血液透析施設におけるC型肝炎感染事故(含:透析事故)防止体制の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200301130A
報告書区分
総括
研究課題名
血液透析施設におけるC型肝炎感染事故(含:透析事故)防止体制の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山﨑 親雄(社団法人日本透析医会)
研究分担者(所属機関)
  • 内藤秀宗(社団法人日本透析医学会)
  • 鈴木満(医療法人松圓会東葛クリニック病院)
  • 秋澤忠男(和歌山県立医科大学血液浄化センター)
  • 鈴木正司(社会福祉法人新潟市社会事業協会信楽園病院)
  • 吉田豊彦(医療法人社団誠仁会みはま病院)
  • 秋葉隆(東京女子医科大学腎臓病総合医療センター)
  • 渡邊有三(春日井市民病院)
  • 篠田俊雄(社会保険中央総合病院)
  • 中井滋(名古屋大学大幸医療センター)
  • 杉崎弘章(府中腎クリニック)
  • 宇田眞紀子(日本腎不全看護学会)
  • 川崎忠行(社団法人日本臨床工学技士会)
  • 大平整爾(医療法人社団札幌北クリニック)
  • 栗原怜(春日部内科クリニック)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
われわれは、平成11年度および平成12年度の厚生科学特別研究事業で、透析医療機関におけるウィルス性肝炎と透析医療事故防止対策に関し、それぞれマニュアルを策定し、全国の透析施設に配布した。しかしその後も、昨年度の本研究で、わが国の透析患者におけるHCV抗体陽転率が2.2%/年と高頻度であることが明らかとなった。そこで、マニュアルの遵守とは異なる視点から次項に示す5つの研究を継続し、感染および事故防止を図るものである。
研究方法
研究方法と結果=1.透析室におけるC型肝炎院内感染防止対策
1)日本透析医学会データの解析では、半数以上の施設では年間HCV抗体陽転率はゼロであることから、HCV抗体陽転率の高い施設が存在すると考えられた。
2)保存血清を用い、C型肝炎初感染とHCV抗原の推移に関する研究を試みた。その結果、透析患者のHCV初感染では、①ALTが通常の正常域を超えない例もあること、②HCV抗体検査のみではきわめて長いウィンドウ期間を呈する例があること、③ウィンドウ期間にはきわめてウィルス量が多くなり、この期間に2次感染源となる可能性があること、④HCV抗原検査は早期診断に有用で、ウィンドウ期間を短縮させることができることが明らかとなった。
3)愛知県春日井地区で、7施設での前向きHCV抗体陽転調査を実施した。このグループのほとんどの患者は春日井市民病院を中心とする限られた範囲での患者移動であり、お互いの顔が見える関係での研究調査といえる。平成15年1月1日付で登録された患者634人のHCV抗体陽性率は12.1%と低く、1年間の前向き追跡調査で、新規のHCV抗体陽転者は皆無であった。
4)集団感染調査報告書を検討し、①死亡例はHBV変異株による劇症肝炎例であること、②感染源となった患者がキャリアーと認知されていなかったこと、③繰り返し感染が生じていたと推測される例もあること、④多くの例で、ヘパリン生食など共通に使用される薬剤が感染経路として推測されていること、が明らかとなった。そこで、これらの結果をもとに、全ての透析医療施設に対して、①共通使用薬剤の汚染防止、②必要に応じ、または定期検査として、HCV抗原検査またはHCV‐RNA検査の実施、③HCVキャリアーのベッド固定、④B型肝炎ワクチン接種、⑤陽転または陽性患者への情報提供を行うこと、の5点に関して、透析室ウィルス性肝炎集団感染防止のための重点項目とする緊急勧告を行った。
2.透析医療事故防止対策
頻度が高く、死亡事故ともなるブラッドアクセス関連事故調査を実施し、493件/年(34.4回/100万透析)の報告を見た。その内訳は、抜針事故が331件、回路の離断が65件、カテーテル関連事故が90件であり、抜針事故については、自然抜針事故より、自己抜針事故の頻度が高い。ブラッドアクセス関連死亡事故は5件で、全てカテーテル事故であった。
3.安全を考えた透析施設基準の策定
