C型肝炎ウイルス等の母子感染防止に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301132A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎ウイルス等の母子感染防止に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
白木 和夫(鳥取大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 大戸斉(福島県立医科大学医学部)
  • 稲葉憲之(獨協医科大学医学部)
  • 松井陽(筑波大学臨床医学系)
  • 藤澤知雄(国際医療福祉大学)
  • 戸苅創(名古屋市立大学医学部)
  • 田尻仁(大阪府立急性期・総合医療センター)
  • 神崎晋(鳥取大学医学部)
  • 日野茂男(鳥取大学医学部)
  • 森島恒雄(岡山大学医学部)
  • 木村昭彦(久留米大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)C型肝炎ウイルス(HCV)母子感染に関連する各種要因を明らかにし、母子感染率を低下させる方策を探り、将来開発されるワクチンなどによるHCV母子感染防止の対象となるべきhigh risk groupを明確にする。2)HCV母子感染児の長期経過を明らかにする。慢性C型肝炎小児について、interferonなどの治療の開始時期、効果などを明らかにする。3)HCVに感染している妊産婦ならびにその出生児への指導管理指針を作成する。4)本研究に平行して調査可能な他の肝炎ウイルスの母子感染の実態を明らかにする。
研究方法
1)班員各施設において、HCV感染妊婦にインフォームドコンセントを得てHCVのウイルス学的検査を行い、その新生児を定期的に検査し、母子感染の有無を調査すると共に、感染児についてウイルス学的検査、肝機能検査を行い、ウイルス動態を含めた予後調査を行った(鳥取大学医学部倫理審査委員会承認)。2)上記前方視的調査を通じて母子感染に関係する要因を検討し、HCV量、 genotype、変異、妊娠・出産時合併症、分娩様式、分娩時間など産科的要因、母乳哺育の関与などを検討した。3)母子感染でHCV RNA持続陽性となった児の一部で3、4年後に血中HCV RNAが消失する。経過中にHCV RNA陰性化する症例と持続する症例の率とそれに関する要因を検索した。4)PEG Interferonによる多施設共同治療研究プロトコールを検討作成した。5)本研究の成果を基にHCVキャリア妊婦ならびにその出生児に対する指導管理指針の作成に着手、必要事項について検討した。
結果と考察
1)HCV母子感染率:班員各施設におけるHCV RNA陽性妊婦からの出生児で出生時から前方視的に追跡調査した症例のみに限り、生後6カ月以内にHCV RNA陽性となり、その後6カ月以上にわたりHCV RNA持続陽性となった児を対象とした。持続的HCV母子感染率は施設で多少異なり7.5%~11.9%であった。症例を集計すると421例となり、内41例の児に持続感染が認められた(9.7%)。2)HCV母子感染のrisk factors:前年度に引き続き母子感染の要因に関して検討した。HCV genotype、母乳哺育の有無による差は認められなかった。各班員でほぼ一致したrisk factorは妊婦の高ウイルス量のみであったが、一施設では有意の差が認められなかった。前年度の検討で緊急帝切を含んだ帝切分娩と経腟分娩とでは一施設を除き殆どの施設で児の感染率に差がなかったので、今年度はこの点を明確にするため、各班員施設において分娩前1カ月?分娩後1週間の間にHCV RNAが定量出来た妊婦からの出生児のみを対象として集計した。DNA probe法によって測定された症例では感染児の母の血中ウイルス量はすべて1Meq/ml以上で、非感染例に比し有意に高値であった。アンプリコアモニター法によって測定された症例でも感染児の母はいずれも100Kcopy/ml以上の高ウイルス量であったものの症例数が少ないため有意差ではなかった。集計症例121例中感染した児は17例(14.0%)で、すべて経腟分娩児(100例)であった。帝王切開により出産した21例の中には感染した児はなかった(p<0.05)。前述の持続的母子感染率にくらべやや高率であるが、これは妊婦のHCV RNA量が定量検査される程度に明らかに高いものが集計されたための偏りと考えられる。3)母子感染によるHCV持続感染児の経過:前述のHCV持続感染児についてHCV RNA、肝機能などを追跡調査した。出生時からの追跡調査でHCV RN
A陽性となった児42例中12例(28.6%)で追跡調査期間中に血中HCV RNAが検出されなくなった。消失時期は生後9カ月?3歳であった。HCV RNA消失例の多くで血清transaminaseの上昇が見られたが、HCV RNA消失時期との関連は明らかでなかった。大戸班員の症例では初めからHCV RNA量の低い例でHCV RNA消失が認められているが、他の班員の症例ではHCV RNA量の変動があり、高HCV RNA量を示していたものが後に消失した症例も認められた。どの様な症例に対して何歳から積極的治療を開始するかを決定するため、母子感染例の自然歴をさらに明らかにする必要がある。4)小児C型慢性肝炎に対してinterferonは成人と同等以上の効果がみられ、その長期予後も良好であることを前年度に報告した。最近認可されたPEG interferonは注射回数が少ない利点があり、小児への適応が望まれるので、その有効性、副作用などを調査するための多施設共同試験プロトコールを検討した。5)上記の知見を基にHCVキャリア妊婦と出生児の指導管理基準を検討した。その結果、HCVキャリア妊婦に知らせるべき事項、妊婦の管理指導および出生児の検査プロトコールの3つの項目に分けて設定することとし、平成16年度中に指導管理基準を策定することとした。
結論
1)班員各施設においてC型肝炎ウイルス(HCV)RNA陽性妊婦からの出生児を出生時から前方視的に追跡調査した結果、生後6カ月以上にわたりHCV RNA陽性となった児は施設毎に多少異なり、7.5%~11.9%で、平均持続的母子感染率は9.7%であった。 2)母子感染の要因に関してHCV genotype、妊娠経過、分娩様式、母乳などを検討したが、有意差が見られたのは妊婦の高ウイルス量のみであった。班員各施設で分娩周辺期に妊婦のHCV RNA量が測定された症例を集計解析した結果、帝切児では感染が全く起こっておらず、経腟分娩児との差が有意であった。ただし帝王切開によるデメリットを考慮するとHCV 母子感染に関しては帝王切開の適応とはならないと結論された。 3)母子感染によるHCV持続感染児のうち生後4年以内に感染状態を脱する症例が各施設平均して約30%あった。その要因について肝障害、ウイルス変異を含めて検索したが結論に達しなかった。 4)PEG interferonは注射回数を減らせる点で小児に対し、これまでのinterferonより望ましい。そこで小児C型慢性肝炎症例に対するPEG interferonの多施設共同試験のためのプロトコールを検討した。5)これまでの知見を基にHCVキャリア妊婦とその出生児に対する指導管理基準案を検討した。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-