進行肝がんに対する集学的治療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301123A
報告書区分
総括
研究課題名
進行肝がんに対する集学的治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
門田 守人(大阪大学大学院医学系研究科病態制御外科)
研究分担者(所属機関)
  • 金子周一(金沢大学大学院医学系研究科がん制御学)
  • 嶌原康行(京都大学大学院医学研究科器官外科学)
  • 神代正道(久留米大学医学部病理学)
  • 小俣政男(東京大学大学院医学系研究科器官病態内科学)
  • 中村仁信(大阪大学大学院医学系研究科医用制御工学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
44,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦のウイルス肝炎(B型、C型肝炎)はその罹患者数は数百万人とも予測され、国民病と言われている。一方、肝細胞癌はウイルス肝炎より発生し、その終末像と言える。本邦における肝細胞癌の年間死亡者数は約5万人で、第3位である。また、就労男性に好発し、社会的にも極めて影響の大きい癌の一つである。ウイルス肝炎罹患者は全世界的に認められ、増加傾向にある。特に、従来少ないとされていた米国においてもC型肝炎罹患者数の増加は著しく、約4百万人とも予測されている。従って、近い将来において急増するであろう、肝細胞癌の克服は本邦のみならず、世界的にみても重要課題と言える。
肝細胞癌に対する治療は手術の他、肝動脈塞栓療法やアルコール注入、熱凝固療法など、数多く開発されてきたが、その多くは比較的早期の癌のみが対象となる治療法であった。このような初期の段階に対する治療のみでは、仮に切除が可能であった症例でもその5年生存率は約50%、無再発生存率ともなれば25%前後と、その根治性に関してははなはだ不十分である。さらなる予後の向上には、既存の治療が効果を示さない、所謂、“治療抵抗性"高度進行肝細胞癌に対して、十分な注意が払われなければならない。
このような状況下で、我々は、予後が数ヶ月と思われる門脈内腫瘍栓(Vp3以上)合併肝細胞癌などの高度進行肝癌に対してインターフェロン-α(IFN-α)の皮下注と5-fluorouracil(5FU) の動注化学療法をパイロットスタディーとして施行し、その有効性(約5割の奏功率)を報告した。現在までの検討から、他の消化器癌とは異なり、肝細胞癌では特異的にIFN-αの効果が認められ、5-FUと併用することにより、さらなる予後の改善が期待できるのではないかと考えられる。
そこで本研究においては、まず、肝細胞癌治療の経験豊富な施設を中心に、IFN併用の有無によるRandomized Controled Trial(RCT)を計画し、その有効性を確認する。と同時に本療法の作用機序に関する基礎的検討を施行する。そして、その機序解明に基づき、分子標的治療、免疫治療、遺伝子治療を視野に入れた治療抵抗性肝癌に対する新しい治療法へと展開する。このことは今後の肝癌治療の“breakthrough"となる可能性が極めて高い。
研究方法
1.臨床的検討
<高度進行肝細胞癌におけるIFN-α併用化学療法のRCT>
十分なインフォームドコンセントのもと、積極的に治療抵抗性の進行肝細胞癌(IM3, Vp0, 1, 2)に対して、IFN-αの皮下注の有無による5-FUの動注化学療法の有効性の確認の意味で、RCTを施行する。
対象症例の選択基準:
?進行肝細胞癌(IM3, Vp0, 1, 2)肝内転移が3区域以上に及ぶIM3肝細胞癌で、肉眼的門脈内腫瘍栓を門脈第1次分枝より中枢に認めないもの (Vp3-4は除く)。
いわゆる既存治療(TAEなど)が無効な多発肝細胞癌症例。
?年齢は20歳以上、70歳未満。
?骨髄、肝、腎、心肺機能が十分に保たれ、全身状態(Perfomance Status:PS)が0、1
(白血球≦4,000/mm3、血小板≧80,000/mm3、血清T.Bil≦1.5mg/dl、血清AST<100IU/l、血清ALT<100IU/l、血清Crnn≦1.5mg/dl)
治療方法:
4週間を1クールとする。全症例において、2週間(第1、2週)、5FU300mg/m2/日・週5日間を24時間かけて持続動注する。IFN-α併用群においては、4週間の間、IFN-αを週3回皮下注する。非併用群においては、投与しない。
観察項目:
2クール施行前後における、抗腫瘍効果:
画像診断として、造影CT(multi-detector CT)を、腫瘍マーカーとしてAFP、PIVKA-IIを測定し抗腫瘍効果について検討する。
