標準的電子カルテに要求される基本機能の情報モデルの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301039A
報告書区分
総括
研究課題名
標準的電子カルテに要求される基本機能の情報モデルの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
大江 和彦(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 木村通男(浜松医科大学)
  • 岡田美保子(川崎医療福祉大学)
  • 山下芳範(福井大学医学部附属病院)
  • 山本隆一(東京大学大学院情報学環)
  • 近藤克幸(秋田大学医学部附属病院)
  • 小山博史(東京大学大学院医学系研究科・クリニカルバイオインフォマティクス研究ユニット)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
標準的な電子カルテシステムに必要とされる基本的機能を調査・分析し、要素機能を抽出した上で、システムとしての電子カルテのなかで、それらの要素機能がどのように情報を交換しつつ機能するかについて情報モデルを開発する。開発された本研究の情報モデルが、今後開発される電子カルテシステムが持つべき機能の共通基盤的な情報モデルとなることを目的とし、さらにこの共通基盤的な情報モデルにもとづいて開発された多様な電子カルテシステムが相互に情報共有が可能となり、医療の質の向上と効率化に寄与し、もって医療の情報化の効果をあげることを目的とする。
研究方法
2年計画の1年目である本年度は、標準的電子カルテモデリングに必要とされる機能の把握と整理を行うために、代表的なペーパレス電子カルテを運用している国内5病院、米国1病院を対象にして、詳細な仕様資料調査および実地システム調査、使用者および管理者からのヒアリング調査を行った。
国内調査は原則として事前に調査表を送付し調査項目の事前準備を病院側に依頼した後に、1日目にシステムエンジニアによる機能確認 とスクリーニング調査による概要の把握、2日目に実際に利用している医師、情報管理スタッフを対象としたヒアリング、実機操作確認、機能・運用における詳細内容の確認、問題点等の収集などを行った。
実際の国内調査は、2004年01月27~29日(1病院)、02月17~19日(2病院同時並行)、2004年03月02~04日(2病院同時並行)、また米国調査は3月8~9日にメイヨークリニック・ロチェスター病院を対象に実施された。この調査をもとに、必要な機能とその利用方法について検討し、比較表を作成して整理した。
これらの調査にあたっては、効率よく進めるため資料収集と資料整理をコンペにより選定したシンクタンクに委託し、実地調査はシンクタンクの研究員と我々の研究班の分担研究者および研究協力者が共同で実施した。
なお研究協力者は氏名の50音順に、井川澄人(医療法人医誠会病院長)、石部裕一(鳥取大学医学部附属病院長)、小塚和人(昭和大学横浜北部病院医療情報部)、近藤博史(鳥取大学医学部附属病院医療情報部)、澄田有紀(東京大学大学院医学系研究科)、高田真美(東京大学医学部附属病院)、田口進(昭和大学横浜北部病院長)、浜田篤(北里大学大学院)、平井昭(千葉市立青葉病院長)、平井正明(日本光電(株))、福田隆(医療法人医誠会城東中央病院院長)、宮尾陽一(軽井沢町国民健康保険軽井沢病院)である。
結果と考察
調査によりこれらの電子カルテの機能は、診療業務に関わる機能(患者基本情報の管理機能、クリティカルパス機能、オーダ作成、結果管理機能、オーダ承認機能、各種ドキュメント管理機能)、スタッフ間コミュニケーション機能、システム管理機能(利用者管理機能、データ保全管理機能)、診療開始時機能、患者選択機能(入院患者選択、外来患者選択、患者検索)、診療情報管理機能(未確定診療記録の一覧機能、患者ごとのメッセージ提示機能、クリニカルパス)、診療情報提示機能(診療履歴検索選択、内容表示、修正表示、SOAP形式表示)、診療記録機能(プロブレム記録、オーダー関係記録、患者基本情報関連記録、事後入力)、診療記録入力補助機能(テンプレート、定型文、他記録引用入力、他記録参照、シェーマ入力、イメージ取込み、家系図入力)、診療記録修正削除機能、警告機能、診療記録履歴管理機能、教育・研究・分析支援機能、コミュニケーション支援機能、記録ログ(参照歴)管理提示機能、外部出力制御機能、などに分類された。このような詳細な調査は国内で初めてなされたものであり、これらの機能に属する2000項目を超える機能項目が抽出され、それらがどのような場面で使用されているかについての把握ができた。
考察すべき事項として、
1)血液型や感染症情報、アレルギー情報などに関する診療情報の患者基本情報や氏名や連絡先などの患者識別情報について電子保存の3原則を維持できていないシステムがあり、検討課題とすべきである。
2)クリリカルパス機能はその必要性が肯定的に議論されることが多いが、現実にはそれほど使用されておらず、必要性は別としても日常運用に持ち込むには検討すべき課題が多いのが現実であると思われ、今後問題点の抽出をする必要がある。
3)必要であるが運用するのは現実的でないという機能として、検体採取時刻の入力や、実施時刻の入力などいくつかが挙げられ、このような機能をモデリングでどう取り扱うべきかについて検討が必要である。
4)記録情報の網羅的な検索機能や構造的な検索機能が不十分であるシステムが大半であった。これは電子カルテの利便性としてよく主張される機能が現実にがあまり実装されていないと言え、その課題の追求が必要である。
5)プロブレムリストによる診療情報の管理機能は、実装されていても使用していないところがいくつかあり、そのインターフェイスに課題が残されているといえる。
結論
電子カルテの機能は、患者基本情報の管理機能、クリティカルパス機能、オーダ作成と結果管理機能、オーダ承認機能、各種ドキュメント管理機能、スタッフ間コミュニケーション機能、システム管理機能、利用者管理機能、データ保全管理機能、診療記録選択機能、診療記録提示機能、診療記録機能、診療記録入力補助機能、診療記録修正削除機能、警告機能、診療記録履歴管理機能、教育・研究・分析支援機能、コミュニケーション支援機能などに分類された。このような詳細な調査は国内で初めてなされたものであり、これらの機能に属する2000項目を超える機能項目が抽出され、それらがどのような場面で使用されているかについての把握ができた。しかし、これらをモデリングする上で、標準的に装備すべき機能とそうでない機能の分類について、今後さらに議論が必要である。また、必要であるが実装技術あるいは適切なユーザインタフェイスが実現されていない機能についての、モデリング上の取り扱いを検討することが必要である。

公開日・更新日

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更新日
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