文献情報
文献番号
200301129A
報告書区分
総括
研究課題名
輸血後肝炎に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
菊地 秀(国立仙台病院)
研究分担者(所属機関)
- 稲葉頌一(九州大学)
- 枝元良広(国立国際医療センター)
- 上司裕史(国立療養所東京病院)
- 清澤研道(信州大学)
- 小西奎子(国立金沢病院)
- 佐藤裕二(北海道大学)
- 鈴木哲朗(国立感染症研究所)
- 瀧本眞(兵庫県立総合リハビリテーションセンター)
- 田中英夫(大阪府立成人病センター)
- 中島一格(日本赤十字社東京都西血液センター)
- 藤井寿一(東京女子医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
この研究の目的は輸血による肝炎を可能な限り減少させて輸血医療の安全性を高めることにある。そのためには輸血後肝炎の発生数やその起因及び予後等を調査し、輸血医療の安全性向上のための方策を考え、採られた手段を評価することが必要である。
本研究は過去20数年にわたる輸血後肝炎の発生調査に連なるものであり、3年計画の2年目にあたる本年度も昨年とほぼ同様の研究目標を掲げて研究に臨んだ。研究目標と研究方法は以下の通りである。
本研究は過去20数年にわたる輸血後肝炎の発生調査に連なるものであり、3年計画の2年目にあたる本年度も昨年とほぼ同様の研究目標を掲げて研究に臨んだ。研究目標と研究方法は以下の通りである。
研究方法
1.輸血後肝炎の発生調査と非B非C型肝炎の解析
輸血された患者の肝機能を少なくとも輸血後3ヵ月間以上追跡し得た症例を検索対象とした。ただし、輸血前に明らかに肝疾患に罹患している患者や、肝炎ウイルスキャリアは対象から省いた。肝炎の診断は肝炎連絡協議会の「輸血後肝炎の診断基準(1996年3月策定)」に従った。
2.献血々液におけるNATの輸血後肝炎防止対策としての評価
全国の医療機関から班員組織の一つである血液センターに寄せられた輸血後肝炎等が疑われた症例(医療機関からの自発報告)と日赤の遡及調査の結果から輸血後肝炎と思われる症例について、肝炎ウイルスの遺伝子解析を行い輸血による感染の有無を検討した。
3.輸血に伴うHEVとHAV、CMV等の感染の可能性の検討
献血々液と一般入院患者の輸血前後の保存血清を用いてHEV抗体(IgM-HEVとIgG-HEV抗体)を検査した。HEV抗体の測定は国立感染症研究所で開発したELISA法に拠って行った。HEV同様血液による伝播の可能性があるHAVはEIA法にてIgG-HAV抗体とIgM-HAV抗体、CMVはELISA法を用いてIgG-CMV抗体とIgM-CMV抗体を検出した。
4.輸血後肝炎患者と輸血後ALT軽度異常者におけるTTVの検討
輸血後肝炎患者及び肝炎には至らない輸血後ALT軽度異常者におけるTTVをPCR法により検出し検討した。
5.輸血後急性C型肝炎の予後の検討
対象はHCV発見以前の1970年から1988年の間に輸血後肝炎を発症し、肝生検を2回以上施行されている43例(男24例、女19例)で、経過中血清が保存されていた症例である。急性肝炎発症時の平均年齢は40.4±11.2歳の総肝生検回数は126回、1人当たりの回数は2.9回である。最長観察期間は33年である。肝線維化の程度はFibrosis stage (FS)で表した。
6.献血で見出されたHCV陽性通知対象者における肝細胞癌罹患リスクとその関連要因
1991年~1993年に大阪赤十字血液センターの献血者の中から、40~64歳でHCV陽性献血者1927人、HBV陽性2519人、HCVとHBVともに陽性25人、HCVとHBVともに陰性150379人を対象として2000年末まで観察し、肝細胞癌罹患情報を人年法により解析し、献血時の血清ALT値、血清コレステロール値等と肝癌発癌リスクとの関連や発癌リスクの修飾を調べた。
輸血された患者の肝機能を少なくとも輸血後3ヵ月間以上追跡し得た症例を検索対象とした。ただし、輸血前に明らかに肝疾患に罹患している患者や、肝炎ウイルスキャリアは対象から省いた。肝炎の診断は肝炎連絡協議会の「輸血後肝炎の診断基準(1996年3月策定)」に従った。
2.献血々液におけるNATの輸血後肝炎防止対策としての評価
全国の医療機関から班員組織の一つである血液センターに寄せられた輸血後肝炎等が疑われた症例(医療機関からの自発報告)と日赤の遡及調査の結果から輸血後肝炎と思われる症例について、肝炎ウイルスの遺伝子解析を行い輸血による感染の有無を検討した。
