文献情報
文献番号
200300862A
報告書区分
総括
研究課題名
集中治療部門(ICU、NICU)等、易感染性患者の治療を担う部門における院内感染防止対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
武澤 純(名古屋大学大学院医学系研究科機能構築医学専攻生体管理医学講座救急・集中治療医学)
研究分担者(所属機関)
- 土手健太郎(愛媛大学)
- 瀬川 一(京都大学)
- 佐藤和夫(国立病院九州医療センター)
- 岡田邦彦(佐久総合病院)
- 榊原陽子(名古屋大学)
- 茨 聡(鹿児島市立病院周産期医療センター)
- 志賀清悟(順天堂大学伊豆長岡病院新生児センター)
- 吉田勝美(聖マリアンナ医科大学)
- 境田康二(船橋市立医療センター)
- 北島博之(大阪府立母子保健総合医療センター)
- 星邦彦(東北大学)
- 中山英樹(福岡市立こども病院)
- 側島久典(名古屋市立大学)
- 早川昌弘(名古屋大学周産母子センター)
- 荒川宜親(国立感染症研究所)
- 亀田佳哉(聖マリアンナ医科大学周産期センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医薬安全総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業のICU部門とNICU部門で収集した患者重症度や感染リスクで標準化されたデータに加えて、診療機能に関する施設属性データや衛生管理など院内感染対策データを収集し、①院内感染のリスク因子の抽出とその重み付けを行う。②院内感染対策に関する臨床指標を用いた施設間比較の方法を確立する。③リスク因子に関する新たらしい対策の提起を行い、システムとしての院内感染対策の向上をはかることを目的とした。
研究方法
ICU部門研究班では、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業ICU部門に参加するすべての施設を対象とした院内感染に関する臨床指標を検討した。臨床指標として①リスクで標準化された施設間比較が行えること、②全体のバラツキが同時に表示できること、③プロセス評価とアウトカム評価を含ませることとした。NICU部門研究班では入力支援ソフトの改良とデータ自動取り込みシステム(ソフト)を開発した。加えて、各分担研究者はこれまでの各施設のサーベイランスデータに基づく、自施設の院内感染対策の評価も行った。
結果と考察
ICU部門研究班では、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業ICU部門に参加するすべての施設を対象として院内感染に関する臨床指標の確定とその指標に基づく施設間比較法を確定した。従来は厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業ICU部門に参加した施設に対する還元情報が院内感染発症数と起炎菌だけに限定した月報に加えて参加施設全体の院内感染に関する平均値を示すだけの季報および年報であった。このため、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業ICU部門に参加する全ての施設に対して、臨床指標を用いた施設間比較結果を還元することとした。ただし、施設名は公表せずに参加施設だけの情報を参加施設にだけ提示することとした。NICU部門研究班では入力支援ソフトの改良と病院情報システム(HIS)からのデータ自動取り込みシステムを開発した。また、これまでに各施設で蓄積された院内感染に関する臨床指標を用いた院内感染の発生状況とリスク因子に関する研究成果は以下の分担研究者報告にみられるとおりである。
星は閉鎖式吸引装置の人工呼吸器関連肺炎(VAP)への影響を検討し、VAPの発生頻度に変化が見られないことに加えて、操作の簡便性と安全性の観点から、閉鎖式吸引装置の有用性を示唆した。今後は本装置の有用性を費用対効果の点から検討を加えることが必要となる。吉田は厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業ICU部門のICU部門研究班で収集した7734件のデータを解析し、ICU内での院内感染の発症には感染リスクと患者重症度に加えて、施設診療機能の評価が必要であるとの指摘をおこなった。この施設診療機能評価は院内感染だけではなく、ICUのPerformance measurementとして発展する可能性が高く、本邦では初めての試みである。榊原は院内感染の経済損失を包括評価と出来高の差額で検討し、MRSAによる院内感染では患者1人当たり、100?150万の経済損失が病院として計上されることを明らかにした。ただし、院内感染による国民の医療負担は院内感染によって在院日数が延長したことも加わるため、その損失は患者1人当たり200万円程度になると予想された。岡田は地域基幹病院ICUでの院内感染の発生状況を調査し、救急外来から直接搬送された患者および一般病棟からICUに搬送された患者で院内感染の発生頻度が高いことを報告し、入室時の重症度が院内感染のリスク因子であることを推察した。