電子カルテ導入における標準的な業務フローモデルに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301046A
報告書区分
総括
研究課題名
電子カルテ導入における標準的な業務フローモデルに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
飯田 修平((社)全日本病院協会)
研究分担者(所属機関)
  • 西澤寛俊((社)全日本病院協会)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部)
  • 成松 亮(保健医療福祉情報システム工業会)
  • 大石洋司(練馬総合病院)
  • 小谷野圭子(練馬総合病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
17,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年のコンピュータ技術の発展を背景に、医療機関における診療ならびに経営の質的向上に向けて多くの医療機関に情報システムが導入されているが、その効果が上がっていない場合が多く見受けられる。従来、要求仕様の定義においてはシステムの機能の確認に重点が置かれ、どのような業務形態のもとで個々の機能がどのように使用されるかの議論が充分行われないままシステム開発が行われたために、システム開発完了後に業務フローとの食い違いが発見されシステムが有効に動作しないなどの不都合が発生する場合があった。このような欠点を補うためには機能と共にシステムの利用方法を要求定義上に組み込むことにより、より要求仕様の精度を向上させることができる。したがって、その手段として業務フローモデル(エンタプライズモデル)による要求定義を行うことは極めて有効である。また、個々のユーザにおける要求定義のみならず、標準的なシステムの開発やシステムの変更要求時の要求仕様の定義においても業務フローモデルによる定義は有効である。本研究では、医療機関が情報システムを導入する際の要求定義およびモデル駆動型電子カルテシステムの開発のための要求定義としての業務フローモデルを開発することを目的とする。
研究方法
Ⅰ 本研究の目的である業務フローモデルの開発については(社)全日本病院協会会員である練馬総合病院ならびに保健医療福祉情報システム工業会の協力を得て、医療情報システムならびにモデルのエンジニアによる医療機関の医師や看護師、検査技師等に対するインタビュー形式での情報収集を行い、その情報に基づき現状の業務フローモデル(電子カルテシステムを導入する以前の業務フローモデル)を開発した。業務フローモデルは標準的な開発フレームワークであるRM-ODP(Reference Model for Open Distributed Processing)に基づいて、UML(Unified Modeling Language)のアクティビティ図を使って記述した。次に、この業務フローの各アクティビティに関して、そのアクティビティの基本的なふるまいをもとに電子カルテシステムを導入した場合の望ましいふるまいを検討し、電子カルテ導入後のあるべき業務フローを作成した。なお、本研究では患者が医療機関に来院した場合の受付や登録処理、外来診察室および病棟における診療あるいは看護、そこから各中央診療部に対して行われる指示の伝達、さらに各中央診療部から外来診察室や病棟に対する実施結果の送信の範囲についての調査・検討をしており、各中央診療部内部の業務フローや医師の思考プロセスなどについては行っていない。
Ⅱ 本研究の2年目に計画している、「3.業務フローの収集・分析」と「4.電子カルテエンタプライズモデルの開発」を実施する前提として、練馬総合病院におけるデータや情報を一般化することが必要である。そこで、全日本病院協会会員病院を対象にした医療情報システムの現状に関するアンケート調査を行い、医療機関における医療情報の電子化の現状を把握した。
結果と考察
Ⅰ 業務フローの開発に関する今年度の成果としては、現状の業務フローモデルとして外来13、病棟63の、合計76プロセスのアクティビティ図を作成し、その一部をもとに電子カルテシステムを導入した場合の業務フローを検討しアクティビティ図を作成した。その際、電子カルテ導入時の業務フローを検討する際のポイントに関する考え方の整理を行い、今後、このような検討をする際の着目点を明らかにした。その主たるポイントは、業務で発生する各アクティビティを分析し、業務の効率化としては情報の伝達および複製、医療の安全としては情報の入力(入力と参照:チェック)などが情報システムにより効果的な支援を受けることができ、これらのアクティビティに着目してシステム化を行うことにより、より効果的な情報システム化が実現できる。
Ⅱ 全日本病院協会に所属する全会員病院(会員病院数:2082)に対して、大項目4、中項目各9、4、3、1からなる質問票を配布し、その回答を得た。調査期間は2003年8月28日から9月30日の34日で、208の医療機関から回答を得た(回答率9.99%)。本調査回答施設においては、部門システムの導入に関しては一定の割合で導入が進んでいるが、オーダリングシステム、電子カルテシステムへと導入が進むにつれてその導入の割合は低くなる傾向にある。さらに導入目的も部門システムにおいては業務の効率化に焦点が当てられている一方で、オーダリングシステム、電子カルテシステムは、効率化のみならず、医療の質の向上を目指すことが導入目的である傾向が見られた。
結論
Ⅰ 前述のように、現行業務フロー(76プロセス)の開発と電子カルテ導入時の業務フロー(9プロセス)の開発試行、ならびにその変換に関する考え方の整備を行った。今回のプロセスは練馬総合病院の現状の業務フローを基に電子カルテシステム導入時の業務フローを作成したが、他のいくつかの医療機関でも現状の業務フローの調査をしており、今後これらを反映させることにより、より多くの業務パターンを取り込むことができるようになる予定である。さらに、今回の試行は一部の業務であるが、今後、他のプロセスにも広げて多くの医療機関で活用できるように整備する予定である。また、本業務フローモデルは下流工程である、インフォメーションモデル、コンピュテーショナルモデル、エンジニアリングモデル、テクノロジーモデルに対する要求定義の第1ステップとしての位置づけでもあり、標準的電子カルテの開発に活かす。
Ⅱ 調査結果で特筆すべき点は、電子カルテを導入済みの施設からは、部門システム、オーダリングシステムと比べて、電子カルテシステムへの満足度が低い傾向がみられたことである。この点に関しては、今後より詳細な検討が必要である。満足度に関しては、部門システムの満足度に比して、電子カルテの満足度が低いことは、部門システムなどは業務の効率化に寄与しているが、電子カルテシステムは、いまだ、医療の質の向上に寄与していない、もしくは、期待を下回る程度ということを示している。システムが複雑で大規模の為、その満足にもそれに応じた環境整備が必要で、開発側、利用者側、また、社会基盤の整備がまだ足りないことが考えられる。電子カルテに限らず、情報システム構築においては、運用面の検討が必要である。

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