文献情報
文献番号
200300830A
報告書区分
総括
研究課題名
小児難治性疾患登録システムの構築に関する研究(総合研究報告書)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
掛江 直子(国立成育医療センター)
研究分担者(所属機関)
- 秦順一(国立成育医療センター)
- 加藤忠明(国立成育医療センター)
- 原田正平(池田町立病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 難治性疾患克服
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
小児難治性疾患のほぼ全例を高い診断精度をもって登録し、その発症数を把握することは、疾病構造の理解、費用対効果の評価等、医療政策決定に欠くことができない基盤事業である。本研究では、十分に把握されてこなかった日本の小児難治性疾患患者の登録を全国的かつ縦断的に行ない、小児難治性疾患のevidence-based medicineならびにevidence-based policy makingの基礎となるデータを集積するための登録システムを構築する際の基盤となる枠組み検討を目的とする。さらに、科学的有用性の高いデータベース構築のための検討を行なうと同時に、公的な登録事業として倫理的・法的妥当性を備えたシステムのあり方を検討する。
研究方法
平成14年度は、現行の小児難治性疾患登録システムの現状分析として、小児慢性特定疾患治療研究事業(以下、小慢事業とよぶ)を基に検討を行なった。具体的には、①大阪府地域がん登録資料を基に、小慢事業の悪性新生物における疾病登録率を算出し、小児難治性疾患登録システムの基盤とすることが妥当であるかを検討した。②地方自治体による登録の過程で、登録率や登録精度がどのように管理されているかについてヒアリング調査を行なった。③登録精度の検討を行なうために、悪性新生物登録を具体例として登録基準の見直し、全国統一した登録基準による登録の可能性について検討した。④小慢事業を小児難治性疾患登録システムの基盤として位置づける場合に、当該登録システムに集積したデータの研究への二次利用が重要になることから、登録ならびにデータの二次利用を想定した同意取得の問題について生命倫理ならびに個人情報保護の視点から検討を行なった。
平成15年度は、小児難治性疾患登録システムを全国的かつ永続的システムとして確立するために、①国立成育医療センターを拠点とすることを仮定し、そのために必要な機能や体制について検討した。②小慢事業を基に、小児難治性疾患登録の精度管理のための具体的検討を行なった。③小児難治性疾患登録システムによって収集された貴重なデータをさらなる研究に役立てることを想定して、データの二次利用による研究の可能性を検討した。④小児難治性疾患登録システムのプランを基に、長期間にわたり患者の個人情報を登録・管理することの倫理的・法的問題の具体的な検討を行なった。
平成15年度は、小児難治性疾患登録システムを全国的かつ永続的システムとして確立するために、①国立成育医療センターを拠点とすることを仮定し、そのために必要な機能や体制について検討した。②小慢事業を基に、小児難治性疾患登録の精度管理のための具体的検討を行なった。③小児難治性疾患登録システムによって収集された貴重なデータをさらなる研究に役立てることを想定して、データの二次利用による研究の可能性を検討した。④小児難治性疾患登録システムのプランを基に、長期間にわたり患者の個人情報を登録・管理することの倫理的・法的問題の具体的な検討を行なった。
結果と考察
平成14年度の研究結果及び考察①小慢事業を基盤とすることの妥当性
大阪府地域がん登録資料を用いて小児がん患者の登録に関する情報源を調査したところ、小慢事業で74.6%、在阪の医療機関からの自主届出40.2%、「がんの子供を守る会」による小児悪性新生物全国登録で39.8%であった。この結果から、小慢事業によって75%に及ぶ症例が把握可能であることが実証された。因みに、これに加えて小児悪性新生物全国登録および死亡調査を追加すると93%の小児がんを把握できることが判明した。
②地方自治体による小慢事業データの登録の過程における登録率や登録精度の管理
ヒアリング調査を行なった結果、登録率の点では乳幼児医療費助成制度を利用する低年齢群における小慢事業の登録率は、多くの都道府県において低いことが指摘された。これには登録申請の手続き(新規ならびに継続の手続き)や審査の煩雑さが影響しているのではないかと推察された。また、登録の精度管理については、小慢事業の医療費助成制度でもあるという特性から、患者への医療費助成を開始するタイミングと病理診断による確定診断の時期が合わないことから、必ずしも確定診断による正確な病名によって登録がされるわけではないという問題点が明らかになった。また、地方自治体から小慢事業への情報提供は年に1回としている自治体では、年度の途中でのデータ修正などが困難であることも明らかとなった。
③登録精度の検討
可能な限り精度の高い診断の下に疾患登録を行なうという目的のため、悪性新生物医療意見書の診断項目について検討した。その結果、現状ではICD-10に従って登録されているため、疾患概念の変遷に必ずしも対応しておらず正確な診断名がつけにくいことが判明した。そこで、小児がんについてはICD-O-3に準じて、病理診断名と原発臓器名の両者で登録するシステムを構築することを試み、小児がんに特化したコード表を作成した。その際、現場の医療機関や保健所での混乱を避け、またコンピュータ登録上も問題がないように配慮しながら、悪性新生物コード表の様式を考案した(平成16年度より試行予定)。