瀬川は肝移植の患者が24%を占めるICUでの院内感染を検討し、肝移植患者では約50%に何らかの院内感染が併発し、ICUに再入室となった患者ではその死亡率が80%に及ぶため、肝移植患者の院内感染対策は重要課題であることを報告した。これは日本全国の共通課題であり、今後、肝移植に焦点を当てた院内感染に対する疫学調査が必要である。土手はICU改築の前後での院内感染のICUでの発生頻度を比較して、ICU建造物の環境衛生の変化は大きな問題ではないことを報告した。境田は腎不全によるCHDF施行患者において副作用の合併を抑えながら、安全にバンコマイシンを使用するためには、血中濃度(ピーク、トラフ)から薬物動態解析を行い、投与量を適宜、変更する必要性を指摘した。荒川は国内で同時多発性の血流感染の原因となったSerratiaやEnterobacterなどに近縁の、腸内細菌科のEscherichia(大腸菌群)やKlebsiella(肺炎桿菌など)における基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)の産生株、特にブドウ糖非発酵菌の代表であるPseudomonas(緑膿菌)などのグラム陰性桿菌で多剤耐性の細菌による院内感染に注意が必要であるとした。佐藤はNICUでのMRSAによる院内感染に対してPFEG法による遺伝子解析を行い、依然として同じタイプによる院内感染が発症していることが報告され、これを低下させるためには手袋の着用が有効であると推察した。茨は超低出生体重児のカンジダ腸炎に代表されるカンジダ院内感染症に対する便のグラム染色に基づく、予防的な抗菌薬投与の有用性に関して検討した。志賀は文献検索からNICUでの院内感染の発生頻度を検討し、この20年間で文献的には発生頻度の変化は見られないことを報告した。ただし、院内感染に関する論文発表はそれを差し控えるインセンティブが働くため、論文検索からの発生頻度の概算には限界があり、正確な数字を出すためには継続的なサーベイランスが必要である。吉田はNICUにおける院内感染の発症に関する症例?対照研究を行い、極低出生体重、多胎、院外出生、中心静脈カテーテル、人工換気が院内感染の発症に関与していることを報告した。この結果は本邦のNICU患者を対象として初めて統計学的にリスク因子が同定された点で大きな意味を持つ。亀田はカンガルーケアーにおける細菌叢の検討を行い、母体の病原性を持つ細菌が患児に証明された症例もみられたが、低出生体重児でも母親からの伝達により健常な細菌叢が形成され、NICUでの院内感染予防の一部となりうることを報告した。北島は正常新生児がケアされる母性病棟(東・西)とNICUで、MRSAコアグラーゼIII型菌によるSSSS発症が集団発生したため、その疫学調査を行った。その結果、保菌検査にて分娩部職員1名が同型の菌を保菌していることが判明した。当該職員は蓄膿症であり、バク
トロバン軟膏にて鼻腔の除菌対策を行った。一方、細菌学的にはパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)にて、患児と職員のMRSA株18株の検査を施行し、同一株と判明した。中山は室内の殺菌清掃および手袋着用の徹底により、環境付着菌へ及ぼす影響を調査した。その結果、発症者が減少し、次いで保菌者も減少した。環境からのMRSA検出率が低下したこと、およびMRSA保菌者が減少したことが相互に好影響をもたらしているものと推察した。側島は院内感染対策における病院情報システムの支援の重要性を指摘した。早川は自施設での院内感染の検討を行い、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌がもっとも多く分離され、次いで、メチシリン耐性表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌であり、この3菌種で過半数を占めたことを報告した。
星は閉鎖式吸引装置の人工呼吸器関連肺炎(VAP)への影響を検討し、VAPの発生頻度に変化が見られないことに加えて、操作の簡便性と安全性の観点から、閉鎖式吸引装置の有用性を示唆した。今後は本装置の有用性を費用対効果の点から検討を加えることが必要となる。吉田は厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業ICU部門のICU部門研究班で収集した7734件のデータを解析し、ICU内での院内感染の発症には感染リスクと患者重症度に加えて、施設診療機能の評価が必要であるとの指摘をおこなった。この施設診療機能評価は院内感染だけではなく、ICUのPerformance measurementとして発展する可能性が高く、本邦では初めての試みである。榊原は院内感染の経済損失を包括評価と出来高の差額で検討し、MRSAによる院内感染では患者1人当たり、100?150万の経済損失が病院として計上されることを明らかにした。ただし、院内感染による国民の医療負担は院内感染によって在院日数が延長したことも加わるため、その損失は患者1人当たり200万円程度になると予想された。岡田は地域基幹病院ICUでの院内感染の発生状況を調査し、救急外来から直接搬送された患者および一般病棟からICUに搬送された患者で院内感染の発生頻度が高いことを報告し、入室時の重症度が院内感染のリスク因子であることを推察した。