医療事故の全国的発生頻度に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301000A
報告書区分
総括
研究課題名
医療事故の全国的発生頻度に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
堺 秀人(東海大学医学部付属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川敏彦(国立保健医療科学院)
  • 大道 久(日本大学医学部医療管理学)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部公衆衛生学)
  • 池田俊也(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学)
  • 平尾智広(香川大学医学部医療管理学)
  • 中田かおり(国立看護大学校成育看護学)
  • 落合慈之(NTT東日本関東病院)
  • 土谷晋一郎(土谷総合病院)
  • 髙野 繁(日本眼科医会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
44,040,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における医療事故発生に予防・対応し、医療の質を高めるためには、医療安全に関する総合的な対策の基盤を整備することが求められている。現在、インシデントレポートの収集によって、その発生頻度や内容や背景など、ケーススタディによる対策がなされているが、実際には各団体や医療機関にゆだねられており、全国的な医療事故の発生頻度について、把握されていないのが現状である。しかし、厚生労働省「医療に係る事故事例情報の取り扱いに関する検討部会」報告書(平成15年4月15日)においては、「わが国においても、諸外国の例を参考としつつ、事故の発生状況の把握のための調査研究を早急に開始すべきである」と記されており、わが国においても医療事故の全国発生頻度の把握に関する方法論の開発が急務となっている。よって、本研究は、豪州の調査方法を参考に、わが国における医療事故の発生頻度ならびに予防可能性を全国的に把握するための信頼性のある方法論を検討することを目的とした。
研究方法
本研究では運営検討委員会を設置し、全体の研究方針を検討した。運営検討委員は、医療関係、法曹界、患者代表やマスコミなど幅広い立場のメンバーで構成され、そこでの審議は公開でおこなわれた。具体的な研究方法は以下の通りである。(1)文献調査:米国、豪州、英国などの諸外国の先行研究について文献調査を実施し、有害事象の判定基準および結果について比較検討を行った。(2)専門家ヒアリング:先行研究を行った米国と豪州の研究者へのインタビュー調査を行った。(3)医事紛争に関する事例調査:平成14年度に全国の都道府県眼科医会に報告された医事紛争を集計し、その内容について分析した。(4)パイロットスタディ:手法の検証を目的に、本研究の趣旨に賛同し、かつ院内倫理委員会の承認が得られた2病院を調査対象病院として次の通り実施した。①カルテの抽出:平成14年度の退院患者(精神科を除く)の診療記録の中から、無作為抽出された100冊とインシデント・アクシデントレポートが提出された100冊の200冊を抽出し調査対象とした。②カルテレビュー:看護師2名が独立して、有害事象を判断するための評価シートに基づいて評価し、結果を比較した。さらに、同一のカルテを閲覧し、看護師の評価の信頼性について検討した。上記の結果とインシデント・アクシデントレポートを照合し、調査方法の妥当性を検討した。(5)予備的調査:倫理委員会を設置し、診療情報管理士を配置している、研究の趣旨に賛同した7病院を調査対象病院として(匿名性の担保のため病院名は非公開)次の通り実施した。①カルテの抽出:上記の調査対象病院の平成14年度に退院した患者の診療記録から、100冊無作為抽出した。②カルテレビュー:本研究で把握する有害事象とは、患者への意図せぬ傷害や合併症で、一時的または永久的な障害(となったものであり)、疾病の経過でなく、医療との因果関係がある障害と定義した。その定義により本研究では、一般に言われる医療事故に限らず、患者にとって不利益が生じたものすべてを有害事象として把握している。また、有害事象の判定にあたっては、豪州で用いられた基準をそのまま適用する方法(豪州基準)に加え、厚生労働省「医療事故報告の範囲に関する検討委員会」で示された「医療事故の報告範囲」との整合性をはかるため、「本来予定
されていなかった濃厚な処置や治療が新たに必要になった」場合を加えた方法(日本基準)の二通りについて結果を算出した。カルテレビューは第一次レビューと第二次レビューの二段階方式で実施された。第一次レビューは看護師によっておこなわれ、18のスクリーニング基準に該当するか否かを判定した。第二次レビューは医師によっておこなわれ、第一次レビューで基準に該当する症例について、因果関係と予防可能性について判定をおこなった。ここでさらに、検討が必要な症例については、学会から推薦された専門の医師との討議を踏まえ、最終的な判定がなされた。なお、調査の実施にあたっては、倫理的な配慮として各病院の倫理委員会による調査に関する審査と承認を仰ぎ、診療情報等が記載された評価シートは解析終了時には破棄すること、診療録の閲覧ならびに抽出作業は対象となった病院内で実施すること、各診療録には病院ごとに通し番号を付して全ての調査はこの通し番号で行い、通し番号と診療録との対応リストは当該病院のみが保持することを遵守した。さらに、調査に関与する医師・看護師および事務局は、患者の情報秘匿についての誓約文章を病院側と交わし、解析結果は統計的処理を行ったうえで集計値を公表し、病院ならびに個人を特定できるかたちでの公表は行わないこととした。
結果と考察
(1)文献調査:米国、豪州、英国、フランスなどの諸外国の先行研究事例の文献調査をレビューし、その方法論と結果について比較し、本調査のカルテレビューの基準や定義など、調査設計に資する知見を得ることができた。(2)専門家ヒアリング:平成15年8月に米国、平成15年10月に豪州を訪問し、医療事故の頻度を把握する研究を先行して実施している研究者との意見交換をおこない、本研究実施にあたり、研究の方法論について整合を図った。(3)医事紛争に関する事例調査:平成14年度に全国の都道府県眼科医会に報告された眼科医事紛争は63件で、都市部に多い傾向が見られた。医事紛争の内容としては、手術に関するものが61.9%と多くを占めていた。(4)パイロットスタディ:2病院におけるレビュー者の判定結果は、概ね良好な一致率を示し、本研究において作成した有害事象のスクリーニング基準やレビュー者向けのマニュアルの信頼性が確認された。(5)予備調査:看護師による第一次レビューの結果、18の基準のいずれかに該当すると判断された症例は253症例で、判定基準数は429件であった。次に、医師による第二次レビューの結果、最終的に有害事象と判定された症例は豪州基準で76例、日本基準85例であった。以上から、有害事象の発生率は、豪州基準では、10.9%、日本基準では12.1%と算定された。この値は、わが国全体の数値を反映するものではないものの、同様の手法で実施された諸外国の医療事故頻度調査(豪州:16.6%、ニュージーランド:12.9%)の結果と同水準であり、その方法の適正性を示すものであると考えられる。
結論
本研究では、医療事故の発生頻度ならびに予防可能性を全国的に把握するための方法論を確立することを目的として、有害事象の基準設定及びカルテレビューのための評価マニュアル作成を行い、7施設でのカルテレビューを実施した。レビューの信頼性の検証結果から、開発した調査方法の妥当性、信頼性が示された。また、有害事象の発生率は10.9%(豪州基準の場合)と算定され、全国の状況を反映するものではないが、海外の先行研究と概ね同様の結果が得られた。

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