明らかとなった。
結論
3年計画の3年目にあたる平成15年度の調査・研究により以下のことが明らかとなった。
1.HCVキャリアの肝外病変の1つである口腔粘膜の扁平苔癬は受診者の平均年齢の増加と共に発見率も増加する。 2.透析期間が20年を越える患者集団における高いHCVキャリア率(40%以上)は、1990年のエリスロポエチン導入前に行われた頻回の輸血と当時の輸血後肝炎発生率の高さに起因する。 3.実験的にHCVを感染させたチンパンジーの末梢血中において、HCV RNA量が2倍に増えるために要する時間、10倍に増えるために要する時間は、それぞれ6.3~8.6時間、1.3日~1.8日である。 4.ヒト型インターフェロン、及びインターフェロンとリバビリンの併用療法は実験的にHCVを感染させたチンパンジーのキャリア化阻止に有効である。 5.実験的にHCVを感染させたチンパンジーの末梢血中の樹状細胞は、T細胞、B細胞の活性化に先立って早期(HCV 接種後9~10日目)に活性化される。
1.HCVキャリアの肝外病変の1つである口腔粘膜の扁平苔癬は受診者の平均年齢の増加と共に発見率も増加する。 2.透析期間が20年を越える患者集団における高いHCVキャリア率(40%以上)は、1990年のエリスロポエチン導入前に行われた頻回の輸血と当時の輸血後肝炎発生率の高さに起因する。 3.実験的にHCVを感染させたチンパンジーの末梢血中において、HCV RNA量が2倍に増えるために要する時間、10倍に増えるために要する時間は、それぞれ6.3~8.6時間、1.3日~1.8日である。 4.ヒト型インターフェロン、及びインターフェロンとリバビリンの併用療法は実験的にHCVを感染させたチンパンジーのキャリア化阻止に有効である。 5.実験的にHCVを感染させたチンパンジーの末梢血中の樹状細胞は、T細胞、B細胞の活性化に先立って早期(HCV 接種後9~10日目)に活性化される。
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