文献情報
文献番号
200300865A
報告書区分
総括
研究課題名
放射線診療における患者と術者の安全性確保についての研究(総括報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
古井 滋(帝京大学)
研究分担者(所属機関)
- 岡崎正敏(福岡大学)
- 中村仁信(大阪大学)
- 坂本力(公立甲賀病院)
- 石口恒男(愛知医科大学)
- 一色高明(帝京大学)
- 中川恵一(東京大学)
- 竹部英紀(虎の門病院)
- 成田雄一郎(千葉県立がんセンター)
- 諸澄邦彦(埼玉県立がんセンター)
- 山口一郎(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医薬安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
患者および医療従事者に十分な安全を確保して、質の高いinterventional radiology (IVR)と、高エネルギー放射線発生装置を用いた放射線治療を実現するための効果的な行政施策を明らかにする。
研究方法
(1) 循環器領域のIVRであるアブレーション11件で患者被ばくと術者被ばくを測定した。(2) 脳血管塞栓術8件で装置の自動照射記録データを用い、モンテカルロ法により患者被ばくを推計した。(3) X線CT 透視について、装置のX 線出力測定、CT 透視18件での患者被ばくと術者被ばくの測定、モンテカルロ法による患者被ばくの推計を行った。(4) IVRによる患者の皮膚被ばくをリアルタイムに推定する手段として、機能性色素を用いた放射線インジケータの可能性を検討した。 (5) 昨年度に報告した、脳血管塞栓術、経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention: PCI)、肝動注カテーテル留置術における患者被ばくと術者被ばくについて、X線の実効エネルギーを考慮した測定値の補正を行い、被ばく線量を再検討した。(6)納入業者とユーザの両者を対象とする「高エネルギー放射線治療システム受渡ガイドライン案」を作成した。(7) 「強度変調放射線治療(IMRT)の精度管理ガイドライン案」を作成した。 (8) 国立弘前病院での過剰照射事故についての調査結果を分析、原因と防止策を検討した。
結果と考察
(1) アブレーションにおける患者皮膚被ばくの最大値は81~911mGy(平均412mGy)であった。術者被ばくの実効線量は0.00~0.04mSvであり、実施回数を考慮しても線量限度を十分に下まわっていた。 (2) モンテカルロ法で推計した脳血管塞栓術での患者被ばくの実効線量は6.3~70mSv(平均28mSv)であり、確率的影響のリスクは小さいことが確認された。 (3) CT装置の出力測定の結果から、標準的なCT透視による皮膚被ばく線量は実効稼働負荷1000mAsあたり約0.3Gyと推定された。CT透視(20~178秒)を行った18例で測定した皮膚被ばく線量は、躯幹の側面が6~210mGy(平均54mGy)、背面が1~90mGy(平均36mGy)であり、確定的影響の閾値を大きく下まわっていた。 これらのCT透視における術者の被ばくは眼の水晶体0.00~0.07mSv(平均0.03mSv)、手指0.00~1.20mSv(平均0.10mSv)、実効線量0.00~0.08mSv (平均0.03mSv)であり、実施回数を考慮しても線量限度を大きく下まわっていた。モンテカルロ法で求めた透視時間100秒の胸腹部領域のCT透視による患者被ばくの実効線量は2mSv前後であり、最近の装置を用いた診断目的のCTよりも少なかった。
