病院内総合的患者安全マネジメントシステムの構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301115A
報告書区分
総括
研究課題名
病院内総合的患者安全マネジメントシステムの構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 辻寧重(日鋼記念病院)
  • 原洋子(亀田総合病院)
  • 近藤厚生(小牧市民病院)
  • 飯田修平(財団法人東京都医療保健協会・練馬総合病院・外科)
  • 堺秀人(東海大学医学部)
  • 河北博文(河北総合病院)
  • 武藤正樹(国立長野病院)
  • 宮崎久義(国立熊本病院)
  • 武者廣隆(国立千葉病院)
  • 相馬孝博(国立保健医療科学院)
  • 児玉安司(三宅坂総合法律事務所)
  • 武澤純(名古屋大学大学院)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部)
  • 河原和夫(東京医科歯科大学大学院)
  • 吉田道雄(熊本大学教育学部)
  • 平尾智広(香川医科大学)
  • 古田一雄(東京大学大学院)
  • 筧淳夫(国立医療・病院管理研究所)
  • 加藤尚子(国際医療福祉大学)
  • 小出大介(国際医療福祉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年続発する重篤な医療事故により、国民の医療に対する信頼感が揺らいでおり、医療事故予防は医療界にとって最も緊急かつ重要な課題である。国際的にも医療事故は大きな課題となっており、米国では新たな考え方に基づく医療事故予防法が提案され、国家プロジェクトが始まっている。そこで、これらの新たな医療事故予防の概念や方法論に基づいて総合的な患者安全システムを病院内に構築するために研究が行われる必要がある。
本研究は、『医療安全、医療事故に関する概念的な検討』、『諸外国における医療安全政策およびその施策の動向分析』、『具体的かつ実践的な院内安全システムの構築』という課題を中心に展開し、医療安全に対する概念的な検討より深く行うことに加えて、実践的な方策を考慮して、医療安全における包括的な分析を施行することを目指している。このため、世界的にみても医療事故対策において標準と考えられているVTA: Variation tree analysis、FMEA: Failure Mode and Effects Analysis RCA: Root Cause Analysisなどの手法に十分な工夫を加えて、実際の事例検討や調査を行って日本の実情に適合させた形で展開することにより、その対象を非常に広域な形でカバーしながらも、内容的にも具体的かつ実践的なものとして、医療現場における多職種で応用可能な総合的マネジメントシステムを構築することを目的にしている。さらに、その結果を踏まえて、最新の知見を交えながら、今後の日本における医療安全に関する政策的方向性を提示することを目指している。
研究方法
1.総論:まず、研究の前段階として医療事故の実態の観察、法制度のあり方など今日の医療事故、そして医療安全をめぐるわが国の状況、世界の現状を整理する。さらに、同時に「リスク」や「エラー」の管理のために現在提起されているアイディアを紹介する。2.「院内安全構築マニュアル」:重要な危険領域として誤薬・輸血・院内感染・人工呼吸器・出産・手術・転倒・麻酔・ICUにつき、分担グループを立ち上げ、「安全構築マニュアル」のための工程表を作成するとともに、より具体的な安全施策を検討することとする。とくに医療事故の分析手法および改善方策に関してより具体的かつ実践的な検討を行う。3.安全文化の実証的研究:アメリカ退役軍人省医療局全国患者安全センターが、関連病院において実施してきた安全文化調査と同じプロトコルを用いて日本において安全文化の実証的な研究を行う。
結果と考察
1.総論:まずは公的病院も含めて所有と経営の分離が必要である。経営と所有と分離することによって、まずは権限が現場に移行され、従って経営責任が発生する。その経営責任の元に各病院は経営戦略を策定することによって初めて経営が可能となるといえよう。そして、従来の自然発生的な診療の単位や、庶務課・会計・医事課といった事務部門を横に統括するマトリックス的な組織として、企画・連携・質と安全といった組織が必要となるのではなかろうか。大きな観点からいくと院内安全システムの構築は、いわば病院の経営を根本的に変えるための戦略的な入り口、突破口となりうるのではなかろうか。院内安全構築総論としては、基本構想として、院内患者安全システム構築を三段階でとらえ、これを病院首脳部及び安全対策部門に徹底すべくマニュアル作成中である。