情報技術を応用した老人リハビリテーション計画評価書に基づくアウトカムデータベースの構築の研究開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301107A
報告書区分
総括
研究課題名
情報技術を応用した老人リハビリテーション計画評価書に基づくアウトカムデータベースの構築の研究開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
太田 久彦(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤高司(日本医科大学)
  • 大成尚(早稲田大学)
  • 長島隆(東洋大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
『情報技術(IT)を応用した老人リハビリテーション計画評価書に基づくアウトカムデータベースの構築の研究開発』は、これまでわが国に存在しなかったリハビリテーション医療のアウトカム評価を可能とするためのデータベースを構築することを第一義的課題として開始された。アウトカム評価のための基本的データは、「リハビリテーション総合実施計画書」である。本研究の開始時、診療報酬明細書では、「リハビリテーション総合実施計画書」に該当する計画書は老人保険の「老人リハビリテーション計画書」として使われていたため「老人」を付した計画課題としたが、当然のことではあるが、本研究は「老人」に限定したものではない。本研究の進行に伴い、データベースの構築を検討し、単なるアウトカムデータだけでなく、治療内容に関するデータをデータベース化することとした。治療内容のデータベース化は多彩な分析を可能とするものである。研究第3年度は、病院個別データベースソフトウェアの各病院での運用調査を行うと同時に、共通サーバに構築された試験的共通データベースを分析し、アウトカム評価およびその他の分析を試行し、本システムが多数の参加病院の協力の下に運用された場合、各病院にフィードバックできる情報に関する検討を行った。
研究方法
Ⅰ. 分析課題: 本調査に参加した回復期リハビリテーション病棟3施設に入院した脳卒中患者34例のデータが共通データベースとして構築された。この内、欠損値の多い1例を除外した33例で分析を行った。 本総括報告では、①アウトカム評価と②能力障害構造分析について報告する。③信頼性・妥当性評価と④予後予測については、総合報告書において述べることとする。
Ⅱ. 運用調査: 本調査に参加した回復期リハビリテーション病棟3施設において、新規入院患者を対象にして『リハビリテーション管理システム』による患者の情報管理の試験運用を行い、継続的運用に必要な改善点を検討した。
結果と考察
Ⅰ. 分析課題:ここでは、①アウトカム評価と②障害構造分析の概略を述べる。詳細は各論を参照されたい。
(1)『アウトカム評価』の研究結果
アウトカム評価に適する欠損値のないデータは回復期リハビリテーション病棟3施設の33症例で得られた。アウトカム指標として取り上げたのは、(ⅰ)治療1ヵ月後の歩行能力である「移動_歩行_2」、(ⅱ)治療1ヵ月後のADL運動指標である「FIMm_2」、(ⅲ) 治療2ヵ月後の歩行能力である「移動_歩行_3」、(ⅳ)治療2ヵ月後のADL運動指標である「FIMm_3」である。Shwartz and Ashの方法に準拠したリスク調整方法によりアウトカム評価を試みた。その結果、リスク因子として、(ⅰ)「移動_歩行_2」では、「中枢性麻痺_手指」、「年齢」、「移動歩行_1」が挙がった。(ⅱ)「FIMm_2」の場合、リスク因子として「FIMm_1」が挙がった。(ⅲ)「移動_歩行_3」の場合、リスク因子として「中枢性麻痺_手指」と「移動_歩行_1」が挙がった。(ⅳ)「FIMm_3」では、FIMm_2の場合と同様に、リスク因子として「FIMm_1」だけが挙がった。
リスク調整アウトカム評価結果では、「移動_歩行_2」で病院Cが有意に成績が低下していたが、それ以外の指標では、3つの病院の成績は期待される範囲内に収まっていた。詳細については、本報告書の別章を参照していただきたい。
(2)『能力障害構造分析』の研究結果
初回評価時と第2回評価時の能力障害を複数の機能障害の組み合わせで説明するための重回帰式を求めた。症例数が少なく、分析が困難ではあったが、その中でも初回評価においては妥当な重回帰式得られたものが多かった。やはり、詳細については、本報告書の別章を参照していただきたい。
Ⅱ. 運用調査:詳細は、総合報告書において報告する。
考察:『リハビリテーション管理システム』において構築されるデータベースに基づいて本研究の課題であったリハビリテーション病棟の施設ごとのアウトカム評価が施行可能であることが示された。今回のデータベースは試験的に構築されたものであり、データ数が少ないことによる解析パワー不足から各施設間のリスク調整後のアウトカム差については、一つのアウトカム項目に関してのみ施設間格差を示すことが出来た。多数症例が蓄積することで、多様なアウトカム指標を持つリハビリテーション医療のリスク調整アウトカム評価を行うことが可能となることが示すことができた。
米国においてFIMのデータをリハビリテーション病院から集めているUDSMRは毎年FIMの集計結果を公表することで、米国のリハビリテーション病院が達成している成果を示している。一方、病院間のリスク調整アウトカム評価は米国の幾つかの州で主として心臓疾患を対象疾患といして公表されているが、リハビリテーション医療においては、そのような病院間のリスク調整アウトカム評価は公表されていない。もし、UDSMRがFIMデータだけでなく、リスク調整アウトカム評価に必要なデータを蓄積していると、全米の病院のリスク調整アウトカム評価が可能となるはずであるが、そのような報告はこれまでUDSMRからは発表されていない。私どものデータベースは、リハビリテーション医療に関する記述統計データを提供できるだけでなく、UDSMRが行えないでいるリスク調整アウトカム評価が可能であるデータベースを構築することを目的としている点で、極めて発展的な思想のもとに設計されていると言える。また、このようなデータベースが病院内に構築さることで、診療に役立つだけでなく、全国データとのリスク調整後の比較がフィードバックされることで、各施設の実践しているリハビリテーションの質改善をもたらす重要なインセンティブが提供されることになる。
リハビリテーション治療プログラムの立案は、これまでセラピストの経験に基づいて立てられてきた。今回私どもが行った能力障害の構造分析は、治療プログラムの立案に対して、経験だけではない科学的根拠を提供するものである。しかし、このような分析情報がリハビリテーションの成績向上にどの程度の貢献ができるかどうかに関しては、別途研究が行われないといけない。
結論

公開日・更新日

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