中毒医療における教育の在り方と情報の自動収集・自動提供、公開ネットワークの構築に関する研究

文献情報

文献番号
200301111A
報告書区分
総括
研究課題名
中毒医療における教育の在り方と情報の自動収集・自動提供、公開ネットワークの構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 敏治(財団法人日本中毒情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 吉岡敏治(財団法人日本中毒情報センター)
  • 遠藤容子(財団法人日本中毒情報センター)
  • 真殿かおり(財団法人日本中毒情報センター)
  • 波多野弥生(財団法人日本中毒情報センター)
  • 池内尚司(大阪府立急性期・総合医療センター救急診療科)
  • 堀寧(新潟市民病院薬剤部)
  • 黒木由美子(財団法人日本中毒情報センター)
  • 飯田薫(財団法人日本中毒情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中毒医療に関する教育の方法には、学部学生教育、卒後教育セミナー、講演等があるが、インターネットを介した広報・啓発も現代社会における大きな手段である。本研究の目的は、わが国と先進諸外国の中毒教育の現状を調査し、市民も含めわが国の現状に合わせた教育のあり方を提言すること、また、その教育が実現可能となるように、マニュアルやデータ・ベースを整備することである。化学物質が氾濫し、中毒事件等が多発している現代社会ではこれらを考慮した研究や資料の整備は必須であり、わが国における新しい中毒学の教育体系の確立をはかる。
研究方法
目的に沿って、以下の7課題の調査・研究を行った。1.中毒医療における臨床教育の現状調査:中毒医療の現場に深くかかわる三つの職種(医師、薬剤師、獣医師)を養成する学部において、臨床中毒学の教育がどのように行われているかを現状調査する。2002年5月から7月にかけてすべての医学部医学科(80校)、薬学部・薬系大学(46校)、獣医学部・獣医学科(16校)に同じ様式の質問票を送付し、分析する。2.中毒事故の発生状況等の分析と市民教育:a)中毒事故の発生予防と現場対応の教育を目的とした一般市民向けマニュアルを作成するために、諸外国のWWWサイトから発信されている中毒事故に関する一般市民向けの情報内容を分析し、中毒事故の発生を予防するツールとしてどのようなものが存在するかを調査する。b)誤食事故防止の保護者への教育のために、過去3年間の5歳以下の小児の中毒事故88,030件を対象にして、受信時記録から中毒起因物質と年齢、事故の発生時期、発生時刻、発生場所等の発生状況を検討する。また、成人および高齢者への中毒事故防止の教育のために、過去5年間の成人(20~64歳)と高齢者(65歳以上)の中毒事故、14,950件を対象にして、同様の検討を行う。c)中毒事故の発生経緯と事故防止のための行動を視覚的に捉えることができるWWWコンテンツ「発生状況確認ゲーム」を作成する。3.中毒物質別(カテゴリー別)クリニカルパスの作成:日本中毒情報センターの保有する膨大な中毒情報データベースを教育と医療の標準化に活かすため、カテゴリー別(医薬品、農薬、工業用品、家庭用品、自然毒)に中毒起因物質を選定し、クリニカルパスの基本フォーマットをまず策定する。ついで、アセトアミノフェン、グルホシネート、エチレングリコール、フッ化水素、テトロドトキシンについて診療プロトコールを作成する。文献検索等で得られた資料に基き、クリニカルパスの様式を検討し、最終的にこれら5物質に三環系抗うつ薬、精神神経用薬(フェノチアジン系)、マムシ咬傷を加えて、8種類のクリニカルパスを作成する。4.中毒症例のデータベース化:インターネットで公開されている5種類の既存の症例提示に関するデータベースとAmerican Association of Poison Control Centers(AAPCC)の The Toxic Exposure Surveillance Systemに関して、データ収集・評価の方法、検索方法、検索項目、表示項目等を調査・検討し、「中毒症例提示データベース」を試作する。入力・検索画面、メンテナンスのための専用画面を作成して、実際の症例を収載する。5.吸入毒診断補助システムの開発:わが国における気体(ミスト,蒸気を含む)による化学災害事例
より、頻度と患者の重症度から、分析結果を待たずに臨床現場で起因物質を推定すべき原因物質を選定すること、この選定された起因物質の臨床症状や異常臨床検査結果を整理し、臨床医がシステムとして診断が可能なプログラムを開発する。6.薬毒物分析の教育と精度管理-臨床薬毒物分析システムの確立-:a)臨床現場で分析を行うための教育のあり方と精度管理を検討し、機器配備後早期から分析業務の稼動している新潟市民病院における分析導入期の業務実態を調査する。配備された分析機器を合理的に使う方法論を検討し、当面の目標である日本中毒学会が提唱した薬毒物15品目の標準分析システムを提言する。