医療機能の分化と連携を目指した医療計画の在り方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301110A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機能の分化と連携を目指した医療計画の在り方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立保健医療科学院政策科学部長)
研究分担者(所属機関)
  • 松田晋哉(産業医科大学医学部公衆衛生学教授)
  • 平尾智広(香川医科大学衛生・公衆衛生学助教授)
  • 野中博(社団法人 東京都医師会理事)
  • 武藤正樹(国立長野病院副院長)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部専任講師)
  • 秋山昌範(国立国際医療センター内科医療情報部情報システム部長)
  • 中村健二(鹿児島県保健福祉部長)
  • 藤田尚(板橋中央総合病院)
  • 河原 和夫(東京医科歯科大学大学院教授)
  • 加藤 尚子(国際医療福祉大学医療福祉部講師)
  • 石原 明子(国立保健医療科学院協力研究員)
  • 松本邦愛(国立保健医療科学院協力研究員)
  • 北村能寛(国立保健医療科学院協力研究員)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は政府の役割や医療計画という行政手法を用いていかに機能の分化と連携を推進することである。そのため、施設の機能の分析評価、施設機能の連携の検討、それへの政府の果たすべき役割を明らかにし、その際、医療計画という行政手法がなしうる目的を明らかにする。「必要な諸条件」、例えば情報の整備等について研究する。さらに文献検索により、諸外国の評価手法を明らかにしたうえで、シナリオの開発とついで各過程における指標の選定、さらにはその指標を県別に評価するための統計的解析を行う。
研究方法
Ⅰ.保健医療分野における政府の役割再考:保健医療部門において政府の役割が正当化される理由につき、政府と市場・コミュニティ、中央-地方政府間関係という対抗軸に沿って、経済学、政治学、行政学等の先行理論の精査と同時に(縦軸)、感染症(HIV/結核)、地域医療計画、病院経営といった具体的事例からの検討を行った(横軸)。Ⅱ.医療機能の分析:1.かかりつけ医療概念:文化人類学的観点アプローチを用いた、文献研究、平成14年度以前のフィールドワーク、宇部市における健康づくり計画策定への参加(参与観察)の中で得た情報から、「かかりつけ医」が住民にとってどのような位置づけを得ているか整理・検討し、「かかりつけ医」に期待されている役割についてまとめた。2.病院機能分析:医療計画研究に資するため、病院類型論(全体像)に沿って総合病院、老人病院、専門病院の特質や問題点を明確にする事を目的とした。そのため、いわゆる老人病院の[機能、財務、組織、マーケティングの範囲や方法]について検討し、その後、こうした老人病院の持つ特質や問題点に鑑み、社会資源や事業体としての課題と方策、あるべき姿や今後の方向などについて考量した。Ⅲ.現状評価・分析:1.地域医療計画をめぐる文献検討からの評価分析:文献検索データベース、医学中央雑誌web版、NACSIS-IR、ENJOY JOISを再検討することによって,医療計画をめぐる論考を総括した。そして、今後の医療計画のあり方を考えるために、必要な問題点を把握した。2.医療連携インタビュー調査:熊本県熊本市、愛知県名古屋市、長野県上田市において医療連携の現状をモニターし、地域ごとの医療連携の特徴と連携促進の秘訣を検証した。複数地域の事例を比較考察することで、現在全国で進行しつつある医療連携のパターンを抽出、連携を阻む問題点を明らかにした。任意抽出した全国の複数地域において、高機能中核病院、亜急性病院、療養型病院、診療所、医師会その他の関係者に、地域の連携の実態についてインタビューを行った。Ⅳ.欧州諸国における医療計画の動向調査:わが国と同様の社会保険制度を有するフランス、オーストリア、ドイツに関して文献的調査及び現地調査を行った。仏・墺に関しては現地にて保険担当相の関係者にインタビューを行い、ドイツに関しては専門家へのヒアリングを行った。Ⅴ.諸外国における評価方法のレビュー:1.ログフレーム分析:Reinkeの手法に基づきロジカル・フレームワークを構築した。2.伝統的