(4) 機能性色素を用いた放射線インジケータは0.3Gyの照射(透視または撮影)で肉眼的に明確な色素変化を示し、2.5Gyまでの段階的な照射で色素変化の程度が増加した。脳血管塞栓術を行った1例では、紙製の帽子の表面28か所にこれを配置したが、11か所で色素変化が見られ、4か所ではその程度から2.0Gyを超える皮膚被ばくが推定された。放射線インジケータはIVRによる患者被ばくの評価手段として普及する可能性がある。(5)再検討によって得られた患者の皮膚吸収線量の最大値は、脳血管塞栓術で22~1353mGy (平均569mGy)、PCIで31~869mGy (平均223mGy)、肝動注カテーテル留置術で4~2675mGy (平均671mGy)であり、1回の被ばくが多い場合や、繰り返し手技を受ける場合には皮膚に確定的影響(紅斑、脱毛、潰瘍など)を生じ得ることが示された。また、術者被ばくの実効線量は、脳血管塞栓術で0.00~0.11mSv (平均0.04mSv)、PCIで0.00~0.24mSv (平均0.04mSv)、肝動注カテーテル術留置術で0.00~0.14mSv (平均0.04mSv)であり、実施回数を考慮した年間の被ばくは平均値で考えれば線量限度を大きく下回っていた。但し、IVRを行う医師は数多くの手技に携わるため、十分な被ばくの低減策を講じるべきである。(6) 「高エネルギー放射線治療システム受渡ガイドライン案」では、診療用高エネルギー放射線発生装置、放射線治療計画装置、CTシミュレータ、X線シミュレータを適用装置とし、接続試験、受渡し試験、線量測定・モデリング、総合試験、保守・点検、システム変更・更新を適用事項とした。このガイドライン案は、ユーザ側と納入業者側の両者に対して、確認すべき事項や作業事項、確認方法や作業内容、注意事項など明示し、責任の所在を明らかにしており、これによって人為的なミスを防止し、放射線治療の品質を維持向上することを目的としている。(7) 「強度変調放射線治療の精度管理ガイドライン案」は、「強度変調放射線治療を施行するための義務」、「高エネルギーX線発生装置の保守管理」、「多分割コリメータの保守管理」、「三次元治療計画装置の保守管理」、「事前の線量検証」の項目から成る。強度変調放射線治療では従来に比べて厳密な精度管理が要求される。これ行う施設ではガイドライン案などに準拠した精度管理マニュアルの整備が必要である。(8) 国立弘前病院の過剰照射事故は、治療担当の医師と技師の間で線量表示に対する解釈が異なった(医師は最大線量を100%とした線量分布を考えて処方線量を指示したが、技師はアイソセンターを100%とする線量分布を想定して治療計画を行った)ために発生した。過剰照射の総数は325件、対象患者は276名であり、過剰照射の程度(実照射線量/処方線量)は1.05未満が50件、1.05~1.15が182件、1.15~1.25が59件、1.25以上が28件であった。また、ICRP などの提案に準じた患者のクラス分類では、クラスI(健康障害が発生する可能性がある)が191例、クラスII(健康障害の危険性が少ない)が85例であった。治療線量の表示法については、アイソセンターを基準とする表示を規定したICRUと日本放射線腫瘍学会のレポートがあり、医師と技師がこれを熟知していれば事故は防げたはずである。今回の事故は初歩的なミスによるものであり、わが国の放射線治療の精度管理やリスクマネジメントの問題点を暴露している。今後の改善策としては、放射線治療のガイドライン、マニュアルの整備とともに、第三者的評価機構などのチェックシステムの確立が重要である。
(4) 機能性色素を用いた放射線インジケータは0.3Gyの照射(透視または撮影)で肉眼的に明確な色素変化を示し、2.5Gyまでの段階的な照射で色素変化の程度が増加した。脳血管塞栓術を行った1例では、紙製の帽子の表面28か所にこれを配置したが、11か所で色素変化が見られ、4か所ではその程度から2.0Gyを超える皮膚被ばくが推定された。放射線インジケータはIVRによる患者被ばくの評価手段として普及する可能性がある。(5)再検討によって得られた患者の皮膚吸収線量の最大値は、脳血管塞栓術で22~1353mGy (平均569mGy)、PCIで31~869mGy (平均223mGy)、肝動注カテーテル留置術で4~2675mGy (平均671mGy)であり、1回の被ばくが多い場合や、繰り返し手技を受ける場合には皮膚に確定的影響(紅斑、脱毛、潰瘍など)を生じ得ることが示された。