いずれの症例も、治療効果がないと判定した時点で、他治療への変更は可能である。
2.基礎的検討
<IFN-αレセプター及びそのシグナル伝達機構に対する検討>
本併用療法時の細胞周期関連分子の遺伝子・蛋白発現をさらに詳細に検討した上で、IFN-α→IFN-αreceptor→JAK kinase→ STATといった細胞内シグナル伝達分子の発現の多寡等が本療法の効果に関与するかどうかをWestern blot法にて検討した。
<抗血管新生作用関連分子に関する検討>
nude mouseヒト腫瘍移植モデルを使用し、固形癌での血管新生の評価及び各種の血管新生因子(angiopoietinなど)のmRNAレベル(定量的RT-PCR法)及び蛋白レベルでの発現量の評価(免疫組織染色)を行った。
<免疫学的機序としてTRAILおよび同レセプター発現の基礎的臨床的検討>
本併用療法時のTリンパ球上のTRAILの発現や腫瘍細胞上のTRAIL receptor(TRAIL-R)の変化について、mRNAレベル(RT-PCR法)、蛋白レベル(Flowcytometry法)で評価した。さらにその抗種瘍活性について、培養肝癌細胞傷害能をKilling-Assayをもちいて検討した。
結果と考察
1.臨床的検討
<高度進行肝細胞癌におけるIFN-α併用化学療法のRCT>
治療抵抗性の進行肝細胞癌(IM3, Vp0, 1, 2)の症例において、IFN併用化学療法の有効性について確認するための臨床第II相試験としてのRCT(多施設共同臨床試験)を、前述したプロトコールに従い現在施行中である。この全国レベルでの多施設共同臨床試験については、分担研究施設に主任研究者協力施設34施設を加えて臨床試験を開始した。すでに、各施設における倫理委員会への申請・承認などは終了し、臨床試験登録について進行中である。2004年3月末現在、12症例が既に登録された。
2.基礎的研究
<IFN-αレセプター及びそのシグナル伝達機構に対する検討>
IFN-αレセプター及びそのシグナル伝達機構については、STAT、Bcl-Xl等が関与していることが明らかになった。
<抗血管新生作用関連分子に関する検討>
nude mouseヒト腫瘍移植モデルにおいては、5FU/IFN併用により、5FUやIFNの単剤投与より、腫瘍内のMVD(microvessell-density)を有意に減少させることが分かった。各種の血管新生因子(angiopoietinなど)のmRNAレベル(定量的RT-PCR法)及び蛋白レベルでの発現評価(免疫組織染色)について検討したところ、angiopoietin2がMVDの現象に関与している可能性が示された。
<免疫学的機序としてTRAILおよび同レセプター発現の基礎的検討>
5FUは腫瘍細胞上のTRAIL-Rの発現を、IFNは、Tリンパ球上のTRAIL発現を増強させることがmRNAレベル(RT-PCR法)や蛋白レベル(Flowcytometry法)で証明された。さらに、5FU/IFN併用使用は、5FUやIFNの単剤投与と比較して、有意に培養肝癌細胞傷害能を増強させ、このTRAIL/TRAIL-Rを介した抗腫瘍効果における免疫担当細胞はNK細胞である可能性が示された。
既存の治療法により治療効果の認められない進行肝細胞癌に対する5FU/IFN併用化学療法の有用性については、われわれや分担研究者により、パイロットスタディーとしてその有用性が報告されてきた。さらに、本研究による全国レベルでの多施設第II相臨床試験により、その有用性が証明される可能性は高い。
その根拠の一つとして、基礎的解析ではあるが、IFN-αレセプター及びそのシグナル伝達機構に対する検討、抗血管新生作用関連分子に関する検討、免疫学的機序としてTRAILおよび同レセプター発現の基礎的検討の3つの異なる検討により、それぞれ5FU/IFN併用化学療法の有用性を支持する結果が導かれた。このことは、分担研究者らの基礎的検討により得られた結果とも合致し本療法の可能性について十分に指示される結果であると思われる。
以上の結果をふまえて、臨床試験を施行しその結果を得るのみならず、さらなる作用機序の解明を行うことで、本療法の可能性や有用性を証明するのみならず、さらなる発展の可能性は十分にある。
結論
以上の結果より、5FU/IFN併用化学療法が本研究によって“治療抵抗性"の高度進行肝細胞癌に対する新しい治療法として証明される可能性はきわめて高い。現時点においては、基礎的検討においてのみ証明されたところではあるが、臨床試験の結果によっては、肝癌治療の“breakthrough"となることが十分に期待される。

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