④同意のあり方
今後、小児難治性疾患登録システムを小慢事業を基礎として構築していくことを想定し、登録システムのあり方の検討、ならびにそれに対応した同意のあり方について検討を行なった。すなわち、事業を「統計事業」と「登録研究事業」とさらに「情報の二次利用による研究」の3段階に整理し、「統計事業」は個人情報を用いず単年度で疾患発症頻度を把握する行政統計事業として同意の有無に関わらず集計をするものと整理した。それ以外の事業に関しては、具体的に小慢事業を利用される患者(保護者)の同意を必須とし、具体的な説明文書ならびに同意書の案を作成し、資料として提案した。
2) 平成15年度の研究結果及び考察
①国立成育医療センターを拠点とした小児難治性疾患登録システムのあり方の検討
小児難治性疾患登録システムを「登録事業」「基盤研究事業」「情報発信事業」「応用研究事業」の4部門に整理し、国立成育医療センターにおいてこの4つの事業をマネージメントする案を作成した。その上で、国立成育医療センターを拠点とした小児難治性疾患登録システム構築のために必要な機能と体制として、登録事業では、a. 登録業務、b. 精度管理、c. 基礎統計の作成、基盤研究事業では、d. 事業デザインの設計と見直し、e. 登録項目の検討・見直し、f. 疾病構造の分析などの役割を果たす必要があると考えた。また、これらの事業成果を受けた情報発信事業として、g. 医療者への情報提供ならびに医療者間のネットワークの構築、h. 保健ならびに福祉専門家への情報提供、 i. 患者支援団体への情報提供が重要であると考える。さらに、当該登録システムによって集積された貴重なデータを有効に利活用するために、 j. さらなる研究への情報の二次利用に関する研究審査委員会の設置と運営、k. これらの研究への情報提供などの公正に開かれた機能をもつことにより、小児難治性疾患登録システムが、社会的有用性の高いものとなり、患者の登録への理解や登録主体や専門家の登録事業への協力意欲を高めるものとなると考えた。
②精度管理のための具体的検討
登録システムの精度管理に関する具体的な検討を行なった結果、複数の段階を経る現行のデータ登録システムでは、各段階での精度管理を徹底することは困難であることが明らかとなった。これらのことから、中央でのチェックを行なうこと、ならびに中央から必要箇所に直接問合せができるシステムをすることが重要であると考える。
③登録データの研究への二次利用の可能性の検討
新生児マススクリーニング対象疾患である先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)を取り上げ、関連の各学会または各種研究費を用いて今までに蓄積されてきた母子愛育会総合母子保健センターの全国追跡調査データベース(以下、愛育会DB)と小慢事業での登録データ(以下、小慢D)とを照合し、それらの連携の可能性を検討した。Capture-Recapture Method(以下、CRM)を用いてクレチン症頻度を算出した結果、平均で1:2,206(95%信頼限界:2,092~2,333)となった。しかし、クレチン症の診断自体の正確性に疑問がもたれるデータがあること、地域によってカットオフ値の違いがあることなどから、科学性の高いさらなる研究へデータを利活用するためには、統一した診断基準によるデータ登録が重要であることが明らかとなった。
④倫理ならびに個人情報保護の視点から検討
小児難治性疾患登録システムとして、第一目的である疾患発生頻度を見るためだけであれば個人情報を用いないで単年度集計をすることも可能である(正確には重複データを見分けるために個人識別情報がある方がよい)。しかし、データを縦断的に集積していくためには個人識別情報が必要であり、その場合、個々人の同意が必須となる。さらに、長期間にわたり患児の状態を追跡する登録事業の場合、はじめは保護者の同意によって登録が開始されるが、患児に判断能力が備わった場合、改めて本人からインフォームド・コンセントを得る必要があると考える。
大阪府地域がん登録資料を用いて小児がん患者の登録に関する情報源を調査したところ、小慢事業で74.6%、在阪の医療機関からの自主届出40.2%、「がんの子供を守る会」による小児悪性新生物全国登録で39.8%であった。この結果から、小慢事業によって75%に及ぶ症例が把握可能であることが実証された。因みに、これに加えて小児悪性新生物全国登録および死亡調査を追加すると93%の小児がんを把握できることが判明した。
②地方自治体による小慢事業データの登録の過程における登録率や登録精度の管理
ヒアリング調査を行なった結果、登録率の点では乳幼児医療費助成制度を利用する低年齢群における小慢事業の登録率は、多くの都道府県において低いことが指摘された。これには登録申請の手続き(新規ならびに継続の手続き)や審査の煩雑さが影響しているのではないかと推察された。また、登録の精度管理については、小慢事業の医療費助成制度でもあるという特性から、患者への医療費助成を開始するタイミングと病理診断による確定診断の時期が合わないことから、必ずしも確定診断による正確な病名によって登録がされるわけではないという問題点が明らかになった。また、地方自治体から小慢事業への情報提供は年に1回としている自治体では、年度の途中でのデータ修正などが困難であることも明らかとなった。
③登録精度の検討