3.輸血に伴うHEVとHAV、CMV等の感染の可能性の検討
献血々液と一般入院患者の輸血前後の保存血清を用いてHEV抗体(IgM-HEVとIgG-HEV抗体)を検査した。HEV抗体の測定は国立感染症研究所で開発したELISA法に拠って行った。HEV同様血液による伝播の可能性があるHAVはEIA法にてIgG-HAV抗体とIgM-HAV抗体、CMVはELISA法を用いてIgG-CMV抗体とIgM-CMV抗体を検出した。
4.輸血後肝炎患者と輸血後ALT軽度異常者におけるTTVの検討
輸血後肝炎患者及び肝炎には至らない輸血後ALT軽度異常者におけるTTVをPCR法により検出し検討した。
5.輸血後急性C型肝炎の予後の検討
対象はHCV発見以前の1970年から1988年の間に輸血後肝炎を発症し、肝生検を2回以上施行されている43例(男24例、女19例)で、経過中血清が保存されていた症例である。急性肝炎発症時の平均年齢は40.4±11.2歳の総肝生検回数は126回、1人当たりの回数は2.9回である。最長観察期間は33年である。肝線維化の程度はFibrosis stage (FS)で表した。
6.献血で見出されたHCV陽性通知対象者における肝細胞癌罹患リスクとその関連要因
1991年~1993年に大阪赤十字血液センターの献血者の中から、40~64歳でHCV陽性献血者1927人、HBV陽性2519人、HCVとHBVともに陽性25人、HCVとHBVともに陰性150379人を対象として2000年末まで観察し、肝細胞癌罹患情報を人年法により解析し、献血時の血清ALT値、血清コレステロール値等と肝癌発癌リスクとの関連や発癌リスクの修飾を調べた。
結果と考察
1.輸血後肝炎の発生調査と非B非C型肝炎の解析
平成15年に輸血後肝炎の発生調査に参加した班員施設は7施設であり、その検索症例数は1474例であった。
この中から3例の輸血後肝炎の発生が認められ(発生率0.2%)、いずれも非B非C型肝炎であったが詳細については検討中である。発生率は昨年の0.7%から0.2%と更に減少した。我々の調査では献血スクリーニングに50プールNAT採用後の輸血後肝炎の発生率は0.4%である。
2.献血々液におけるNATの輸血後肝炎防止対策としての評価
平成15年(但し11月まで)に全国の医療機関から日赤の血液センターに寄せられた感染症報告(自発報告)のうち肝炎関連のものはHBV85件、HCV85件、HEV3件、HGV1件、TTV1件の計175件であった。これらの中で、血液センターでの保管検体から肝炎ウイルスが検出されたのは、HBV11例とHGV1例であった。ウイルスの遺伝子解析の結果、輸血により感染した可能性が高かったのはHBV9例とHGVの1例であった。HBV感染例の中にはこれまでの通念に反し、輸血後約1年経過後に肝炎を発症した例もあった。今後、輸血後かなり長期にわたって肝機能を追跡する必要があるのではないかと考えられた。
3.輸血に伴うHEVとHAV、CMV等の感染の可能性の検討
2カ所の班員施設で輸血前にIgG-HEV抗体陰性の患者、計691例について輸血前、輸血後のIgM-HEV抗体とIgG-HEV抗体を検査した。感染初期に出現するIgM抗体は全例で陰性であった。感染既往を示すIgG抗体は17例で陽転していたが肝炎の発症は認められなかったので、輸血によって伝播されたものと考えられた。また、別の班員施設で輸血を受けた患者138例の輸血後早期(2~5週)とその数週間後のペア血清を測定した結果、IgM抗体はすべて陰性であったが、IgG抗体は輸血によるHEV抗体の伝播の可能性のあるものが19例(14%)あった。また7例(5%)は輸血後2ヵ月以降にIgG-HEV抗体が陽転しており、肝炎の発症はないものの、輸血によるHEV感染の可能性が否定できず、今後輸血前血清を調査した上でHEVの感染経路を特定したい。輸血に伴うHAV(294例中未感染者61例について調査)と、CMV(294例中未感染者9例について調査)の感染は認められなかった。
4.輸血後肝炎患者と輸血後ALT軽度異常者におけるTTVの検討
輸血後非A非B型肝炎11例の保存血清を用いてTTV DNAを調べたところ7例(63.6%)でTTVが陽性化しTTVの関与が窺われた。しかし、これらの患者の肝炎は軽度で一過性であった。
また輸血後非B非C型肝炎疑いの5症例について、輸血との関連が考えられる遺伝子グループ(genogroup)1のPCRでは、2例が輸血前後とも陽性であり、また1例は輸血後に陽転化したがALT値の変動との相関は認められなかった。今後、輸血によって伝播したTTVクローンの同定や病態とTTV遺伝子量の変動との関係を解析することによってTTVと急性肝炎との関係を明らかにしたい。