評価法:諸文献により、伝統的な評価方法について考察した。3.WHOによる新たな評価法:WHOが『世界保健報告』2000年度版において提唱した3つの目的と目標に関して、県別データを用いた分析を行った。Ⅵ. 疾病の管理並びに患者の視点から見た評価手法の開発:1.がん患者自然史過程のシナリオ策定:乳がん患者を例に取ったがん進行のシナリオを、発見診断、診療選択、追加加療、末期医療の四段階について策定した。2.評価指標の選定:シナリオにおける医療システムの評価測定可能性を、明確性、可変性、易測性などの観点から評価・吟味・選択した。3.県別評価の試み:以上の過程で選出された指標を、官庁統計を用いて県別にその値を実測しベンチマークした。Ⅶ.手術の技術集積性に関する研究:「患者調査」を用いてがん診療の手術死亡率と手術量の相関関係につき性年齢やチャールストン・インデックスを用いてリスクを調整し、ロジスティック回帰によって各施設の手術量の死亡率への影響を分析した。特に大学病院等の医育機関とその他の病院の結果を分析した。Ⅷ.平成11年度患者調査入院票及び退院票における精神病床の個票を利用し、在院期間別のハザード比及び累積退院率を算出した。この際患者調査の退院票と入院票のサンプリング期間の違いに配慮し、退院患者の入院日数を用いて母集団を推計する堀口法を適用した。以上より推計した入院患者数を用いてハザード比及び累積退院率を算出した。
結果と考察
Ⅰ.保健医療分野における政府の役割再考:保健医療部門において政府が果たすべき役割は一義的には決まらず、個々の問題案件ごとに異なる。最低限の了解事項として確認されたことは、個々人の間をコーディネートする制度(ゲームのルール)としての政府の重要性である。政府の役割は、WHOのStewardship概念にも投影されているように、他の様々な制度と連携し直接及び間接的に、個人の決定をサポートし自己決定を妨げる要因を排除するものと捉えることができることが浮き彫りとなった。Ⅱ.医療機能の分析:1.かかりつけ医療概念:調査により、病院への患者の集中を避けるには、健康日本21や地域リハビリテーションの進行状況とのかねあいにおいて、診療所の役割や位置づけを、地域特性に応じて再検討する必要があることが明らかとなった。2.病院機能分析:a. 専門病院:専門病院といった場合、大規模専門病院(がんセンターなど)と小規模の単科病院の二つが典型例としてあげられるが、ここでは、小規模専門病院(整形外科、産科、眼科、耳鼻科などを標榜)を対象に分析を行った。このような専門病院の特徴として、外来が中心であること、平均在院日数が極めて短いこと、病床数が少ないにもかかわらず、利用率が比較的低い、労働装備率が高く、資産回転率が極めて低いなどが明らかとなった。その機能は、総合病院特に突出した大規模病院内の各専門科と競合すると考えられるが、反面、高額医療機器の購入などで経営が大きく左右されることも度々あり、地域全体でのニーズを総合病院等の機能や役割をあわせた上で分析し、資本投下の計画がなされることが経営上重要な課題となる。b. 老人病院:いわゆる老人病院には、急性・慢性の広がりと規模の大小などによって、従来から高齢者を対象として医療から福祉にわたる活動をしてきた療養病床に特化したグループや、機能の曖昧な一般病院、ケアミックスなどが含まれるが、これらは、機能の曖昧な一般病院は老人病院へ、老人病院は福祉施設へと接近し、療養病床は医療と福祉をつなぐ役割を果たすというように変化することが見込まれる。財務的には、医業収益が一定でコストの削減が前提となり、新規事業等からの収益拡大が課題となる。組織は器官系や診療科別ではなく、病棟とその他の職場から構成され、連携等のマーケティングに関しては、急性期病院から福祉施設への連続的な関与と関係性構築を主軸とした様々な社会資源・ステークホルダーとの関係構築が必要とされている。c. 総合病院:急性期型で多数の診療科・検査機能を有する総合病院では、一般に高度な診断と治療機能が期待されている。しかしながら、実際には、資源不足(人的
・物的)のために期待されるような成果が上げられていないケースや、同様の機能を有する病院が同地域に多数存在するために、医療の質を保つための十分な患者数の確保ができず、かえって多数の診療科や機能を維持することが、経営を圧迫しているケースが多数存在する。総合病院は財務上、人件費や一般管理費などの固定支出が大きい特徴があるので、必要な診療科や機能を維持する上でも、地域のニーズを十分に把握した上で、戦略的に地域で果たす役割を分析し、経営戦略を立てる必要がある。その上で、地域医療連携の中核的役割や一定のリーダーシップを果たすことが期待される。Ⅲ.日本の現状評価・分析:1.地域医療計画をめぐる文献検討からの評価分析:検索の結果、1082件の文献を選定した。文献の内訳は、論文が286件、総論が276件、解説が37件、会議録が62件、抄録が128件、資料・ニュース類が37件、その他が256件である。