安全を考えた施設基準として、医師を含むスタッフの条件に関して、アンケート調査を実施した。ちなみに回答のあった96病院のうち68病院(70.8%)が、(財)日本医療機能評価機構による認定証を受領しており、認定率は高いと考える。結果は、①50人の患者を昼間連日、夜間隔日で管理すると仮定した場合、最大回答頻度を示す必要なスタッフ数は、常勤医師1人(60.2%)、最低必要看護師9-10人(27.5%)、最低必要臨床工学技士2人(43.9%)であった。また、②日本透析医会が施設基準を提示し、これに基づいて施設認定を実施することに関しては、219/357施設(61.2%)が賛成としている。さらに、③独り立ちをした医師を考えた場合、5年以上の透析経験と日本透析医学会認定透析専門医資格を有する必要があるとする回答が過半数を占めた。
4.安全を考えたスタッフの適正配置に関する研究
独自に、新しく開発された透析看護度調査票は、透析中の手の掛かり度(時間)と、患者の自立度から看護必要度を点数化したものである。当日一人一人の看護度、全体の看護度が算出され、当日勤務スタッフを用いて、スタッフ一人当たりの受け持ち看護提供度を示すことができる。これを用いて16施設、患者4,096人を対象とした調査では、スタッフ一人当たり、1透析での看護提供度は6.46点であった。これは、1時間に1度・定時の観察および身体チェックのみで、他に看護を必要としない患者(1点)なら、6.46人受け持っていることを示している。
5.地域における感染・事故モニター制度の確立
1)愛知県春日井地区の取り組みについては1.-③)で述べた。
2)愛知県透析医会86施設で感染を含む事故届出と、事故防止の取り組みが、平成15年9月より開始され、47件の事故報告(1件のC型肝炎感染を含む)があった。
結果と考察
考察と1.透析室におけるC型肝炎院内感染防止対策
透析患者初感染例と、ALT及びHCV抗体・HCV抗原の推移を明らかにできた。これを早期に診断し、ウィンドウ期間を短くするためには、HCV抗原検査が有用である。どの時点でHCV感染を疑い、HCV抗原検査を実施するかは、透析患者のALTは一般的に低値であり、初めて20IU/L以上となった時点およびこれに引き続く数週間以内と考えるが、今後の検討を要する。
また、集団感染事故の調査報告書から、感染経路として共通に使用される薬剤の汚染が疑われた例が多く、この点を含むいくつかの重点防止対策に関して、全ての透析施設に情報提供し、勧告した。今後の感染の減少を期待したい。
2.透析医療事故防止対策
最も頻度が高く、且つ死亡につながるブラッドアクセス関連事故頻度は、34.4回/100万透析で、年間では186人に1人の患者が経験することになる。また、痴呆患者や意識障害を有する患者が無意識的に抜針するいわゆる自己抜針事故が増加しており、身体拘束をも必要とする患者の増加が伺える。また、日常の透析では、ブラッドアクセスは圧倒的に通常のシャントであるが、緊急導入時や、シャント閉塞時に、短期間に限ってカテーテルが留置される。この使用頻度の極めて少ないブラッドアクセスであるカテーテルの事故頻度は高く、特に今回の調査では死亡例全てがカテーテル例であったことは、重大な意味を有し、適切な対応が必要である。なお、今回の調査結果は、事故防止重点項目として全透析施設に警告される。
3.安全を考えた透析施設基準の策定
安全を考えた施設基準(minimum requirement)の提示は必須と考えるものの、これが必ずしも施設認定につながるものではない。今回の調査では61.2%の施設が、基準の提示とその後の施設認定を支持した。しかし、スタッフに関しては、その数や、資格に関して種々の意見があり、この部分に関する基準の提示は容易ではないが、これらを含めて最終年度末には施設基準を提示したい。
4.安全を考えたスタッフの適正配置に関する研究
安全で適正なスタッフ数を提示するためには、看護度調査を広く実施する必要がある。本研究で考案された透析看護度調査は、看護度を点数化することで理解しやすく、また、施設間の看護度比較や、看護度の時間的推移を見ることも可能となった。
さらに、これを用いた調査から、スタッフ1人・1透析あたりの平均看護提供度も算出された。最終年度はこの看護度と安全の関連を見極めた上で、適正スタッフ数の提示が必要となる。
5.地域における感染・事故モニター制度の確立
愛知県における試みは、過去にもウィルス性肝炎新規発生の前向き調査を実施し、きわめて低い発生率を報告した経験がある。また、こうしたスタッフ研修を含めた地域でのシステム作りは、感染防止や事故防止の限界をブレークスルーする可能性を秘めており、全国的に展開してゆく計画である。
結論

公開日・更新日

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