文献情報
文献番号
200301122A
報告書区分
総括
研究課題名
末期肝硬変に対する治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
石井 裕正(慶應義塾大学)
研究分担者(所属機関)
- 市田隆文(新潟大学)
- 栗山茂樹(香川医科大学)
- 小林廉毅(東京大学)
- 鈴木一幸(岩手医科大学)
- 福井 博(奈良県立医科大学)
- 幕内博康(東海大学)
- 森脇久隆(岐阜大学)
- 渡辺 哲(東海大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
末期肝硬変に対する既存治療法の問題点を提議、見直し、将来に向け新規治療法の開発を目指す。これに基づき肝硬変の標準的治療指針を確立しガイドラインを作成する。
研究方法
肝疾患の社会的費用推計と肝疾患診療の医療経済評価を行い、最終的に将来の診療報酬のあり方を検討するため、本年度は肝疾患診療の医療費を推計した。合併症対策(低蛋白・エネルギー状態、肝性脳症、難治性腹水、特発性細菌性腹膜炎、食道静脈瘤)の観点から現状の肝硬変治療の問題点を明らかにすべく努力した。新規治療法に関しては動物モデルを用いた基礎的検討を行った。幹細胞移植による線維化抑制治療、遺伝子治療の可能性につき基礎的に検討した。倫理面に関しては患者を対象とした研究に加え、動物実験においても最大限に配慮を行った。
結果と考察
肝硬変の年間総医療費は961億円で肝疾患総額推計5328億円の約18%を占めていた。肝硬変1件あたり平均医療費は入院で304千円、入院外で24千円であった。肝硬変の肝線維化程度の診断に新しい弾性度測定装置であるエラストメーターが有用であった。肝硬変による肝性脳症の原因として脳astrocyteの機能不全が問題で、それにはグルタミン総和量が関係している。高磁場MRI装置による1H-MRSを施行し、肝硬変患者の脳内グルタミン量は高値であることが非侵襲的に診断できたが、その増加はグルタミン酸の上昇ではなく、グルタミンの上昇によることが明らかとなった。肝硬変患者における就寝前BCAAの投与により、エネルギー代謝に影響を与えることなくFischer比ならびに窒素バランスの有意の改善が得られ、血清アルブミン値と臨床症状の改善を認めたが、この投与法は1日3回の従来の投与法よりも優れていることが明らかとなった。難治性腹水に対し国際腹水委員会の基準に合わせた利尿薬の投与は日本人に対しては容量が高すぎ、有効循環血漿量の低下をきたし肝性脳症を惹起しやすいと思われた。
動物モデルを用いた検討から、肝内に蓄積した線維の融解には、神経細胞由来である幹細胞の分化が必要で、その細胞から産生されるmatrix metaloproteinaseが重要な働きをしていることが示唆されMMP-13の遺伝子導入による新たな治療が有用と考えられた。組換えアデノウイルスをマウスあるいはラットの胆管から逆行性に投与すると、反復投与してもアデノウイルスに対する免疫が生じないため有効な遺伝子発現が反復して行えることが示された。
動物モデルを用いた検討から、肝内に蓄積した線維の融解には、神経細胞由来である幹細胞の分化が必要で、その細胞から産生されるmatrix metaloproteinaseが重要な働きをしていることが示唆されMMP-13の遺伝子導入による新たな治療が有用と考えられた。組換えアデノウイルスをマウスあるいはラットの胆管から逆行性に投与すると、反復投与してもアデノウイルスに対する免疫が生じないため有効な遺伝子発現が反復して行えることが示された。
結論
肝硬変では患者の生活の質(QOL)の低下があり。医療費の推計が可能であり、今後の医療費の軽減に参考となると思われる。肝硬変の非侵襲的診断にはエラストメーターが有用と考えられ肝生検に代わる有力な診断手段と考えられる。肝性脳症の原因となる脳内グルタミン濃度はMRI検査により測定可能となった。BCAA輸液療法の効果には限界がみられるが、就寝前投与は日中3回投与よりも有効であった。わが国の難治性腹水の定義と薬物療法は欧米の基準と合わず、本邦独自の基準が必要だと考えられた。また食道静脈瘤の治療と再発防止に硬化療法と結紮術の2つで無作為試験を開始した。
肝線維化の抑制には、新たに局所レニンーアンギオテンシン系の阻害薬を活用できる可能性があった。また、神経細胞由来の幹細胞が線維融解に重要な役割を持つ可能性があり、こうした幹細胞移植が新たな治療法となる可能性が示唆された。さらに、アデノウイルスは、正常肝のみならず肝硬変を含む傷害肝にも安全かつ有効に遺伝子導入を行えるベクターであり、アデノウイルスに対する中和抗体を保有するヒトに対しても、経胆管的投与により肝における外来遺伝子発現を誘導し得る可能性が示された。以上の結果より、肝硬変に対する遺伝子治療の臨床応用の有用性が示唆された。
肝硬変に対する現状の治療法を見直し、治療アルゴリズムとクリニカルクエスチョンを作成し、標準的診療を行えるようガイドライン作成を開始した。ガイドラインによる診療により医療費の改善が得られるかどうかが今後注目されるところである。
肝線維化の抑制には、新たに局所レニンーアンギオテンシン系の阻害薬を活用できる可能性があった。また、神経細胞由来の幹細胞が線維融解に重要な役割を持つ可能性があり、こうした幹細胞移植が新たな治療法となる可能性が示唆された。さらに、アデノウイルスは、正常肝のみならず肝硬変を含む傷害肝にも安全かつ有効に遺伝子導入を行えるベクターであり、アデノウイルスに対する中和抗体を保有するヒトに対しても、経胆管的投与により肝における外来遺伝子発現を誘導し得る可能性が示された。以上の結果より、肝硬変に対する遺伝子治療の臨床応用の有用性が示唆された。
肝硬変に対する現状の治療法を見直し、治療アルゴリズムとクリニカルクエスチョンを作成し、標準的診療を行えるようガイドライン作成を開始した。ガイドラインによる診療により医療費の改善が得られるかどうかが今後注目されるところである。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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