歯科診療におけるC型肝炎の感染リスク低減に関する研究

文献情報

文献番号
200301131A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科診療におけるC型肝炎の感染リスク低減に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
古屋 英毅(日本歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木哲朗(国立感染症研究所)
  • 佐藤田鶴子(日本歯科大学)
  • 黒崎紀正(東京医科歯科大学)
  • 石橋克禮(鶴見大学)
  • 松久保 隆(東京歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は平成13年度厚生科学研究特別研究「歯科診療におけるC型肝炎の感染リスク低減効果に関する総合研究」の継続・拡大にあたるものである。歯科治療中のC型肝炎患者からC型肝炎ウイルス(HCV)の水平感染を防ぐ方策を広く実施しているが、もしも不十分なところがあるならば、どのような点であるかを調査し、あらためて歯科治療者に対しての対策に関する情報を提供する。また、同時にHCVの口腔内の存在についての再確認を行い、歯科用器具・器材の処理法についての標準化に向けて検討を加える。そこで、3年計画の1年目にあたる平成14年度は、1.調査研究1)C型肝炎疑い症例の歯科診療実態調査、2)C型肝炎ウイルス汚染歯科用器具による暴露事故についての実態調査、2.実態研究1)C型肝炎症例の唾液中からのウイルス検出について、2)歯科用器具・器材のC型肝炎ウイルス汚染除去に関する研究、および3.開発研究1)C型肝炎症例治療時の器具・器材の簡易迅速滅菌方法の開発、 4.系統的文献検索(システマティックレビュー)1) 歯科用ハンドピースの薬液による消毒後の安全性に関する考察の以上の四つを柱として研究を開始した。
研究方法
上記の6研究のうち、1-1)は日本歯科医師会の協力の下、歯科医師会員を母集団として調査した。また、それ以外の個別研究としては、研究班員、研究協力者の創意に基づいて、それぞれの固有の研究をそれぞれに応じた研究方法で行った。
結果と考察
1-1)C型肝炎疑い症例の歯科診療実態調査:歯科医療現場において歯科医師のC型肝炎に対する予防行動の実態を解明するために、日本歯科医師会々員の協力を得て、実態調査を行った。質問紙郵送調査法により得られたC型肝炎キャリアの歯科治療を経験したことのある歯科医師から無作為抽出した361名を分析したところ、手洗いや手袋の対応に若干の問題を有していた。今後は残る約1500名の資料分析を行い、院内感染対策の適正な方法論の構築に役立てる。
1-2)C型肝炎ウイルス汚染歯科用器具による曝露事故についての実態調査:全国の口腔外科学会研修機関、関東地方の医科・歯科大学附属病院に対してHCV汚染器具による曝露事故に関する実態調査を質問紙郵送調査法により実施した。今日まで解析可能であった235施設での曝露事故は大学附属病院の29.8%、一般病院歯科および歯科口腔外科の10.6%で発生していた。事故は注射のリキャップ時が多かった。本年度は歯科病院関連が関東地区に限られていたので、次年度は全国調査へ拡大して状況調査を確実にする。
2-1)C型肝炎症例の唾液中からのウイルス検出について:HCVキャリアの歯科治療に際しては、観血的な処置ばかりでなく、そのほとんどは唾液の存在する環境である。また、時には歯周ポケットの処置では唾液、歯肉溝滲出液に血液の混在している場合もある。そこで、本研究では、日本歯科大学倫理委員会の承認後、HCV抗体陽性者の協力を得て十分な説明を行い、同意の得られた症例から、歯科診療時に血液、唾液、歯肉溝滲出液を同一患者から同時に採取し、各試料中のHCV遺伝子を定量している。現在進行中であるが、その一部結果として、血中ウイルスRNA濃度が105~106copies/mLの症例では唾液中に102~104copies/mL、歯肉溝滲出液では103~105copies/mL程度のHCV RNAが存在する可能性がわかった。平成15年度は件数を増加して検討する。