瀬川は肝移植の患者が24%を占めるICUでの院内感染を検討し、肝移植患者では約50%に何らかの院内感染が併発し、ICUに再入室となった患者ではその死亡率が80%に及ぶため、肝移植患者の院内感染対策は重要課題であることを報告した。これは日本全国の共通課題であり、今後、肝移植に焦点を当てた院内感染に対する疫学調査が必要である。土手はICU改築の前後での院内感染のICUでの発生頻度を比較して、ICU建造物の環境衛生の変化は大きな問題ではないことを報告した。境田は腎不全によるCHDF施行患者において副作用の合併を抑えながら、安全にバンコマイシンを使用するためには、血中濃度(ピーク、トラフ)から薬物動態解析を行い、投与量を適宜、変更する必要性を指摘した。荒川は国内で同時多発性の血流感染の原因となったSerratiaやEnterobacterなどに近縁の、腸内細菌科のEscherichia(大腸菌群)やKlebsiella(肺炎桿菌など)における基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)の産生株、特にブドウ糖非発酵菌の代表であるPseudomonas(緑膿菌)などのグラム陰性桿菌で多剤耐性の細菌による院内感染に注意が必要であるとした。佐藤はNICUでのMRSAによる院内感染に対してPFEG法による遺伝子解析を行い、依然として同じタイプによる院内感染が発症していることが報告され、これを低下させるためには手袋の着用が有効であると推察した。茨は超低出生体重児のカンジダ腸炎に代表されるカンジダ院内感染症に対する便のグラム染色に基づく、予防的な抗菌薬投与の有用性に関して検討した。志賀は文献検索からNICUでの院内感染の発生頻度を検討し、この20年間で文献的には発生頻度の変化は見られないことを報告した。ただし、院内感染に関する論文発表はそれを差し控えるインセンティブが働くため、論文検索からの発生頻度の概算には限界があり、正確な数字を出すためには継続的なサーベイランスが必要である。吉田はNICUにおける院内感染の発症に関する症例?対照研究を行い、極低出生体重、多胎、院外出生、中心静脈カテーテル、人工換気が院内感染の発症に関与していることを報告した。この結果は本邦のNICU患者を対象として初めて統計学的にリスク因子が同定された点で大きな意味を持つ。亀田はカンガルーケアーにおける細菌叢の検討を行い、母体の病原性を持つ細菌が患児に証明された症例もみられたが、低出生体重児でも母親からの伝達により健常な細菌叢が形成され、NICUでの院内感染予防の一部となりうることを報告した。北島は正常新生児がケアされる母性病棟(東・西)とNICUで、MRSAコアグラーゼIII型菌によるSSSS発症が集団発生したため、その疫学調査を行った。その結果、保菌検査にて分娩部職員1名が同型の菌を保菌していることが判明した。当該職員は蓄膿症であり、バク
トロバン軟膏にて鼻腔の除菌対策を行った。一方、細菌学的にはパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)にて、患児と職員のMRSA株18株の検査を施行し、同一株と判明した。中山は室内の殺菌清掃および手袋着用の徹底により、環境付着菌へ及ぼす影響を調査した。その結果、発症者が減少し、次いで保菌者も減少した。環境からのMRSA検出率が低下したこと、およびMRSA保菌者が減少したことが相互に好影響をもたらしているものと推察した。側島は院内感染対策における病院情報システムの支援の重要性を指摘した。早川は自施設での院内感染の検討を行い、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌がもっとも多く分離され、次いで、メチシリン耐性表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌であり、この3菌種で過半数を占めたことを報告した。
結論
ICU部門研究班では厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業ICU部門に参加する全ての施設を対象とした院内感染に関する臨床指標による施設間比較方法を確立した。NICU部門では入力支援ソフトを改善し、HISとのインターフェースを作成した。加えて、症例-対照研究により、NICUでの院内感染の獲得には極低出生体重、多胎、院外出生、中心静脈カテーテル、人工換気が関与していることが本邦のデータベースに基づいて初めて判明した。ICUやNICUでは今後SerratiaやEnterobacterなどに近縁の、腸内細菌科のEscherichia(大腸菌群)やKlebsiella(肺炎桿菌など)における基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)の産生株、特にブドウ糖非発酵菌の代表であるPseudomonas(緑膿菌)などのグラム陰性桿菌で多剤耐性の細菌による院内感染に注意が必要である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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