可能な限り精度の高い診断の下に疾患登録を行なうという目的のため、悪性新生物医療意見書の診断項目について検討した。その結果、現状ではICD-10に従って登録されているため、疾患概念の変遷に必ずしも対応しておらず正確な診断名がつけにくいことが判明した。そこで、小児がんについてはICD-O-3に準じて、病理診断名と原発臓器名の両者で登録するシステムを構築することを試み、小児がんに特化したコード表を作成した。その際、現場の医療機関や保健所での混乱を避け、またコンピュータ登録上も問題がないように配慮しながら、悪性新生物コード表の様式を考案した(平成16年度より試行予定)。
④同意のあり方
今後、小児難治性疾患登録システムを小慢事業を基礎として構築していくことを想定し、登録システムのあり方の検討、ならびにそれに対応した同意のあり方について検討を行なった。すなわち、事業を「統計事業」と「登録研究事業」とさらに「情報の二次利用による研究」の3段階に整理し、「統計事業」は個人情報を用いず単年度で疾患発症頻度を把握する行政統計事業として同意の有無に関わらず集計をするものと整理した。それ以外の事業に関しては、具体的に小慢事業を利用される患者(保護者)の同意を必須とし、具体的な説明文書ならびに同意書の案を作成し、資料として提案した。
2) 平成15年度の研究結果及び考察
①国立成育医療センターを拠点とした小児難治性疾患登録システムのあり方の検討
小児難治性疾患登録システムを「登録事業」「基盤研究事業」「情報発信事業」「応用研究事業」の4部門に整理し、国立成育医療センターにおいてこの4つの事業をマネージメントする案を作成した。その上で、国立成育医療センターを拠点とした小児難治性疾患登録システム構築のために必要な機能と体制として、登録事業では、a. 登録業務、b. 精度管理、c. 基礎統計の作成、基盤研究事業では、d. 事業デザインの設計と見直し、e. 登録項目の検討・見直し、f. 疾病構造の分析などの役割を果たす必要があると考えた。また、これらの事業成果を受けた情報発信事業として、g. 医療者への情報提供ならびに医療者間のネットワークの構築、h. 保健ならびに福祉専門家への情報提供、 i. 患者支援団体への情報提供が重要であると考える。さらに、当該登録システムによって集積された貴重なデータを有効に利活用するために、 j. さらなる研究への情報の二次利用に関する研究審査委員会の設置と運営、k. これらの研究への情報提供などの公正に開かれた機能をもつことにより、小児難治性疾患登録システムが、社会的有用性の高いものとなり、患者の登録への理解や登録主体や専門家の登録事業への協力意欲を高めるものとなると考えた。
②精度管理のための具体的検討
登録システムの精度管理に関する具体的な検討を行なった結果、複数の段階を経る現行のデータ登録システムでは、各段階での精度管理を徹底することは困難であることが明らかとなった。これらのことから、中央でのチェックを行なうこと、ならびに中央から必要箇所に直接問合せができるシステムをすることが重要であると考える。
③登録データの研究への二次利用の可能性の検討
新生児マススクリーニング対象疾患である先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)を取り上げ、関連の各学会または各種研究費を用いて今までに蓄積されてきた母子愛育会総合母子保健センターの全国追跡調査データベース(以下、愛育会DB)と小慢事業での登録データ(以下、小慢D)とを照合し、それらの連携の可能性を検討した。Capture-Recapture Method(以下、CRM)を用いてクレチン症頻度を算出した結果、平均で1:2,206(95%信頼限界:2,092~2,333)となった。しかし、クレチン症の診断自体の正確性に疑問がもたれるデータがあること、地域によってカットオフ値の違いがあることなどから、科学性の高いさらなる研究へデータを利活用するためには、統一した診断基準によるデータ登録が重要であることが明らかとなった。
④倫理ならびに個人情報保護の視点から検討
小児難治性疾患登録システムとして、第一目的である疾患発生頻度を見るためだけであれば個人情報を用いないで単年度集計をすることも可能である(正確には重複データを見分けるために個人識別情報がある方がよい)。しかし、データを縦断的に集積していくためには個人識別情報が必要であり、その場合、個々人の同意が必須となる。さらに、長期間にわたり患児の状態を追跡する登録事業の場合、はじめは保護者の同意によって登録が開始されるが、患児に判断能力が備わった場合、改めて本人からインフォームド・コンセントを得る必要があると考える。
結論
小児難治性疾患の疾病構造を明らかにし、エビデンスに基づく医療政策の立案を行なうためには、小児難治性疾患登録システムの構築が必須である。また、多くの小児難治性疾患では、患者数が少なく、個々の医療機関において十分な先行症例の経験が得られない場合が多々あることから、登録システムを利用した情報交換システムの有用性も期待できる。しかし、現在わが国では、公的な小児難治性疾患登録システムは整備されておらず、また新たに整備する場合にはさまざまな問題が生じることが予想されることから、本研究での検討結果ならびに提案を活かした公的な小児難治性疾患登録システムが構築され、利活用されることが期待される。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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