専門医制度におけるトレーニング等の質の確保に関する研究(総合研究報告書)

文献情報

文献番号
200301053A
報告書区分
総括
研究課題名
専門医制度におけるトレーニング等の質の確保に関する研究(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
池田 康夫(慶應義塾大学)
研究分担者(所属機関)
  • 花岡一雄(東京大学)
  • 高崎健(東京女子医科大学)
  • 古瀬彰(JR東京総合病院)
  • 酒井紀(中間法人日本専門医認定制機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多くの学会により専門医や認定の制度が設けられている。一般に、卒後臨床研修を含め数年間の臨床経験や、その専門分野の知識などを元に認定されているが、学会によりその資格の取得に難易差が大きいことが指摘されている。また、資格認定には基礎知識の試験のみで、技能の試験や医療倫理に関しての審査が無いなど社会医学の観点からも認定制度のあり方が問われている。この研究では、中間法人日本専門医認定制機構に加盟している学会を中心に専門医および認定医の質の確保に関して現状を調査し、問題点を明らかにすることを目的とした。
研究方法
2回にわたるアンケート調査を行った。第1回アンケート調査は日本の医学関係学会の中で、専門(認定)医制度を行っている学会を把握することを目的とした。
専門(認定)医制度の有/無について調査はがきを平成15年10月23日に発送した。発送696学会中、返事を受け取った学会は521学会あり、専門(認定)医制度有71学会、無439学会、検討中11学会であった。
第2回アンケート調査は平成15年11月21日に発送した。依頼先:123学会 (内訳 機構加盟学会52学会、第1回アンケート調査で専門医制度有と回答の71学会)123学会中、110学会から返事を受け取った。なお第2回調査と同時に依頼した海外における該当学会の専門医制度の調査については現在も尚調査中である。
結果と考察
第2回の専門医制度の実態調査を中心に概説する。
専門医ならびに認定の数
調査した学会の会員数の合計は652,297人で医師の割合の平均は82.3%であった。専門医数はのべ164,464人、認定医数はのべ142,461人であった。機構加盟52学会のみで見てみると会員数の合計は553,037人(84.8%)、医師の割合の平均は88.6% (100%-21%)であった。専門医数は155,238人(94.4%)、認定医数は131,294人 (92.2%)であった。すなわち、延べ数で専門医機構に加盟している学会が、専門医・認定医いずれも90%以上を占めており、医療の質の調査対象として加盟学会の精細な分析を持って全体の状況とするに充分であると考えられた。
一方、平成14年12月31日現在における届出医師数は262,687人で、1人の医師が、2.4個の学会に属し、また専門医と認定の合計が約307,000人であり、数の上では医師1人当たり1個以上の専門医あるいは認定資格をもっていることになる。
専門領域別の数
機構加盟学会のうち内科・外科・眼科などいわゆる基本領域の14学会について専門医、あるいは認定医の数は158,000人余であり、これらは重複が少ないものと考えられ、医師の約60%が何らかの専門医・認定医の資格を持っていると推定された。内訳は内科認定及び外科認定の合計で全体の46%を占めている。定数枠を決めている学会はなく、適正数の判断を含め、今後の課題と考えられる。
専門医のためのトレーニングの実態
カリキュラムについて、明示されているもの 45学会、されていないもの3学会とほとんどが、カリキュラムが明文化されていた。その内容では、基礎的知識については、あり43学会、なし2学会とほとんどの学会が到達目標にしているのに対し、医の倫理に基づく診療行為の習慣づけに関しては、ありが27学会、なしが16学会といまなお、学術的なことに重点がおかれている現状が明らかになった。
研修施設については、46学会が認定基準を持っており、もっていないのは2学会に過ぎなかった。しかし、年次報告書の提出を義務付けているのは22学会に過ぎず、26学会では診療実績や研修体制の報告書の提出を義務付けてはいなかった。
専門医・認定の資格審査・試験
研修年限について、専門医の受験に必要な研修年数の平均は3.91年でおおむね4年を要している。最も短いのは輸血学会の2年で、最長は呼吸器外科学会の10年であった。これに関しては機構における加盟学会間での申し合わせがほぼ浸透してきたため、基本科目については4年程度に統一されると思われた。
受験資格として研修実績の調査確認を行っているのは38学会で、8学会は行っていない。しかし、書類審査がほとんどで、実施調査を行っているのは消化器外科、人類遺伝など極少数であった。
試験の内容について、筆記試験を行っているのは49学会、行っていないのは2学会であり、行っていない学会は口頭試問を行っていた。口頭試問を行っている学会は31学会、行っていない学会は20学会であった。実技試験に関しては行っている学会は10学会に過ぎず80%にあたる40学会では実技試験を行っていなかった。
合格率を平成14年度で見ると、平均は87.0%であり、100%から58.8%に分布していた。
認定更新
更新年数の平均は5年であり、ほとんど全ての学会で一致していた。ほとんどの学会が学会出席などの取得単位制度を採用していたが、学会出席が本人であるかの確認を行っているのは36学会に過ぎず、それも形式のみのものも多く見られた。一方、診療実績を更新の条件としているのは10学会に過ぎず、それも自己申告による書面がほとんどであった。 更新のため、筆記試験を行っているのは3学会、面接試験は1学会に過ぎず、実技試験を行っている学会は無かった。その結果を見るため、更新申請者と許可者を調査した。最もデータのそろった平成14年度で見ると、全体の許可率の平均は98.3%であり、ある程度資格のそろった医師のみが更新手続きをするためもあり、専門医の更新はほとんどが許可されている実態が明らかになった。
その他
学会として専門医・認定の資格を取り消す制度については、42の学会が整備されていたが6学会ではいまだ整備されていなかった。
専門医に定数枠を設けることについては、検討中として学会としての回答ができないものが多かったが、賛成1学会、反対27学会と現時点では圧倒的に反対のものが多かった。
結論
今回の調査で、わが国における専門医・認定の現状がある程度明らかになった。医師の約6割が何らかの資格を取得していると推定された。これらの資格取得には一定年限の研修、知識の試験がなされているものの技能・倫理・医師としての適性などにおいて質が担保されているとは言いにくい現状が明らかになった。さらに、資格更新は形式的なものが多く、質の確保のため改善の余地があるものと考えられた。
本研究班の初年度の目的は、専門医制度の概略を把握する事にあり、今後、今回の調査の詳細な分析を行い、更に海外の状況の調査分析も検討中であり、これらの結果を踏まえて、専門医の医療の質の確保のための提言をしてゆきたい。

公開日・更新日

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