医療提供システムの総合的質管理手法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301116A
報告書区分
総括
研究課題名
医療提供システムの総合的質管理手法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
上原 鳴夫(東北大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 飯塚悦功(東京大学大学院工学系研究科)
  • 三宅祥三(武蔵野赤十字病院)
  • 棟近雅彦(早稲田大学理工学部)
  • 武澤純(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 大内憲明(東北大学大学院医学系研究科)
  • 瀬尾隆(医学ジャーナリスト協会)
  • 河野龍太郎(東京電力株式会社技術開発研究所ヒューマンファクターグループ)
  • 北島政憲(宝生会PL病院)
  • 安藤廣美(麻生飯塚病院)
  • 夏川周介(佐久総合病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療の信頼性が危ぶまれている現在,安全性をはじめとする患者本位の質の提供を保証する質管理手法の確立が急務となっている。本研究は、これまでの研究で得た知見と種々の方法論を実際の病院に体系的かつ戦略的に適用することによって質保証システムの確立と患者の信頼性向上という具体的な成果を示すとともに、これを通じて総合的質管理における質保証の考え方を病院の医療提供システムに効果的に適用する方法とこれが広く普及できるための導入・推進の方法を立案・検証することを目的として実施した。
研究方法
産業界でTQMの開発と推進を実際に指導してきた品質管理専門家と、医療の質と安全性を高める取組みを先駆的に推進してきた医療者からなる共同研究チームがそれぞれの経験と知識を融合してTQMを病院医療に実際に適用し、医療業務が持つリスク管理と質管理手法の有用性を検証した。
共同研究チームと17病院が協力して、(1) インスリン治療の安全管理、投薬指示の標準化、輸液ポンプによる与薬業務の安全管理、研修医や新人ナースが行なう危険処置のリスク分析と安全管理対策の課題、転倒転落の防止、の5テーマについて医療の質安全向上のための改善プロジェクト(現状調査、具体的な対策の立案と実施および評価)を行なった、(2)米国ピッカー研究所が開発した「患者による医療評価調査」(患者経験調査)を日本の病院医療に適用するための適合化作業と実施評価を行なった。 研究協力病院は次のとおり;武蔵野赤十字病院、医療法人宝生会PL病院、麻生飯塚病院、佐久総合病院、成田赤十字病院、国立仙台病院、藤沢町国民健康保険藤沢町民病院、東北大学附属病院、仙台社会保険病院、神鋼加古川病院、札幌社会保険総合病院、関東中央病院、前橋赤十字病院、和歌山労災病院、岩国市医師会病院、(財)新日鐵広畑病院、(財)大樹会回生病院
結果と考察
(1)医療の質安全向上のための改善プロジェクト
① インスリン投与の安全管理=インスリンSS(スライディング・スケール)、低血糖時の標準手順、インスリン希釈法、輸液内へのインスリン混注、について推奨標準案を作成した。インスリンSS 標準案の試行に対する評価では、医師、看護師とも3分の2が指示受けが楽になったと回答した。
② 投薬指示の標準化=記載方法、帳票、指示内容(薬剤名と規格、用量、容量、投与方法、投与ルート、投与時刻・回数、持続投与、投与速度、希釈指示、指示の変更、について、投薬指示標準化を進めるための指針を作成した。
③ 薬物投与の安全管理=輸液ポンプ、シリンジポンプの使用実態とリスク認識に関して8病院1844名の看護師に質問票調査を実施し、危機を安全に使用するための指針とチェック・リストを作成した。
④ 臨床研修の安全管理=研修医の行なっている処置とインシデントに関する質問票調査を実施した。 研修医や新人看護師が実施する危険を伴う処置について、安全管理対策の計画立案を援けるリスク因子予知分析の手法を考案し、7種類の処置に適用して有用性を検討した。
⑤ 転倒転落の防止=事故報告書、対策立案ツール、転倒転落後の対応ガイドライン、対策カタログ、安全シール、安全パンフレット、アセスメントシート、のモデル開発を行なった。
(2)「患者による医療評価調査」(患者経験調査)の試行研究
① 外来または入院治療での経験を通して提供される医療が以下の点についてどのように配慮し
ているかを、郵送質問票調査によって評価した;医療サービスへのアクセス、患者の価値観・意向
の尊重、診療情報と患者啓発、ケアの連携・一貫性、身体的苦痛の軽減、心情面への支援、転退院
とケアの継続性、家族・友人への配慮。15年度は、次の点で改訂を行なった質問票を使って、二次
調査を実施した;回答者が体験を想起できる言語表現スケール、意図にそった回答が得られるスケ
ールの選定、中間回答を用意する設問の厳選、設問が該当しない人のための回答項目の用意。
6病院で実施しいずれも50%近い回答率を得た。調査に関する患者さんからの問合せ件数は18件で調査に対する反発意見はなかった。
② 回答の分布と相関性において妥当な結果が得られた。
結論
患者本位の医療の質と安全を確保するために、産業界で実績のある品質管理およびヒューマンファクターズ工学の知見と手法を参考にしながら、医療の質安全管理の方法論の形成と実践を通じての検証を行なった。その結果、
① 組織的取組みを推進する上で、質安全管理の基本的な考え方と技法を習得した職種・部門横断的なファシリテーター・チーム(Qエキスパートと仮称した)の育成が有用である、
②インシデントの事例分析を基盤にしてシステム要因を探求し、投薬事故防止、危険処置の安全管理、転倒転落の防止、について、エラープルーフの仕組みと対策立案の指針を提案した。
③ 本研究で開発した米国ピッカー研究所方式「患者による医療評価調査」(患者経験調査)の改定案は、日本の医療システムに適合し、患者中心の医療を実現するための改善活動の契機形成および意識付けとしての糸口として有用である、と結論した。
これらの考え方と技法と病院の中に浸透させ、組織的な質安全管理能力として確立するための組織論と、平均的な病院に普及させるための戦略および教育啓蒙の方法論の構築が今後の課題と考える。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)