電子カルテのための処方設計支援システムの基礎技術の研究とコンポーネントの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301020A
報告書区分
総括
研究課題名
電子カルテのための処方設計支援システムの基礎技術の研究とコンポーネントの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
澤田 康文(九州大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大谷壽一(九州大学)
  • 折井孝男(NTT 東日本関東病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
9,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品による薬害(副作用、薬物有害反応) は、極めて大きな社会的損失をもたらす。一方で、米国健康管理研究局 (AHRQ) のレポートによれば、処方作成を適切に電算化することにより、薬害の大半は防止可能であると報告している。すなわち、有効、安全、かつ経済的にも優れた医療を実現するためには、処方作成・処方チェックが正しく行われる必要があり、そこに医療の IT 化が果たす役割が非常に大きいことがすでに明らかになっている。
近年では、医療情報システムの一環として電子カルテシステムの開発が急がれており、そのための処方設計支援コンポーネントの開発は焦眉の急と言える。そのために本研究においては、既存の、または将来開発されるであろう電子カルテに対応するために、さまざまな医学・薬学的エビデンスを活用できるような処方チェックコンポーネントと、その動作に最適なデータベースを設計・試作することを目的とした。また同時に、処方ミスを最小限に抑えるための処方オーダリングにおけるマン・マシンインターフェースを設計することも併せて目的とした。
研究方法
実際の処方せんや医療ミスの事例を解析し、処方チェック支援のためのアルゴリズム体系を構築するとともに、処方チェックに必要な医薬品情報データベースの構造を設計し、システムのプロトタイプを試作した。また、投薬ミスを防止するための、処方オーダリングにおけるマンマシンインターフェースの基礎設計についても行った。まず、協力者(医療機関の薬剤部等)より、処方チェックが行われた実際の処方せんの写し(個人名等が消除されたもの)を入手した。また、主任研究者らが主催する「インターネットを用いた薬剤師間情報交換システム」を継続的に運用することにより、処方チェック実例136例を含む 300 例近くの事例を、収集・解析した(本研究年度以前に主任研究者が独自に収集した事例の再解析も含む)。続いて、これらの処方せんのチェック内容を精査し、チェックのパターン化・分類を行った。同時に、処方チェックに必要な患者情報についても、解析を行った。
これと並行して、処方チェックのために最適な形で添付文書をデータベース化するためのデータベース構造の設計・試作を行った。特に、いままで添付文書のデータベース化は、主としてテキストベースで行われていたが、処方チェックに必要という観点から、フィールドフォーマットの決定、コード化、数値化等の必要性と可能性の面から検討を加え、新たに構築する必要性が高いデータベースの種類と構造を決定した。最後に、構築した処方チェックアルゴリズムと設計したデータベースをもとに、プロトタイプの一つとして、「同一の副作用を有する薬剤が複数処方された場合のチェック」及び「医薬品名の取り違えに関するチェック」を防止するためのチェックシステムの試作を試みた。
処方オーダリングにおけるマン・マシンインターフェースについては、まず、全国の薬剤師に対して、実際に経験した医師による薬名類似に基づく処方ミスに関するアンケート調査を行った。今まで、類似薬名の取り違えによる投薬ミスの事例は、「医師による処方ミス」と「薬剤師による調剤ミス」に分けて解析されていなかったため、これらを分けてアンケートをとり、前者について解析した。続いて、これらの結果と、医療現場における聞き取り調査をもとに、処方オーダリングにおける標準マン・マシンインターフェースの提唱を試みた。
結果と考察
収集した処方せんのチェック内容を精査し、チェックのパターン化・分類を行った。この際、処方チェックシステムの構築を念頭にさまざまな分類方法を検討した結果、処方チェックの根拠となる情報の種類に基づいて分類することが最も的確であると考えられた。このため、処方チェックのパターンを、チェックの根拠となる主要な情報が記載されている医療用添付文書の項目に基づいて分類した。その結果、処方チェックのパターンは、1) 販売名・一般名、2) 組成・製剤・有効成分、3) 効能・効果、4) 用法・用量、5) 疾患に対する禁忌・慎重投与、6) 生理状態に対する禁忌・慎重投与、7) 相互作用、8) 副作用 という 8 大項目に分類できた。さらに、各項目は計75種の処方チェックアルゴリズムに細分類できた。また、そのために必要なデータベースとしては、既存の医療用添付文書のデータベース(数値化やコード化等が施されていないテキストベースのもの)に加え、添付文書をもとにした、副作用データベース、効能効果補助データベース、相互作用データベース、相互作用用語定義データベース、用量データベース、薬効構造分類データベース、基本薬物動態データベース、禁忌・慎重投与データベースなどが必要性が高いことがわかった。また、添付文書のみに基づかないデータベースとして、薬名類似度データベース、処方関連度データベース、並びに詳細薬物動態データベースも必要性が高いことがわかった。そのため、これらのデータベースの構造を設計し、提案することとした。設計したデータベースと処方チェックアルゴリズムをもとに、「同一の副作用を有する薬剤が複数処方された場合のチェック」及び「医薬品名の取り違えに関するチェック」を行うためのチェックシステムのプロトタイプをパーソナルコンピュータ上で作成した。
マン・マシンインターフェースに関しては、アンケート調査の結果、入力ミスの大多数は、入力方法を先頭3文字入力とすることで防止可能であることが改めて確認された。しかしながら、先頭3文字入力を導入しても防ぐことが出来ない組み合わせも多く、また、薬名の類似による医師の「思い違い」については防止できないこと、などを考慮すると、前述の「薬名類似度」と「処方関連度」から「医薬品名の取り違え」をチェックするシステムは有効と考えられた。また、処方注意薬剤を規定するとともに、注意薬剤の入力におけるステップや、画面・処方せん上での表示法の統一、同一商標内における規格・剤形・単位の選択ミス、用法・用量の入力ミス、服用時期の入力ミス、口頭指示による代理処方入力(認証問題)によるミス、などを最小限にするための全国統一の標準マン・マシンインターフェースを規定する必要が考えられた。
結論
今後電子カルテにおける処方チェック支援システムにおいて具備すべき内容と、そのためのアルゴリズム、データベースの基本構造、さらには処方オーダリングにおけるマン・マシンインターフェースを設計することが出来た。今回の我々の提案により、処方チェックシステム構築におけるコンポーネント、データベース、マン・マシンインターフェースの統一が図られ、処方チェックシステムの開発を効率的に進めることが出来るようになるだろう。

公開日・更新日

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