b)薬毒物分析支援データベース(農薬編)の開発:日本中毒情報センターが農薬工業会より自動収集している製品情報データベースと化学物質環境リスクセンターが提供している化学物質データベースをもとに、分析対象物を絞り込むための情報提供ツールを開発する。7.中毒情報センターのホームページのあり方:医療従事者用のホームページを新たに構築し、公開する。さらに、賛助会員のうち医療従事者約1,800人を対象に、収載項目別にその有用性や今後の開発要望項目に関するアンケート調査を行う(3年間)。2年目には前年度アンケート調査で要望が多かった医師向け中毒情報データベースの新規掲載、解毒剤情報の追加改訂、認証画面の改善を行う。3年目は中毒症例提示データベースと中毒関連文献検索データベースを新たに収載し、既掲載項目の追加更新を行う。3年間のアンケート調査結果の検討、および国内外のホームページ6サイトを閲覧した結果を比較検討する。
結果と考察
1.中毒医療における臨床教育の現状調査:中毒医療の現場にかかわる三つの職種(医師、薬 剤師、獣医師)を養成する学部教育の現状を調査した結果、中毒に関しては未だ一貫した教育 理念のもとではなされておらないことが明らかになった。臨床中毒学のテキストの策定とともに、各講座が分担・協力して行う統合型の教育が望まれる。2.中毒事故の発生状況等の分析と市民教育:諸外国の一般市民向け情報の共通した内容は、代表的な中毒物質、曝露経路、存在場所、現場対応、事故防止法であるが、その教育対象は、保育者、小児、10代の若者やベビーシッター等に細分されていた。日本中毒情報センターが把握している5歳以下の小児の事故88,030件、成人・高齢者の事故14,950件を対象に、事故発生原因とその経緯を明らかにした。これをもとに市民向けの啓発資料として視覚的に捉えることが可能な「発生状況確認ゲーム」を作成した。これは近々インターネットで公開の予定である。3.中毒物質別(カテゴリー別)クリニカルパスの作成:日本中毒情報センターが保有する膨大な中毒情報データベースを中毒医療の教育と標準化に活かせるよう、カテゴリー別に選定した17起因物質(アセトアミノフェン、グルホシネート等)のクリニカルパスを作成した。これらの中毒は発生頻度の高い疾患ではないため、今後は、多施設で共同してエビデンスを集積し、クリニカルパスの質を高めていく必要がある。4.中毒症例のデータベース化:中毒症例をデータベース化するにあたり、既存のデータベースの検索方法、表示項目、評価方法等の調査を行った。その結果、検索方法はフリーキーワード検索と項目別検索の併用、表示の方法は検索結果一覧と症例詳細の2ステップ表示方式を選択した。試作版「中毒症例提示データベース」に96品目304症例を収載した。このシステムは、曝露物質」「曝露経路」「年齢層」「転帰」等々の7項目に関し、かけ合わせ検索が可能で、「農薬の吸入例で意識障害を起こした高齢者の死亡例」等の検索ができるのが特徴である。5.吸入毒診断補助システムの開発:わが国におけるミストを含む吸入による化学災害事例の検討から主たる起因物質17種類を選定し、物質ごとに臨床症状や異常臨床検査結果に0~9点の重みづけを行った。これを基に、臨床症状や発生状況から起因物質を推定するシステムを試作した。6.薬毒物分析の教育と精度管理-臨床薬毒物分析システムの確立-:機器配備後早期から分析業務を推進している新潟市民
病院における452人の患者検体を分析した経験をもとに、平成10年度に厚生省が配備した分析機器を合理的に使い分けて、日本中毒学会が提唱する薬毒物15品目の分析に迅速に対応できるシステムを確立した。農薬の分析に際しては、これを特定するのが困難であったため、製剤の商品名、性状、含有成分の組成、成分の化合物名、成分のCAS番号、分子量、構造式、製剤の都道府県別の出荷量等の情報を調査し、加えて質量分析による相対保持時間とフラグメントイオン(EI法)を実験的データから収集して、分析対象物を絞り込むための情報提供ツール「薬毒物分析支援データベース(農薬編)」を開発した。7.中毒情報センターのホームページのあり方:賛助会員を対象に、研究初年度に新たに開設した医療従事者用のホームページについて、3年間連続して収載項目別にその有用性や今後の開発項目の要望に関する調査を行った。利用率はまだそれほど高くはなく、9.1%~27.5%と推測された。各項目ともかなりの高評価が得られたが、特に解毒剤情報とコメディカル向け中毒情報データベースは高い評価が得られた。2年目に医師向け中毒情報データベースとニュース欄を、3年目に中毒症例提示データベースと中毒関連文献検索データベースを掲載し、これらも高い評価が得られた。
結論
いずれの分担研究もわが国における新しい中毒学の教育体系の確立を目的としたものであり、本研究によって中毒教育のための各種マニュアルやデータベース、インターネット情報が整備された。また、これらの結果は直接的に日本中毒情報センターのデータベースの充実、情報ネットワークの構築に生かされる。換言すれば、付加価値の高いデータを整備し、これを提供することにより、医療効果と経済効果の両面、すなわち中毒症例の救命率の向上、治療期間の短縮と治療費の削減、中毒事故の発生予防等が期待できるものである。

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