脳卒中診療ガイドライン策定とデータベース化に関する研究

文献情報

文献番号
200301068A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中診療ガイドライン策定とデータベース化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
篠原 幸人(東海大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石神重信(防衛医科大学校リハビリテーション科助教授)
  • 折笠秀樹(富山医科薬科大学統計・情報科学教授)
  • 小林祥泰(島根医科大学第3内科教授)
  • 千野直一(慶應義塾大学リハビリテーション医学教授)
  • 永山正雄(東海大学神経内科講師)
  • 福内靖男(足利赤十字病院院長)
  • 山口武典(国立循環器病センター名誉総長)
  • 吉峰俊樹(大阪大学脳神経外科学教授)
  • 吉本高志(東北大学総長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳血管疾患による死亡数は毎年約14万人に達し総死亡数の約15%を占め、単一臓器の致死的疾患としては依然として本邦No.1であり、高度の高齢化社会を迎えつつある本邦の医療・福祉・厚生行政・社会に最も大きな影響を与えている。
本研究の目的は、現時点で収集しうる限りの脳卒中のエビデンスに基づいた治療ガイドライン策定を完成させ、さらに完成した脳卒中診療ガイドラインの円滑なデータベース化を可能とし、さらにはこれを用いることによって脳卒中診療の質が本当によくなったのか否かを検証・評価することである。この研究による脳卒中診療ガイドラインの確立により、脳卒中治療における質のばらつきの減少や、適格な手術適応例の決定が行われ、治療成績が大きく向上することが期待される。
これらの成果や期待を現実のものとするために診療ガイドラインのデータベース化は欠かせない。そのために、エビデンスレベル、推奨グレードやアブストラクトテーブルの標準化、情報管理・編集上のハード、ソフト両面にわたる問題をはじめとした多くの課題を解決するための方向性を明らかにすること、ガイドラインをインターネット上で公開して、医療関係者のみならず広く国民各層からの評価を仰ぐこと、も本研究の目的である。
研究方法
脳卒中治療ガイドラインの策定は、1)策定委員会の設置、2)該当テーマの現状評価と問題点の洗出し・評価法決定、3)対象文献の検索、4)入手文献の批判的吟味、5)各引用文献のエビデンスレベル付けとエビデンステーブル作成、6)各項目・病型に対する推奨グレード付け、7)策定されたガイドラインの妥当性の評価、8)公表・出版、の順で行われた。
委員、実務担当者と事務局は、該当テーマに関して検索と11万件以上の文献の批判的吟味を行い、"エビデンスレベルに関する5学会合同脳卒中合同ガイドライン委員会の分類(2001)"に従い、すべての引用文献ないし意見(1992年より2002年4月頃までの関係文献をMEDLINE、Cochrane Library、日本医学中央雑誌その他を利用して検索、その前後の文献は適宜追加)のエビデンスレベルを決定した。それらの結果を統合して該当項目の推奨グレードを、やはり"推奨グレードに関する5学会合同脳卒中合同ガイドライン委員会の分類(2001)"に基づいて行った。次に各班長が文章を吟味し、委員長・事務局、各レビューワーのチェックを経て再び委員、班長に原稿を戻し再確認という繁雑な操作を繰り返した。
外部評価は、脳卒中専門医22名、非専門医8名、コ・メディカル(すべて看護士)11名、総計41名に、それぞれ独立に評価表記入方式で行われた。評価には、3種類の代表的な国際的評価表(AGREE、Shaneyfelt、COGS)を用いた。
財団法人日本医療機能評価機構による医療情報サービス(MINDS)では、本ガイドラインのうち脳梗塞に関して一般臨床家、専門家を対象とした臨床専門情報(診療ガイドライン詳細版、関連医学文献、トピックス)、一般臨床家向けガイドライン、のちに一般国民・患者さん向け情報が提供される。臨床専門情報には豊富な検索機能が用意されている。このサービスには、本ガイドラインおよびその基礎となった関連医学文献も提供、活用されている。
本ガイドラインの電子媒体化(PDA搭載)に関しては現在作業が進められているが、本ガイドライン本文を普及PDA機種(SONY CLIE)にて病棟、外来などで閲覧することが可能となる予定である。
結果と考察
本研究班および脳卒中合同ガイドライン委員会によるガイドライン策定作業はエビデンスに基づいてすすめられ、平成16年3月に脳卒中治療ガイドライン2004が取りまとめられた。この内容は、日本脳卒中学会や日本神経学会などのホームページに正式に公開され、また書籍「脳卒中治療ガイドライン2004」として出版され、大きな注目を集めている。
外部評価に関しては、英国を中心とするAGREE(Appraisal of Guidelines for Research & Evaluation)は合計23問からなり、4段階評価となっている。「当てはまる」以上を指標にして満足率を算出してみると、専門医75%、非専門医77%、コ・メディカル86%であった。得られた結果は、厚生労働省研究班(長谷川友紀班長)により試行された先行各ガイドラインの評価結果と比べて良好であった。
Journal of the American Medical Associationに発表されたShaneyfeltによる評価法は合計25問からなる。2段階(Yes/No)の質問であり、Yesの割合を満足率として算出してみると、専門医72%、非専門医73%、コ・メディカル86%であった。
米国を中心とするCOGS(the Conference on Guideline Standardization)は合計18問からなる。Shaneyfeltと同様に2段階(Yes/No)の質問であり、同様に満足率を算出してみると、専門医66%、非専門医74%、コ・メディカル91%であった。
総じて本ガイドラインは75%以上で満足のいく結果が得られた。但し、患者さんの選好を取り入れること、コストについても触れること、そしてフローチャートのような図を用いて診療手順を示すことなどが今後の課題として示唆された。
平成16年5月11日に公開される財団法人日本医療機能評価機構による医療情報サービス(MINDS)では、本ガイドラインおよびその基礎となった関連医学文献も提供、活用される。現在進行中の本ガイドラインの電子媒体化も加わり、本ガイドラインの第一線臨床現場での利用促進、ひいては脳卒中診療の質の向上が大いに期待される。
本ガイドラインの公開に伴い書籍あるいはホームページに対する評価を、すでに医療関係者のみならず広く国民各層から戴いている。その一部は推奨文面の再検討として有意義にフィードバックされている。
結論
Evidence-based medicineの真の意味は、単に文献的データだけにとらわれず、眼前の患者さんにとってどの診療が最も良い予後を生むかを考える事である。従って、既往歴や遺伝歴、経済状況や社会的立場まで含めた患者さんの背景・特性、担当医師の技量や設備も含めた考慮を要する。従って、このガイドラインは個々の臨床家の裁量権を規制するものではなく、一つの一般的な考え方を示すものと理解されるべきであろう。
本ガイドラインの策定により、本邦に如何に十分なエビデンスが乏しいか、またその中でbest evidenceは何かが明かとなった。従って、本邦における脳卒中臨床研究の目標も明確となった。また診療ガイドラインのデータベース化の整備と本ガイドラインの電子媒体化(PDA搭載)も加わり、ひいては脳卒中診療の質が本当に良くなったのか否か検証・評価することが将来可能となろう。

公開日・更新日

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