5.輸血後急性C型肝炎の予後の検討
HCV発見以前に輸血後肝炎を発症し、以後慢性化した症例の長期にわたる組織学的推移を検討した結果、1年毎のFS進展度は平均0.11であり肝硬変(F4)に至るには平均36.4年を要することが分かった。またFSの進行度には男女とも0.11unit/year で男女差はなかったが、40歳以上で肝炎を発症した症例はFSが0.14unit/year、40歳未満では0.09unit/yearと高齢者ほど線維化の進行が速いことが分かった。1989年以前の輸血後非A非B型肝炎はC型肝炎であり、C型肝炎は慢性化することが改めて示された。
6.献血で見出されたHCV陽性通知対象者における肝細胞癌罹患リスクとその関連要因
HCV感染者1927人(男987人、女940人)から53人(男44人、女9人)の肝細胞癌罹患者を把握した。罹患率は10万人当り男543人、女115人であった。この罹患率は性・年齢によって大きく異なっていた。また、献血時の血清トランスアミラーゼが高値であることと、血清コレステロールが低値であることは、独立した肝発癌のリスク要因であることが分かった。
男女別の9年累積肝癌罹患率はHCV陽性通知献血者3.0%、HBV陽性通知献血者2.0%、HCV、HBV重複感染者は12.0%であった。HBVとHCVとの重複感染は2つのウイルスが単独に感染して各々生じる肝癌罹患のリスクの和を上回ると考えられた。
以上の知見をHCV陽性通知者に示すことにより、その後の受療行動(精査受診時等)の促進に役立てることが可能となれば、肝炎ウイルスキャリアのウインドウ期献血の抑制に繋がるものと考える。
平成15年に輸血後肝炎の発生調査に参加した班員施設は7施設であり、その検索症例数は1474例であった。
この中から3例の輸血後肝炎の発生が認められ(発生率0.2%)、いずれも非B非C型肝炎であったが詳細については検討中である。発生率は昨年の0.7%から0.2%と更に減少した。我々の調査では献血スクリーニングに50プールNAT採用後の輸血後肝炎の発生率は0.4%である。
2.献血々液におけるNATの輸血後肝炎防止対策としての評価
平成15年(但し11月まで)に全国の医療機関から日赤の血液センターに寄せられた感染症報告(自発報告)のうち肝炎関連のものはHBV85件、HCV85件、HEV3件、HGV1件、TTV1件の計175件であった。これらの中で、血液センターでの保管検体から肝炎ウイルスが検出されたのは、HBV11例とHGV1例であった。ウイルスの遺伝子解析の結果、輸血により感染した可能性が高かったのはHBV9例とHGVの1例であった。HBV感染例の中にはこれまでの通念に反し、輸血後約1年経過後に肝炎を発症した例もあった。今後、輸血後かなり長期にわたって肝機能を追跡する必要があるのではないかと考えられた。
3.輸血に伴うHEVとHAV、CMV等の感染の可能性の検討
2カ所の班員施設で輸血前にIgG-HEV抗体陰性の患者、計691例について輸血前、輸血後のIgM-HEV抗体とIgG-HEV抗体を検査した。感染初期に出現するIgM抗体は全例で陰性であった。感染既往を示すIgG抗体は17例で陽転していたが肝炎の発症は認められなかったので、輸血によって伝播されたものと考えられた。また、別の班員施設で輸血を受けた患者138例の輸血後早期(2~5週)とその数週間後のペア血清を測定した結果、IgM抗体はすべて陰性であったが、IgG抗体は輸血によるHEV抗体の伝播の可能性のあるものが19例(14%)あった。また7例(5%)は輸血後2ヵ月以降にIgG-HEV抗体が陽転しており、肝炎の発症はないものの、輸血によるHEV感染の可能性が否定できず、今後輸血前血清を調査した上でHEVの感染経路を特定したい。輸血に伴うHAV(294例中未感染者61例について調査)と、CMV(294例中未感染者9例について調査)の感染は認められなかった。
4.輸血後肝炎患者と輸血後ALT軽度異常者におけるTTVの検討
輸血後非A非B型肝炎11例の保存血清を用いてTTV DNAを調べたところ7例(63.6%)でTTVが陽性化しTTVの関与が窺われた。しかし、これらの患者の肝炎は軽度で一過性であった。
