精神科領域における医療安全対策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301032A
報告書区分
総括
研究課題名
精神科領域における医療安全対策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 光源(東北福祉大学大学院特別講座精神医学)
研究分担者(所属機関)
  • 南 良武(医療法人(社団)桐葉会木島病院)
  • 東 司(社会福祉法人天心会小阪病院)
  • 山角 駿(財団法人花園病院)
  • 川副泰成(国保旭中央病院神経精神科)
  • 八田耕太郎(順天堂大学医学部精神医学教室)
  • 釜 英介(東京都立松沢病院医療安全対策推進室)
  • 早川幸男(社団法人岐阜病院看護課)
  • 松岡洋夫(東北大学大学院医学系研究科医科学専攻神経科学講座精神神経学分野)
  • 佐藤忠彦(社会福祉法人桜ヶ丘社会事業協会桜ヶ丘記念病院)
  • 柏木 徹(国立療養所鳥取病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は医療事故を未然に防ぐための医療安全推進総合対策の一環として行ったものである。精神科医療には、医療過誤による人身事故に加えて重度の精神症状が主因となる人身事故や、院内の患者処遇のさいの人権問題といった精神科特有の問題があり、そうした特性に配慮した医療安全管理システムを構築する必要がある。それを構築するのが本研究の目標であり、①精神科医療におけるリスク項目、事故・インシデント・アクシデント概念等の整理、②院内事故防止対策のあり方(組織体制や報告制度、研修システムなど)の立案、③行政システムに組み込むべき報告制度と安全対策のあり方の検討を目的とした。
研究方法
①精神科における医療事故のリスク項目を先行研究の中から抽出し、精神科特有のリスク項目について班会議で検討する、②精神科関連団体(所属学会や任意に抽出した協力施設)を対象に質問紙法で医療安全管理対策実施の現状と問題点を調査する、③精神科安全管理システム構築に必要な医療安全管理の関連資料を収集する。
(倫理面への配慮)研究の実施にあたっては、個人情報は匿名化して取り扱い、また主任研究者が所属する施設の倫理審査会に諮り、その承認に基づいて実施するなど、倫理面に十分配慮して研究を行う。
結果と考察
研究成果=1.精神科特有の医療安全リスクについて
先行研究にみられる精神科医療におけるリスク項目を整理し、精神科医療に特有のもの(精神保健福祉法に定められた遵守事項の不備、閉鎖病棟や隔離室での事故、身体拘束中の事故、外出・外泊時の事故など)と精神疾患に関連した問題行動(自分自身への危害、他人への危害、その他の問題行動など)を整理した。(序文にも関連事項を記載したので参照のこと)
2.精神科病院における医療安全対策の現状と課題
37精神科病院を対象にして医療安全管理についてアンケート調査を行った。その結果、同安全管理対策は組織としては整備されていたもののその活動内容には大きな格差がみられ、事故報告の手順を含めて機能に関する課題を残していた。事故内容をみると、転倒・転落、誤薬、無断離院、患者間トラブル、自傷(自殺)が上位を占め、件数は少ないが危険物の持ち込み、火災(出火)、飲酒、異物の摂取(異食)、鍵のかけ忘れ、金銭トラブル、盗難などの精神科特有と思われる事故報告がみられた。インシデント・アクシデント報告に関する基準や手順を含め、統一したガイドライン策定が必要である。
3.精神科看護における医療安全対策
東京都立病院で使用している統一フォーマットを用いて6施設の医療事故データを収集し、175通の回答(インシデント10件、アクシデント165件)を得た。措置入院1件、医療保護入院76件、任意入院98件で、事故の内容は転倒・転落56件、誤薬51件、食事関連9件、その他58件(無断離院15件、暴行20件、自殺・自殺企図6件、患者間トラブル2件、その他8件)であった。また、医療安全対策委員会の設置は全ての施設が行っており、委員会の構成メンバーは看護師、薬剤師、事務職員がいずれも9割を超えた。ついで医師、管理栄養士、院長の順であった。ただし、委員会の責任者には院長が最も多く、9割以上は医師が責任者になっていた。委員会の開催頻度は月1回が9割以上であり、教育の実施は98%、独自のマニュアルを作成していた施設が9割近くを占めた。 
4.東北大学病院等の医療安全管理システムについて
東北大学病院では、病院全体の医療安全管理システムが構築されており、医療安全推進室を中心にしてリスクマネジャー会議、インシデント審議部会、広報・教育部会、マニュアル作成部会、標準化作業部会、褥瘡対策チームが統合されており、さらに外部評価委員会が設置されていた。また、①医療安全取り組み宣言の会を開催、②医療安全に関する研修受講シールの発行、③複数の職種で構成したプロジェクトチームの結成、④インシデントに対する具体的なフィードバック、⑤quality control的問題解決法の普及が効果的であったと指摘された。
このほか、桜ヶ丘記念病院や国立療養所鳥取病院において作成されてきた医療安全管理指針ないしマニュアルを検討した。また、収集した文献・資料に収載された各医療機関の精神科医療安全管理システムを分析し、次年度の医療安全管理システムの立案に備えた。
考察=身体各科における医療過誤中心の医療事故防止対策はもちろんのこと、精神科医療では重度の精神症状が関連した人身事故や精神保健福祉法に準拠した入院形態や医療・処遇体制などを考慮した安全管理システムを構築する必要があることが示された。今回の先行研究の文献的な検討や精神病院を対象とした質問紙法による調査結果はそれを裏付けるとともに、大多数の精神科病院ですでに医療安全管理システムが設置され、医療安全管理マニュアルが作成されている現状が明らかにされた。
精神科医療安全におけるリスク項目をみると、一般診療科でみられるような医療過誤とは別に、精神症状が関連した人身事故の報告がみられた。後者の予防に関しては、今回の調査ではその詳細が明らかでないが、事故防止のために行う非自発的入院や精神保健福祉法に準拠した入院手続き、保護室への隔離や身体拘束など患者の処遇に関連する人権侵害や人身事故の問題がとくに重要である。精神科における入院医療が精神保健福祉法のもとで行われ、しかも医療法で医療従事者定数が一般診療科よりも著しく低水準に定められている現状(精神科特例)があり、実効ある医療安全管理システムを構築するために解決すべき問題は少なくない。
このため精神科医療の安全管理対策の構築にあたっては、個人責任を伴う医療過誤か否かを問う視点から切り離し、精神科における入院患者の人身事故防止に焦点をあてて事故報告を速やかに行える体制を備えた事故防止システムを策定することが必要である。医療安全対策検討会議は、「誤り」に対する個人の責任追及よりも起こった「誤り」の原因を明らかにしてその防止策を講じることを重視している。しかしながら、起こった「誤り」とするよりも、まず「人身事故」としてインシデント・アクシデント報告を円滑にするのが精神科医療では先決であると考えられる。
結論

公開日・更新日

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