諸外国における医療情報の標準化の動向に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301049A
報告書区分
総括
研究課題名
諸外国における医療情報の標準化の動向に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 友紀(東邦大学)
研究分担者(所属機関)
  • 飯田修平(全日本病院協会)
  • 柳川達生(練馬総合病院)
  • 細谷辰之(名古屋大学)
  • 対馬忠明(健康保険組合連合会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療技術の成熟化、消費者意識の効用を背景に、医療の質に対する関心の増大は世界的な趨勢となっている。医療の透明性、説明責任を確保し、医療の質を向上させるためにはInformation Technologyの医療への導入は不可欠である。諸外国(西欧、北米)では1980年代後半にHealth Sector Reformとして、主として医療費の削減を目的として内部市場の導入など一連の制度改革が行なわれたが、いずれも目的を十分には達成しなかった。医療の特質、とりわけ医療の安全・質への配慮を欠き、単に医療費削減を目的としたためであったものと思われる。現在日本で進められる医療制度改革においては、これらの知見をふまえて、医療の透明性・説明責任・質をいかに効率的に確保するかが最大の論点として検討が進められている。IT技術の導入は、医療制度改革の諸論点に対して解決策を与える有力な方法として注目されている。本年度の研究では、IT技術の医療への導入例として、診療情報の標準化、及びこれを基にしたレセプト電子請求を対象として、(1)韓国、豪州(詳細調査)、米国、英国、カナダ(関係者からのヒアリング)の事例研究、(2)日本における制度検討、を実施した。
研究方法
海外事情調査では、韓国、豪州については現地訪問による詳細調査を実施した。その他の国として、米国、カナダ、英国、シンガポール、台湾については関係者のインタビュー調査を実施した。調査項目は、(1)国のIT化の政策目標における位置付け、(2)電子化・標準化の状況、(3)使用している規格、(4)レセプトの電子請求の状況、(5)セキュリティー確保の方策、(6)法制、(7)電子請求による影響(査定プロセスの変化、病院マネジメントの変化など)である。特に、電子化が進んでいる、韓国、豪州については文化的背景、医療制度の状況、リーダーシップなど成功要因についても検討を行った。国内ニーズ調査としては、全国の1056病院(東京都内病院、その他地区の教育病院)を対象に実施したアンケート調査で299病院(28.3%)より回答が得られた。回答者は病院代表者である。過去(1998年、2001年、2002年)の調査結果と比較して診療情報管理の状況の改善しつつあることが示された。しかし、診療情報の電子化については、(1)大部分は電子化されている5.3%、(2)一部が電子化されている9.5%であり、物品管理などの情報についても、電子化されているのは、それぞれ8.6%、18.3%と低率であった。電子化についてはいまだ不十分な状態にあると判断され、その理由について明らかに必要がある。(この部分は「診療情報の統一コーディング対応による診療結果比較に関する研究」(主任研究者河北博文)との協同調査である) また、審査支払機関、国保連合中央会、健康保険組合連合会、日本医師会(ORCAプロジェクト)など、関係者に対してヒアリングを実施し、(1)ステーキホルダー分析、(2)標準化・電子化を進める上での課題についての検討を専門家パネルにより実施した。
結果と考察
韓国は、(1)日本と医療制度、診療報酬支払制度が類似していること、(2)医薬分業、公的保険の統合と破綻、DRGの導入など、1990年代後半から医療制度改革が急速に進んでいる。電子請求は1991年より着手され、1996年から導入、2002年には全レセプトの80%がEDIと呼ばれる電子請求方式で導入されている。EDI導入にあたっては、(1)大統領の強いリーダーシップ、(2)韓国テレコムによるシステム開発、(3)各種のインセンティブ(支払期間の短縮など)が有効に機能した。また、電子請求に対応して、審査支払機関、病院においてマネジメントの変化も生じている。特に審査支
払機関では、大部分はコンピュータ上で瞬時に審査・支払が実施され、アウトライアーにフォーカスをあてた審査が可能となっている。病院においても、単なる入力業務が減少し、看護スタッフの投入による診療内容の正当性を主張するドキュメント作成に注力されるようになってきた。 豪州は7つの州により構成され、支払いは公的病院においてはDRGに基づく予算制度、私的病院においては民間保険会社より1日定額+医師技術料で行われる。その大部分は電子化されており、EDIを運営する会社も複数存在する。審査支払は民間医療保険会社により実施され、コンピュータ上での種々のデータクリーニング手法が用いられている。その他、米国においてプライバシー保護と医療情報の標準化を目的に導入されたHIPPAが、医療情報の標準化に大きな影響を与えている。国レベルではカナダが医療情報の標準化に極めて熱心に取り組んでいる。日本では、医療情報の標準化、診療報酬のオンライン請求に対しては、各機関により取り組みの温度差が見られる。また、自治体レベル独自での追加的な医療保障の存在、電子化を進めるための戦略策定担当部署が設置されていないために制度間で齟齬を生じやすいこと(電子媒体で診療情報を保存・あるいは請求する際に、一部は紙での保存・請求を義務付けられているなど)が問題として指摘される。他方、国保中央連合会、社会保険診療報酬支払基金における人力を駆使した仕分け・集計は効率的にも問題があり、また科学的データに基づく医療政策決定、医療機関経営の妨げにもなっているため、今後は、各国の知見を基に、日本における医療情報の標準化と電子化、診療報酬のオンライン請求の実現を図る方策が検討される必要がある。
結論
本研究は、(1)診療情報の標準化・電子化に向けた各国の政府としての取組み、(2)特に注目される国については事例調査により成功要因を明らかにすること、(3)診療情報の標準化・電子化のもたらす効用、を明らかにするものである。 特に、韓国においては、医療制度が日本に類似しており日本と比較検討しやすいこと、EDI導入にあたって費用対効果などの検討が行われ、データとして公開されていること、から、日本が今後、診療情報の標準化・電子化を進めるに際して、その知見は重要な情報を与えるものである。標準化・電子化については、これまでは散発的な事例報告が行なわれるのみであり、一定のフォーマットに基づいた各国の比較、成功事例についての詳細なケーススタディー、国内のニーズ調査などの解析、定量的な経済分析のいずれもがなされていない。本研究で得られる知見は、e-Japanを進める上で極めて有用な情報を提供するものである。

公開日・更新日

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