また、術者被ばくの実効線量は、脳血管塞栓術で0.00~0.11mSv (平均0.04mSv)、PCIで0.00~0.24mSv (平均0.04mSv)、肝動注カテーテル術留置術で0.00~0.14mSv (平均0.04mSv)であり、実施回数を考慮した年間の被ばくは平均値で考えれば線量限度を大きく下回っていた。但し、IVRを行う医師は数多くの手技に携わるため、十分な被ばくの低減策を講じるべきである。(6) 「高エネルギー放射線治療システム受渡ガイドライン案」では、診療用高エネルギー放射線発生装置、放射線治療計画装置、CTシミュレータ、X線シミュレータを適用装置とし、接続試験、受渡し試験、線量測定・モデリング、総合試験、保守・点検、システム変更・更新を適用事項とした。このガイドライン案は、ユーザ側と納入業者側の両者に対して、確認すべき事項や作業事項、確認方法や作業内容、注意事項など明示し、責任の所在を明らかにしており、これによって人為的なミスを防止し、放射線治療の品質を維持向上することを目的としている。(7) 「強度変調放射線治療の精度管理ガイドライン案」は、「強度変調放射線治療を施行するための義務」、「高エネルギーX線発生装置の保守管理」、「多分割コリメータの保守管理」、「三次元治療計画装置の保守管理」、「事前の線量検証」の項目から成る。強度変調放射線治療では従来に比べて厳密な精度管理が要求される。これ行う施設ではガイドライン案などに準拠した精度管理マニュアルの整備が必要である。(8) 国立弘前病院の過剰照射事故は、治療担当の医師と技師の間で線量表示に対する解釈が異なった(医師は最大線量を100%とした線量分布を考えて処方線量を指示したが、技師はアイソセンターを100%とする線量分布を想定して治療計画を行った)ために発生した。過剰照射の総数は325件、対象患者は276名であり、過剰照射の程度(実照射線量/処方線量)は1.05未満が50件、1.05~1.15が182件、1.15~1.25が59件、1.25以上が28件であった。また、ICRP などの提案に準じた患者のクラス分類では、クラスI(健康障害が発生する可能性がある)が191例、クラスII(健康障害の危険性が少ない)が85例であった。治療線量の表示法については、アイソセンターを基準とする表示を規定したICRUと日本放射線腫瘍学会のレポートがあり、医師と技師がこれを熟知していれば事故は防げたはずである。今回の事故は初歩的なミスによるものであり、わが国の放射線治療の精度管理やリスクマネジメントの問題点を暴露している。今後の改善策としては、放射線治療のガイドライン、マニュアルの整備とともに、第三者的評価機構などのチェックシステムの確立が重要である。
結論
(a) 血管系のIVR(脳血管塞栓術、PCI、アブレーション、肝動注カテーテル留置術)では患者皮膚被ばくが1Gyを超える場合があり、皮膚に確定的影響を生じ得る。 (b) 脳血管塞栓術での患者被ばくの実効線量は比較的少なかった. (c) CT透視での患者皮膚被ばくは確定的影響の閾値を大きく下まわっていた。(d)血管系のIVR、CT透視での術者被ばくは実施回数を考慮しても線量限度を下回っていた。 (e) 放射線インジケータはIVRにおける患者の皮膚被ばく線量の推定に有用と考えられた。(f)「高エネルギー放射線治療システム受渡ガイドライン案」にそった受渡では、納入業者とユーザのミスが防止され、放射線治療の品質維持が得られる。(g)「強度変調放射線治療の精度管理ガイドライン案」を提案した。この治療法を行う施設ではガイドライン案などに準拠した質の高い精度管理が必要である。(h) 国立弘前病院での過剰照射事故はわが国の放射線治療の精度管理の問題点を暴露している。改善策としては、放射線治療のガイドライン、マニュアルの整備とともに、第三者的評価機構などのチェックシステムの確立が重要である。
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