すなわち事故及びニアミス事例の報告をもとに、根本原因分析法により、根本原因を究明し、次回の事故を防止する第一段階、事故頻度の高い危険領域をいくつか策定し、失敗モード影響分析法により、(想定された)事故を未然に防ぐ第二段階、さらにこれらを医療の質の要素と考え、統合的マネジメントを行う第3段階である。経験をつむに従い、第1段階の比率は相対的に低下するがなくなることはない。また、この第3段階の背景として、医療安全の世界的潮流の研究とともに、概念と用語の定義が重要とされた。2.院内安全システム構築のための各種方策:1)方法論:方法論としては、3種類の手法(VTA: Variation tree analysis、FMEA: Failure Mode and Effects Analysis、RCA: Root Cause Analysis)を用いて検討した。2)研修:安全管理を徹底するためには、職員研修の重要性を指摘したい。今回は職種の新人・新入職員に対する入職直後に共有すべき事項を検討し、挨拶・接遇を中心に患者および家族に対する対応と守秘義務等に関しての事項を確認した。3)リスクパス手法:医療安全の対策のために、パス手法を用いた検討を行った。これは事故が起こってもその障害を最小限にするためのリスクパスの開発をめざして、今回は事例として転倒・転落事故の予防と対応に関
して検討し、教育的効果や患者対応の点で有用であることが判明した。4)苦情対応:また、医療施設における苦情実態を把握して、苦情対応マネジメントの有用性を検討して、苦情原因の明確化やデータ解析の重要性を指摘した。5)加害者支援:医療事故の当事者個人に対する、特に精神面でのケアに関しての検討は少ない。これは当事者における、さまざまな「不安」が押し寄せている状況で、精神的、身体的状況に対する適切な支援と、日常におけるリスクマネジメント教育が重要であることを指摘した。現段階では日本の患者は医療サービスそのものより、環境などの副次的な苦情を中心に訴える傾向がある。6)臨床オーディット:医療の質改善のため、英国で行われている臨床オーディットの手法を糖尿病ケアの改善のために施行し、日本においても利用可能であることが判明した。3.安全文化の実証的研究:アメリカ退役軍人省医療局全国患者安全センター(以下NCPA)では1999年より関連病院における安全文化調査が行われてきており、本邦においても同様な目的および調査手法を用いて調査を行い、実証的な安全文化に関するデータを蓄積し、より政策的な議論を行う必要から、その目的に資するために調査を行った。調査期間は2003年1月より2004年2月。調査対象は国立保健医療科学院安全管理研究科参加14医療機関およびその他の医療機関(国立病院および民間医療機関各1)の全職員として、調査方法はNational Center for Patient Safety (US Department of Veterans Affairs)において開発された48質問セットをもとに独自の質問を加えた自記式選択肢質問票を開発して使用した。調査方式としては、紙による質問用紙と同時に外部サーバーもしくは院内LANを用いたWeb上入力システムを併用した。アタック総数は、10823人。有効回答数は9406人。回答率は87.8%であった。調査の結果から、非常に多くの興味深い結果が見られた。特に以下の点が注目に値するといえる。とくに薬剤師、医師、看護師らにおいて独特な傾向が見られた。まず薬剤師に関してであるが、薬剤師は(相対的に)他のスタッフのストレスや疲れに無関心な傾向が見られる一方で、現場の薬剤師の人々は安全を追求するための資源が少ないことを痛感している傾向が見られる。医師に関しては特に役職にあるような医師らは、なにか問題に直面しても人に助けを求めようとしない傾向が強く、さらに、教育、訓練の必要性はそれほど重要視しない傾向にある。看護系職種においては、役職の地位ある者ほど、他の者がミスを犯していることに気づいたならば指摘することに対して躊躇することがなく、さらに看護系職種は、他者の存在に関係なくミスを認識する傾向が強いが、医師、事務系職種は、他者の存在の有無によりミスの認識が変わる傾向が強いといえる。さらにより組織全体から職種間の違いとして、医師は誇り高く、自分の仕事が好きである傾向が非常につよいが、事務系職種の人々はそれとは対照的な傾向がみられる。また職種全体を見た場合、医師、その他医療専門職はその職種的特長として職能的傾向が強くみられ、看護系職種、薬剤師、事務系職種は職階的傾向が強く見られた。

結論

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研究報告書(紙媒体)

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