終末期医療に関する調査(総合研究報告書)

文献情報

文献番号
200301052A
報告書区分
総括
研究課題名
終末期医療に関する調査(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
角間 辰之(日本赤十字九州国際看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • Andrea S. Schreiner(日本赤十字九州国際看護大学)
  • 矢田洋一(日本赤十字九州国際看護大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,399,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまで3回(平成5年、10年、15年)に渡り厚生労働省において終末期医療にかかわる意識調査が一般国民、医療従事者(医師、看護師、平成14年度からは介護職員が追加)を対象に実施された。本研究は意識調査結果についての詳細な統計分析を行うことにより、末期医療に対する意識の経年変化を科学的に明らかにし、今後のよりよい終末期医療の発展に資する事を目的とした。具体的には、(I)過去の調査データ比較を通して意識の変化を統計的に解析し、(II)前回までの単純集計では得られなかった質問間の関連性を多変量解析を用いて明らかにする、又(III)多変量解析で明らかになった質問間の関連性の経時的変化を解明し、複雑な意識変化のより深い理解につなげる、ことを目的とした。
研究方法
平成5年、平成10年及び平成15年に厚生労働省が行った終末期医療に関するアンケート調査のデータについての分析を高度な統計手法を用いて行なった。但し、平成5年の調査データは電子化された状態で保存されておらず今回の統計解析では平成10年と平成15年のデータのみを使用した。調査データは、層化二段無作為抽出法により収集された。調査対象は次のとおり。20歳以上の一般国民:平成15年5,000人(回収数2,581、回収率51.6%)、平成10年5,000人(回収数2,422、回収率48.4%)。医師:平成15年3,147人(回収数1,363、回収率43.3%)[対象施設別内訳:病院714(52.4%)、診療所425(31.2%)、緩和ケア病棟113(8.3%)、残り無回答]、平成10年3,104人(回収数1,577、回収率50.8%)[対象施設別内訳:病院1,059(67.2%)、診療所466(29.5%)、緩和ケア病棟52(3.3%)、残り無回答]。看護職員:平成15年3,647人(回収数1,791、回収率49.1%)[対象施設別内訳:病院806(45.0%)、診療所347(19.4%)、緩和ケア病棟83(4.6%)、訪問看護ステーション314(17.5%)、残り無回答]、平成10年6,059人(回収数3,361、回収率55.5%)[対象施設別内訳:病院2,190(65.2%)、診療所425(12.6%)、緩和ケア病棟394(11.7%)、訪問看護ステーション352(10.5%)、残り無回答]、介護職員:平成15年2,000人(回収数1,253、回収率62.7%)[対象施設は介護老人福祉施設のみ]、平成10年は対象とせず。平成15年の対象者全体の回収率は51.6%と前回平成10年の回収率48.4%を若干上まった[平成10年のサンプリングに関する詳細は前回の「末期医療に関する意識調査等検討会報告書」を参照]。データ解析は、無回答、非該当、年齢不詳、職場不詳を削除したデータを用い、大きく分けて、(A)平成15年調査データにおける各質問項目ごとにおける対象群間の比較、及び(B)各質問ごとに平成10年と平成15年の意識の変化を各対象群別に検討した。年齢(全ての群共有の変数)、職場(医師と看護職員が共有する変数)、教育(一般だけの変数)等の因子は、各質問の回答パターンに影響を与る可能性があると考えられた。その上、平成10年と平成15年では年齢、職場等の分布が同一でなく、その為群間比較及び経時変化の解析にあたり、適宜それらの因子の影響を除くことの可能な統計モデルの使用が不可欠と考えられた。又、質問の殆どが順序尺度で構成されていることからデータ解析には“比例オッズモデル"と呼ばれる統計モデルを用いた。データ解析(A)では、(A1)年齢と職場の影響をコントロールした医師・看護師の比較、(A2)年齢の影響をコントロールした医師・看護師・介護師の比較、及び、(A3)年齢の影響をコントロールした一般国民・医師・看護師・介護師の比較を行った。データ解析(B)では平成10年平成15年のデータをもとに、(B1)年齢、教育の影響をコントロールした一般国民の意識の変化の検討、(B2)年齢、職場の影響をコントロ
ールした医師の意識変化、(B3)年齢、職場の影響をコントロールした看護師の意識変化の検討を行った。質問毎にクロス表を作成するにあたり、様々な背景因子(年齢、職場、教育等)の影響をコントロールしない場合の単純集計表と、統計モデルの推定値に基づいた背景因子の効果を取り除いたクロス表を作成した。
結果と考察
データ解析にあたり、各質問を7つの大項目に分類し(1.終末期医療への関心、2.患者への説明、3.疼痛治療法とその説明、4.終末期における医療の在り方、5.終末期医療の療養の場所、6.リビングウィル(文章による生前の意思表示)、7.医療現場における医療従事者の取り組み)、各項目ごとに解析・評価を行った。データ解析の一般的結果は、各対象群においてここ5年間であまり顕著な意識の変化が見られず、平成15年のデータによる群間比較においては、一部の質問で興味深い違いが見られた。結果の一部はThe Gerontological Society of America学会に抄録原稿として提出した。今後は、多くの質問において年齢、職場等の背景因子の効果が認められた事から、背景因子が及ぼす影響を詳しく調べながら、群間比較及び経時変化の検討を引き続き行ってゆく必要があると考えられる。今回背景因子の調整に統計モデルを使用したが、背景因子のアンバランスの調整に"サンプリングウエイト"を使うことも考えられる。今後サンプリングウエイトとなるデータを収集する必要性もあると考えられる。尚、本研究の成果は既に定期的に開催されている「終末期医療に関する調査等検討会」へその都度資料として提出され、現在検討会では項目別の調査結果及び分析に基づいた問題認識及び議論がなされており、「終末期医療に関する調査等検討会」の最終的な結論とその報告書に反映されると期待する。
結論
平成15年に実施された終末期医療に関するアンケート調査の質問項目は、平成10年のデータと比較することを念頭に作成された関係上、幾つかの項目を除き同じ質問が用いられた。この事は、意識変化の検討を可能にした。しかし一方で、顕著な意識変化が認められなかった事の解釈には十分な注意が必要と考えられる。例えば、今回研究目的とした"意識の変化"の定義と"精神的な態度(Attitudes)"および、"実際の行動(Practicing Behavior)"などの概念の違いを十分吟味して質問項目が作成されなければ、終末期医療に関する意識変化のより深い理解は得られない。今後、臨床家、心理学者、社会学者、バイオ統計学者、法学者などの様々な分野の専門家が共同で各質問項目の再吟味を行う必要があると思われる。

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