各論文の主な論者は、病院管理学や公衆衛生学などの研究者がほぼ半数を占め、医師会役員や病院の医師などが4分の1、他には厚生省や都道府県の行政官などである。2.医療連携インタビュー調査:関係者へのインタビュー調査の結果、同一地域においても立場や利害関係によって相反する見解があり、連携のネットワークは極めて多元的であることがわかった。地域の特性は多様だが、パターンとしては人口分布によって。大都市型(人口200~1,500万人)、県庁所在地型(40~70万人)、地方城下町型(10~40万人)、田舎型の大きく4つが想定できることがわかった。Ⅳ. 欧州諸国における医療計画の動向調査:三カ国での調査の結果、いずれの国もDRGなどの各施設の医療行為の実際を把握できる情報システムを構築し、それにより医療計画の見直しを行っていることが判明した。欧州では、医療計画の主たる目的は量の規制ではなく、むしろ施設間連携の促進、医療の質の保証というように、質的な側面に重点が置かれてきており、量的規制としての病床規制について、フランス、ドイツの両国は、それをなくす方向で検討が行われていることが明らかとなった。Ⅴ.諸外国における評価方法のレビュー:1.ログフレーム分析:フレームによって医療計画の目的を整理し、「サービスや医療供給体制を再構築する」ことを最終理念として掲げた場合と「医療システムの活動が高い質で効率よく被対象者の収入や地域に関係なく、公平なサービスを可能とする」ということを最終理念として掲げた場合についてそれぞれのフレームを構築した。2.伝統的評価法:「効率」「公平」「効果」の枠組みから評価する方法を用いて日本の県についてのパフォーマンスを測定したところ、格差が認められた。3.WHOによる新たな評価法:健康結果、応需性、公正財源の各指標の概念を明らかにした上で、国際的な日本の地位を明らかにした。2000年の時点においてはこれら三つのパフォーマンスを統合した到達度で日本は世界第一位であることが判明した。また、これらの指標の測定に関する各国からの批判とWHOの返答に関してサーベイを行い、WHOによる概念の修正についてまとめた。また、これらの三つの指標を使って各県をベンチマーキングした。Ⅵ. 疾病の管理並びに患者の視点から見た評価手法の開発:1.がん患者自然史過程のシナリオ策定・評価手法の開発:45歳の女性乳がん患者が検診によってしこりを発見し、診療を受け、最後は末期医療を受ける過程を描いた。2.評価指標の選定:評価についてはそれぞれの過程であらまほしき姿を設定し、それを示す客観的評価を以下の表のとおり選定した。3.県別評価の試み:県別評価の結果をレーダーチャートにまとめた。4.クラスター分析:クラスター分析の結果、各県の特徴は、石川県を除いて、17、20、9県の三つのクラスターに分類できることが判明した。Ⅶ.手術の技術集積性に関する研究:手術死亡率と手術数には相関関係が認められており、施設の種類で異なっていた。医育機関は必ずしも手術成績が良くなく、教育との関係等が示唆される。Ⅷ.精神病床数必要分析:精神病床在院日数別の累積退院率は、180日目で22.23%、365日目残存率は14.05%、730日目には9.23%であ
った。一年後残存率は、コホート調査である630調査の結果と整合的であり、堀口法の有用性が示された。
結論
諸外国の評価方法、中でも特にWHOによる評価方法は、医療システム全体の評価を多角的に行うという点で画期的な方法である。幸い、日本の場合は官庁統計が整備されているので、この手法を地域医療システムの評価方法に応用することが可能であり、実際にいくつかの評価を行った。
疾病の管理並びに患者の視点から見た評価手法の開発に関しては、今回は乳がんの例を使って考察したが、この方法により、大きな傾向が明らかとなった。また、これまで疾病に関して、欧米ではいわゆる疾病管理(disease management)が提唱されてきたが、日本では実行されてこなかった。このたびのシナリオの確定と評価の選定によって、疾病単位の疾病管理の可能性を切り開いたといえよう。さらにもっとも重要な研究成果は、患者の視点から患者がわかる内容で指標を選定するためにシナリオを用いた点である。医療界は提供側と消費者の間に情報の格差があることで知られ、患者は好むと好まざるとにかかわらずお任せ状態であった。しかし、このようなシナリオを明らかにすることによって一生に一度のまれな疾患の場合でも、一定の情報を共有し、かつ評価するきっかけをつかむことができる。新たな評価法の開発は今までになく、このシナリオの開発は画期的といえよう。

公開日・更新日

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