遠隔医療実施状況の実態調査

文献情報

文献番号
200301067A
報告書区分
総括
研究課題名
遠隔医療実施状況の実態調査
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
村瀬 澄夫(信州大学)
研究分担者(所属機関)
  • 廣川博之(旭川医科大学)
  • 本多正幸(長崎大学)
  • 秋山昌範(国立国際医療センター)
  • 鎌田弘之(岩手医科大学)
  • 酒巻哲夫(群馬大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1) 今後の行政や産業界の基礎資料となるよう、現状の遠隔医療の取り組みを網羅的に調査する。
(2) 開原班の調査研究以降の取り組みを調査する。
(3) 内容や社会的影響度、定着度、効果を調査する。
(4) 法的課題、診療ガイドライン、その他、遠隔医療の発展のための提言を行う。
研究方法
(1) 対象
① 現在取組中の遠隔医療
② 開原班の調査以降に終了となった遠隔医療
③ 開原班の段階で終了していた事例は対象外
(2) 一覧調査
① 網羅的な調査対象一覧表を作成する。
② 調査票によるアンケート実施。
③ 研究班としての評価・審査による調査対象選択、採録
(3) 詳細調査
① 一覧調査から、詳細調査すべき対象を選択。
② 聞き取り調査や訪問調査を行う。
(4) 分析
① 上記結果を担当地域・種別毎に分析する。
結果と考察
(1) 結果① 調査対象の基準作りと調査項目の作成調査対象の選定基準作りと、アンケート用紙に含める調査項目の立案を行った。調査対象を従来からのテレパソロジー、テレラジオロジー、テレケアに留めず、ネットワーク型地域連携電子カルテ、インターネット上での相談などに広げ、診療コンサルテーションなどの新たな分類項目を含めることで、現状の網羅調査に有効な基準作りを行った。アンケート内容は、従来研究(開原班研究等)を参考にしつつも、改善を施し、経済性や規模、医療の質、セキュリティなどの質問項目も拡充した。
② 調査候補の選別
従来研究や事前検索を十分に行った。対象として従来研究である開原班の情報、医学中央雑誌などの研究投稿のデータベース、新聞等で取り上げた案件を探るためのメディア・データベース、各班員が持つ地域特有の情報などを幅広く用いた。施設件数で約1500,プロジェクト件数で800強の調査候補情報を取得した。この情報自体が、本研究班の小さからぬ成果であった。
③ アンケートの実施
選別した調査候補800件(プロジェクト単位)に対し、平成15年12月末より、アンケート調査の依頼を開始した。結果として300件の回答があり、これを第一次分析に掛けた。この成果によれば、少数の大規模遠隔医療と、大多数の収入の乏しい遠隔医療に大きく分かれること、これまでの実施実績があるのに既に中断されている施設が多いこと、など多くの貴重な情報が得られた。
④ 個別地域、分野の研究
得られたアンケートの結果などを材料として、各地域特性や分野毎の分析を行った。
⑤ 現地調査の実施
実際の取り組みを精査するための実地調査を行い、テレケアや遠隔手術などの調査として、昭和大学、富山医科薬科大学など複数の大学病院を訪問調査した。
(2) 分析
① 遠隔医療プロジェクトの件数の推移と回答回収率
1997年前回の研究・開原班報告と今回を比べ、プロジェクト数が151から241と増加している。
テレラジオロジー・テレパソロジーは一分野としては非常に進んでいて、特にテレパソロジーの回収率は非常に高く、50%以上だった。病理関係者の積極的な取り組みが伺える結果である。全般には継続困難とか意欲の低い事例もあり、また20%程度のプロジェクトが既に終了していた。
② 種別
特に注目するのはテレパソロジーの66件で、前回の開原班調査に比べて三倍以上の伸びを示した。テレラジオロジーについては、プロジェクト件数は少し増えている程度だが、一つのプロジェクトに参加する病院あるいは診療施設の数が非常に増えている。テレケアについてプロジェクト数ではそれほど増えていないが、様々な取り組みがなされてきている。
③ 実施施設の種別
プロジェクト参加機関は、公的機関が大部分である。大学病院・公的病院・民間病院・公的診療所が実施施設として多いのは、人材や資金面での継続する体力の差と考えられる。施設規模も大学病院等の500床以下200床以上が多く、大規模であることが実施体力上で重要とわかる。ただ非常に小さな診療所や病院でも精力的に進められている事例はある。
民間・企業ベースの取り組みは数が少ないが、採算ベースに乗って続いている。件数こそ少ないが、遠隔医療を実際に採算性に乗せて実施できることを示している。
全般には公的支援に依存しているのが国内の遠隔医療の概況と考えられる。
④ 地域別の取り組み件数の偏り
地域別の偏りも大きい。病院数や人口数は多くないが、遠隔医療プロジェクト件数としては東北地方や北海道が非常に多い件数で、取り組みが進んでいるということがわかる。
⑤ 人口と実施状況の関係
プロジェクト実施箇所を人口別に見ると、人口として10万から30万が多く、中小の市町村での取り組みが非常に多い。人口密度では、1000人から3000人あるいは100人から300人と非常に過疎地でやはり診療機関が遠い、診療機関自体が少ないというところで必要性が高いと思われる。
⑥ 通信インフラと遠隔医療の実施状況の関係
NTTの光ファイバー事業(Bフレッツ)の地域浸透度をアンケート結果と重ね合わせて分析した。北海道・東北は遠隔医療の取り組みが多いが、光ファイバーを基本インフラとして用いている割合は非常に低い。本来遠隔医療は過疎地で求められているが、過疎地ではなかなか光ファイバーが使いにくいというような皮肉な状況が得られた。実際に使われているのはISDN回線が大半である。早く光ファイバーに置き換わることが非常に重要である。
⑦ 実施内容
放射線画像、病理画像、診療コンサルテーションが多い。しかし現実には診断支援が中心で、実際に治療まで結びつく例は多くない。テレケアでは、TV電話などを使った健康相談あるいは健康管理では、現状の患者さんの状態を把握し、診断して口答で指導する。遠隔での手術指導も散見される。
⑧ 診療科
放射線科、病理科、内科(テレケア)、症例カンファレンスや手術指導の形で、外科・整形外科・脳外科、眼科もある。
地域面では、東北・北海道では各科の実施例が多い。一方で放射線診断では、関東地区の病院や企業が全国のテレラジオロジー診断センターになっている。テレケアについて全国満遍なく取り組みが行われている。
⑪ 従事者の職種
医師・放射線・病理については技師が多数参加している。今後は看護師や保健師のテレケアへの参加が増えると考えられる。
⑫ 終了した遠隔医療について
既に終了したプロジェクトでも、一年以上トライアルが行われていた事例が少なくない。全然使い物にならなかったのではなくて、ある程度有効に運用はされたと考えられる。しかし、継続するには人的援助あるいは資金的援助の構築が課題である。
結論
(1) 現状の国内の遠隔医療の網羅的な実施状況が得られた。
(2) 経済性、保険請求、診療科など、従来の調査では難しかったデータが得られ、大きな価値がある。
(3) まだまだ遠隔医療を展開する環境は整っていない。保険、コスト、技術などでの課題も少なくない。

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