2-2)歯科用器具・器材のC型肝炎ウイルス汚染除去に関する研究:歯科で頻用されている2種類の性質の異なる歯型印象材、アルジネート印象材(親水性の印象材)とビニルシリコーン印象材(撥水性の印象材)についてHCVを塗布した後に、直ちに水洗するとその表面からは約80%のHCVが除去されるが、10分間放置後に水洗すると45%のHCVが残留していた。水洗後に蒸留水中に15分間浸漬したものでは、HCVの15%が残存した。一方、ビニルシリコーン印象材で採得した場合には、直ちに流水洗浄しても、10分間放置後に水洗してもいずれも100%HCVは除去されていた。次年度は水洗後の消毒薬作用の条件について検討する。また、診療用手袋の交換が少ないので、同様の実験により、HCV汚染の可能性を示し、診療者に対する防疫のための認識を深めるための媒体を作成し示す予定である。
3-1)C型肝炎症例治療時の器具・器材の簡易迅速滅菌方法の開発:強電解水に微量電流を流すと、電解水は殺菌力を保ったまま強電解水の欠点である腐食作用の防止ができるという利点を活かし、その殺滅に効果を示し、歯科診療に応用できる装置(平成13年度厚生特別研究事業)を研究してきている。そこで、本研究はこの滅菌装置を使用して得られた電解水が歯科用ユニット内の種々な部品、チューブや歯科用材料と接触させた場合の残留塩素の消費量の変化を検討した。その結果、歯科用ユニット内の種々な部品、チューブをはじめ歯科用材料と接触後の残留塩素の消費量は異なっていることを示した。また、腐蝕が問題である金属との接触では、微少電流を通電しながらであれば、金属を腐蝕させずにしかも残留塩素濃度を一定化することができることも示した。本開発研究では、防食と残留塩素濃度についてなど電解水のもつ問題点のかなり大きな解消要素になった。
4-1) 歯科用ハンドピースの薬液による消毒後の安全性に関する考察(システマティックレビュー):関連する原著論文6編から歯の切削使用後に外してオートクレーブに対応できない機種に関して詳細な検討がなされた。歯科用切削用具ハンドピースの薬液消毒後に空回転して、ハンドピース本体内に侵入した菌の大部分は最初の30秒間で排出されているが、内部の汚染はそれだけでは完全に除去されてはいない。また、ハンドピースの外側についてはアルコール清拭で菌レベルを低下させることができる。これらは可及的に清潔にする対策としての消毒法について文献検索され、完全ではないが、暫間的措置を割り出そうと考慮されている。
結論
初年度の研究により、以下の結論が得られた。:1)歯科診療時の手袋着用に関して、一般歯科医師はその必要性を十分理解しているが、実態としては、多少問題があった。2)C型肝炎患者の診療に関し、ディスポーザブル注射針やメス刃については注意を払うという一般歯科医師の意識は極めて高かった。3) HCVキャリアの唾液や歯肉溝滲出液中には、血中量よりは少ないがHCV RNAが存在する可能性を示した。4) 歯科診療上でのHCV汚染器具による曝露事故は歯科大学病院、医科病院歯科等での調査(235施設)に限った調査であったが、事故はリキャップ時に多く、かつその事後追跡が不十分な印象がみられた。5)実験結果として歯科で繁用されている歯型印象材、アルジネート印象材では口腔内にHCVが存在した場合には直ちに水洗しても約80%のHCVが除去されるが、完全に除去できない。また、ビニルシリコーン印象材では、直ちに流水洗浄しても、10分間放置後に水洗してもいずれも100%HCVは除去されていた。6)HCV殺滅に用いる強電解水の金属腐蝕性は微少電流を通電することで、解消でき、かつ殺菌力を保つ目的での残留塩素濃度を一定に保つことができるシステムの開発が可能となった。7)文献検索によると、オートクレーブをかけられないハンドピースについては、空回転30秒後には菌の大部分を排出しているが、しかし、完全ではないことが示されていた。

公開日・更新日

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