本邦に於けるE型肝炎の診断・予防・疫学に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301120A
報告書区分
総括
研究課題名
本邦に於けるE型肝炎の診断・予防・疫学に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
三代 俊治(東芝病院研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 今井光信(神奈川県衛生研究所微生物部)
  • 前久保博士(手稲渓仁会病院)
  • 持田智(埼玉医科大学第三内科)
  • 岡本宏明(自治医科大学感染免疫学講座ウイルス学部門)
  • 武田直和(国立感染症研究所ウイルス第二部)
  • 津田新哉(独立行政法人農業技術研究機構中央農業総合研究センター病害防除部ウイルス病害研究室)
  • 山口成夫(独立行政法人農業技術研究機構動物衛生研究所感染病研究部)
  • 山中烈次(日本赤十字社血液事業部品質管理)
  • 矢野公士(国立病院長崎医療センター臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我国に於けるHEV感染の実態を把握する。日本土着HEV株の遺伝的特徴を明らかにする。HEV感染診断系の評価・改良を行う。感染経路を解明する。Zoonosis的側面の真偽を検討する。輸血を介するHEV感染のリスク評価を行い適切な対策を立てる。有効なワクチンを開発する為の基礎研究を行う。
研究方法
疫学調査には,可能な限り分子疫学的手法を用いた。即ち、単に症例の発掘のみに留めず『ウイルス株の発掘』にも努めた。全国集計的な疫学調査を行うと同時に,多発地に於ける定点観測的な疫学調査をも行った。供血者集団のHEV感染状況も調査した。飼育ブタに於けるHEV感染状況も調査した。診断系の改良とワクチン開発を目指して様々のウイルス蛋白発現を試みた。複数の抗体検出系の感度・特異性比較を行った。HEVに対する細胞性免疫応答をin vitroで見る系の作成を試みた。
結果と考察
特筆すべき成果として、謎だった感染経路のうち二つの経路が明確になった。その一は、Zoonotic food-borne transmissionである。シカからヒトへの感染が直接証拠を以て証明された。即ち、シカ刺身の摂取後にE型肝炎を發症した事例に於いて、食べ残しの保存シカ肉から採取されたHEVの塩基配列と患者からのそれとが一致した(Tei et al, Lancet 2003)。イノシシ生肝の摂取(Matsuda et al, J Infect Dis 2003)及びブタレバーの摂取(Yazaki et al, J Gen Virol 2003)がE型肝炎發症の原因となったことを示唆する間接証拠も得られた。その二は、Blood-borne transmissionである。輸血後E型肝炎に於いてドナーとレシピエントのHEV塩基配列が一致する事例を2例、見いだした。
その他の成果としては、多発地域(北海道)に於ける疫學調査に於いて、原因不明(non-ABCD)急性・劇症肝炎の約30%がHEVに起因することが判明した。発生率の年次変動(ピークは2001年)も存在した。A型肝炎に比較してE型肝炎の方が重症化(劇症化)率が高かった。重症化E型肝炎例にはgenotype IVがIIIより高頻度に檢出された。
食用ブタの感染状況に関しては、食肉としての出荷時(6カ月齢)にはHEVが既に消失しているとの既報(血液中のHEVを調査)に反して、糞便と肝臓中にはHEVが猶残存している個体があるとの所見が得られた。複数のウイルス株に重複感染している個体が夛數存在した。
診断系とワクチンの開発に関しては、Genotypeの多様性に能く対処し得る診断系とワクチンの開発に向けて、様々の系(組換バキュロウイルスで発現したVLP等)でウイルス蛋白発現が試みられた。
Blood donorのHEV感染調査に於いては、ALT檢査によりスクリーンアウトされたドナーに於いては、HEV RNA陽性者が無視出来ぬ頻度で存在することが判明した。
結論
我国に於けるHEV感染実態の一部が明らかになり、特に感染ルートに関する理解が深まったが、それ(zoonotic or blood-borne transmission)のみで全ての症例を説明出來る譯ではない故、更なる研究が必要である。診断系改良とワクチン開発の為にも更なる努力が必要である。

公開日・更新日

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