泌尿器科領域の治療標準化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301100A
報告書区分
総括
研究課題名
泌尿器科領域の治療標準化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
大島 伸一(国立長寿医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 平尾佳彦(奈良県立医科大学泌尿器科学)
  • 西澤 理(信州大学医学部泌尿器科学)
  • 松田公志(関西医科大学医学部泌尿器科学)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部公衆衛生学)
  • 小野佳成(名古屋大学大学院医学研究科病態外科学講座泌尿器科学)
  • 後藤百万(名古屋大学大学院医学研究科病態外科学講座泌尿器科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
消費者意識の高揚、財政の逼迫を背景として、医療においては1)医療サービスの質の確保、2)効率的な供給およびこれらを担保するための3)情報の開示、が検討課題となっている。EBM(Evidence Based Medicine)はこれらに解答を与える有力な手法として注目されており、既存の文献の批判的検討に基づき、臨床の場における医療サービスを有効性、経済効率の観点から体系化・標準化を図ることを目的とする。医療サービスの体系化は、1)病態毎に作成される検査・治療のアルゴリズム、すなわち標準診療ガイドラインの作成、2)臨床現場における個々の患者への適応可能性の検討、3)適応後の経過観察により期待された経過を取らない場合の早期介入と是正、4)患者データベース(Patient Data Management System)に基づく治療結果の評価と標準治療ガイドラインの改善、の各過程を経て実現・改善が図られる。諸外国、日本ではこれまで個々の文献の批判的検討にEBMが留まり、標準診療ガイドラインとして体系的なサービスを患者に提供するまで至らなかった。本研究は、EBMが最終的に目的とする患者に指向した治療体系の確立を図り、その効果を検証するものである。
平成11、12年度厚生科学研究費補助金、医療技術評価総合研究事業で作成された前立腺肥大症及び女性尿失禁の標準診療ガイドラインの導入を泌尿器科医の勤務する20病院で行い平成13年度にその効果を検証し、また、平成14年度には20病院でprospective clinical trialとして前立腺肥大症及び女性尿失禁の標準診療ガイドラインの利用度、適応度、治療成績、医療費用、効果対経済効率等を調査し、ガイドラインの導入により診断方法や診断評価方法の適正化がもたらされ、更に、女性尿失禁では、治療成績の向上も得られることを明らかにした。平成15年度には前立腺肥大症、女性尿失禁の標準診療ガイドラインの評価、改訂作業を中心に以下の研究を行った。
研究方法
平成15年度に、平成11年度厚生科学研究費補助金、医療技術評価総合研究事業で作成された前立腺肥大症標準診療ガイドラインを(i)AGREE の評価ツールを用いて評価した。(ii)愛知県、岐阜県、三重県、静岡県の泌尿器科医師、及び非泌尿器科医師を対象として本診療ガイドラインの認知、利用度を調査した。アンケートは前立腺肥大症標準診療ガイドラインの必要性、認知度、ガイドラインで推奨されている前立腺肥大症に対する検査の施行率など12項目を含むものとした。(iii)1998年以降に諸外国で作成された前立腺肥大症診療ガイドラインを比較するため、2003年に改訂されたアメリカ泌尿器科学会の前立腺肥大症診療ガイドラインを取り上げ、診断法、治療法及び診断のすすめ方や治療法の選択について比較検討した。(iv)平成12年度厚生労働省科学研究医療技術評価総合研究事業「泌尿器科領域の治療標準化に関する研究」においてに作成した女性尿失禁標準診療ガイドラインについては、その広報作業について報告する。
結果と考察
研究結果=平成15年度には、平成11年度厚生省科学研究 医療技術評価総合研究事業「泌尿器科領域の治療標準化に関する研究」において作成した前立腺肥大症標準診療ガイドラインについて(i) AGREE instrumentを用いた評価から、本診療ガイドラインが「対象と目的」「作成の厳密さ」「明確さと提示の方法」には優れていたが、「利益関係者の参加」「適応の可能性」「編集の独立性」については改善の余地のあることが示唆された。また、AGREE instrumentを使った評価を含むEBM研修を医師に行った。うち、指導医45名と研修医11名のAGREE instrumentを使った評価からは、医師の経験年数、診療ガイドラインに対する関心の度合い、診療科などにより評価結果が異なる可能性が示唆された。(ii)前立腺肥大症の標準診療ガイドラインに対する、泌尿器科医および非泌尿器科医に対するアンケート調査により、回答の得られた431名(勤務泌尿器科医187名、開業泌尿器科医71名、勤務非泌尿器科医48名、開業非泌尿器科医125名)の解析では、ガイドラインの認知度は、勤務泌尿器科医では97.4%、開業泌尿器科医では87.3%であったが、勤務非泌尿器科医では27.1%、開業非泌尿器科医では26.8%であった。また、泌尿器科医においては、ガイドラインに示される検査・評価項目は比較的高率に施行されていた。一方、非泌尿器科医のガイドラインの認知度は低く、今後、非泌尿器科医の認知が課題であることが示唆された。 (iii)2003年に作成、公開されたアメリカ泌尿器科学会の診療ガイドラインと私達の作成した診療ガイドラインの違いは、アメリカ泌尿器科学会のものでは(1)症状ではなく、それに対する困窮度の高さで治療の是非を決めていること(2)治療法については、最終的に患者の選択により決めていることが明確に示された。一方、前立腺肥大症の診断法や、診断のすすめ方、また、推奨される治療法には両ガイドラインで大きな差は認められなかった。
平成12年度厚生労働省科学研究医療技術評価総合研究事業「泌尿器科領域の治療標準化に関する研究」においてに作成した女性尿失禁診療標準ガイドラインについては、標準診療ガイドラインを公開し、より多数の人がガイドラインを活用できる機会を提供するため、女性尿失禁ガイドラインの診断、治療法をあげ、診断のすすめ方や治療の選択についてアルゴリズムを含めて1冊の単行本として刊行した。今回刊行した単行本には、女性尿失禁標準診療ガイドライン に平成12年度厚生科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)において作成した高齢者尿失禁ガイドラインを加え、尿失禁の一般的基礎知識、診療ガイドライン一般に関する解説、第2回国際尿失禁会議勧告の抜粋を加え、さらに患者説明用の CD-ROMも作成して添付した。
結論

公開日・更新日

公開日
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更新日
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