慢性C型肝炎に対する治療用ヒト型抗体の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301133A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性C型肝炎に対する治療用ヒト型抗体の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 善治(大阪大学微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 森石恆司(大阪大学微生物病研究所)
  • 石井孝司(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国には二百万人以上ものHCVのキャリヤーが存在すると推定され、HCV感染と肝癌発症の相関も血清学的に証明されている。本研究事業では、これまでに得られた抗HCVエンベロープヒト型抗体のウイルス排除活性をHCVに持続感染しているチンパンジーを用いて検討する。また、HCVコア蛋白質はウイルス粒子を構成するだけでなく、宿主細胞の機能を多様に調節して、脂肪肝や肝細胞癌の発症にも深く関与している。我々はこれまでに、コア蛋白質がプロテアソームアクチベーターの一つである、PA28γと特異的に結合することにより、核内で分解されることを報告している。しかしながら、HCVコア蛋白質のプロセッシング機構に関しては不明な点が多い。そこで、コア蛋白質の成熟機構を詳細に解析し、プロセスされたコア蛋白質の細胞内局在と、その安定性を解析する。さらに、これまでに開発した手法と抗体を駆使してHCVリセプターの同定を試みる。
研究方法
1)ヒト型抗体のHCV持続感染チンパンジーでの活性評価:慢性C型肝炎の自然治癒例の末梢リンパ球から抗体遺伝子のcDNAライブラリーを作製し、ファージディスプレイ法を用いて、NOB活性を持った抗E2ヒト型モノクローナル抗体を得た。また、ヒト型抗体を産生できるトランスジェニックマウスを用いて、HCVエンベロープ蛋白質による膜融合を中和できる抗E1/E2ヒト型モノクローナル抗体を作製した。これらのヒト型抗体を大量に培養・精製し、安全性を確認してから、HCVに持続感染しているチンパンジーの静脈内に投与した。抗体投与後のウイルス価、肝機能、抗体の動態、抗ヒト抗体の有無について検討した。2)HCVのエントリーリセプターの解析:これまでの成績から、HepG2細胞表面にHCVシュードタイプウイルスの感染を許容する何らかの蛋白質性のエントリーリセプター分子が存在することが推測される。そこで、HepG2細胞からリセプター分子の発現クローニングを進めた。3)HCVコア蛋白質の成熟機構の解析:HCVのコア蛋白質は、前駆体蛋白質からシグナルペプチダーゼ(SP)により切り出され、さらにそのC末端膜貫通領域が切断されて、成熟型のコア蛋白質にプロセスされると考えられている。最近、蛋白質のシグナル配列がSPによって切断された後、そのシグナルペプチドをさらに小胞体の膜内で切断する膜内蛋白質分解酵素、シグナルペプチドペプチダーゼ(SPP)の存在が明らかにされた。HCVコア蛋白質のC末端膜貫通領域の切断にもSPPが関与しているものと考えられており、SPPとHCVコア蛋白質の相互作用とSPPによるコア蛋白質のC末端膜貫通領域のプロセスに必須な領域を解析した。また、コア蛋白質と結合する宿主因子として、プロテアソーム調節蛋白質PA28γを単離したが、哺乳動物細胞内での局在の一致ならびに正常な発現レベルでの相互作用を検証する。4) ワクチニアウイルス由来のプロモーター下にHCV遺伝子を導入した高度弱毒株(DIs株)の液性及び細胞性誘導能の検討を行った。
結果と考察
1) NOB活性を持った抗E2ヒト型モノクローナル抗体、および、細胞融合阻止活性を持った抗E1および抗E2ヒト抗体のHCV持続感染チンパンジーでの抗ウイルス活性は、一過性なものであり、ウイルスを生体から排除することは出来なかった。いずれのヒト型抗体もシュードタイプウイルスの感染を中和出来なかったことから、シュードタイプウイルスの中和活性が抗体評価に重要であると思われる。NOB活性は精製したE2蛋白質が細胞表面のCD81分子に結合するのを阻止するものであり、HCV感染における関与は依然として否定的な意見が多い。しかし、精製E2蛋白質と強いアフィニティーを示すこと
から、ウイルスの侵入には直接関与しなくても、結合によりシグナルを細胞に入れて、HCVの感染に必須な分子の誘導や肝炎病態に関与している可能性は充分考えられる。今後、本抗体によるE2とCD81の結合阻害による肝炎病態の改善の可能性も検討してゆきたい。2)HCVのエントリーリセプターの解析:HCVシュードタイプウイルスの吸着はヘパリンによって阻害されたが、逆に感染は増強された。このことはシュードタイプウイルスの吸着には硫酸多糖類が重要であるため、ヘパリン添加によって結合阻害が観察されるが、それ以降の膜融合や侵入過程でエンベロープ蛋白質の活性発現をヘパリンが増強している可能性が示唆された。各種動物血清のシュードタイプウイルスの感染における影響を調べたところ、ヒト血清がシュードタイプウイルスの感染性を特異的に増強することが示された。3)HCVコア蛋白質の成熟機構の解析:ヒト肝臓よりSPP遺伝子をクローニングし、活性中心を失活させた変異体(SPPD219A)を作製した。培養細胞にSPPとHCVコア蛋白質を発現させたところ、SPPとコア蛋白質は共沈し、さらに、SPPD219Aはコア蛋白質のプロセシングを抑制したことから、コア蛋白質はSPPと結合してプロセスを受けることを確認した。コア蛋白質の変異体を用いた解析から、SPPの切断に必須な領域は既報の成績と異なっており、コア蛋白質のC末端膜貫通領域のみならず、その上流の少なくとも3つのアミノ酸が重要であることが示された。また、その領域はコア蛋白質の小胞体局在にも関与していた。HCVコア蛋白質は前駆蛋白質として発現された後、上述のごとくSPPによって切断され、成熟蛋白質として小胞体に留まり、一部は核へ移行する。HCVコア蛋白質の宿主内標的蛋白質候補としてプロテアソームの活性化蛋白質であるPA28γを同定し、PA28γがHCVコア蛋白質の安定性と細胞内局在を調節していることを明らかにした。4) 組換えDIsをマウスに投与することにより、HCV蛋白に対する液性及び細胞性免疫を誘導できた。弱毒化ワクチニアウイルスは、親株のワクチニアウイルスと異なりヒト生体内で増殖しないため、安全な組換えワクチンとして有望であると考えられている。今後は、DNAやBCGベクターとの組み合わせによるprime-boost系の検討を行い、最良の組み合わせを選択して霊長類での免疫誘導能を調べる予定である。
結論
1)HCVの抗E1およびE2ヒト型モノクローナル抗体の中和活性をHCVに持続感染しているチンパンジーを用いて評価した。抗体投与により一過性にウイルス価の減少が認められ、肝機能の改善傾向が観察された。2)HCVの感染に硫酸多糖類、成長因子ならびにヒト血清成分の関与が示唆された。3) コア蛋白質の成熟・分解機構を解析した。4)HCV蛋白を発現する組換えDIsの取得に成功した。この組換えウイルスをマウスに投与したところ、液性及び細胞性免疫の誘導が確認された。

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