また輸血後非B非C型肝炎疑いの5症例について、輸血との関連が考えられる遺伝子グループ(genogroup)1のPCRでは、2例が輸血前後とも陽性であり、また1例は輸血後に陽転化したがALT値の変動との相関は認められなかった。今後、輸血によって伝播したTTVクローンの同定や病態とTTV遺伝子量の変動との関係を解析することによってTTVと急性肝炎との関係を明らかにしたい。
5.輸血後急性C型肝炎の予後の検討
HCV発見以前に輸血後肝炎を発症し、以後慢性化した症例の長期にわたる組織学的推移を検討した結果、1年毎のFS進展度は平均0.11であり肝硬変(F4)に至るには平均36.4年を要することが分かった。またFSの進行度には男女とも0.11unit/year で男女差はなかったが、40歳以上で肝炎を発症した症例はFSが0.14unit/year、40歳未満では0.09unit/yearと高齢者ほど線維化の進行が速いことが分かった。1989年以前の輸血後非A非B型肝炎はC型肝炎であり、C型肝炎は慢性化することが改めて示された。
6.献血で見出されたHCV陽性通知対象者における肝細胞癌罹患リスクとその関連要因
HCV感染者1927人(男987人、女940人)から53人(男44人、女9人)の肝細胞癌罹患者を把握した。罹患率は10万人当り男543人、女115人であった。この罹患率は性・年齢によって大きく異なっていた。また、献血時の血清トランスアミラーゼが高値であることと、血清コレステロールが低値であることは、独立した肝発癌のリスク要因であることが分かった。
男女別の9年累積肝癌罹患率はHCV陽性通知献血者3.0%、HBV陽性通知献血者2.0%、HCV、HBV重複感染者は12.0%であった。HBVとHCVとの重複感染は2つのウイルスが単独に感染して各々生じる肝癌罹患のリスクの和を上回ると考えられた。
以上の知見をHCV陽性通知者に示すことにより、その後の受療行動(精査受診時等)の促進に役立てることが可能となれば、肝炎ウイルスキャリアのウインドウ期献血の抑制に繋がるものと考える。
結論
当研究班の調査の結果、輸血後肝炎の発生はHCV抗体が献血々液スクリーニングに適用されて以来少くなり、特に50プールNATが採用されてからは極めて稀とり、我々の調査では本年0.2%の発生率であった。しかし、日赤の調査ではまだ年間10数例のB型肝炎ウイルスの感染が報告されている。原因となった輸血はウインドウ期採血のものが大部分であった。また、肝炎発症まで約1年経過したものもあったことから、今後これまでより長期にわたり肝機能をチェックする必要にせまられるのではないかと危惧される。
一方、50%プールNATから個別NATに変更したとしてもウインドウ期を零にすることは不可能なので、本研究で提示したような検討も含めて、献血者の中からウインドウ期の感染者をいかに排除するかがこれまで以上に重要な課題となる。
われわれの調査ではHEVが明らかに輸血により伝播された事例はなかった。しかし、輸血によるHEV感染は将来も起らないとも限らないので今後も注意が必要である。
また輸血後C型急性肝炎の予後の検討では、肝炎発症後平均36.4年で肝硬変に至ることが分かった。なおHBVとHCVとの重複感染者はいずれか一方の単独感染者より肝癌罹患のリスクが有意に高かった。
TTVと肝炎との関係についてはまだ不明な点もあるので、今後輸血によって伝播したTTVクローンの同定や病態とTTV遺伝子量の変動との関係を解析することによってTTVと急性肝炎との関係を明らかにしたい。
一方、50%プールNATから個別NATに変更したとしてもウインドウ期を零にすることは不可能なので、本研究で提示したような検討も含めて、献血者の中からウインドウ期の感染者をいかに排除するかがこれまで以上に重要な課題となる。
われわれの調査ではHEVが明らかに輸血により伝播された事例はなかった。しかし、輸血によるHEV感染は将来も起らないとも限らないので今後も注意が必要である。
また輸血後C型急性肝炎の予後の検討では、肝炎発症後平均36.4年で肝硬変に至ることが分かった。なおHBVとHCVとの重複感染者はいずれか一方の単独感染者より肝癌罹患のリスクが有意に高かった。
TTVと肝炎との関係についてはまだ不明な点もあるので、今後輸血によって伝播したTTVクローンの同定や病態とTTV遺伝子量の変動との関係を解析することによってTTVと急性肝炎との関係を明らかにしたい。
公開日・更新日
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-
更新日
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